15-14 宿泊
木の柵で囲まれた村。
ゴローたちが立っているよく踏み固められた道は、その柵が開いている場所を通って村の中へ続いている。
見張りがいるわけでもなく、比較的開放的な村だ。
「おやおや、旅の人ずらか?」
農作業に向かうのか、籠を背負った壮年の男性がゴローとサナを見て、少し驚いたように声を掛けてきた。
ここも、やはり少しなまっているが言葉は通じるなと、ゴローは安心する。
「はい、我々は『アダーラ国』から来ました」
「ほう? 聞いたことがない国だんが、かなり遠くからかね?」
「はい、ずっと東の方です」
それを聞いた男は、少し驚いたようだ。
「そうかね。ご苦労なこんだ。で、何か用事でもあるかね?」
「できれば食べ物を少し分けていただけないかと思いまして」
「そっかね。なら村長のとこへ行くといいがね」
「わかりました。村長さんのお宅はどちらですか?」
「このみちをまっつぐ行くと、赤い屋根の家があるだよ。そこが村長の家だすけ(だから)」
「ありがとうございます。行ってみます」
男に礼を言い、ゴローとサナは歩き出した。
教わったとおりに道なりに行くと、赤い屋根のまあまあ大きな家があった。
「ここが村長さんの家だろうな」
「うん、間違いないと、思う」
建物は木造で、屋根だけは赤く塗られている。
壁はなにか樹液のようなものが塗られているのか、ところどころてかっていた。
玄関前には木でできたノッカー……というのか、椅子の座面くらいの分厚い木の板が掛かっており、そこに木槌がひもでぶら下げられていた。
「これを叩くのかな」
「そうとしか、考えられない」
ということで、ゴローは木槌を手にして木の板を3度叩いた。
コーンコーンコーンと、いい音が響く。
ほどなく村長宅のドアが開いた。
「どなたじゃな?」
出てきたのは初老の男性だった。
「はじめまして、旅の者でゴローといいます。こっちは姉のサナです。ええと、こちらは村長さんのお宅でよろしいでしょうか?」
「そうじゃ、村長のレイマンという」
「こちらは『セライト王国』であってますか?」
「そうじゃよ。セライト王国のストーイ村じゃ」
村長レイマンは白髪に青い目をしており、やや痩せ型、ヒゲはない。
口調も、ほとんど訛りは感じられなかった。
「まあ立ち話もなんだから、入るがいい」
「お邪魔します」
レイマンに招かれ、ゴローとサナは村長宅の中へ。
中は明るくこざっぱりした感じ。
2人は居間と思われる部屋へと通された。
10畳間くらいの広さで、一方の壁はほとんどが棚となっており、本や花瓶や置物や……とにかく雑多に物が置かれている。
「いらっしゃい。ようこそストーイ村へ」
そこへ、奥方であろうか、初老の婦人がお茶(と思われるもの)を載せたトレイを持って現れた。
「家内のフェニだ。……フェニ、ゴロー君とサナさんだ。旅の人だよ」
「まあ、それはそれは。ここはいい村です、ゆっくりしていってくださいね」
村長夫人フェニはお茶をテーブルにおいて下がっていった。
「さて、まずは君たちのことを話してもらおうかの」
「はい。……ええと、何から話しましょうか……」
「ふむ、それではこちらが質問するから答えてくれるかな?」
「あ、はい」
その方が余計なことを言わずに済みそうだ、とゴローは頷いた。
「どこから来なすったね?」
「ずっと東の方からです。『アダーラ国』といいます」
「うーむ、聞いたことがないのう。かなり遠いのだろうね?」
「はい、十数日掛かりますかねえ」
「それは遠いな。……で、何をしに来たのだね?」
「一言で言ったら、見聞を広めるため……あるいは西に何があるのか知りたかったから……でしょうか」
「なるほど」
村長はカップのお茶を一口飲む。
それを見て、ゴローも一口。
ハーブティーのような味と香りがした。
「道中、危険はなかったかね?」
「そうですね……大型動物には出会いませんでしたね」
「ほう? イビルウルフには会わなかったのか」
「ええ。ホーンドウィーゼルは見かけましたが」
ホーンドウィーゼルは角の生えたイタチのような魔獣である。肉食で素早い。脅威度は2とされている。
イビルウルフも肉食で脅威度2の魔獣だ。こちらは群れを作って獲物を狙うので厄介なのだ。
「多少、魔法が使えますので」
「なんと、そうじゃったか。それなら納得じゃ」
魔法が使える、ということを打ち明けるよう打ち合わせをしておいてよかった、とゴローは思った。
「道中はどんな感じなのかな?」
「そうですね、森が多いです。川も渡りました。岩場もありますし、草原もあります。高い山は避けてきました」
「ふむふむ」
簡略化して説明するゴロー。嘘は言っていない。
「東には、どんな国があるのだね?」
「そうですね……ドンロゴス帝国とか、シナージュ国とか……」
このあたりは誤魔化さなくてもいいだろうと、そのまま説明するゴロー。
「『人族』だけなのかね?」
「いえ、『獣人』とか『エルフ』とか『ドワーフ』もいますね」
「ほう、それは興味深いな」
「こちらにはいないのですか?」
「いないな……王都には多少いるのかもしれないが」
「王都というのはどこにあるんですか?」
そろそろこちらから質問してもいいだろうと、ゴローは判断した。
「王都はドート、という、ここから西へ200キルほど行ったあたりじゃな」
距離の単位は同じらしい、とゴローは考えた。もっとも、呼び方だけ同じ、という可能性もあるが……。
そこで一計を案じる。
「えっと、1メルってどのくらいかわかりますか?」
「うん? ……だいたいこれくらいだな」
ゴローの質問に、村長レイマンは手を広げてみせた。
それは、ゴローたちの1メルとほぼ同じだったので、単位は共通であることがわかった。
「『人族』以外の人種への差別意識はないんですか?」
一番気になったことである。
「特にないな。ドワーフ族は職人として有能だと聞くし、エルフ族は学問に造詣が深いらしい。獣人は身体能力が高いので兵士に多いようだ」
「なるほど、そうなのですね」
これを聞き、この国ではハカセたちも堂々と外を歩けそうだとゴローはほっとしたのである。
「東の方にはなにか珍しいものがあるかな? わしはそういうものに目がなくてのう」
村長が尋ねる。
壁の棚にある雑多な物品は村長のコレクションだったようだ。
「珍しいものですか……宝石とか美術品でしょうか?」
「いや、別にこだわらないが……」
ここでゴローは、薬について話題にしてみることにした。
「薬なんかはどうです?」
「薬は行商人から買っているが……」
「こちらには、どんな薬があるんですか? やっぱり、頭痛薬とか痛み止めとかでしょうか?」
「そうだな、そんな感じじゃよ」
他には下痢止め、化膿止め、目薬などもあるという。
薬に関してはルーペス王国とそう変わらないな、とゴローは察した。
「ええと、いつの間にかこちらが質問をしていたわけですが、そちらからもっと何か聞きたいことはありませんか?」
改めて仕切り直すゴロー。
「そうじゃな……おおそうじゃ、そちらには『亜竜ライダー』という者がおるのじゃろう?」
「『亜竜ライダー』ですか……ええと、エルフの国にいると聞いています」
「やはりそうか」
「見たことがあるのですか?」
「何十年か前に王都へやって来たという話があってな」
「王都へ……」
「その時乗ってきた『亜竜』は怪我をしており、乗ってきたライダーは母国へ帰れなかったらしい」
北の方にあるエルフの国、シナージュ国には『亜竜ライダー』がいるという話である。
が、そこからここまでは多分何千キルもあるはずで、『亜竜』の飛行速度が時速100キルほどだとしても3、4日は掛かる距離である。
その際の野営をどうしたのか、興味があるゴローであった。
「『シナージュ国』というエルフの国のはずですが、そのライダーはどうしているんですか?」
「よくはわからん。が、エルフは長寿だというから、まだ王都にいるかもしれんのう」
「なるほど……」
さすがに辺境の村では、そこまで詳しい情報が得られないのは仕方がない。
「それで、今夜は泊まりなさるかね? まだ昼前じゃが」
「ここから先には、村はありますか?」
「1日掛かるのう、今からではちょっと難しいかもしれん」
「でしたら1泊をお願いしたいんですが、こちらの通貨を持っていなくて」
「なるほど、そうじゃろうなあ」
「代わりに、砂金かルビーの原石ならあるんですが」
「おお、それなら砂金を少しいただこうかのう」
「はい」
こういう時のために持ってきた砂金を、ゴローは背嚢から出した。
ガラスの瓶に小分けにしてあり、1つがおよそ1グム入っている。
「『鑑定』……ほう、これは高品質の砂金じゃな。これ1つ、いただいておこう」
『鑑定』は、対象の特性をある程度知ることができる魔法だ。レベルとしては3に相当する。
今回は金の含有率を調べたのであろう。
とはいえ、辺境の住人がこんな魔法を使えるということは驚きであった。
ゴローは、だからこそ村長をしているのだろう、と解釈したのである。
ゴローが見たところ、砂金の純度は60パーセントが金、他は銀、銅、鉛など。
1グムなら0.6グムが金ということだ。
ルーペス王国での金相場は1グムが1万シクロ(1万円相当)から1万5000シクロであるから、2人分の宿泊費としてはまあまあ妥当なところであろうと思われた。
「それでは、お世話になります」
「うむ、ゆっくりしていくがいい。部屋は妻に案内させよう。……フェニ、案内してやりなさい」
「はい、あなた」
そして村長レイマンは、奥方に指示をした。
「こちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
案内されたのは『離れ』的に建てられた別棟。
どうやら旅人専用の建物らしい。
そこの1階、1番手前の部屋に2人は通された。
「もうすぐお昼ですからね」
「お世話になります」
部屋に荷物を置いて寛ぐゴローとサナであった……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月9日(木)14:00の予定です。
20260402 修正
(誤)「はい、我々は『アダール国』から来ました」
(正)「はい、我々は『アダーラ国』から来ました」
(旧)
今回は金の含有率を調べたのであろう。
(新)
今回は金の含有率を調べたのであろう。
とはいえ、辺境の住人がこんな魔法を使えるということは驚きであった。
ゴローは、だからこそ村長をしているのだろう、と解釈したのである。
20260403 修正
(誤)そこへ、奥方であろうか、初老の婦人がお茶を載せたトレイを持って現れた。
(正)そこへ、奥方であろうか、初老の婦人がお茶(と思われるもの)を載せたトレイを持って現れた。




