095 VSコメットレプス
慎重に、俺とユイナは小広間へと足を踏み入れた。
コメットレプスのレベルは35~40。
俺から見たら格下だが、レベル28のユイナにとっては格上の相手だ。
「キュー!」
こちらの気配を察したのか、コメットレプスがぴくりと耳を動かす。
そして、深く膝を曲げたかと思うと――恐るべき脚力で、真横へと跳んだ。
(――まあ、当然そうくるよな)
俺たちとは、まるで見当違いの方向。
攻撃にも逃走にも見えないその動きだが、これがコイツの戦闘スタイルであることを俺は知っていた。
コメットレプスは、その名の通り彗星のごとき速度で壁に激突すると、そこを足場にして再び跳躍。小広間の中を、幾度となく跳ね回り始めた。
空間を立体的に使った超速移動。
これこそがコメットレプスの特徴の一つであり、まともに攻撃を当てるのは至難の業となっている。
しかも、だ。
「えいっ!」
「――――ッ!?」
ここ一か月の特訓の成果だろうか。
ユイナの放った矢が、見事コメットレプスを捉える――が、ガギンッと鈍い音を立てその硬質な毛皮に弾かれた。
「そんな……全然効いてない?」
ダメージが通らないことに、ユイナが驚愕の表情を浮かべる。
そうなったのは、二人の間にあるレベル差のせい――だけではない。
コメットレプスは馬鹿げたHP量に加え、高い防御力と魔法耐性を兼ね備えており、たとえ命中させたところで生半可な攻撃ではろくにダメージが通らないのだ。
まさに、レア魔物に相応しい厄介な性能。
ただし、この魔物には致命的な欠陥と、それを突いた攻略法が存在していた。
「大丈夫だ、ユイナ。むしろ、よく当ててくれた」
攻撃を受けた後、コメットレプスは行動パターンを変え、逃走か反撃をしてくることが多い。
そして与えられたダメージが低かった時ほど、反撃を選ぶ傾向が強くなるのだ。
すなわち、
「キー!」
縦横無尽に空間を駆けていたコメットレプスが、その動きを止める。
そして一度床を強く蹴ると、まっすぐユイナへ向かって突進してきた。
攻撃力はあまり高くないとはいえ、レベル差がある以上、まともに喰らえば無傷では済まないだろう。
だが、
「――それを待っていた!」
「ッ! キィィィィィ!?!?!?」
この展開を読んでいた俺は、ナイトブリンガーを力強く振り抜き、突っ込んできたコメットレプスを斬り裂いた。
100%の貫通効果がヤツの自慢の防御力を無視して深い傷を刻む。
コメットレプスは悶えるように勢いを失い、床へ落下すると動きを止めた。
通常であれば、ここで追撃を仕掛けたいところだが、それは愚策だ。
一撃で屠れるほどの大火力でもない限り、削り切るより早く復帰し、逃走されてしまう。
まして、一振りごとに貫通力が落ちていくナイトブリンガーでは、なおのこと難しいだろう。
だからこそ俺は、事前の打ち合わせ通りユイナへ目配せを送る。
「頼む、ユイナ!」
「うん――ウィングアップ!」
弓を背負い直したユイナが、風属性の速度上昇バフを発動する。
その強化魔法はもちろん俺――ではなく、目の前の射程範囲内で動きを止めたコメットレプスに対してのものだった。
「キィ? キュー!」
コメットレプスは一瞬、自分の身に起きたことを訝しむような素振りを見せる。
が、すぐに身体能力が上がっていることを察したのだろう。嬉しそうに力強く地を蹴ると、ここまでで一番の勢いで壁へと突進していった。
いつもなら、そこからさらに壁を足場に跳躍し、この広間から逃げようとする――はずだった。
「ギィィッ!?」
しかし、その直後。
壁に激突したコメットレプスは、弾き返されるようにして、その場へ落下した。
様子を窺えば、目を丸くしたまま気絶状態に陥っているのが分かる。
「――よし、成功だ!」
その光景を見た俺は、グッと拳を握りながら喜びの声を上げた。
――そう。何を隠そう、これこそがコメットレプスの攻略法。
圧倒的な速度で迷宮内を跳ね回るコメットレプスだが、自分の出せる最高速を超える勢いで壁へ激突した時、その衝撃に体が耐えきれず気絶してしまうという欠陥を抱えている。
つまり、ウィングアップで無理やり速度を底上げさせてやることで、ヤツの自滅を誘ったというわけだ。
気絶状態は一時的にしか続かないが、その隙に倒し切るのが定石だった。
「えっと、ここからはどうすれば……?」
「大丈夫だ、任せてくれ」
ユイナにそう返し、俺はナイトブリンガーで斬りかかっていく。
だが、さすがの体力というべきか、十振りを超えてもコメットレプスが死に絶える気配はない。
同時に貫通力も減少し、ダメージが通りにくくなっていくが、その点については問題なかった。
コメットレプスの体には、既に闇の紋様が濃く浮かび上がっていた。
元からある星屑のような模様と相まって、まるで夜空を写し取ったかのような様相を為している。
――すなわち、ナイトブリンガーによって、今のコイツには闇属性が付与されているというわけで、
「ヒール」
いつものように、ヒールを発動する。
闇属性の魔物にとって、聖属性のヒールは弱点。
その一撃をもって、俺はコメットレプスを無事に討伐し切るのだった。
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