15-06 一年中晴天
「ええっ!? 『風の精』に会ったんですか!?」
『ANEMOS』に戻ったゴローが、朝食時に皆に話すと、当然の反応が。
「うん、今回は、なんか丁寧語だったな……前回は教え諭すような口調だったけど」
「風だから気まぐれなのかねえ」
ハカセが持論を述べた。
「まあいいや。……で、今日は午後からにわか雨だそうです」
「ふうん……『風の精』の忠告だから当たるんだろうねえ」
「ええ。ですから今日は、お昼には野営地を決めておきましょう」
「それがいいね」
「できれば、水の補給ができる場所を見つけたいですね」
『三連湖』で補給できなかったので、積んできた水も大分減ってきたからここらで補給したいわけだ。
多少の濁りがあっても、『水の妖精』であるクレーネーが浄化してくれるのでありがたい。
「それじゃあ、早めに出発しようかね」
「わかりました」
「一応、マーカーを埋めておきます。……地名は……『平山』でいいですか?」
「うーん……そのまんまだねえ……まあ、それでいいよ」
そういうわけで、『ANEMOS』は『平山』を、現地時間午前7時頃に発進したのだった。
* * *
「うーん、まだまだ下界は森が続いてるねえ」
「そうですね……」
対地高度500メルで飛ぶ『ANEMOS』からは、見渡す限り深緑の森が広がっていた。
ところどころに草原や荒れ地、低い丘が見えるが、総じて緩やかな起伏の森林地帯である。
「目印らしい目印がないねえ」
「本当に」
手描きの地図を作るうえで、こうした代わり映えのしない景色は非常に厄介である。
かろうじて、点在する荒れ地を書き込むことで見分けが付く程度だ。
「あ、あそこに川が流れてますよ!」
外を眺めていたヴェルシアが叫んだ。
代わり映えのしない眺めに変化が出てきたことに対する喜びの声でもある。
「結構大きな川だな」
「少し川沿いに飛んでみるかい?」
「そうですね……」
「興味がありますね」
「うん」
時刻はおおよそ午前9時。
回り道にはなるが、大きな川なので、上流と下流に何があるかを確認しておくのもいいだろうと、全員の意見は一致した。
そこで、『3次元帰還指示器』の出番である。
「今の位置を記憶するために『マーカー』を1つ落としましょう」
「うん、それでいいよ」
『3次元帰還指示器』そのものは10個しか持ってきていないが、それを作るための『夫婦石』は何百と持ってきている。
いざとなれば『3次元帰還指示器』の中身を入れ替えればよいのだ。
「フランク、まずは川上へ行ってみよう。川に沿って北上してくれ」
「わかりました」
川の流れは北から南へ流れていたので、まずは川上へ行ってみることにする。
詳細な地図の作成は一時中止となるので、速度はアップ。およそ時速200キルで北上することとなった。
「川の名前はどうするかねえ?」
「そうですね……下流も見てから決めましょうよ」
「その方がいいかねえ」
川全体の印象を見てから決めよう、とゴローが言い、ハカセも賛成したのである。
* * *
川の上流へと向かう『ANEMOS』。
「山が険しくなってきたねえ」
「ええ」
対地高度は500メルのままであるが、地面の標高が上がっているので、実際の高度(標高)はもう3000メルを超えていると思われた。
「川幅も細くなってきましたし、このあたりが引き返し時でしょうかね」
「うーん、いい頃合いかもねえ。……ほら、あそこの峰、3つが目立つから、『三ツ岳』と名付けて目印にしたらどうだい?」
「そうですね。さっきの所からおよそ300キルほど上流まで来ていますし、頃合いでしょう」
ということで、川の上流はずっと険しい山が続くことがわかったところで引き返す。
目印は『三ツ岳』だ。
そして『ANEMOS』は180度方向転換し、下流を目指す。
北上を開始した地点までは来た時の倍、つまり時速400キル程を出したので45分ほどで戻れた。
「よしフランク、ここからはまた時速を200キルで頼む」
「了解です」
上流を調べた時同様、速度は時速200キル、対地高度は500メルで『ANEMOS』は飛んでいく。
川幅は、南下開始地点でおよそ50メルだったが、100キルほど下ると100メルほどに広がった。
流れも緩やかになり、川原も広くなる。
「どこかに着陸して、水を補給しませんか?」
「そうしようかねえ」
「で、お昼にしましょう」
「うん、賛成」
時刻は午前11時半。
周囲は相変わらず森が続いているが、川原が広いので圧迫感はない。
人間の居住地が近くにある様子もなく、中流域としてはかなり澄んだ水である。
幅が200メルほどもある広い川原に『ANEMOS』は着陸した。
「ああ、気が付かなかったけど、すっかり曇っているな」
ゴローは、今朝『風の精』に言われた、『午後はにわか雨が降る』という予報を思い出した。
「ハカセ、雨が降ると増水して危険ですから、水を補給したら『ANEMOS』の中で食事にしましょう」
「ああ、そういえば『風の精』が予報してくれていたんだっけねえ。うん、そうしよう」
「それがいいと思うのです」
「賛成ですね。危険を冒す必要はまったくないですから」
川が増水した際の危険性は、皆ちゃんと認識しているようで、反対する者はいなかった。
非常にまとまりのあるチームだなと、ゴローは嬉しく思ったのだった。
* * *
そして、昼食を食べ終わった頃、空の雲はさらに厚くなり、ついに雨粒が落ちてき始めた。
「ああ、やっぱり降ってきたよ」
「さすが『風の精』様です……」
ルナールは窓から空を見上げ、祈るように両手を組んでいた。
雨は次第に激しくなり、叩きつけるようになってきた。
その頃には『ANEMOS』は離陸し、空中にいる。
「ああ、水かさが増してきたな」
「本当だねえ」
見下ろす川の水かさが、見る見るうちに増えてきているのだ。
「あそこにいたら……なんとか間に合ったかも知れないけど、慌てたでしょうね」
「ヴェルの言うとおりだねえ。余裕を持って雨と増水を避けられたのはありがたいよ」
「『風の精』さまさま、ですね」
ルナールは相変わらず手を組んでいる。
外は土砂降りの雨だ。
周囲の森も霞んでしまってよく見えない。
「ハカセ、雲の上に上がりましょう」
「そうだねえ。……フランク、頼むよ」
「了解」
フランクは『ANEMOS』を上昇させていく。
すぐに雨雲の中に突入し、周囲は灰色一色になるが、やがてそれも終わりを告げる。
「わあ、雲の上に出ました!」
ヴェルシアが嬉しそうに言う。
雲の上、そこは一面に青空が広がる、文字どおり天上の世界だった。
眼下には雲海が広がっており、ところどころ頭を出しているのは高い山の頂。
雲海という大海原に点在する島のようだ。
「絶景だねえ」
ハカセも感動を滲ませている。
確かに絶景である。
頭上には紺色に近い、澄んだ青空。
眼下にはどこまでも広がる、白き雲海。
「ここは雲の上、一年中晴天なんですね」
アーレン・ブルーも景色に見とれている。
「いい景色ねえ」
フロロの『分体』もまた、普通では見られない光景を楽しんでいた。
「素晴らしい眺めです……ゴロー様たちはすごいです」
『屋敷妖精』のマリーの『分体』も、景色にみとれている。
「わふわふ」
そして、ポチも……。
なお、『水の妖精』のクレーネーと『エサソン』のミューは、興味がないようであった……。
* * *
2時間が経過。
にわか雨を降らせた雲は何処かへ消え去り、下界がよく見えてきた。
「よし、ゆっくり降下だ」
「了解」
時刻は午後3時半。
今日のところは適当な野営地を見つけて泊まろうか、とゴローは判断した。
近付いてくる木々の梢は、埃が雨に洗い流されてつやつやとした緑を取り戻している。
川も少し増水しているが、氾濫するほどではない。
「さっきの川原は……ああ、駄目だ」
先程着陸していた川原は、増水した川の水の下であった。
「早めに離れてよかったねえ」
「ですね」
そして『ANEMOS』は、川原をあきらめ、少し離れた高台の上にある空き地を着陸地に選んだのであった。
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次回更新は2月12日(木)14:00の予定です。




