96話 幕開け
俺とリリはナマケモノに連れられ、観戦室に連れてかれた。
そこは赤い絨毯が敷かれ、豪華な椅子やお菓子が置いてあり、闘技場が見下ろせる位置にその部屋はあった。
ソファには慎と雫さんが座っていたが、顔を合わせようとしていなかった。
闘技場は円形で、砂が一面に敷かれており、その周りに通常の観客席がありそこには亜人やアンデッドたちも座っていた。
あっノヴァさんもいるのか……
見覚えのあるその髭で遠目でも一瞬でそれがノヴァさんであることがわかった。
リリはずっと俺から離れようとせず、俺の服の裾を掴み震えていた。
「大丈夫かリリ?
気分悪くなったらいつでも言えよ」
「大丈夫、けどやっぱり……ルルここにいるんだなって」
リリはそう言いながらぎゅっと手に持っている石を握りしめる。
「やっぱり、そういうのわかるもんなんだな」
「うん……なんとなく近くにいるって」
ルルはリリの複製体、同一人物みたいなものだ。
二人にしかわからないものがあるのだろう。
その時、観戦室の扉が開けられた。
そこにはさっき俺とリリを案内してくれたナマケモノが立っていた。
「そろそろ時間っす、あそこに案内するんでついてきてください〜」
ナマケモノはそう言いながら外の闘技場を指差す。
それを聞くと慎と雫さんは立ち上がる。
俺も行こうと歩き出そうとした瞬間、服をリリに引っ張られた。
「ここで待ってるか?
怖いならいいんだ、ここで待ってても」
「けど、ここで行かなかったら……
ルルから逃げることになる、私はあの子の手をとってあげたい」
リリはそう言いながらポケットから小さな箱を取り出す。
そうか……ルルって今日誕生日だったな。
俺はリリの頭を撫でた後、一緒に部屋を出る。
「んじゃついてきてください」
ナマケモノの指示で俺たちは中央の闘技場に向かっていく。
これで本当に終わり、今回は絶対にキリサメも誰も助けに来ない。
敵はライオッドにルル、勝てるかどうか……
俺は思わず手が震え始めていると、慎が俺に話しかけてくる。
「手、震えてんじゃねぇか慎二。
怖いのかよ?」
「っるせ……」
俺はそう言おうとしたがその瞬間、慎の手が目に入る。
その手は俺と同じように小刻みに震えていた。
心なしか顔も引き攣っているように見える。
俺は雫さんの方も見るが、俺たちと同じように少し震えていた。
「お前も随分と震えてるじゃねぇか。
怖いのか?」
「そりゃそうだろ、こちとら実戦初めて同然なんだぜ?
けど……キリサメは俺にこれをくれたんだ。
その期待に俺は答えないといけない、絶対に誰も死なせないために」
「あんま気負いすぎんなよ」
慎は気合いは十分であることはわかった。
だが同時にどこか危うい気がして、俺はそんなことを言う。
「お前ら、見えたよ」
そうこうしていると、闘技場に着きかけており通路の奥は光に包まれていた。
そこから観客の声が聞こえる、みんな心待ちにしているようだ。
ふぅ……
俺は一足先に前に出て……
「行くぞ」
俺はそう言い一歩、また一歩と歩を進めていく。
歩くたびに、闘技場に近づくたびに観客の声が比例して大きくなっている気がする。
俺は拳を硬く握りしめ、そして……
そしてそいつらは、そこに立っていた。
「さぁ伊藤慎二。
決戦と行こうじゃないか」
「来いよ屑野郎。
テメェは俺がぶっ倒す」
俺は怒気を孕んだ声色でタシテスにそう告げた。
タシテスを見るなりリリの震えは加速する。
俺は安心させるため強く手を握りしめる。
そこにはタシテス、ライオッド、ルル、そしてフードを被った人間離れした身長を持つ何かがいた。
そいつは馬のような足を持っており、肌は真っ黒、フード越しで誰かが乗っているのがわかった。
その馬のような亜人を見るなり、雫さんは瞳孔を開き驚いた様子を見せた。
知っているのかと聞こうとしたが、その前にタシテスはニヤケ面で口を開く。
「どうやらキリサメは回復しなかったみたいだね?
その穴埋めに餓鬼連れてきて、しかも『布都御魂』を持たせるときた。
キリサメもボケたもんだよ」
「──ッ!」
キリサメを語ったこと、そして慎を馬鹿にされ思わず俺は刀に手をかけた。
だがその瞬間、それを諌めるように慎が手を置き前に出る。
「慎!」
「落ち着け慎二、穴埋めとして俺が連れてこられたのは事実だ。
抑えてくれ」
俺は歯を食いしばりながら怒りをおさめる。
タシテスは恐らく俺を怒らせようとしたのだろう。
俺が怒りを抑えられたのにタシテスは驚く。
だがタシテスはそれを悟られないようにし、口を開いた。
「ルル、あんたも何か言ってやりなよ。
キリサメは私なんかに刺されて死にかける阿呆だっ……」
「おいクソ女そこまでにしろ。
キリサメが刺されたのは油断したからだが、それをお前が言うことじゃねぇだろ」
「チッ……わかったよライオッド。
さて、今回の決闘の戦う相手はあんたたちの聞いてる通り完全ランダムのくじ引きだ。
ルールはもちろんなんでもあり、相手を降参させるまで痛めつけるか、戦闘不能に陥らせる。
それか……"殺すか"だ。
さっさと戦う相手を決めよう」
タシテスはそう言い指を鳴らすとナマケモノの亜人がこちらへ赤い箱と青い箱を持って走ってくる。
こちらへ着くとナマケモノは俺たちには青い箱を、タシテス側には赤い箱を差し出す。
「さぁみなさまこのくじを引いてください。
中に紙が入ってるんで、そこには1から3の番号が書かれてます。
それが出る順番なんで」
「何も仕掛けてないだろうね」
雫さんは警戒してタシテスを睨みつける。
俺もタシテスが何も仕掛けてないとは思えず引けずにいるとライオッドは口を開く。
「何か仕掛けてたら俺は棄権するって言ってある。
だから安心してくじ引け」
「けど一応、くじの中改めさせてもらうよ」
「あぁいいよ」
タシテスがそれを許可するとナマケモノは両方の箱を雫さんに差し出す。
俺たちは中に入ってある紙を取り出し何も仕掛けられてないこと、箱の中には何もないことを確認した。
「何もないことは確認できたろ?」
そして俺たちは紙を中に戻し、両方の箱をナマケモノに返すと箱を激しく振ったのち赤い箱をタシテスに、青い箱を俺たちに再度差し出す。
俺たちはくじを引き、番号を確認する。
「さて、両方番号を見たところで発表。
1番の方、手を挙げてください!」
その瞬間、二人の手が上がる。
片方は大剣を携え、肌は緑色、ツノが生え、7、8mほどの巨体を持っていた。
「第一試合は戦争時『赤神』として恐れられ数々の人間を蹂躙してきたゴブリンの王……!
誰もこいつを止められない。
ライオッドォォォ!!」
そしてもう一人、刀を携え、赤い服に身を包み、髪は赤にポニーテール、紅の瞳を輝かせていた。
「対するは異世界からの漂流者!
過去は神童として剣術界のみならず日本中にも名を轟かせた剣術家……!
神童と呼ばれた青年は、今日は神に剣を向ける!
大雲慎!!」
「「「「「ウォォォォ!!!!!」」」」」
なんだこの口上……
というかなんで慎が神童って呼ばれたこと知ってんだ?
慎も予想外の出来事でとても照れくさそうに拳を突き上げる。
だがライオッドはとてもノリノリの様子だった。
「さてお次は2番、引いた方は手を挙げてください!」
片は白髪、刀を携え、凛とした態度を貫く、瞳の奥では紫の瞳が揺れていた。
「第二試合は戦争時を生き抜いたイカした婆さん!
『この時代に老いぼれを見たら"生き残り"と思え』を体現したその女は……
アンデッドモンスター雫!!」
そして敵側……
白い髪に少し緑が混ざっており、無機質な顔、翡翠の瞳を持っていた。
「対するは……
"最後の英雄"、キリサメを打ち破り、なんと精霊!
今日も彼女の瞳に血が舞う!
ルルゥゥ!」
キリサメを打ち破ったか……
俺がそんなことを考えていると慎が俺に耳打ちをした。
「おいあのナマケモノ……
俺の口上の時もそうだったが、異常なほどにこっちの世界のこと知ってる。
あいつは一体……」
確かにあいつは慎が神童と呼ばれていることを知っていた。
それをルルが知っていたとは考えにくい……
一体どうし──
「シー」
その時、ナマケモノは俺を見て唇に指を当てて『静かに』とジェスチャーを送る。
あいつ一体……
「ということは第三試合は決定だ!
片は戦争時、元は亜人の王として君臨した男!
影に生き、影に死ぬ。
99階層では亜人のエリアボスとして生きていたが、『剣神』樋口慶に打ち破られたその男!
"影縫い"アンブラー!!」
樋口慶に打ち破られた?!
わからないことだらけ、どうしてあの亜人は樋口くんの名前を知って……
「そいつを破るはこの男。
異世界からの召喚者にして、"仮面の男"に落とされたいじめられっ子の青年!
黒vs影、勝利の女神はどちらに微笑むのか。
どちらが黒に染め上げられるのか!
彼は今日も、最下層で剣を取る!
伊藤慎二ィィ!!」
こいつ……俺のことまで知ってる。
タシテスだけじゃない、これが終わったらこいつも捕らえて吐かせてやる。
「さぁみなさま!
第一試合は15分後、それまでにトイレを済ませて万全な状態で……
戦いをお楽しみください!!!」
その瞬間、急に花火が打ち上がり空に花が描かれた。
それに感化され観客の気分は最高潮まで登り、その戦いは幕を開ける。
急に花火打ち出した演出はナマケモノのスキルと関係してます。
どうやって花火打ち出したんでしょうかね?
評価ブクマ楽しみにしてます。




