銀幕戦記 第三幕
砂漠の夜風が、要塞型メイド喫茶「ニャンニャンキッチン」の城壁を白く染めていた。ヘルハウンドの奇襲が失敗に終わったあの夜から数日後、大地獄連合はさらなる窮地に立たされていた。アイラ武勇が放った、たった一人の追撃者の前に、連合の戦線が崩壊しつつあったからだ。
その男の名は『家虎』。アイラ武勇の最精鋭部隊『アマテラス』に所属する最強の兵士であり、敵からは『サンダースネイク』の異名で恐れられる冷酷な剣士だった。
◇
大地獄連合の防衛陣地に、一筋の閃光が走った。それは夜闇を切り裂く、禍々しいほどのケミカルオレンジの光。家虎が振るう妖刀サイリウムソード『ムラマサ』の輝きだった。
「ウリャオイ! ウリャオイ!」
不気味な駆動音とともに、家虎の身体が奇妙な、しかし洗練された軌道を描いて激しくうねった。大蛇が獲物を締め上げるかのようなその独特な剣技こそが、異名の由来となった『サンダースネイク』である。
「うわあああ!」
連合の兵士たちが放つ銃弾は、家虎の高速すぎるステップの前にすべて空を切った。『ムラマサ』が夜空にまばゆい残像を描くたび、連合の装甲車はバターのように容易く両断され、陣地は瞬く間に「大焚火」と化した。
「ふん、手応えのない」
家虎は『ムラマサ』を鮮やかに一振りし、高熱の残滓を払った。彼の背後には静まり返った廃墟だけが残されていた。
◇
その頃、アイラ武勇の中央作戦室。巨大なモニターに映し出される家虎の圧倒的な戦果を、幹部たちは満足そうに見つめていた。
「さすがは家虎だ。あのアマテラスの輝きがあれば、大地獄連合の全滅も時間の問題だな」
しかし、技術開発部の主任だけは冷や汗をかきながら別のモニターを凝視していた。家虎が『ムラマサ』を振るうたびに、周囲の気温が急速に上昇していくデータが表示されていたからだ。
「……報告します。家虎兵士の熱エネルギーにより、局所的な気温がさらに3度上昇。周辺の砂漠化が150年加速しました」
幹部たちは一瞬沈黙したが、すぐに一人が大笑いした。
「ハハハ、気にするな! 我々の推しへの愛の熱量に比べれば微々たるものよ!」
◇
一方、地下深くの隠れ家で息を潜めるヘルハウンドの隊長・木島は、モニターに映る家虎の姿を睨みつけていた。
実は、アイラ武勇が崇拝する絶対アイドル神『桃姫@みぃ☆(モミリン)』は実在しない。
『スタードッキリマル秘寝起き突撃奪還大作戦』は桃姫@みぃ☆は存在するか確かめる作戦だったのだ。そしてロボットだったことが確認された!
絶対アイドル神『桃姫@みぃ☆(モミリン)』はアイドルオタの妄想が生んだ「偶像」であり、ファンが偽りのペルソナを被せて理想像を投影することで、地球を狂わせるエネルギーを生み出していたのだ。
「奴らのペルソナを剥ぎ取り、元の一般人に戻してエネルギーを無くす。これしかない」
木島は、極秘裏に開発を進めていた「偶像化したアイドルを一般人に戻す毒ガス兵器」の起動スイッチに目をやった。
さらに木島は通信機を開き、この戦いを終わらせるため、大地獄連合が誇る「最強の戦士」へ呼びかけた。一切の感情を排した冷徹なる仕事人――その名は『Jizō(ジゾウ)』。
かくして、最強の剣士・家虎率いる部隊アマテラスと、冷徹なる戦士Jizō。世界の命運をかけた、真の決戦の幕が上がろうとしていた。




