096 ウィングアップ×プロテクト
聖なる光に包まれ、コメットレプスがゆっくりと消滅していく。
「あっ」
すると、ユイナが小さく声を漏らした。
「どうした?」
「えっと……今、レベルが上がったみたい」
少し照れくさそうに告げるユイナ。
二人で倒したとはいえ、格上相手であり討伐にも貢献できたからだろう。
「やったな」
「うん。ありがとう、アレンくん」
はにかむユイナの傍らで、俺はコメットレプスが消えた場所に視線を落とす。
そこには、キラキラと淡い光を放つ魔石が一つ転がっていた。
「アレンくん、それって……」
「ああ。今回の目的だったアイテム――【彗煌石】だ」
拾い上げると、手のひらの中で星屑のような輝きが揺れる。
この彗煌石はコメットレプスがドロップする特殊な魔石で、魔力の伝導率が非常に高いのが特徴だ。
そのため武器やマジックアイテムの素材として重宝されるのはもちろん、高値で売却することもできる。
その辺りを改めて説明してやると、ユイナは魔石を覗き込みながら感心したように呟いた。
「そうなんだ……すごく優秀な魔石なんだね」
「ああ。このレベル帯で獲得できるものとしては飛びぬけてな」
そう返すと、ユイナは先ほどの戦いを思い返すように首を傾げた。
「でも、まさか本当にこんな特別な倒し方が必要な魔物がいるなんて……事前に教えてもらってても、びっくりしちゃったyo」
「しかも、これが正攻法なんだから驚きだよな」
「そうなの!?」
ぱちりと目を丸くするユイナ。
その素直な反応に、俺は内心で(そうなんだよなー)と独り言ちた。
コメットレプスの攻略に必要なのは、ウィングアップなどの速度上昇効果――すなわち【バッファー】による強化魔法だ。
そしてEクラスには、ユイナ以外にもう一人バッファーがいる。
主人公のグレイだ。
本来ならばコメットレプスは、グレイを操作しながら敵の動きを見極め、攻撃を当てて動きを止めたところに強化魔法を発動。
そして気絶した隙に倒し切るという流れが一般的だった。
これは裏技でもなんでもなく、初めからそういう仕様。
主人公の活躍の場を増やすためでもあったのだろう。半ばミニゲームのような感覚で、金策に励むのが定番だったのだ。
(まあ逆に言えば、それ以外の手段で倒すのはかなり難しいんだけどな)
これだけ優秀な素材を入手できるのにもかかわらず、このダンジョンに他の攻略者がいないのがその証拠だろう。
一般的な冒険者やアカデミー生にとって、ここはダストモールやシマーバットなどの不意打ちを仕掛けてくる魔物と、このコメットレプスしか出ない外れダンジョン。
レベルが60を超える実力者ともなれば力任せに倒すこともできるだろうが、そこまでいけば、もっと効率よく稼げるダンジョンがいくらでもある。
結局、誰の需要もない狩場というわけだ。
だけど、それは裏を返せば、俺たちだけで独占できるということでもある。
「今日中に、あと何個か手に入れたいところだけど……」
彗煌石を異空庫の指輪に収めながら、俺は言葉を切る。
「普通に探索してるだけじゃ、うまくいかないかもな」
「どういうこと?」
首を傾げるユイナに、俺はこの攻略法に必要な条件を説明する。
コメットレプスと戦う上で最も重要なのは、戦闘場所の広さだ。
ある基準より広い場所だと、そもそも素早いコメットレプスに攻撃を当てること自体が難しくなる。
加えて、速度上昇のバフをかけたところで、壁に激突するまでに勢いが落ちてしまい最高速度を下回る。
つまり――自滅による気絶が起きなくなるのだ。
「しかも厄介なことに、コメットレプスは基本的に大広間を縄張りにしてる。ただでさえ出現率が低いのに、広い場所じゃすぐに逃げられるんだ」
「じゃあ、最初にこの小広間で会えたのって……」
「ああ、かなり運が良かったな」
ユイナが表情を曇らせる。
「それでもこれだけ大変だったのに……何体も倒すなんて、相当難しいんじゃ……」
ユイナの言う通りだ。
実際、ゲームでも大広間で遭遇したコメットレプスを誘導して小広間まで連れてきてから戦うのが定番だったわけだが、そのやり方ではMPも手間もかかりすぎる。
しかし、俺はそれを解決するための手を事前に考えてきていた。
「そこで、だ。少し考えがある」
「考え?」
「ああ。大広間でもコメットレプスを倒すためのな」
「……?」
きょとんと首を傾げるユイナの前で、俺は小さく息を吐く。
(――さあ、ここからはゲームでも試せなかった作戦の検証だ)
その後も、俺たちは探索を続けた。
予想通り、なかなか小広間にコメットレプスの姿は見つからない。
だが、奥へ進むにつれて通路は開け、大広間の数が増えていき――
「キィー」
――そこに、あっさりとソイツはいた。
開けた大広間の中央で、コメットレプスが優雅に寛いでいる。
(やっぱり、出現の傾向はゲーム通りか)
本来ならば、逃げられる前にどうにか狭い場所へ追い立てなければならない場面。
だが今回、そうするつもりはなかった。
「――ユイナ、さっきと同じ手順で頼む。合図はこっちで出す」
「う、うん」
ユイナが頷くのを確認してから、俺は大広間に足を踏み入れた。
「キュー!」
すると先ほどと同様、気配を察したコメットレプスが跳躍し、彗星のごとき速度で大広間中を疾駆し始める。
この広さでは、そもそもまともに攻撃を浴びせること自体が難しい。
――なら、これの出番だ。
「プロテクト」
俺はコメットレプスの進路に、聖なる防壁を一枚展開する。
コメットレプスは勢いよく防壁に衝突するも、動きを止めることは叶わない。
それどころか壁と同じく足場として利用され、再び跳躍をさせる羽目になった。
(――よし、これなら)
その光景を見て、俺は小さく笑った。
続けて俺はプロテクトを随時に発動し、敵の進路を誘導していく。
それによって隙が生まれたタイミングで、ユイナの矢が命中。
先ほどと同様に反撃を仕掛けてきたところを、ナイトブリンガーで迎え撃った。
「はあっ!」
「キィー!?」
ダメージを受け、その場で動きを止めるコメットレプス。
そして、
「頼む、ユイナ!」
「ウィングアップ!」
淡い黄緑の光が、動きを止めたコメットレプスを包み込む。
「キュー!」
自らの身に宿った力に気づいたコメットレプスは嬉々として地を蹴り、これまでで一番の勢いで駆け出した。
だが、ここは大広間。
この位置取りでは、どこへ向かおうと壁に届く前に減速し、気絶することはないだろう。
――そう。向かう先が、壁や天井であるならば。
「――もう一枚だ」
加速するコメットレプスの進路上に、俺は再び【プロテクト】を展開する。
先ほど、コメットレプスはこの防壁を足場として蹴った。
つまりそれは、壁と同じ扱いということでもあり――
「ギィッ!?」
――最高速で聖なる障壁に激突したコメットレプスは、その衝撃に耐えきれず、ぐるりと目を回して床へと落下した。
「――よし!」
その光景を目にし、俺は思わず拳を握った。
これまでもプロテクトは、自分の足場にしたり、角度をつけて敵の攻撃を逸らしたりと、色々な形で使ってきた。
今回もその延長。わざわざ狭い場所へ誘導するまでもなく、壁がなければこちらで作ってやればいいのだ。
ゲームがこうして現実になったからこそ可能となった、新たな攻略法だった。
そのまま先ほどと同様にコメットレプスにトドメを与えていると、ユイナが驚いたように話しかけてくる。
「アレンくん、今の……」
「プロテクトの応用だ。試すのは初めてだったけど、上手くいったな。これなら誘導の手間もいらないし、効率よく狩れるはずだ」
「……うん!」
この世界では外れ職の筆頭とされる【ヒーラー】と【バッファー】が、このダンジョンでは何よりの武器になる。
その事実に、俺たちは歓喜を共有するのだった。
次回、【マナコネクト】検証回。ユイナに魔力を注ぎます。
ダンジョン攻略も一区切りするところまで進める予定です。
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