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アカデミー最強のモブヒーラー ~死にゲー世界のモブに転生した俺は、外れジョブ【ヒーラー】と原作知識で無双する~  作者: 八又ナガト
第三章

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091 ステラアカデミーの頂点

「どうぞ、座ってちょうだい」


「はい」


 促されるまま、俺はソファに腰を下ろした。


 向かいに座ったイデアーレが、卓上の魔道具のポットへ指先を向ける。

 すると注ぎ口がひとりでに傾き、繊細な魔力操作で注がれた紅茶が、音もなくカップを満たしていった。


 そのままお互いに一口紅茶を飲んだ後、彼女は切り出す。


「初めまして、になるのかしら。私はイデアーレ・ユースティティア。ここステラアカデミーの学園長を務めているわ」


「……はい、存じ上げております」


 それはもう、とても。

 当然ながらイデアーレもまた『ダンアカ』に登場していたキャラクターであり、その素性から性格に至るまで俺は把握している。


 ……もちろん、そんなことは間違っても口には出さないが。


「色々と話したいことはあるのだけれど……まずはやはり、彼女――リオンのことからね」


「――――」


 いきなりの本題。

 想定していたことではあるが、ここでリオンの名前が出るということは、あの戦いで彼女を倒したのが俺だと知られているのはまず間違いないだろう。


 どんな追及が来るのかと身構えていると、イデアーレは柔らかく微笑んだ。


「そう肩ひじを張る必要はないわ。貴方も知っておくべきだと判断した、それだけのことだもの……彼女の、過去について」


「過去……ですか?」


「ええ。あの日、結界内にいたリオンから、今回の騒動を引き起こしたのは自分であると伝えられました――ステラアカデミーの講師になったのも、()()()()の命を受けて潜入するためだった。しかし、もう命令に従う必要はなくなった。いかなる処分であろうと受け入れるつもりだ――と」


 そこで一度、イデアーレは言葉を切る。


「とはいえ、なぜ()――その人物の命令に従う必要がなくなったのか、どうして左腕を失った状態でいたのか、肝心なところについては何を訊いても頑なに口を開こうとしなかった。だから私は、お師……こほん。大賢者ヴァールハイトが残してくれた記憶見きおくみの魔道具を使わせてもらうことにしました」


 記憶見の魔道具――その名の通り、対象者の記憶を遡って閲覧できるマジックアイテムだ。

 ダンアカにも登場していたが、使用を許されるのは重犯罪者相手のみという、封印指定一歩手前の代物だった。


「復元できるのは映像だけで、音声までは拾えないのだけれどね……それでも、分かったことはいくつもあったわ。彼女の悲痛な過去、重ねてきた罪の数々。そして――教師として働き始めてから、少しずつ変わっていく心のようも」


「心の在り様、ですか?」


「ええ。リオンが生徒たちへ向けていた愛情は本物だった。叶うことなら、このまま教師としてアカデミーに残ってほしい――記憶を見終えた時には、そう思っていたくらいにね。もっとも当然ながら、それは彼女の犯してきた罪と切り離せる話ではありません。どれだけ情があろうと、罪は罪。彼女自身が裁かれるべき存在であることは間違いありません……ただ」


 一つ間を置き、イデアーレは続ける。


「調べを進めるうちに、一つ大きな事実が判明したの。リオンを支配していた存在――《彼》は長い年月をかけて情報網を張り巡らせ、卓越した知識を餌に、各国の権力者たちを密かに配下へ置いていた。けれど、人が増えれば綻びも生まれる。与えられた力に慢心する者、《彼》と関わり続けることに怯える者……そういった中から裏切り者が時折出ていたようなの」


「…………」


「《彼》が何より警戒していたのは、反逆そのものではなく、万が一にも彼らから自分の情報が外へ漏れること。リオンに任されていたのは主に、そういった人物たちの処理や身柄の確保だったわ。そういう意味では、彼女がこれまで手にかけてきたのは全て罪人だったということになる。ただし、任務を与えられる際、リオンに全ての事情が語られていたわけではなかったようだから、彼女自身は罪のない人間を次々と手にかけてきたと思い込んでいたみたいだけど」


 状況は大方把握できた。

 ただ、それと同時に一つ新たな疑問が生まれた。


「一ついいですか? リオン先生がその人物たちの素性を把握できていなかったのに、どうしてそこまで分かったんでしょうか?」


「それは簡単よ。彼女の記憶に映っていた『対象』たちの顔は、アストラル王国やアイスフェルト皇国を含め、協力関係にある各国家がかねてより警戒していた者たちと一致したの。当時、彼らが立て続けに不審な死を遂げていることには私たちも違和感を覚えていたのだけれど……リオンを含む複数の実行犯によるものだったと、ようやく裏が取れたわ」


 つまり、形はどうあれ。

 リオンが手にかけてきたのは、《彼》――ジオラスターに与した、人類に仇為す側の人間たちだった、ということだ。


「もちろん、それで彼女の行いの全てが許されるわけではない。けれど、そこへ至る事情まで鑑みれば……情状酌量の余地は十分にある。それが、私の判断よ」


 そして、と。イデアーレは続けた。


「私はリオンに打診したの。今後は私の魔法による監視下に置かれることにはなるけれど、それでもよければ教師を続けてほしい。貴女をそのような目に遭わせた者に立ち向かえるだけの力を、生徒たちに与えてやってほしい、と」


「……先生は、なんと」


「しばらく……本当に長いこと黙り込んだ後、ゆっくりと頷いてくれたわ」


「……そうですか」


 その答えを聞き、俺は安堵の息を吐く。


(良かった……)


 どのような経緯であれ、リオンが生きる意志を見せ、教師としても活動し続けてくれる未来を選択してくれたのは有難い。

 あの日、戦いの後に俺が告げた言葉が、少しでもそのきっかけになれたのだとすれば――それ以上のことはない。


「と――ここまでが、一つ目の話」


 少し、イデアーレの雰囲気が変わる。

 金色の目が、じっと俺を見据えた。


「アレンくん。実は貴方を呼び出した理由は、もう一つあるの」


 ほとんど無意識のうちに、俺は自分の背筋が伸びるのを感じた。

 恐らく、ここからが俺にとっての本題だ。


「リリアナ殿下を狙った悪魔騒動、ダンジョン実習でのワーライガー出現事件、そして今回のジュリアンとリオンによる襲撃……この数か月、学園で起きたことごとくの事件に貴方は関わっているわね。それも――その全てで、最悪の事態を防いでみせた張本人として」


「――――」


 やはり、把握されていたか。


 リリアナの一件が学園長へ共有されていることは、以前にも聞いていた。

 ワーライガー戦についても、数々の状況証拠からリリアナが真実へ辿り着いたように、彼女も同じ答えに至ったのだろう。

 そしてグレイたちと共に戦ったジュリアン戦はもちろんのこと、最後の一つ――リオン戦に関しても記憶見の魔道具で全てを見られてしまったはず。


 問題は、俺があの戦いで【冥星剣めいせいけんエクリプス】を使ったことだ。


 あの剣を手にするには、特別な合言葉キーワードがいる。

 その事実を、()()()()()()()()()()()()()()()()イデアーレが知らないはずがないのだ。


 一介の新入生が、どのようにして【零落れいらく】の存在を知り、合言葉キーワードを唱え、星天宝具せいてんほうぐを持ち出すことができたのか。

 そういった追及に対し、どう誤魔化したものかと警戒していた、その直後だった。


「そんな貴方に……どうしても、言わなければならないことがあるの」


「………………え?」


 すっと、イデアーレが立ち上がる。

 そして、その頭を深く下げた。



「ありがとう、アレンくん。これまで幾度となく、私の大切な生徒たちを守ってくれて。そして……()()が、自らの手で教え子を殺めてしまうのを止めてくれて」



「………………」


 しばらく、呆然とするしかなかった。

 追及を覚悟していた相手から、まさか頭を下げられるとは。

 やがて顔を上げたイデアーレは、固まったままの俺を見て、くすりと微笑む。


「私から礼を言われるのは、予想外だったかしら?」


「それもありますが、その……もっと色々と、訊かれるものだとばかり」


「――そうね」


 彼女は、ふと真剣な眼差しへと戻る。


「リオンの記憶で見た貴方の戦いぶりといい、これまでの活躍ぶりといい、正直、貴方に不可解な点がいくつもあることは否めません――けれど」


 金色の瞳が、まっすぐ俺を射抜く。


()()()を手にできたということは、大賢者ヴァールハイトにその在り方を認められたという証明。そして何より、リオンにあれだけ真っ直ぐ向き合ってくれた貴方なら、その力を正しく使ってくれると私は信じています――そうよね?」


「――――はい」


 その問いに、俺は力強く頷いて返す。

 それを見たイデアーレは満足げに目を細め、それ以上は何も訊いてこなかった。

 ひとまず今、共有すべき情報はここまで――そう、線を引いてくれたのだろう。


「とまあ、私からの用件は以上なのだけれど――」


 言いながら、イデアーレは紅茶を一口含む。

 ここまでの会話でかなりの時間が経っているにもかかわらず、カップからは未だ湯気が立っていた。

 相変わらず、とんでもない魔力操作技術だ。


「――そろそろかしら」


 イデアーレがそう呟いた、その時。

 まるでタイミングを見計らったかのように、ノックの音が響いた。


「来たわね……中へどうぞ」


「失礼します」


 扉を開けて入ってきたのは、たった今まで話題の中心にいた人物、リオン・コルニクスその人だった。

リオンの処遇についてでした。

説明が少し多い回になってしまいましたが、彼女が今後もアカデミーに残るためには必要な内容だと思ったので丁寧に描写させていただきました。

次回は「リオンの誓い」と「新スキル」。

どうぞ楽しみにお待ちください!


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― 新着の感想 ―
学園長がいい人で良かった 音声が聞き取れないとあるけど、言葉に惑わされずに光景と心の在り方が見えるようにしてあると考えると大賢者すぎる
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