銀幕戦記 第四幕
家虎が所属するアイラ武勇の最精鋭部隊、その名は『アマテラス』。彼が振るう妖刀サイリウムソード『ムラマサ』のケミカルオレンジの光は、文字通り太陽のごとく世界を焼き尽くそうとしていた。
対する大地獄連合が、この灼熱の絶望に対抗すべく前線に投入した最強の戦士。それこそが、一切の感情を排した冷徹なる仕事人『Jizō(ジゾウ)』であった。
◇
荒涼とした砂漠の戦場。家虎とJizōは、ついに正面から対峙した。
「ウリャオイ! 我がアマテラスの輝きは、お前のような陰気な地蔵を消し炭にするぞ!」
家虎が『ムラマサ』を大蛇のようにうねらせ、サンダースネイクの構えをとる。周囲の空気が一瞬で沸騰し、蜃気楼が揺らめいた。
しかし、Jizōは微動だにしない。ただ、静かにその場に佇んでいる。家虎がどれほど凄まじい熱量を放とうとも、Jizōの周囲だけは、まるで時が止まったかのような静寂と、凍てつくような冷気が満ちていた。
「……南無」
Jizōが低く呟くと同時に、彼の手から一条の閃光が放たれた。家虎の『ムラマサ』が描くオレンジの残像と、Jizōの放つ一撃が激突し、戦場に凄まじい衝撃波が吹き荒れる。
◇
この最強対最強の激突の裏で、ヘルハウンドの隊長・木島は、勝利を確信した笑みを浮かべていた。彼らの手には、ついに完成した対抗兵器が握られていたからだ。
アイドルとは、ファンたちの妄想が作り上げた「理想の偶像」であり、偽りのペルソナを被ったただの人間である。彼らが崇拝するモミリンもまた、オタたちの妄想が暴走して生まれたペルソナの化身に過ぎなかった。アイドル化することでファンが増え、それが地球を滅ぼすほどの熱エネルギーとなるのなら――その逆をやればいい。
木島が用意した秘密兵器、それは偶像のペルソナを強制的に剥ぎ取り、元の一般人に戻す毒ガス兵器だった。
「作戦開始だ。あの妄想の化け物どもに、『現実』という名の冷や水をぶっかけてやれ!」
木島の合図とともに、特殊なガス弾が家虎たちの頭上で炸裂した。無色無臭のガスが、戦場一帯へと急速に広がっていく。
◇
「な、何だこれは……!?」
真っ先に異変に気づいたのは、家虎だった。
手にした妖刀『ムラマサ』のケミカルオレンジの光が、見る見るうちに色褪せていく。それだけではない。彼の脳内にいつも響いていた「モミリン」の声が、急速に遠ざかり、ただのノイズへと変わっていく。
「モミリンが……消える? いや、モミリンはただの……どこにでもいる、少し愛嬌があるだけの普通の女の子……? そもそも、俺は何のためにこんな棒切れを振り回して……」
ガスを吸い込んだアイラ武勇の兵士たちが、次々と武器を落とし、呆然とその場にへたり込み始めた。彼らの頭を支配していた「推しへの熱狂」が霧散し、ただの「現実世界を生きる冴えない一般人」へと引き戻されていく。
エネルギー源である熱を失い、最強の剣士・家虎もまた、ただの力のない男へと戻りつつあった。Jizōは静かに武器を収め、勝負の終わりを悟った。
オタたちの脳内からモミリンが完全に消滅したその瞬間、数千万人の熱狂が消え失せ、地球の気温は一気に下がり始めた。
世界に再び四季が戻る――大地獄連合の兵士たちが勝利を確信し、歓声を上げようとした、その時だった。
◇
あまりにも急速に熱を失った地球は、今度は急激な寒冷化を始めた。
数千万人のファンが一度に「現実」に目覚め、あまりの虚無感と絶望から、文字通り「凍りついた」のだ。砂漠だった戦場には、今や冷たい雪が降り注いでいる。
元の一般人に戻り、寒さに震える元・家虎を見下ろしながら、Jizōは静かに目を閉じた。
「……やはり、人間には何かしらの熱が必要だったのかもしれんな」
木島もまた、防寒着の襟を立てながら、真っ白に染まっていく世界をただ見つめるしかなかった。




