↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
銀幕戦記  作者: 少年鉄也
PR
2/8

銀幕戦記 第二幕

西暦2155年。世界は、熱気という名の物理的なエネルギー熱に浮かされていた。


長引く不況の果てに爆発的に膨れ上がったのは、華やかな世界を夢見る「アイドル」と、それを狂信的に追いかける「ファン」の群れだった。数千万人のファンがコンサート会場で放つ熱狂のエネルギーは、地球の気候さえも変えてしまった。日本の気温は5度上昇し、四季は消滅、北極の氷が溶けて世界は砂漠化へと突き進んだ。


この驚天動地の「アイドル戦国時代」において、人類は二つに引き裂かれた。

過激派ファンが統合された武装組織『アイラ武勇』。

そして、今や少数派となった、アイドルに興味を持たない者たちの武装組織『大地獄連合』。

血で血を洗う戦いの幕が切って落とされたのである。


◇


砂漠の真ん中にそびえ立つ、巨大な城壁。アイラ武勇の要塞型メイド喫茶「ニャンニャンキッチン」の自動ドアが開くと、電子音声のような澄んだ声が響き渡った。

「おかえりなさ~い!ご主人様~」


その日、要塞の警備はいつになく異常だった。24時間体制の巡回兵に加え、選りすぐりの親衛隊が通路を固めている。なぜならここには、彼らが崇拝する唯一絶対アイドル神『桃姫@みぃ☆(通称モミリン)』が、中央拠点への移動を前に一時滞在していたからだ。彼女の存在そのものが、この戦争の最高機密であり、最大の戦略兵器だった。


だが、地獄の犬たちはすでにその臭いを嗅ぎつけていた。


情報を極秘裏に入手した大地獄連合は、最も優秀な兵士を集め、特別部隊『ヘルハウンド ANTI』を結成した。作戦名は『スタードッキリマル秘寝起き突撃奪還大作戦』。


満月の夜。要塞の手前に潜伏したヘルハウンドの隊長・木島は、押し殺した声で部下たちに告げた。

「この任務はかなり厳しい。生きて帰れる保証はないぞ。目標はモミリンの奪還のみ。お前たちは獣だ! 勝利は大地獄連合にあり! 必ず奪還するぞ!」

「イエッサー!」

兵士たちが低く吠えた。


◇


潜入は信じられないほど鮮やかに成功した。


木島たちは最新鋭の妨害電波で要塞のセンサーを狂わせ、通気口から内部へと滑り込んだ。「萌え萌えキュン」という掛け声と共に銃器の手入れをする親衛隊の隙を突き、ついに最高機密である最深部のスイートルームへ到達した。


「よし、目標の寝室だ。一気に制圧する!」


木島が合図を送り、兵士たちがドアを爆破して突入した。室内には、ピンク色の天蓋付きベッドが鎮座している。

布団をはぎ取ると、そこには確かに、写真通りの愛らしい容姿をした『モミリン』が眠っていた。


「確保! 急げ、敵に気づかれる前に撤退だ!」


兵士が彼女を抱え上げようとした、その時だった。

モミリンの目が、カチリ、と不自然な音を立てて開いた。彼女の瞳は人間らしい潤いを欠き、冷徹なガラスの球体のように光っていた。


「……ピピッ。不審なバイオマスを感知。防衛プロトコルを起動します」


愛らしい唇から漏れたのは、合成された電子音声だった。


木島は息をのんだ。「何だと……ロボットか!?」


次の瞬間、モミリンの背中から無数のガトリング砲が飛び出し、部屋の全方位に向けて火を噴いた。これこそがアイラ武勇の科学力の結晶、ファンたちの熱狂をエネルギーに変えて動く、自動報復型アンドロイドだったのだ。そもそも、24時間年中無休で数千万人のファンを魅了し続け、地球の気温を5度も上げるほどの熱量を放つ存在が、ただの生身の人間であるはずがなかった。


「おやすみなさ~い! 不審者様~」


可憐な爆音と悲鳴が響き渡り、やがて静寂が戻った。

砂漠の夜空には、ただ冷ややかに満月が輝き続けていた。地球の熱が引く気配は、まだ当分なさそうだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。