↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/119

95話 迷宮闘技場


 決戦当日の早朝──


 俺は決戦の朝、早起きしてキリサメの部屋に向かっていた。

 キリサメの器が壊れてから二日たった、今は少しずつよくなってきたおかげでずっと寝たきりということはなくなった。

 この二日間、ノヴァさんにはキリサメの看病でお世話になった。

 気の器が壊れてるせいで常に気が溢れ出すキリサメを枯渇状態にせず、逆に与えすぎずを保ち気を流し続けてくれた。

 ノヴァさん曰く……


『武器鍛える時も気の注入の調整してっからな。

 鍛冶師としての技術をこんなとこで使うとは思わなかったぜ』


 と言い笑っていた。

 ノヴァさんも嫌な顔一つせず受け入れてくれて、頭が上がらない。

 そう思いながら俺はその襖を開けた。


「慎二か、よく眠れたか〜?」


 襖を開けるとそこにはキリサメがいて、慎が作った服を着ていた。

 どうやら雫さんはいないらしい。


「もう慣れたわ、そっちこそ体調悪いんだから寝とけよキリサメ」


「いやな、ノヴァのおかげで枯渇状態になってねぇからいつもとそんな体調──」


 そう自信満々そうに笑いながら告げるキリサメに俺は一瞬で近づき首に手刀をポンと当てた。


「ありゃ……」


「反応できてねぇじゃねぇか。

 嘘ついて元気そうに見せなくていいよ」


「そうだな……

 そうだ、一局付き合えよ慎二」


 寝ろって言ってんのに……

 俺はため息をつきながらそれを了承しキリサメの部屋から将棋盤と駒を持ってきて対局を開始した。


「聞いたよ、ライオッドも出んだってな。

 どうだ勝てそうか?」


 ライオッドに勝てるか……か。

 俺は少し肩を落としながら……


「正直、あんま自信ねぇ……

 もちろん勝つ気はある、リリとも約束した、負けて仲間のみんなを傷つけたくねぇ。

 だけどあの時あいつが目の前に立った時、勝てるイメージが全く湧かなかった、全く隙がなかったんだ。

 俺があの時勝てたのは、ホントに運が良かっただけだ。

 次戦って神気を使っても、まだ完全には使いこなせてない。

 だから……」


「勝てない、か?」


 俺はそのキリサメの言葉に、何も言えずに詰まる。

 キリサメは一度将棋の手を止め俺を見つめる。


「お前が勝てないと思ってんのは、あいつの実力が前よりハッキリと、明確にわかるようになったからだ。

 それは昔のお前じゃ気づかなかった、分かってなかった部分だろ。

 お前は確実に強くなっていってる、物凄いスピードでだ。

 ただ、あいつもまた強い」


「ッ……」


 自分でも確かに、強くなってるのはわかる。

 だがキリサメの言う通り、ライオッドは化け物だ。

 正直、決戦が近づいてきて少し恐怖心も芽生えてきた。

 これを払拭するためにキリサメのとこに来たと言ってもいい。

 俺は……

 そんなことを考えているとキリサメは話を続ける。


「ライオッドは戦争時代、俺たちの間じゃ『赤神』とか呼ばれてたんだぜ。

 "出会ったら絶対逃げること"って厳しく教えられたよ」


「何が言いたいんだよ……?」


「そうだな……

 お前、自分以外に怖がってるやついないとか思ってんじゃねぇか?」


 自分以外に……


「お前はずっと一人で、格上と戦ってきた。

 そりゃ他の奴らはどうかとか知らねぇよな。

 だから教えてやる、自分より強いやつと戦うなら誰だって怖いんだ。

 お前の言ってた勝てるかわからねぇとかも、誰だって勝てるかわからねぇ。

 恐れていい、震えていい、だが逃げるな、戦え。

 そうしてりゃ勝手に勝てる気なんて湧いてくるわ」


 俺は、ずっと怖かった。

 だけどそれじゃダメだって、震えちゃダメだって抑えて、作り笑いを浮かべてきた。

 けど、"恐れていいんだ"。


「それを踏まえて聞くぜ、勝てそうか?」


「知らねぇよ。

 けど、負ける気はねぇ」


「……そうか」


 そして俺たちは対局を続けた。

 そうしていると一つ気になることに気づき俺は口を開いた。


「俺の作った駒……使わねぇのかよ」


 俺がそう聞くとキリサメは頭をポリポリとかきながら……


「いやよ、もったいなくてよ……

 折角お前が手作りしてくれたんだ、大事にしたいじゃねぇか!」


「使わないほうがもったいないだろ!

 今どこにあんだ取ってきてやる!」


「しまってあっから別にいいわ!」


「どこにだよ!?」


 キリサメの部屋は半壊していてしまえるとこなんてほぼないだろ。

 俺がそう言うとキリサメは微笑みながら……


「大事なとこに、大切にしまってある」


 そう言いながらキリサメは胸に手を置く。

 俺はため息をつきながら、対局を続けていった。


***


「「「キリサメが一人で残る!?」」」


「うるっさいね、大きな声急に出すんじゃないよ!」


 決戦の時間が近づき、準備をしてリビングに集まっていたところ雫さんが「キリサメは一人で残す」と言い俺、リリ、慎は驚いていた。

 決戦は亜人の街で行われる、その決戦は観戦が可能。

 もうすでに街の人たちは全員、亜人の街に移動を開始していた。

 つまり、キリサメはこの街に一人取り残されることになるのだ。


「移動が大変なら私が魔法で手伝うから……」


「ダメだ、これだけは曲げられない」


 雫さんは淡々とその言葉を吐き出す。

 どうして……雫さんはキリサメのことをとても心配している。

 なのになんで……


「いや〜流石に怪我人一人残すのはどうかと思いますよね〜」


「──ッ!」


 その瞬間、リビングに"ナマケモノの亜人"現れた。

 俺と雫さん、慎は刀を抜きリリは魔法で攻撃しようとするがそいつはまた忽然と姿を消し攻撃は空振る。


「あ〜ごめん何しにきたか言ってなかった。

 お迎えにあがりましたよ皆様方」


 その瞬間、後ろからそんな声が聞こえ振り向くとそこにはナマケモノがいた。

 なんだこいつ、一瞬で出たり消えたり……


「あんたがお迎え役?

 それは私たちだけかい?」


「えぇ出場者だけです。

 ま〜転移とかじゃく徒歩ですけどね」


 そんな飄々とした様子でその亜人は言う。

 掴みどころのないその雰囲気に俺はそいつの挙動に細心の注意を払っていた。


「さっ早く街に向かいましょう」


「待ちな、あんたさっき怪我人一人残すとかなんとか言ってただろう。

 いつから聞いてた」


「最初っからっすよ。

 あなたがキリサメさんを街に一人残すとか言ってたところから」


 最初から、一体どこにいた。

 全く気配がしなかった、固有スキルかなんかか?


「雫さん、本当にキリサメを置いていくのかよ」


 そうしていると慎は顔を俯かせ手を握りしめ雫さんにそう言葉を絞り出しながら言う。

 雫さんも顔を伏せ表情を俺たちに見せないように「あぁ」と言い家を出ていった。

 慎とリリは納得いかないようだったが、そろそろ行かないとならない。


「雫さんやキリサメも考えがあるんだろう。

 こんだけ聞いて何も答えてくれねぇのは多分そういうことだ」


「……あぁわかった」


 慎はそう言い力任せにダンダンと歩きながら家を出ていく。


「さぁ、行きましょうか」


 俺とリリはナマケモノに従い、家を出ていく。

 雫さんと慎は一人になりたいようで、もう向かったようだ。

 俺とリリはナマケモノの指示に従い、街を出てタシテスの元を目指して歩いていく。

 街を出て5分ほど経ち、街も見えなくなった。

 何を話せばいいのか、こいつへの警戒を解くわけにもいかず無言の時間が続いているとナマケモノが口を開いた。


「伊藤はこのダンジョンに来てどれくらい経ったんだ?」


「なんでそんなこと聞くんだよ。

 それもタシテスに聞けって言われたのか?」


 馴れ馴れしく察してくるそいつを睨みながら刀の柄に手をかける。

 それでもそいつは何も警戒せず軽い足取りで歩を進める。


「違うよ、ただちょっと気まずいじゃん。

 まぁこう言っても信用してくれないだろうね〜」


 気まずいか……

 だったらこっちも……

 俺はこいつから何か情報を引き出せるのではないかと思い口を開いた


「タシテスは大喜びだったろ?

 なんてったってキリサメを無力化できたんだ」


「それはもう嬉しそうな様子だったよ。

 最近知ったんだけどあの人さ上機嫌になると尻尾が大きく動くんだよね〜」


 やっぱり……こいつ口がかなり軽い。

 タシテスから何も口止めされてないのか?

 ただ、タシテスがわざわざよこしたんだ。

 かなり近しい人物だろう……

 俺はそんなことを考えながらこいつから情報を引き出すべく話を振る。


「あんたナマケモノの亜人だろ?

 普段、タシテスとか色々手伝ったりしてんだろ。

 何してんだ?」


「さ〜てなんだろうね〜。

 ただ昨日徹夜させられたね、流石に疲れたよ。

 俺はやっぱり怠けてるのが性に合うよ、だから俺ナマケモノにしたんだよ」


 そんなことを言いながらナマケモノはあくびをした。

 "ナマケモノにした"?

 その言い方に俺は一瞬違和感を持ったが、曲がり角を曲がった瞬間広がるそれに意識を奪われた。

 キリサメの街とは違う、まるでローズ王国のようにレンガの壁に囲まれている。

 リリは思い出したくないことを思い出したのか、びくっとしながら俺の服を掴む。

 そして正門前に立つと、警備員らしき亜人が立っていた。

 黒と白の二つの色に身を包み鼻は突出しており、パンダのような耳があった。


「もしかして……マレーバクってやつか?」


「あんた今……オラをマレーバクって言ったか?!

 すげぇぞ!オラのベースになった動物見抜いたの、あんたが初めてだ!

 あんたの話はタシテス様から聞いてる、伊藤慎二だろ?!

 オラはバクってんだ、よろしくな!」


 そのバクという亜人はそれはもう元気よく話していく。

 声がデカくて思わず俺は耳を塞いでしまった。


「バク……?」


「お前……リリか?!

 なんでお前が、いや……

 久しぶりだなリリ、随分と大きなったな!」


 この二人は面識があるようでさっきまで萎縮していたリリが突然元気を取り戻し、バクとやらに抱きついた。


「1年振りくらいか?

 随分と美人になって、彼氏の一つでもできたか!?」


「できてるわけないでしょ!」


 リリはさっきとは打って変わってとても楽しそうに話している。

 さっきまで元気なかったからな、よかった……

 そうしているとナマケモノが口を開いた。


「さぁ行きますよ、遅刻するわけにはいかないでしょ」


「そうだな……

 リリ、また会おうな!」


「うん!」


 俺たちはバクに門を通してもらい街に入る。

 そして歩き出していく。

 見れば見るほどローズ王国と似ている、確か外と繋がってるやつがいるんだっけか。

 そいつがタシテスに建築技術を教えているなら辻褄も合う。

 そして見えてくるとてもでかい円柱状の建物、それは昔勉強した時に見たコロッセオのようだった。

 ここに住んでいる亜人たちが俺たちを妙な目で見てくる。

 変な感じするな……

 だがその住人たちもコロッセオのようなものに向かっているようで中にゾロゾロと亜人たちが入っていく。

 そして人波にのまれ俺たちはコロッセオに流れ着いた。

 着くとナマケモノは振り向き頭を下げ、口を開いた。


「ようこそ伊藤慎二様、私たち亜人の国"ラビリンス"におこしくださりありがとうございます。

 こちら迷宮闘技場《リアクトル》にございます。

 どうぞ、力の限り決闘をお楽しみください」


 そして俺たちはその闘技場の中へ通されていくのだった。



バクは元々リリやルルにご飯を出してあげたり作ってあげたり色々世話してあげてました。

かなり腕がよく、めっちゃ美味いんですよね。

ぜひブックマークや評価をお願いします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。