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92話 喰


「「任せろ、リリ……!!」」


 俺たちはリリにそう告げた。

 やべっ……神気出ちまってる。

 俺は目を瞑り神気を内に戻していると、リビングの扉が開きそこには雫さんが立っていた。


「キリサメ、起きた──」


 雫さんがそう言い切る前に俺たちはもうキリサメの部屋に走り出していた。

 キリサメ、キリサメ、キリサメ!

 そして俺たちはその襖を開ける。


「おう……お前ら、ひでぇ顔じゃね──」


「キリサメ〜!」


「ヘグッ……!」


 リリはキリサメが死んでいない嬉しさでキリサメが先ほど刺されたことを忘れて抱きついた。

 リリは強くキリサメを抱きしめ、泣きついた。

 慎はやれやれという顔をしながらリリを引き剥がす。

 キリサメはとても体調が悪いようで脂汗がすごく目が虚ろだった。


「キリ、サメ生きて……」


「あぁ……どうやらルルじゃなかったみてぇだ」


 キリサメはもちろんすごく心配だった。

 ただ実際に顔を合わせて、どういう顔をしてキリサメと話せばいいのか分からなかった。

 キリサメを刺したルルを取り逃して、家まで壊して、何もできなかった……


「おい慎二、クソみてぇな面してんじゃねぇよ」


「クソみたいなって……ひでぇだろ!」


「それだよ、その顔だ。

 そのまんまクソ生意気な顔してりゃいいんだよお前は」


 キリサメは俺に指を刺しながらそう言い放つ。

 そのキリサメの気遣いに俺は少し救われた。

 ダメだ、別に俺が怪我したわけじゃねぇんだ、しみったれた面してんじゃねぇ。

 俺は自分への戒めとして思い切り頰を叩く。


「よっしゃ気を取り直して──」


「あんたら……」


 その瞬間、後ろから怒気を孕んだ声が聞こえた。

 背後にまるで炎があるような熱さ、これは……

 俺らは後ろに誰が立っているのかに気づき青ざめた。

 そこには遅れてキリサメの部屋に来た雫さんが立っていた。


「「「すっ……すみま──」」」


「問答無用!」


 その瞬間、雫さんの拳骨が俺たちの頭に落ちた。

 部位硬化はした、だが衝撃までも殺せるわけじゃなく脳がシェイクされる。

 リリは部位硬化が間に合わなかったようで頭を抱えながら治癒魔法をかけている。


「はぁ…まぁいい、ところで慎二。

 このアホがルルに刺された時の得物、刀だったりしなかったかい?」


「刀……?」


 俺はキリサメが刺された時のことを思い出す。

 キリサメが刺された衝撃と、ルルへの怒りでよく思い出せない。

 だが刀身が長かったのを思い出し、おそらく刀であるという結論に至る。


「多分、刀だった……」


「はぁ、やっぱりかい。

 もしそうならそのアホ、多分二日後の決闘に出れないよ」


「……ッ!師匠が出れない?どうして腹の傷がやばいのか?!」


「そいつは……俺が説明してやるよ」


 慎がそう雫さんに問うているとキリサメが割り込んできた。


「あんた死ぬほど体調悪いだろ?

 意識保ってんのもやっとはずだ、黙ってな。

 私が説明する」


 そして、雫さんはキリサメが決戦に出れない理由を説明していく。


「問題なのは腹の傷じゃないんだ。

 その奥、"気"に問題があんだよ」


「"気"に問題って……」


「そのアホの気、感知してみりゃわかるがいつもの何十倍も弱いんだよ」


 俺と慎はそれを聞き急いで感知を使いキリサメの気を確認した。

 確かにいつも隠した状態だったから分からなかったけど、反応が弱すぎる。

 総量で言ったら俺よか少ねぇ……

 俺が顔を俯かせていると床に置いてあるそれが目に入る。


「だったら、『布都御魂』使えばいいじゃねぇか!

 そこから気を少し貰えばキリサメも──」


「それができれば苦労しないんだけどね、一番はそれなんだよ。

 そいつ気がなくなってるだけじゃなく気の器までかなり傷つけられてんだよ。

 知ってる通り私たちアンデッドは気で構成されてる。

 気がなくなるっていうことはイコール死だ。

 だってのにそいつは溜め込む器まで壊されてるから入れても入れても抜けていく。

 それに『布都御魂』の内包している気はほんの少し解放しただけでもかなりの量、変に入れすぎたら器が耐えられなくなるかもしれないんだよ。

 今回は運良く生き残ったが、もし完全に壊れでもしたら体が崩壊して壊れた気の器だけを残して……死ぬ」


 死ぬ…キリサメが?

 俺が動揺していると、リリが口を開いた。


「けどお腹を刺されただけで気がなくなって器まで傷つくものなの?」


「いや、腹刺されたって普通の得物じゃ器に傷どころか気すら抜けないよ。

 "普通の得物"じゃ……ね」


 普通の得物じゃ、まさか……?!

 その時、先ほど雫さんが俺にキリサメが刺された得物は何かと聞いてきたことを思い出す。


「まさか、さっき俺に聞いたのって……」


「あぁ、あんたの予想通りその刀は普通じゃないんだよ。

 その刀は『布都御魂』と同格、大昔から存在する大業物の一振りだよ」


「『布都御魂』と……

 けど、どうやって気を……?」


 俺がそう疑問を投げつけると、雫さんは「言ってなかったのか」と言い話していく。


「『布都御魂』やキリサメが刺された得物みたいに大昔から存在する武器は極めて稀にスキルを獲得することがあんだよ。

 『布都御魂』は"魂への干渉"、キリサメが刺された得物は"全てを喰らう悪食"……

 そのアホはその腹空かしに喰い逃げにあったんだよ」


 『布都御魂』の持つ"魂へ干渉する力"を雫さんから聞いて一つ疑問が解けた。

 前にタシテスと戦った時、死の概念を変えて不死身となったモンスターたちを殺すことができた理由……

 あの時、恐らく"魂を殺した"のだ。

 魂が死ねば、概念操作も意味をなさない……

 他にも刀で頭叩かれて正気に戻ったこととか、色々心当たりがある。

 そして、"全てを喰らう悪食"……

 その影響でキリサメの気を喰われたのか……

 だがその時、一つ気がかりなことに気づいた。


「その"悪食"とやらは、持ち主の気を喰うのか?」


「もし持ち主として認められたなら喰わないだろうが、多分ルルは認められちゃいないだろうから喰われて……

 ──ッ!」


 雫さんもそのことに気づきハッとなる。

 そう、ルルは"精霊"なんだ。

 あいつはアンデッドモンスターと同じように体が気でできている。

 雫さんも言ってた通り気がなくなると精霊も死ぬだろう。

 それにも関わらずルルはそれを使った。

 命を賭けてでも、相打ちになってもキリサメを殺そうとした。

 つまり、ルルは自分の命を勘定に入れてない。

 ルルは自分の命を守るために裏切ったわけじゃない、自分の命を賭けるだけの"何かがあった"。

 それは、一体……


「まぁそんなことはいい、今は二日後の決闘についてだ。

 キリサメが出れなくなった以上、出るのは私と確定で慎二だ。

 あと一人、一体誰を……」


「慎……お前が、出るんだ」


「師匠……」


 その瞬間、キリサメが振り絞った声で慎にそういう。

 慎も受け入れるかどうか迷っているようだ。

 その時、キリサメは『布都御魂』を拾い上げ慎の目の前に差し出す。


「お前が……使え」


「俺が……『布都御魂』を……?

 無理だ!俺には…まだ剣気すらできねぇ俺には!」


「言っただろ……俺。

 お前に渡す刀は、決めてあるって……

 それはこいつなんだ、慎。

 お前にはいつかこの刀を継いでもらいたい、そう思ってたんだよ。

 "お前ならできる"」


 キリサメは慎に向かってそう言い放つ。

 慎の目に光が宿り、溢れ出る涙を袖で拭き取る。

 そして慎はその刀を受け取った。


「任せてくれ、"キリサメ"!」


 そう慎は覚悟を決めた顔で告げるのだった。



元々慎もキリサメ呼びだったんですよね。

だけどその強さに敬意を込めて師匠呼びになりました。

今回キリサメと読んだのは師匠としてではなく、目指すべき超えるべき存在として見たからです。

ブクマや評価楽しみに待っています。


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