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87話 来る


 僕、樋口慶はその部屋でベッドで横になり体を休ませていた。

 僕たちはあの後晶と藤宮さんの転移魔法で城へ戻ってきた、僕は疲れていたので治療を終えた後部屋で休むことにした。


 あの99階層で仕掛けられていたトラップ、みんな同じように敵に待ち構えられてたらしい。

 僕があの仮面に襲われたことを考え、佐々木さんは"原罪"たちの仕業である確率が高いと判断した。

 それに言葉を喋るモンスターの話も晶から聞いた、階層が増えるほどどんどん謎が増えていく……

 それにあのフードさんから何も話が聞けなかった。


「アリウスさんに、会い、にいこう……」


 僕は疲れのせいか強い眠気に襲われ、眠りについてしまった。


***


 翌朝、僕は目を覚ました。

 疲れてて寝ちゃったのか、まぁいいアリウスさんに会いに行こう。

 僕はベッドから起き上がり部屋を出て中庭へ向かった。

 あの人は花が好きでよく中庭で花の手入れをしていた。

 だから僕はいつも通り中庭に向かったのだが……


「いないな」


 中庭へ向かった僕だったがアリウスさんの姿はそこにはなかった。

 どうするか、城を探し回ってもいいけど流石に広すぎて行き違いとかありそうだもんな。

 僕が考えを巡らせていると一つの方法を思い出した。

 感知で探すのだ。

 あの人はいつも気配がとても薄い、だけどスキルも進化したからいけるだろう。


 そして僕は目を瞑り城の中を探していく。

 他のみんなは疲れているようだったからやっぱり部屋で休んでるな。

 どうして柳くんはこんなところに、まぁいいか。

 僕はそう思い他の場所を探していく。

 城の中は人が多くてわかりずらい、もっと深めろ……

 そして僕はどんどんと情報を取捨選択し探していく。


「え──?」


 そして僕はそれを見つける。

 アリウスさんをそこで見つけた。

 いや……気のせいだ。

 そんなことより、さっきまで柳くんを感じていたが今は感じられなくなった。

 まるで一瞬でどこかへ消えてしまったみたいに、転移したようにどこかへ……

 少々胸騒ぎがしたが僕はアリウスさんのところへ向かった。


***


「アリウスさん、おはようございます」


「あぁ樋口さんですかおはようございます」


 そして僕はそこへきていた。

 そこは下町を見ることができるベランダのような場所だった、僕たちはそこで風に当たりながら話していく。


「お疲れでしょう、今は部屋でゆっくりしているべきでは……」


「それはそうなんですが、休む気になれなくて……」


 僕がそういうとアリウスさんは少し微笑み、僕の話に付き合ってくれた。


「アリウスさん、さっきまで何してたんですか?」


「足りない食材の買い出しですかね。

 やはり城には人が多いので帰るのにかなり時間がかかってしまいました」


「執事長はそんな仕事もするんですね……」


 僕たちはそんなことを話しながら下町を眺める。

 町は夜とは打って変わりみんな店の準備で人通りがとても少なかった。

 僕がそんなことを考えているとアリウスさんは口を開いた。


「何か相談したいことがあるのでしょう?

 私でよろしいなら、お話し付き合いますよ」


 アリウスさんがそう言うと僕は少し顔を強張らせる。

 やっぱりバレてた……

 そして僕は99階層であったことを話していった。


「僕、今回の攻略で亜人のエリアボスと戦ったんです。

 その亜人はかなり強敵で、影を操って戦っていました。

 そして僕、殺されかけたんです。

 その時……」


 僕は少し言葉につまり、自分の手を見つめながら……


「震えてたんです。

 それが、僕は許せなくて」


「許せない、ですか……

 別に恐怖に屈することは悪いことではありません、それは自分の身の危険をよくわかっている証拠ですから。

 何も恥ずべき行為ではありません」


 アリウスさんはそう言ってくれた、だが僕はそれを素直に受け取ることができなかった。

 僕はやっぱり、不甲斐ない……

 そんなことを考えているとアリウスさんが僕の目の前に手を差し出した。

 そして握り拳を作り、開いた。


「えっ?!」


 そこには透明な球体が現れていた。

 どこから出てきたのかわからず困惑していると、アリウスさんは微笑んだ。


「ただの手品です、どうぞ」


 アリウスさんはそういうと僕の顔にそれを近づける。

 これ、もしかして……

 僕はそう思いそれを持ち口に入れた。


「飴玉……ですか?」


「はい、美味しいでしょう?」


「まぁ美味しいですけど、これが一体……?」


 その意図が全くわからず困惑していると、アリウスさんは口を開き話していく。


「あなたはそれを不甲斐ないと自分を責めると思います。

 私も同じでした、初めて敵を目の前にした時震えていましました。

 初めて殺した夜は眠れませんでした。

 ですがいつしかそれはなくなって……全く震えなくなってしまった、全く抵抗がなくなっていったんです。

 あなたはそれをすごいと思うかもしれない。

 ですがあなたのその震えも大事なことなんですよ、どうかそれに慣れないでください。

 それはきっといつかあなたの役に立ちますよ」


 アリウスさんは微笑みながら僕にそう言ってくれた。

 けど今の僕にはそれを受け入れるのは早かった。


「飴玉持ってるって……甘いもの、好きなんですか?」


「はい大好物です。

 妹もとても好きでした」


「妹って……いたんですか?」


 僕がそう聞くとアリウスさんは頷いた。

 アリウスさんの妹……絶対強いだろうな。

 僕はそんなことを思いながら飴玉を噛み砕いた。


「他には相談したいことありませんか?」


 アリウスさんがそう言うと僕はスキルが進化した時に神を名乗る男とあったことを思い出した。

 アリウスさんは確か戦争の時戦ったと聞いたことがある、何か知っているのではないかと思います僕は口を開いた。


「実は僕、スキルが進化したんです。

 ですがスキルが進化した時に、神を名乗る白髪の青年に会ったんですよ。

 アリウスさん、何か知ってますか?」


「白髪の、青年……」


 その瞬間、アリウスさんの顔がこわばった。

 何かまずいことでも言ったのだろうかと思っているとアリウスさんは口を開く。


「そのひ……そのお方の名前はなんと?」


「"チハレ"……自分のことを"最後の英雄"と言っていました。

 何か知っていますか?」


 僕がそういうとアリウスさんは拳を強く握りしめた。

 そして、アリウスさんの瞳から涙が流れた。


「アリウスさん?!何か変なことを言ってしまいましたか?!」


「いえ……!すみません、つい……」


 アリウスさんはそう言い急いで流れる涙を拭う。

 初めて見るアリウスさんの焦っている様子に僕は人間味を感じた。

 涙を拭い終わるとアリウスさんは今度は微笑んだ。


「樋口さん……どうか、どうかその人を忘れないでいただけますか?

 どうか、その人をあなたの心に留めてあげてください。

 あの人がそれを望んでいなくとも、私は──」


 アリウスさんはそう言いかけたが唇を噛み締めながら首を振った。

 そうお願いするアリウスさんの姿は、今まで見たことのなかった初めて見たアリウスさんの内面のようなものだった。

 

「任せてください、絶対にチハレさんを忘れません」


「そう、ですか……

 感謝を申し上げます」


 アリウスさんは畏まりながら僕に頭を下げた。

 僕は焦りながらそんなこといいと言うがアリウスさんは頭を下げ続けた。

 そうこうしているとアリウスさんは仕事に戻るらしくその場を去っていった。

 チハレさんが言っていた『世界を滅ぼす者』について相談したかったがまた今度にしよう。

 そうしていると目の前から焦った様子で僕に駆け寄ってくるルナさんの姿があった。


「大変です!」


 焦った様子で僕に駆け寄ってきてそんなことを話すルナさんを僕は一旦落ち着けた。


「どうかしたんですか?」


「えっと……実は慎二くんのいる場所へ転移する魔法を創造することに丁度さっき成功したんだよ。

 で、使うためには魔法協会に申請しないと違法になっちゃうから、準備するために部屋を抜けたらその隙に誰かが私の部屋に入って……」


「まさか……行ったんですか?!」


「多分……

 どうやって魔法を起動したのかわからない。

 けど多分私の魔法を使って誰かが、慎二くんのいるとかへ飛んだと思う」


 一体何が目的で……

 その瞬間、僕はあることを思い出した。

 あの時、アリウスさんを探すために感知を使った時僕は感じた。

 柳くんは……"ルナさんの部屋にいた"。

 それが突然消えた、何か企んでいるのかとかも思った。

 だがそんな考えすぐに飛んでいった。

 だってその近くに柳くんの近くにいたのは晶だ、まさか晶を操って?

 いや、今は……


「ルナさん、多分その部屋に入って伊藤くんのところに行ったのは柳くんです。

 彼は伊藤くんをダンジョンに閉じ込めた、彼に何をするかわからない。

 一人じゃ危険です、藤宮さんを連れて今すぐ伊藤くんの元へ向かってください。

 僕はアーシャさんにこのことを話しておきます!」


「柳がしたんだ……わかった急いで向かう!」


 ルナさんはそう言い藤宮さんの部屋へ向かって行った。

 疲れてるっていうのに……伊藤くん、どうか無事で。

 そして僕はアーシャさんの元へ走るのだった。


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