094 金策
順調に進み始めて間もなく、地面が揺れ動くような感覚と、何かが近付いてくる音がした。
「これって……」
「ダストモールだな。足元に注意してくれ」
ダストモールは迷宮内の星屑魔石を主食とする魔物。
地中から不意打ちを仕掛けてくるのが特徴だが――
「よっと」
俺は星屑魔石が大量に埋まっている一角へ、大きく音を立てるように足を振り下ろした。
直後、地面がぐわっと盛り上がり、
「キュー!」
鋭い爪を先頭に、巨大なモグラが飛び出してきた。
――しかし。
「はあッ!」
既に俺はその場から飛び退いており、躱すと同時にナイトブリンガーを力強く振った。
初撃ゆえに貫通効果も100%乗り、見事に一振りで討伐成功。
ダストモールは魔石だけを残して消滅していった。
「わあ……」
驚きとも感嘆とも取れる声を漏らしたユイナが、こちらへ話しかけてくる。
「アレンくん、今の足踏みって……」
「ダストモールが出てくる位置を誘導したんだ。コイツは地中の魔石に沿って動くことが多いんだが、そこに足音を重ねてやれば出現する確率が跳ね上がるからな」
「そうだったんだ……相変わらず、すごい知識量だね」
ユイナの疑問に答えつつ魔石を回収しようした俺は、ふと右手に握られたナイトブリンガーへ視線を落とす。
先日、俺は星天宝具である【冥星剣エクリプス】を入手したわけだが、今なおナイトブリンガーを使用しているのはなぜか。
エクリプスの最大の特徴は、保有能力【星喰蝕命】だ。
しかしアレは一度発動するとHPが10%を切るまで止めることができず、ごく短時間しか真価を発揮できない諸刃の剣。
そのため、よほどの格上を相手取る時ならともかく、普段の攻略ではナイトブリンガーやエンチャントナイフの方が効率的だろうと考えての選択だった。
(エクリプスはゲームでも外れ武器扱いだったし……まあ、これが現実だよな)
とはいえ、あの剣がまた必要になる機会は必ず訪れる。
一つの武器に囚われるのではなく、全ての可能性を試せることこそ、ゲーム知識を持つ俺の最大の武器。
状況に合わせ、これからも使い分けていけばいいだろう。
そんなことを考えつつ、俺は再び手を動かし始めた。
その後も、ダストモールにシマーバット――光に紛れて接近してくるコウモリの魔物が、何度も襲いかかってきた。
時折反応が遅れることもあったが、俺のナイトブリンガーとユイナの弓矢で、その都度なんとか討伐しながら奥へと進んでいく。
「何だか、神経がすり減るダンジョンだね」
「不意打ちを仕掛けてくる魔物が多いからな。そう感じるのも無理はない」
強さというよりは面倒という意味で、確かに厄介なダンジョンであることは間違いなかった。
しかもここ【星屑の螺旋鉱】は、迷宮には珍しくダンジョンボスが存在しない。
通常なら攻略する価値などないように思えるが――1つだけ、例外があった。
――そして、その魔物と遭遇したのは、攻略を始めて30分が経とうとしていた頃だった。
「止まってくれ」
「っ」
入り組んだ通路の先にある、小さな広間。
そこにキラキラと輝く毛皮が特徴的な、人の腰ほどの高さがある兎の魔物がいた。
「アレンくん、あれって……」
「ああ。事前に共有しておいた通り――今回の目標、コメットレプスだ。しかもこんな小スポットで出会えたのは、運がいいな」
彗星兎。
この【星屑の螺旋鉱】を含む、いくつかのダンジョンに出現するレア魔物だ。
少々特別な攻略方法が必要な代わりに、討伐すれば武器やマジックアイテムの素材にできるのはもちろんのこと、売却可能なアイテムを高確率でドロップする。
その売却価格は非常に高く、ゲームでは序盤から中盤にかけて、多くのプレイヤーが入り浸ることになった。
――そう。すなわちここは、『金策用ダンジョン』なのだ。
ちらりと、後ろで弓を握るユイナへ視線を向ける。
以前、彼女に弓を勧めた時、俺はデメリットの一つとして「金がかかる」ことを挙げた。
矢は使い捨てだし、工房での製作費もばかにならないからだ。
そして同時に、いつか稼ぎやすいダンジョンを紹介しようと考えていた。
そのダンジョンこそが、ここ【星屑の螺旋鉱】というわけだ。
「準備はいいか? あれが、俺たちにとっての金脈だ」
「……うん」
道中の魔物と異なり、コメットレプスは油断ならない難敵。
俺は緊張の面持ちを浮かべるユイナとともに、慎重に小広間の中へと足を踏み入れた。




