94話 勝つぞ
俺と雫さんはライオッドからルルが出場するという情報を聞き、ノヴァさんに事情を説明してキリサメの容体を見てもらい、リリと慎を呼びリビングで作戦会議をしていた。
「やっぱりルルはタシテスに……
それに二日後の決闘にも出るって話よね」
「……あぁ、だからあいつの対策とか色々講じたい。
朝見せた大人になる技とか……」
「乗っ取り、ね……
わかった私も知ってる範囲で教える」
そしてリリはあの時ルルは何をしたのかの説明を詳しくし始めた。
「まず、ルルが大人の姿になったのは自分の持つ気の総量が増えたから。
私たち精霊の成長の基準はどれほど気を内包してるかなよるの。
それは年と共に増えていくものなんだけど、多分ルルは背中に慎二の神気の羽みたいに気で総量を増やしたんだと思う」
「それがあいつが大人になった理由……
それにあいつ、許容上限を超えた身体強化使ったり、その傷をすぐに再生したりしてた」
「おい、慎二それってまるでお前の……」
そう、あの姿や羽、戦い方全てが俺の神気を出した状態と同じなのだ。
これは偶然なのか……?
それについて何か知っているのではと思い俺はリリにそれを聞いた。
「確かにあれ、慎二と似てるわね……
けど、背中に気の羽を生やすのはタシテスから……教えられてた。
だから何か知ってるとしたら多分……」
「タシテスだけか……
んじゃ次は乗っ取り?ってやつ教えてくれ」
俺がそう言うとリリは俺たちにその乗っ取り技について話していった。
なるほど……あいつはあの時俺に気を流し込んだのか。
「だったら、なんで俺は乗っ取られなかったんだ?」
「乗っ取られない方法は一応ある。
けどその方法はほぼ不可能なんだよ。
その方法は触れられて、乗っ取られる前に相手を倒すこと。
けど触れられた瞬間、自分以外の気が急に入り込むせいで拒絶反応が起こって意識が揺らいだり、眠ったりすることがあるんだよ。
だから乗っ取られないのはほぼ不可能、のはずなのに慎二は何故か乗っ取られなかった。
あの状況を見るに、多分ルルは慎二を乗っ取れない可能性がある。
なんでそうなったとかはルルにしかわからない……」
「分かった、教えてくれてありがとう」
俺たちはリリに頭を下げた。
そして横にいた雫さんが口を開いた。
「リリ、色々あって疲れただろう。
部屋でゆっくりしてきな、ここからは私たちだけでいい」
「……ありがとう」
リリはそう告げ静かにその場を去っていった。
リリ……そりゃそうか、タシテスに色々されて辛い思い出がある。
そんな場所に自分の妹が……その妹は自分たちを裏切ったなんて……
揺れているのだろう、心配する気持ちもある、だが同時に恨みの気持ちも……
いやよそう、人の気持ちを勝手に想像すんのは。
「さて……聞いただろうリリの話。
リリの乗っ取りを防ぐ方法はかなりきついらしい。
まぁただ、私ならもしかしたらいけるかもってとこだね。
だけど慎二なら効かない可能性があるってんなら、できれば慎二はルルに当てたいね。
ライオッドは私と、慎は悪いが正体不明の何かとだね。
ただ相手を決める方法はクジらしい、完全ランダムだから運だね」
俺が、ルルと……
そこで俺は先ほどリリと交わしたルルを助けるという約束を思い出す。
絶対に、負けられねぇ。
「んじゃ二日後の決闘まで、キリサメの代わりに私が稽古つけるよ。
ライオッドと誰が戦うかわかんないんだ、全力で相手してやるよ」
「「………」」
そして、俺たちはとにかくしごかれた。
***
「「キッツ……!!」」
俺たちは修行を終えた後、風呂に来て疲れを癒していた。
だが警戒を解くわけにはいかず、常に神経を張り巡らせていた。
雫さんの修行、マジで加減がないんだよな……
立ち合いじゃなくて、命の取り合いをしてるような戦い。
おかげでかなり精神すり減る……
「慎二……悪かったな」
「はぁ?急になに謝って──」
「俺、あの時迷っちまったんだ。
ルルとお前が戦ってた時、裏切ったのはどっちか、本当に裏切ったのか……
一瞬、迷っちまった、そのせいで俺はルルを逃しちまった。
その時からずっと引っ掛かってた。
心のどこかで俺はお前を……ちゃんと信頼できてないのか──」
その瞬間、俺は思い切り慎の頭に拳を叩き込んだ。
慎は涙目になりながら俺を見てくる。
俺はどうしようもない怒りが込み上げていた。
「何が信頼できてないだ、あの時俺がお前の立場でも絶対迷ってたわ!
そんなんでいちいち申し訳なくなってんじゃねぇよ。
それにお前ルルが転移しようとする瞬間、ちゃんと飛び出してきてくれたじゃねぇか。
ちゃんと戦況を判断して決断できたんだ、誰も悪くねぇよ」
俺はそう言い湯船を出る。
変なこと言ったか……?
いや、言ったのは慎の方だ俺は悪くねぇ。
そして俺は浴場を出ようとすると慎が俺を呼び止めた。
「俺は、俺はどうやったら……お前みたいになれるんだ?」
そう告げる慎はとても情けない顔で、藁にもすがるような顔で言う。
「別にお前は変わんなくていいだろ。
キリサメも言ってただろ、お前には『布都御魂』を上げるつもりだったって。
俺じゃなくてお前にだ。
もしお前が俺だったら手に入らなかったんだ、大雲慎だから手に入ったんだ。
お前はそれでいいんだよ、神童──」
「俺は、俺でいい……ほんとうに……?」
慎はその言葉を俺に聞こえないほどの小さな声でいった。
そして俺たちは浴場を出た。
「そうだ、キリサメの部屋掃除してやんねぇか?
少し木のクズとか飛び散って汚れてるだろ」
「あぁ……そうするか」
そして俺たちはキリサメの部屋に行き扉を開ける。
だが、そこは朝とはまるで違う、庭へ通じる穴は空いているものの、木のクズ一つ落ちておらずとても綺麗になっていた。
「これ、誰が掃除したんだ?」
「リリじゃねぇか?聞いてみるか」
俺たちはそう言い、リリの部屋に向かう。
あいつ、ルルの件で責任感じてたからな……
そんなことを考えていると、リリの部屋の襖が少しだけ空いていた。
そんなこと気にせずその襖を開けようと──
「ル、ルゥゥ……」
その瞬間、俺の手が止まる。
慎もそれに気づいたようだ、その時襖から中の様子が少し見えた。
リリはあの石を硬く握りしめ、嗚咽混じりで誰にもバレないよう声を押し殺しながら、双眸から涙を流していた。
その涙は、明かりに照らされゆらゆらと輝いていてすぐに目に入った。
「……ッ」
俺と慎は何も言わず、その場を去っていった。
ただ、俺たちは同じ気持ちのようで硬く拳を握りしめながら……
「「勝つぞ」」
そう言い、俺たちは剣道場へ向かっていった。
*****
二日後──
そして俺たちはその場所へ来ていた。
レンガを円柱状に積み、中は見えないようになっていた。
ゆっくりと、歩を進めていく。
俺たちが考えているのはただ一つ、勝つことだけだった。
そしてその場所に出た。
そこはコロシアムの闘技場のように壁に囲まれ、壁の上には客席がありそこはアンデッドモンスター、亜人に埋め尽くされ俺たちが出たと同時にそいつらは咆哮した。
そしてそいつらは、そこに立っていた。
「さぁ伊藤慎二。
決戦と行こうじゃないか」
「来いよ屑野郎。
テメェは俺がぶっ倒す」
そして、その戦いの幕は上がるのだった。
このコロシアムはタシテス主導で作りましたが、まぁちょっとナマケモノも絡んでます。
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