第31話 加勢
『流星刃』と『星屑』を交差させ、迫りくる小型ゴーレムを斬り捨てる。
しかし。
ィィイイイインッ……!!
耳障りな咆哮と共に、地面から新たな氷柱が隆起し、次なる兵士が産み落とされる。
「チッ!鬱陶しい!」
ブレイズが大剣を旋回させ、数体の小型ゴーレムをまとめて粉砕した。
その直後、頭上から殺気が降り注ぐ。
「兄さん、上だ!」
アズールの警告と同時に、圧縮された風が放たれる。
ガギィィィンッ!!
つららが吹き飛ふ凄まじい衝撃音が響き、アイスゴーレムがのけぞり、アズールがたたらを踏む。
本体の攻撃を防ぐだけで手一杯で、アズールも有効な魔術を放つ余裕がない。
「くっ……!物量差がありすぎます!このままではジリ貧だ!」
足元からは無数の小型ゴーレムが群がり、頭上からは本体の氷剣と、雨のように降り注ぐ氷柱が襲いかかる。
上下左右、全方位からの波状攻撃。
「きゃっ……!?」
不意に、足元の氷に足を滑らせた。
その一瞬の隙を見逃さず、二体の小型ゴーレムが左右から氷の槍を突き出してくる。
双剣で受け止めようとするが、体勢が悪い。
まずいッ――!
ガキンッ!!
鈍い金属音が響き、わたしの目の前で氷の槍が弾かれた。
「――間に合った!」
割り込んできたのは、白銀の盾。
リアン様がわたしの前に立ちふさがっている。
「リアン様!?下がっていてと言ったはずよ!」
「断るッ!」
リアン様は、気迫のこもった声で叫び返した。
「貴女は言った!『ここからは私たちの問題だ』と!それは違う!この国を守るのは、我々騎士団の責務だ!」
彼の背後に騎士たちが続々と駆けつけてくる。
彼らの瞳には、恐怖ではなく、燃えるような決意の光が宿っていた。
リアン様は剣を掲げ、喉が張り裂けんばかりに咆哮した。
「第七遊撃部隊に告ぐ!我々の誇りを見せる時だ!」
騎士たちが一斉に槍を、盾を構える。
「たとえこの身が砕け散ろうとも、彼らが進む道を切り開くのだ!突撃ィッ!!」
「「オオオオオオッ!!」」
鬨の声と共に、白銀の波濤が氷の軍勢へと激突した。
個々の力では劣っていても、彼らには統率された連携がある。
盾で攻撃を受け止め、槍で核を砕く。
彼らはわたしたちに群がっていた小型ゴーレムたちを、その身一つで押し留めていく。
「ミリア殿!雑魚は我々が引き受けます!貴女方は本体を!」
その姿に、わたしは胸が熱くなるのを感じた。
足手まといなんかじゃない。
彼らもまた、命を懸けて戦う、誇り高き戦士たちだ。
「ええ、任されたわ!」
わたしは双剣を強く握りしめた。
この好機、無駄にはしない。
「ブレイズ!アズール!道は開いたわ!行くわよ!」
「おう!」
「はい!」
わたしたち三人は同時に地面を蹴った。
「『氷よ』!敵を縛る鎖となれ!」
アズールが杖を地面に突き立てる。
魔力の波動が走ると、巨人の足元から巨大な氷の蔦が出現し、その太い脚を幾重にも拘束した。
巨人が身動きを取ろうともがくが、蔦は軋みながらもその場に縫い留める。
巨人はのけぞり、新たな小型ゴーレムを召喚しようとする。
だが、もう遅い。
「オラァアアアアッ!!!」
ブレイズが咆哮と共に跳躍した。
その手には、重力制御のルーンが赤熱する大剣『大地割り』。
彼は空中で身体を捻り、遠心力と全体重、そして全身全霊の魔力を乗せた一撃を、無防備な胴体へと叩き込んだ。
巨人の胸部がごっそりと抉り取られ、その奥に隠されていたものが露わになる。
青白く、脈動する魔力の結晶体。
コアだ。
「ミリアッ!!」
ブレイズが叫ぶ。
言われなくても、わたしの身体はもう動いていた。
ブレイズの背中を蹴り宙を舞う。
視線は一点、剥き出しになったコアのみに集中する。
「これで……終わりよッ!!」
わたしは空中で身を翻し、二本の刃を、コアの中心へと突き立てた。
ピキッ……。
静かな亀裂の音が響く。
次の瞬間。
パリィィィィィィィンッ!!!
核が内側から砕け散り、美しいダイヤモンドダストとなって四散した。
オ……オオ……。
巨人が断末魔のような音を立てて崩壊していく。
主を失った小型ゴーレムたちもまた、糸が切れたようにその場で崩れ落ち、ただの氷塊へと戻っていった。
静寂が、神殿に戻ってくる。
荒い息を吐きながら、わたしは双剣を納め、振り返った。
そこには、傷だらけになりながらも勝利を確信して拳を突き上げる騎士たちと、頼もしい笑顔でわたしを迎える、二人の騎士の姿があった。
わたしは息を整えながら、リアン様のもとへと歩み寄る。
彼の白銀の鎧はボロボロに傷つき、手に持っていた盾はひしゃげている。
部下の騎士たちも皆、満身創痍で雪の上に座り込んでいた。
彼らは、あの絶望的な物量の波を、その身一つで食い止めてくれたのだ。
けれど、誰一人として命を落とした者はいない。
「リアン様、皆さん……。本当に、ありがとう」
わたしは彼らの前で足を止め、深く頭を下げた。
「あなた方の、その勇気ある助太刀がなければ、私たちは今頃この山の氷の露と消えていたでしょう」
わたしの言葉に、リアン様はハッとして顔を上げ、恐縮したように手を振った。
「もったいないお言葉です、ミリア殿!我々は、騎士として当然の務めを果たしたに過ぎません!」
そのやり取りを見ていたブレイズが、リアン様の肩を、バンと力強く叩いた。
「……まあ、ちと青臭えが、見事な戦いっぷりだったぜ。てめえらも、ただのお飾りじゃなかったってわけだ」
そのぶっきらぼうな言葉は、彼なりの最大の賛辞だった。
「感情論で語るのは非効率的ですが……事実として、評価には値しますね」
続いて、アズールが涼しい顔で歩み寄ってきた。
彼は杖についた氷を払いながら、値踏みするようにリアン様を見据えた。
「第七遊撃部隊、でしたね。……劣勢における指揮判断、および個々の粘り強さ。期待値を大きく上回る戦果でした。クリフォード家の名において、あなた方のその功績を高く評価しましょう」
アズールらしい、上から目線で、けれど何よりも実利のある「褒美」だ。
リアン様は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐに背筋を伸ばし、清々しい表情で敬礼した。
「もったいないお言葉です。……ですが、我々は報酬のために戦ったのではありません」
彼の青灰色の瞳が、真っ直ぐにわたしたちを見つめる。
「目の前に守るべき人々がいて、切り開くべき道があった。……我々は、帝国の騎士として、なすべきことを成したまでです」




