15-12 思わぬ収穫
農作業をする『人族』を見つけたゴローたち。
コンタクトをするかしないかで悩んでいる。
「……ハカセ、もう3時頃ですから、どこかで野営をして、もう一度考えましょう」
「ゴローの言うとおりかもねえ……そうしようか」
ということで、『ANEMOS』は高空から野営地を探す。
これまで飛んできたルート上には適当な場所がなかったので、少し北方向へ行ってみることにした。
南ではなく北なのは、そちらの方が人の居住地が少ないような気がしたからである。あくまでも『気がしたから』であるが。
とはいえ、その選択は正解だったようで、時速100キルほどで10分ほど飛ぶと、なだらかな草山が見えてきた。
草と低木しか生えていないため、山頂からの見晴らしはよさそうである。
周辺に大型動物や人影も見えないため、『ANEMOS』は高度を落としていった。
「フロロ、周囲に危険そうな魔獣はいるかな?」
「んーっと、大丈夫みたいね」
「それじゃあフランク、あの丘に着陸だ」
「了解です」
おおよそ午後3時半、『ANEMOS』は疎林の中に盛り上がった低い丘の頂上に着陸した。
周囲は草で、見通しがきく。
「よしポチ、周囲を偵察してきてくれるか? 無茶はしなくていいからな」
「うぉん」
『クー・シー』のポチは一声鳴くと、『ANEMOS』から飛び出していった。
同時にゴローは、フロロやマリーにも確認する。
「……うん、周りに悪いモノはいないと思うわ」
「悪意は感じません」
「ありがとう」
そうこうするうち、ポチが帰ってきた。
「わうわう」
「おかえり、ポチ。何ごともなさそうかい?」
「わうん」
ポチもまた、『大丈夫だ』と言っているようなので、ここを今夜の野営地にすることとなった。
「あ、そうだ、丘の南側の麓近くに木イチゴがたくさん生ってるわよ」
フロロに木イチゴがたくさん、と言われて、サナが腰を上げた。
「採ってくる」
籠を背負って風のように飛び出していく。
何かあれば『念話』で知らせてくるだろうと、ゴローはサナを送り出した。
* * *
気がつけば1時間が経ち、かなり日が傾いたのにサナが帰ってこない。
「ゴロー、サナはまだ帰ってこないのかい?」
「ハカセ……そうなんですよ」
時刻は、おおよそ午後4時45分頃と思われる。
〈サナ、どうかしたのか!?〉
そこで、ゴローから『念話』でサナを呼び出した。
〈……ゴロー? 何かあった?〉
すぐにサナから返事があった。
〈いや、何かあったのはそっちだろう? もうすぐ5時になるぞ?〉
〈あ、もうそんな時間?〉
〈そうだよ。いったいどうしたんだ?〉
〈思ったより木イチゴとか、美味しそうな木の実がたくさんあったから、集めるのに夢中だった〉
ゴローの肩から力が抜けた。
〈心配させるなよ……〉
〈……うん、なんか、ごめんなさい。もう、帰るから〉
〈そうしてくれ……〉
そして念話を終え、ハカセたちに報告する。
「サナは元気です。なんでも、木イチゴがたくさんあって、採取に夢中になっていたそうです」
「そりゃあ……なんていうか、サナだねえ」
「はい……」
ハカセと言い合っていると、サナが戻ってきた。
「ただいま」
「サナ、遅かったじゃないか。心配したよ?」
「ごめんなさい、ハカセ。いろいろ採っていたら遅くなった」
そう答えたサナの唇は紫色をしていた。
「さ、サナ、その唇……どうしたんだい!?」
「え?」
「紫色をしてるぞ」
「ああ……いけない」
サナはポケットからハンドタオルを出して口を拭う。
すると、唇の紫色が薄くなった。そして、代わりにタオルが紫色に。
「ああ、なんだい、何かの実を食べて色が付いたのかい。びっくりさせないでおくれ」
「ごめんなさい、ハカセ」
そしてサナは背負った籠を下ろした。
中は収穫物でいっぱいである。
「すごいねえ……」
「あ、木イチゴと……こっちはクワの実ですね!」
やって来たヴェルシアが、サナの成果を見て声を上げた。
クワの実は黒紫色に熟し、それを食べると口の周りが紫色になるのだ。
どうやらサナは熟したクワの実をそうとう食べてきたらしい、とゴローは想像した。
「半分くらいは潰してジュースにしようか。で、残りはジャムにしよう」
ゴローが提案すると、サナもハカセもヴェルシアも異論はなかった。
そのうち他のメンバーもやって来る。
「サナさん、遅かったですね」
「すごい収穫量ですね……」
「美味しそうです」
「『浄化』できれいにしてあるから、食べられる」
『浄化』は生活魔法で、汚れや雑菌を落としてくれるもの(『浄化』とは違う)。
収穫した果実を生食する場合には欠かせない。
「ちょっと待て。もうすぐ夕食だからな」
ゴローが釘を刺した。
「うん、じゃあ、ちょっとだけ。美味しいから、どうぞ」
2つ3つをつまむくらいなら、とサナは、木イチゴとクワの実を勧める。
「じゃあ、1つ」
「私も、なのです」
ヴェルシアはクワの実を、ティルダは木イチゴを口にする。
「甘酸っぱくて美味しい」
「なのです」
「じゃあ、あたしも」
ラーナも木イチゴを1つつまんだ。
「あ、美味しい」
「ね?」
どうやら、美味しいものを採ってきたのでお小言は勘弁、という腹づもりらしい。
そんなサナの魂胆を見抜いたゴローだったが、既に怒る気は失せている。
「みんな、もうそのくらいにしといた方がいいぞ。もうじき夕食だから」
「あ、はいなのです」
「そうでしたね」
そしてそこにいた皆で手分けしてクワの実と木イチゴをざるに仕分けする。
その過程で、木イチゴでもクワの実でもない、第3の果実が籠の底の方から出てきた。
「なんだい、サナ、この実は?」
「わからない。けど、甘くて美味しかった」
「サナ……正体不明な実を口にするんじゃないよ……」
呆れるゴロー。
だが、『謎知識』は、その実について教えてくれた。
「これは多分『ユスラウメ』だろうな」
ユスラウメは『山桜桃』『梅桃』とも書き、バラ科の落葉低木である。
春に白い5弁の花を咲かせ、初夏、直径1セルほどの小さな赤い実をつける。
実のわりに種が大きいため、可食部が少ないことが一般的な果物にならない理由だろうか。
「……という果実ですね」
「なるほどねえ。たしかに種が大きいよ」
「名前は知っていましたけど、初めて食べました」
ヴェルシアは初めて実物を見た、と言って4つほどつまんで口に入れていた。
* * *
「夕食ができましたよ」
そんなこんなで夕食である。
時刻は午後5時頃。
7分搗きのお米のお粥、乾燥野菜をお湯で戻したスープ、そして干し肉のソテー(塩コショウ味)。
「鳥の巣でもあれば卵を採ってこられるんですが」
とは狐獣人のルナールらしいセリフであった。
* * *
夕食後、採ってきた果実が傷まないうちに処理してしまうことにした。
木イチゴとクワの実は、それぞれ半分をジュースに、もう半分をジャムに。
ジュースもジャムも、『癒やしの水』を少量加えることでぐっと保存性が増す(保存期間が4倍くらいに伸びる)のだ。
そしてユスラウメの実は洗って(『浄化』はしてあるが、念のため)貯蔵庫に入れた。
「これで、よし」
ゴローがユスラウメの実をしまい終えた頃、甘い匂いが漂ってきた。
煮詰まってきたジャムの匂いである。
「レモンはないからこのままでいいですね」
クワの実のジャムをつくる際、レモンの搾り汁を入れると味が引き締まる、と言われている。
木イチゴの場合は適度な酸味があるからそのままでよい。
「煮詰めたら、随分減った」
「半分はジュースにしましたからね」
籠一杯のクワの実と木イチゴも(ユスラウメも混じっていたが)が、それぞれ中瓶2つずつのジャムとなる(おおよそ300グム入り)。
もちろんジュースにもしており、そちらは90パーセントジュース(10パーセントは『癒やしの水』)が2リルずつとなったのである。
「これ以上は砂糖の減りが心配だから」
「うん、わかった」
これもまた、旅の醍醐味。
こうして食卓の彩りを増やしながら、ゴローたちの旅は続いていくのである。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は3月26日(木)14:00の予定です。
20260320 修正
(誤)ゴローが釘を差した。
(正)ゴローが釘を刺した。




