15-15 村長宅
「なんとかなったな」
「うん、よかった」
部屋に案内されたゴローとサナは、荷物を置いて寛いでいる。
「この分だと、ハカセたちと一緒に王都見物ができそうだ」
「そうかも。……だけど……」
「何か気になるのか?」
「うん……」
その先は『念話』を使ってサナは伝えてきた。
〈『ANEMOS』で王都に着陸するわけには、いかないと思って〉
〈そりゃそうだ……〉
〈なら、どうするの?〉
〈王都のそば、人目につかないところで降りて、徒歩で向かうしかないよな……〉
〈やっぱり〉
基本的に、未知の、それも未開の土地を探検することを念頭に置いていたので、人の住む都市を訪問することはほとんど検討されていなかったのだ。
〈その場合『ANEMOS』は?〉
〈うーん……フランクの操縦で空中に留まっていてもらうしかなさそうだな〉
〈一時的にせよ、着陸できる場所がない時は?〉
〈……俺が『飛行ベスト』を着て、1人ずつ下ろすか……〉
〈それしかなさそう〉
下手に『ANEMOS』を見せたら、権力者が欲しがり、奪われる可能性がある。
あるいは発見されるや否や攻撃されるという可能性もないとはいえない。
〈ちょっと特殊な乗り物だからなあ〉
〈ちょっとじゃ、ない〉
〈まあそうか〉
〈……それじゃあ、そうやって『ANEMOS』から降りて都市へ行ったとして、どこからどうやって来たか、どう説明するの?〉
〈うっ……〉
今日のサナはいやに熱心に聞いてくるなあと思いながら、ゴローは説明を考えている。
〈難しい問題だな……〉
〈相手も飛行機を持っていればいいんだけど〉
〈『亜竜ライダー』がいても、飛行機は作れないだろうしなあ〉
〈それは、そう〉
あまりにも進んだ技術を見せ付けるのは、自分たちの益にはならない、と改めてゴローは悩ましく思ったのである。
〈それはそうと、さっき村長さんが使った魔法〉
〈『鑑定』?〉
〈うん。……あれって、サナは使えるのか?〉
〈使えない。けど、見たからだいたい、わかった〉
〈……さすがだな〉
〈もう1回、できれば2回見ることができれば、覚えられると思う〉
〈そうか……なんとか機会を作ってみたいな〉
〈うん、でも無理は、だめ〉
〈わかってるよ〉
* * *
そんな時、
「お客さん方、お昼ご飯ができましたよ」
と村長夫人のフェニが声を掛けてくれた。
「はい、ありがとうございます」
と返事をし、ゴローとサナは部屋を出た。
フェニに先導されて食堂へ。
そこにはゴローたちが馴染みのある料理と、見たことのない料理とが並んでいた。
総じて素朴なものである。
「どうじゃな、我が国の料理は?」
村長レイマンがにこやかな顔でゴローとサナに尋ねた。
「そうですね、見たことのない料理が半数以上あります。ですが美味しそうですね」
ゴローの『謎知識』は、見たことのない料理を『ピザ』『焼いた子山羊肉』『つくねのスープ』と判断した。
知っている方は『天ぷら』と『大麦のリゾット』。
「まあ、召し上がってみてください」
フェニに言われ、ゴローとサナはフォークを手にした。
「それでは、いただきます」
そう言ってフォークを手に取ったゴローに村長は、
「おや、東の国でも『いただきます』と言うのじゃな」
と言うではないか。
そこでゴローは、
「ええ。食べ終わった時は『ごちそうさま』と言いますよ」
と付け加えた。
「ほうほう、それも同じじゃな」
「根っこの部分は同じなのかもしれませんね」
「そうじゃな……学者先生なら興味を持ちそうじゃ」
そう言って、村長レイマンもフォークを手に取った。
「これは、何の肉なんですか? くせがなくて美味しいですね」
「子山羊の肉じゃよ。この村では牛ではなく山羊を飼っておって、肉や乳を利用するのじゃ」
子山羊の肉は、子羊同様、まだ草を食べる歯が生えていないものであるため、臭みがないという。
「牛はこのあたりの草はあまり食べないようで、山羊の方が飼いやすいのじゃよ」
「そういうこともあるんですね」
牧畜には詳しくないので(『謎知識』もそこまで詳しくは教えてくれなかった)、ゴローもその説明で納得した。
「このスープ、入っている肉も柔らかくて味わい深いですね」
「山鳥のつくねです」
これは村長夫人のフェニが教えてくれた。
山鳥の肉をすり鉢ですりつぶし、わずかな塩を加えてこねて団子状にしたものを塩味と香草の入ったスープで煮るのだという。
似たようなものに『つみれ』があるが、つみれはスプーン等で摘み取って汁に入れたもの。
『つくね』は捏ねる、つまり手で捏ねたものである。
材料の違い(つみれは魚、つくねは鶏)と思われがちだが、材料は同じでもこの工程で呼び分けられるらしい。
「あと、これは何ですか?」
ピザについて尋ねるゴロー。
「それはピッツァといいまして、小麦粉で作りますのよ」
フェニが教えてくれる。
「少しの塩とイーストも使いますの」
「そうなんですね」
出されたピザ、いやピッツァは『マルゲリータ』と呼ばれるものに酷似していた。
「使ったチーズは山羊の乳で作ったんですか?」
「そうなんです。少しくせがあるかもしれませんが」
山羊の乳から作ったチーズは『シェーブルタイプ』といい、牛乳から作るチーズよりも歴史は古いとも言われている。
「いいえ、美味しいです」
独特な酸味を感じるが、嫌なものではない、とゴローは感じていた。
甘い物好きのサナも、何も言わずに食べている。
「それはよかったですわ」
フェニが微笑んだ。
この村では、各家庭で山羊チーズを作っているのだという。
「天ぷらも美味しいです。……これは何の天ぷらですか?」
「ああ、それは山菜の一種で『タラ』の新芽ですよ」
要するにタラの芽である。
春から初夏にかけて芽吹く新芽を摘んで天ぷらにする。
「こちらは『アケイシャの花』ですね」
「よくおわかりですね」
「昔食べたことがありまして」
アカシア(日本でのニセアカシア)の花(というか蕾)は天ぷらにして食べられる。
蜂蜜を採る木でもあるから、蜜分が多く、焦げないよう注意して揚げる必要があり、天ぷらはほんのり甘い。
なお、この村では醤油がないらしく、塩で天ぷらを食べている。
「これはわかります。ゴボウですね」
「ええ、そうです」
要するに、山菜、野菜の天ぷらである。
そして大麦のリゾットは、山羊のチーズを使った濃厚なものであった。
* * *
食後にはゴボウ茶が出された。
「どれも美味しかったです、ごちそうさま」
「いやいや、大したものを出せずに申し訳ないのう」
「そんなことないです、美味しかったですよ」
サナもまた、お世辞抜きにここの昼食を味わったようだった。
「もしよろしかったら、旅の話などお聞かせくださらんか」
「ええ、いいですよ」
そう答えたものの、何をどういうふうに話そうかと、ゴローは素早く考える。
そして、多少脚色しつつ、騙すことなく語ろうと決めた。
「母国を出ますと……」
まずは『母国』という濁した表現で出発地を表現する。
「密林の多い土地を通ります。所々に川や湖がありましたので野営をしました」
このあたりは聞く方も面白くないであろうからさらっと流す。
「でも中には、飲用に適さない湖もありましたね」
「ほう?」
「毒の水が溜まっていて赤いんですよ」
こうした、変わった話が多分聞きたいんだろうなと、出会った土地を思い出しつつ説明するゴロー。
「さすがに飲めないのですが、その分動物も寄ってこないので、そうした意味では野営しやすかったですね」
「ほうほう、なるほど……」
「あとは、珍しい石がゴロゴロ転がっている湖もありました」
「ほほう」
「旅の途中なので、拾ってくることはできなかったのが残念ですよ」
「そうじゃろうなあ」
こうした話を聞くのは楽しいらしく、村長レイマンにせがまれ、午後のお茶の時間を挟んで夕方まで話し続けていたゴローであった……。
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次回更新は4月16日(木)14:00の予定です。




