15-07 仕切り直し
増水した川を望む高台に着陸した『ANEMOS』。
「今夜はここで過ごすのかい?」
「ええ、ハカセ。ここなら増水は大丈夫でしょうし、周囲に悪いものはいないようですから」
とゴローが言うと、
「そうね、何もいないわ」
「何も感じません」
「水の流れも穏やかになってきました」
「うぉん」
フロロの『分体』、『屋敷妖精』のマリー、『水の妖精』のクレーネー、そして『クー・シー』のポチが『大丈夫』と保証した。
* * *
そして、(多分)現地時間、午後4時半。
「夕焼けがきれいだねえ」
「雲が焼けてますね」
空を覆っていた雲も、もはや遠くにわずかたなびいているだけとなった。
夕日が当たりはじめ、もう雨は降らないだろうと思われた。
「夕食ができました」
ルナールから声が掛かり、皆でテーブルに着く。
今夕はアウトドアでの食事だ。
雨上がりのためか、あるいは南下したためか、生暖かい陽気なのである。
そこで簡易テーブルと折りたたみ椅子を出し、外で夕食となったわけである。
危険な動物や魔獣に関しては、フロロの『分体』やマリーらが探知して、いないことを確認してくれている。
ポチも『ANEMOS』の周りを歩き回って警戒していた。
「うん、まずまずの味だねえ」
「まだ旅は始まったばかりですし、人里も見つかっていませんしね」
「仕方ないですよね」
今夜の献立はお粥、乾燥肉と乾燥野菜のスープである。
この先、食料を手に入れれる目処が立っていないので少々わびしい内容となっていた。
「まあ、水は汲めましたのでお茶ならたくさんどうぞ」
「そんなに飲んだらお腹がたぷたぷになるよ……」
「『茶腹も一時』と言いますし」
「それも『謎知識』かい?」
「はあ」
「まあ確かに、お茶でお腹が膨れてもじきにまたすいてくるけどねえ」
「そういう時は、少しでも甘いものを食べると空腹感は減りますよ」
要するに『血中糖濃度(血糖値)』が上がると、満腹中枢を刺激して、一時的に満足する……らしい、とゴローは説明した。
「よくわからないけど、お腹が空いたときに甘い物を食べると、一時的に空腹感がなくなる、ってことだね?」
「まあそうらしいです」
幸い(?)、甘いものはサナの希望でたくさん持ってきているのだ。
「まあ、そういう時が来たら、だねえ……」
「ですねえ。……明日は、この付近で食べられそうな果実や野草を探してみましょうか」
「それもいいね」
そんな話をしているうちに日も落ち、暗くなったので全員『ANEMOS』に戻る。
盗まれる心配はなさそうではあるが、テーブルと椅子も一応片付けることにした。
* * *
「外はすっかり暗くなったねえ」
『ANEMOS』の中は魔力灯が点いているので明るい。
「まだ寝るには少し時間があるねえ……『カメラ』について検討しようかねえ」
「あ、いいですね。……その、『焼き付け』という、絵を紙に焼き付ける魔法について、詳しく教えて下さい」
「いいともさ。まずは用途からかねえ」
ハカセの説明によれば、書類や手紙に『家紋』を焼き付ける、という使い方がメインだそうだ。
その他には、ちょっとしたメモ的に、単純な図形を焼き付けるのだとか。
「だから複雑な絵は、人間には無理だねえ」
「うーん……」
「ハカセ、専用の『ガーゴイル』、作れない?」
ゴローは何ごとかを考え込み、サナはハカセに提案する。
「ガーゴイルかい………………うん、作れないこともないかもね……」
『ガーゴイル』とは魔導人形である。意思を持たず、命じられたことのみを行う。
少し前に『穢れ』の魔導具を池に投げ込もうとしたのもこの一種だ。
「それには、幾つか素材が足りないから、途中で見つけないといけないけどね」
「うーん……」
ゴローはまだ唸っていたが、
「ハカセ、今なら一旦研究所に帰れますよ」
と言い出した。
「え?」
「ええ?」
「えええ?」
「ええええ?」
ハカセ、アーレン、ヴェルシア、ラーナである。
「いや、今の『ANEMOS』でしたら、多分半日も掛からないで研究所まで戻れますから……」
研究所から今いる場所まで、ざっと700キル。
『ANEMOS』が時速350キルで飛べば、2時間で研究所に到着してしまうわけだ。
「……なんというか、常識はずれ」
サナが呆れたような声を出した。
「で、でも、非常に合理的な考え方ですよ」
アーレンは賛同するようだ。
「確かにねえ……『蛍石』も持ってこられるしねえ」
「旅行に足りないものもわかってきたじゃないですか」
「ゴローの言うこともわかるんだけどねえ……なんていうか……」
「別に、『研究所にいる誰か』が文句を言うわけでもないでしょうし?」
「それもそうだねえ……」
長い旅に出るよと言って出発しておいて、すぐに戻ってきたのでは格好がつかない、とハカセは思っていたのだが、そこは持ち前の柔軟な考えで飲み込んでしまう。
「うん、わかったよ。……じゃあ、ここに『マーカー』を埋め込んでおき、明日は全速力で研究所へ戻る。そして必要そうな資材を積み込み直して、改めてここへ戻って来る。……これでいいかねえ?」
「はい、ハカセ」
「よしよし、それじゃあそういうことにして、今日はここまでとしようかね。明日はできるだけ早く出発するとしよう」
そういうことに決定し、この日は皆、床に就いたのである。
* * *
翌日は曇り。
皆早起きし、早々に朝食を済ませる。
そして『3次元帰還指示器』の『マーカー』を埋め込み、現地時間でおおよそ7時に研究所目指して出発した。
「フランク、高度は高めに取ってくれ」
「了解」
万が一『ジャンガル王国』の誰かに見られたら、なぜ戻っていくのか疑問に思われたり何かあったのかと心配されたりしそうなので、目視されないような高度を取ろう、というわけである。
また、高い方が空気が薄く、速度を出せるだろうという期待もある。
「速度は出していいからな」
「はい」
これだけの人員を乗せ、荷物を積んでいるにもかかわらず『ANEMOS』は対地時速600キルを出すことができた。
「は、速いねえ……」
「すごい性能ですね……」
『ANEMOS』建造の主要人物であるハカセとアーレンが一番驚いていた……。
* * *
研究所に着いたのは、研究所の時計で午前9時だった。
「それじゃあティルダは、透明な蛍石を探して積んでおいておくれ」
「はいなのです」
「サナはあたしと一緒にガーゴイル用の資材を探して積み込むよ」
「うん」
そしてゴローは、もう少しお米を余分に積み込むのだった。
アーレン、ラーナ、ヴェルシア、ルナールらは特にすることもないので、ここ数日で気が付いた点をふまえ、少しだけ荷物を増やす。
フロロやクレーネーやマリー、ミュー、ポチらは静かにしている。
「お金よりも、物々交換用に鉱石を少し持っていこうかな……あ、薬のほうがいいかも」
「やっぱり下着の着替えはもう2組ほど増やしたほうがよさそうですね」
「途中で摘んだ薬草は置いていってもいいかもですね」
「塩と調味料はもう少し余計に積んでおきましょう」
ヴェルシアだけは、荷物を下ろしていたが……。
* * *
そして午前10時。
「さあ、改めて出発するよ」
「フランク、発進だ」
「了解」
『ANEMOS』は再び研究所の空に舞い上がった。
いつの間にか空は晴れており、日差しが眩しい。
「さあ、仕切り直しの旅立ちだよ!」
「フランク、西へ向けて全速前進だ!」
「了解」
『ANEMOS』は『3次元帰還指示器』の指す方向へ向け、飛翔する。
その速度は、およそ時速700キル。
AETHERの性質を付与できる、『緑に光る石』の力により飛んでいるため、理論上、速度の上限は光速である。
が、空気抵抗がある上、乗っている者たちの安全も考慮すると、このあたりが最高速度であろうか。
* * *
そして飛ぶこと1時間。
『ANEMOS』は『マーカー』を埋めた、あの高台に到着した。
「さあ、ここから仕切り直しだ。フランク、川沿いにもう少し南下してみよう」
「了解」
昨日中断した飛行が再開された。
『ANEMOS』は、今度は何を発見するのであろうか……。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は2月19日(木)14:00の予定です。
20260212 修正
(誤)皆早起きし、早々に昼食を済ませる。
(正)皆早起きし、早々に朝食を済ませる。
(誤)これだけの人員を乗せ、荷物を積んでいるにも関わらず
(正)これだけの人員を乗せ、荷物を積んでいるにもかかわらず




