15-08 海と干物
俄か雨を避けた『ANEMOS』は、一旦研究所へ戻って足りなかった資材や食料などを補充し、また元の場所へ戻ってきた。
そして改めて『川』の下流を調査しに南下する。
まだ『写真機』はできていないので、簡単なスケッチをしつつ飛ぶ。
「大分川幅が広がってきたねえ」
「なんか、中流域というより下流域みたいですね」
そして、その言葉どおり、行く手に……。
「あれ、海かい?」
「みたいですね……」
なんと、海へ出てしまったのである。
「まあ、ラジャイル王国やドンロゴス帝国も海に面しているわけだしねえ」
「このあたりは海岸線が少し北上しているんでしょうかね」
「ああ、そうかもねえ」
そして更に速度を落としていくと、海沿いに集落が見えた。
漁で生計を立てている村らしく、漁船らしきものや網も見える。
住人は『人族』のようである。
「村か何かがありますね」
目のいいゴローが真っ先に見つけた。
「あ、だったら魚が食べたいですね。……魚の干物でも手に入りませんか?」
アーレンが尋ねた。
どうやらアーレンは魚が食べたいようだ。
「寄ってみますか?」
「そうだね。何か珍しいものもあるかもしれないしね」
……と話がつき、集落から見られないように少し回り込み、巨大な岩陰に『ANEMOS』を着陸させた。
幸いといえばいいのか、漁に出かけているらしく人影はまばらなので、『ANEMOS』を見られる可能性も小さかった。
「ここから歩いていきましょう」
フランクは用心のため『ANEMOS』に残していく。
そして、『獣人』であるルナールを見て、どんな反応をされるかわからないため、ルナールも留守番である。
「ポチも留守番、頼むぞ」
「うぉん」
ポチもまた、任せろと尻尾をばさばさ振って答えた。
つまり、ゴロー、サナ、ハカセ、ヴェルシア、アーレン、ラーナ、ティルダらが集落へ向かうことになった。
フロロやクレーネー、マリー、ミューらは当然留守番である。
一応ルーペス王国の通貨(ジャンガル王国、ドンロゴス帝国、ラジャイル王国でも使える)を持ち、他には物々交換の可能性を考えて少しの金の延べ板や宝石、それに薬を持った。
「まず俺とサナが近付きますから、ハカセたちは少し離れて見ていてください」
「わかったよ」
ということでゴローはサナとともに海岸線を歩いて集落へと向かった。
集落には、漁に出なかった女衆と老人が残っていた。
そんな年寄りの1人に、ゴローは挨拶する。
「こんにちは」
「ん? ……ああ、こんちは。旅人さんかの?」
「はい。東の方から来ました」
「そりゃご苦労なこんだのう(ことだなあ)」
少しだけなまっているが、言葉は通じる。
日焼けした老人は愛想よく笑った。
「それで、何しに来なさったね?」
「ええと、食べ物……魚なんかを分けていただきたいなって」
「おう、そうか。……ええぞ。とはいうても、漁に出た連中はまだ帰らないすけ(から)、干物くらいしかないが」
「それで結構です」
「そうかい、ならええがの。……ところで、あっこ(あそこ)でこっちを見てるのはあんたらのお仲間かね?」
目ざとくハカセたちを見つけた老人。漁をしているので年をとっても目はいいようだ。
そこでゴローはハカセたちを手招きした。
「ほう、大勢さんで旅かね。羨ましいこんだ(ことだ)。いらっしゃい、旅人さん方」
微笑む老人。
「こんにちは」
ハカセが代表して挨拶をした。
人見知りなハカセであるが、相手の愛想がいいからか、それとも年寄りだからか、あまり気にしていないようである。
「よくもまあ、こんな何もない村まで来なすったね」
「……ええと、つかぬことを聞きますが、こちらはなんという村なんでしょうか?」
「うん? ここは『テノハ村』だがね」
「向こうに流れている川は、何か名前が?」
「川はカリーシ川と呼んどるな」
これで、村と川の名前がわかった。
「おまえさん方、魚が欲しいということじゃったな?」
「はい」
「干物でよければ分けてやれるから、こっちゃ来い」
老人はゴローたちを手招きする。
ついていくと、家の1つに到着。老人の家であろう。
木造平屋建て、村の中では標準的な大きさである。
「ばあさん、お客人だで」
「ほいよー」
老人が呼ぶと、中から老婆が顔を出した。
「ほうほう、お客さんかい? 珍しいこって(ことで)」
「干物を分けてくれというんでな。……分けていいのはどんくらいある?」
「この前作ったから、結構あるで」
「そかそか。……お客人、こっちさ来いし(来なさい)」
家の裏手に回ると納屋があり、老人はそこから干物の入った大きな丸い籠を持ってきた。
「これ一籠分なら分けてやれるよ」
アジの干物のようなものが50枚ほど入っている。
「シュトカの干物だあね。脂がのっていて、焼くと美味いずら」
「助かります。おいくらですか?」
「そういや、あんたら、どこから来たんだね?」
「ええと、ルーペス王国というところからです。ジャンガル王国を通って来ました」
「ジャンガル王国……ああ、聞いたことがあるな。なら、通貨は……なんじゃったかな?」
「シクロですが」
「そんな名前じゃったな……こっちで使われているんは『ルクマ』っつうお金だでね」
ゴローたちは顔を見合わせた。そんなお金の単位は聞いたことはなかったのである。
「すみません、そっちの持ち合わせはありませんね……何かと交換してもらえませんか? 金とか、宝石とか、薬とか」
「そうだの……薬はどんな物があるんか、教えてくんない(教えてくれ)」
「はい」
ヴェルシアの出番である。
「ええと、これが解熱鎮痛剤で、こっちが健胃腸薬。それからこれが滋養強壮薬です」
「なんだかむずかしい名前で、ちっともわからんが」
「あ、すみません。ええと、それぞれが『熱冷まし兼痛み止め』『お腹の調子をよくする』『疲れが取れて元気になる』薬です」
基本的にどれも身近な疾患に効くものである。
「ほうほう、それはいい。じゃが、どれくらい効くものかわからんしな……」
「それは、そうですね……」
仮に、まるで効かない薬をまことしやかに勧められていても確認するすべがないわけだ。
「それじゃあ、この『疲れが取れて元気になる』薬を、少しだけ飲んでみてください」
これは研究所の上の山で採ったイワタケを『癒やしの水』で煎じたものである。軽い体調不良なら1日で治るという即効性もある。
『癒やしの水』を使っているので長期保存ができる。
瓶に入ったそれを、普通の水で10倍に薄める。
「じゃあ、私が飲んでみせますね」
毒ではないことを示すため、希釈した3分の1をヴェルシアは飲んでみせた。
「ほう、なるほど。では、わしも……」
老人は残った3分の2を一気に飲み干した。
すると。
「うむうむ、確かにこれは効くみたいじゃな」
なんとなく感じていた身体の不調がなくなったような気がする、と老人は言う。
「これなら、その1瓶と交換でいいがね」
「ありがとうございます」
こうして、『滋養強壮薬』1瓶(約0.5リル)とシュトカの干物50枚を交換することができたのだった。
「これはありがたいものが手に入った。おーい、ばあさんや」
「なんずら?」
「腰が痛いと言ってたろうが、これを飲んでみろし(みなさい)」
「はいよ」
これもまた、10倍に薄めた『滋養強壮薬』を飲む老婆。
「ほうほう、なにやら腰が楽になったずら」
「よく効く薬だあね」
その効き目にほれこんだ老人はゴローたちに向き直り、
「もう一瓶ほしいが、分けてやれる干物はもうないのだが(だよ)。……何か、他にほしいものはないずらか?」
と尋ねた。
「うーん、それは、何か珍しい石とか、植物とかないですか? きれいな貝殻とかでも……」
ゴローが答えた。
「ああ、それならちょっと待っててくれや」
老人はそう言って再び納屋へ。
そして、大きな木の箱を抱えて出てきた。
「あ、サンゴじゃないですか?」
中には大きなサンゴが3本入っていた。
「たまに網に掛かったり、浜に打ち上げられていたりするんだが」
「すごいですね……」
さて、ゴローたちはどう評価するであろうか……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2月26日(木)14:00の予定です。




