15-13 様子見
「さて、先延ばししても仕方ないし、明日はどうするか決めようかね」
「そうですね、ハカセ」
『人族』が住むらしい町を見つけたが、立ち寄るかどうするか、ということが議題である。
というのも、『人族』に限ったことではないが、他種族を見下す(『エルフ族』に多い)、他種族に対し拒絶する(『ドワーフ族』に多い)、という可能性が高いからである。
『人族』は特に『獣人族』への偏見があったり蔑視したりする傾向がある(ルーペス王国は問題なし)。
「そんな同族の中でも身分格差があったりよそ者を嫌ったりするしねえ……」
「耳が痛いです」
「返す言葉もないです」
アーレン・ブルーとヴェルシアは少ししょぼんとうなだれた。
「通り過ぎるのが無難といえば無難なんだけどね」
「でもハカセ、食料や情報や……珍しいものがあるかもしれませんよ?」
「そうなんだよねえ……ゴローの言うように、そうした珍しいものを見逃すのは惜しいよね」
悩むハカセ。
そして、考えた末に出した結論は……。
「……ゴローとサナに様子を見てきてもらおうかねえ」
「はい、任せてください」
2人なら、10キルや20キルの距離はものともせずに走り抜けられる。
食事も必要としない(これはハカセとフランク、ゴローとサナ以外には秘密であるが)。
なので、様子見なら2人が適任なのだ(外見が『人族』であることが最大の理由)。
「あとは、連絡手段としてこれを持ってお行き」
ハカセは『双方向夫婦石通信機』をゴローに手渡した。
「小型にしたから携帯性は上がっているけど、多分通話可能距離は短くなってるよ」
『夫婦石』の有効距離は、今のところ限界は不明である。
ゆえにフルバージョンの『双方向夫婦石通信機』の通話可能距離も無制限と思われる。
「でもね、小型化したので、『夫婦石』の振動を増幅する機能が弱くなっちゃったのさね」
『夫婦石』同士のつながりも、距離が離れると多少は弱くなる傾向が見られている。
距離が1000倍になると強度が半分になる、くらいの弱まり方だ。
これは、『夫婦石』同士を繋ぐ波動が、ほとんど拡散していないことを示している。
が、実際にはわずかに拡散するのであろうと推測される。
あるいは、間にさまざまな物質・物体が存在することでわずかに減衰することも考えられる。
「……というわけで、あたしの予想だと100キル離れると、ほぼ聞こえなくなるんじゃないかと思うんだよねえ」
「それだけの距離が通話可能距離なら十分実用的ですよ」
「まあ、これを持っていってもらえれば、あたしたちも安心できるってものさ」
こっちの通信機はフランクに持っていてもらう、とハカセは言った。
「フランクなら24時間待機していることもできるからねえ」
「こっちとしても安心できますよ」
連絡すればすぐにフランクが出てくれるというなら心強い、とゴローは言った。
「まあ、いずれにしても明日の話さ」
「そうですね」
「今日はもう休もうかねえ」
と、そういうことになった。
時刻はおおよそ午後9時である。
* * *
翌朝。
朝食後、ゴローとサナは身支度を整える。
服装は普段通り。
これは、見かけた人たちの服装が、ルーペス王国と大差なかったからだ。
背嚢には『癒やしの水』2リル、木イチゴのジャム1瓶、『解熱鎮痛剤』『滋養強壮薬』各3瓶。
それに親指大のルビー原石3個、砂金10グム。
砂金は、金貨よりも使いやすいだろうと判断したのである。
「あとは護身用のナイフ……だけど、『竜の骨』で作ったナイフはあまり見せないほうがいいだろうね」
「そうでしょうね……」
ということで、鋼でできた大きめの山刀(鉈とナイフの中間的な刃物)を持っていくことにした。
「待機している間にスケッチガーゴイルを作っておくからね」
「あ、お願いします」
そしてさらに、ゴローはハカセに提案をする。
「ハカセ、ちょっと思い付いたことがあるんですが」
「なんだい?」
「現在地点での時刻を知るための日時計なんですけどね」
「うん」
日時計の原理は簡単である。
特定の方角(普通は南北)に向けて置いた棒の影の向きで時刻を知るというもの。
正午に太陽が南中(真南に来る)ということを踏まえて作る。
ゆえに、正確な南北の線と、太陽の位置がわかれば日時計を作れるということになる(形式により多少精度は変わる)。
「南北は方位磁石でわかりますよね」
「わかるね」
「で、太陽の位置ですが、『単眼鏡』を使えばいいんですよ」
「ああ、なるほど」
『見る』ことに特化した『古代遺物』であるゴローの『単眼鏡』。
これを使えば、曇りや雨の日、また夜でさえも太陽の位置を知ることができるのだ。
「ゴローたちが出かけている間、考えておくよ」
「お願いします」
ハカセのことだから、考えるだけでなく作ってしまいそうだな、と思ったゴローであった。
* * *
皆に見送られ、ゴローとサナは野営地を出発した。
向かう方向はわかっているので、方位磁石で時々確認しながら進む。
といっても、低木の点在する草原が大部分なので楽である。
もちろん『強化』2倍を掛けているので、進む速度はやや抑えて時速30キルくらい。
抑えているのは、いつ人と出会うかわからないため。
時速30キルなら、人が出せる早さ(短時間限定)であるからだ。
「ゴロー、方向はこっちでいいの?」
「もうちょっとだけ右寄りかな」
「わかった」
そういうわけで、ゴローとサナは、草原を走り抜けていた。
事前に『単眼鏡』で調べておいたので、今のところは時速60キルくらいで走っているが、もう少ししたら30キルに落とさなければならないだろう。
住民との遭遇には気を付けなければならないからだ。
「そろそろ速度を落とそう」
「うん」
ゴローとサナは、走る速度を時速20キルくらいまで落とした。
これなら、偶然誰かに出会っても、『急いでいたから』で誤魔化せそうである。
そして更に進むと、『強化』2倍を掛けた2人の耳に、人と人の会話が聞こえてきた。
「一旦止まろう」
「うん」
立ち止まり、耳を澄ます2人。
まだ距離としては200メル以上離れているようで、草に隠れて目視での確認はできない。
「今年の麦のできはどうでえ?」
「ぼちぼちだんなあ」
話の内容からすると、この先は畑になっているようだ。
「ということは、畑に続く道がどこかにあるはずだから、それを探そう」
「わかった」
道のない草原から2人が現れたら、『旅の者です』という建前も通じにくくなりそうだからだ。
「森の中やヤブのある茂みなら道に迷った、と言えるんだがな」
「それは、わかる」
そういうわけで、2人は声のする方向とは直角に右へ曲がって草原を歩いていく。
うまくすれば道に出会えるだろうという考えだ。
そしてそれは大当たり。
細いながらしっかりとした道に行き当たったのである。
「この道を辿って行こう」
「うん」
2人は道を歩いていく。
狭いながら轍があり、荷車か何かが走ることもあるようだ。
そして5分ほど行くと、草原は麦畑となった。
収穫期を間近に控え、金色になりかかった小麦畑である。
「おお」
「きれい」
初夏、前年に播いた冬小麦が収穫期を迎える頃を『麦秋』という。
周りは緑一面、麦畑だけが黄金色。
これもまた、初夏の風物詩である。
「おんやあ、旅人さんかや?」
麦畑に見とれていると、声を掛けられた。
野良仕事をしている農家の人らしい。
「ええ、そうです」
「どっから来なすったね?」
「東から」
「ほう、東にも村があったかよ」
「ええ。……こちらは何という村ですか?」
「ストーイ村ちゅうだよ」
「ストーイ村、ですね。……泊まるところってありますか?」
「村長んところに、皆泊まるだぁよ」
「わかりました。ありがとうございます」
礼を言って歩き出すゴローとサナ。
ここからは念のため『念話』で話すことにする。
〈ゴロー、村長の家、わかるの?〉
〈いや、わからないけど、村で聞けばいいだろ〉
〈それも、そう〉
〈それより、どこから来たと聞かれた時、どう答えるか考えていなかったなあ〉
〈東から、だけじゃ、不足?〉
〈不足だろう。泊めてもらうとすれば、もっといろいろ聞かれるぞ〉
〈確かに〉
歩きながら、そんな相談をする2人。
〈……適当な名前をでっち上げるか〉
〈それしかなさそう〉
〈何かいい案はあるか?〉
〈うーん……〉
ゴローに聞かれたサナはしばし考え、
〈じゃあ、『アダーラ国』〉
と返事をした。
〈うん、わかった〉
答えながらゴローは、『アダーラ』という名前は、『おおいぬ座イプシロン星』のことで、アラビア語の『アダラ』……『乙女たち』に由来するんだっけ、と『謎知識』に教えられていた。
同時に、どうしてサナがそんな名前を付けたのか、ちょっと不思議にも思ったりする。
〈そのアダーラ、って何なんだ?〉
〈わからない。なんとなく思い浮かんだから〉
〈そっか……〉
その他にも、いくつか話し合って決めていく2人。
〈何が目的か、と聞かれたら、見聞を広めるため、でいいか〉
〈うん。西に何があるのか、ということでいい?〉
〈そんな感じだろうな〉
〈あと、魔法はどうする?〉
〈多少は使える、としたほうがいいだろうな。2人で旅ができる理由になるから〉
〈わかった〉
そこまで『念話』で話をしていたが、村の入口……簡単な木の柵……が近づいてきた。
「村だ。気を付けよう」
「うん」
果たして、村で待つものは……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は4月2日(木)14:00の予定です。
20260326 修正
(誤)といても、低木の点在する草原が大部分なので楽である。
(正)といっても、低木の点在する草原が大部分なので楽である。
(誤)〈それより、どこから来たときからた時、どう答えるか考えていなかったなあ〉
(正)〈それより、どこから来たと聞かれた時、どう答えるか考えていなかったなあ〉




