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8話 討伐


「ではまず、身体強化を使ってみましょうか。

 身体強化のスキルは持っていますから、“発動する”と念じるだけでできると思います。

 固有スキルと同じ要領です」


 ノアは静かにそう告げた。

 俺はうなずき、深く息を吸い込む。――亜空間収納インベントリと同じ感覚だ。

 意識の中でただ一言、念じる。


 身体強化《小》


 その瞬間、体の奥底から熱が湧き上がった。

 腹から込み上がるその熱がどんどんと体中を支配していく感覚に襲われる。

 血液が沸騰し、神経が研ぎ澄まされていく。

 全身の感覚が鋭くなり、世界が一段と鮮明に見えた。


「身体強化は成功したようですね。では、次に――ゴブリンを顕現させます」


 ノアの声が響いた刹那、目の前の空間が歪む。

 闇から吐き出されるように、あの忌々しい緑の肌をした怪物が姿を現した。

 体が一瞬すくむ。

 骨が砕かれた痛みと、絶望に沈んだあの記憶が蘇る。

 ――だが、もう慣れた。


「条件は、このゴブリンを三分間“捌き切る”こと。

 倒さなくても構いません」


 少し安堵しかけた、その瞬間。


「では――開始」


 ノアの宣言と同時に、ゴブリンの拳が飛んできた。

 反射的に右腕で受けるが、凄まじい衝撃に吹き飛ばされる。

 風が頬を打ち、地面を転がった。


「いってぇぇ……!」


 だがギリギリ反応できた。

 ステータスを上げ、身体強化を使ったおかげだ。

 右腕が震えているが、まだ動ける。立ち上がり、再び構えを取る。


 ゴブリンは踏み込み、怒涛の連撃を浴びせてきた。殴打、蹴撃、踵落とし――息つく暇もない。

 俺は受け、避け、反撃の隙を探る。

 二分ほど経ったころ、奴の気配が変わった。


「さすがですね……ですが、ここからが本番です。

 第二フェイズ、開始」


 ノアの声と同時に、ゴブリンの背後に巨大な火球が生まれた。

 柳の炎とは全く違う、俺ごと焼き尽くすほどの規模――。


 対応しきれない、、逃げろ、上へ!

 そう思った瞬間、拳が目前に迫っていた。


「なっ――!」


 殴打。視界がぐるりと回転し、地面に叩きつけられる。

 次の瞬間、火球が爆ぜ、熱が全身を焼いた。

 皮膚が裂け、筋肉が焦げる。

 俺は叫ぶ間もなく――死んだ。


 ***


「はぁっ!」


 目を開ける、体は元通りだった、火傷もない。

 だが、記憶だけが鮮明に残っている。

 頭を打たれ、焼かれ、針で刺されたような痛み。喉が焼け、水を求めていた、あの感覚が。


「どうでしたか? 戦ってみた感想は? 強かったでしょう。……諦めますか?」


「冗談だろ。続行だ」


 額を伝う汗を拭い、歯を食いしばる。


 ――それから15回以上、俺は殺された。


 第一フェイズまではなんとかなる。だが第二フェイズ以降、炎の攻撃が加わると手数が倍増する。

 炎を紐のように変形させ、炎をカーテンのように振り回すこともできる。

 威嚇、誘導、決め技――全てが計算されていた。


「強すぎるだろ……」


 地面に寝転がり、息を吐いた俺にノアが語りかけてくる。


「悩んでいるようですね。あの手数を掻い潜る方法を」


「ああ。ノアが作ったゴブリンをどう倒せばいいか悩んでるだよ」


「まず考えてみましょう。なぜあなたはあの攻撃を避けられないのか?」


「うーん、単純に身体能力の問題かな?動体視力とか反応速度が足りないから」


「答えは出ていますね。――では、それを上げればいいのです」


「そんな方法あるのか?」


「はい、“部位強化”というスキルを使うのです」


「部位強化? 身体強化とは関係あるのか?」


「その名の通り、体の一部だけを強化します。

 あなた、今まで“すべて”を強化していましたね?」


「……すべて?」


「ええ。身体強化は全身を強化するスキル。

 つまり、戦闘に不要な部分――たとえば尻の筋肉まで強化しているのです」

「例えが最悪だな……でも、たしかに無駄は多いかもな」


 答えは出た。

 俺は立ち上がり、深呼吸をして再び念じた。


 身体強化《小》


 熱が全身を駆け巡る、だが今回は違う。

 ――探せ、この中に流れる“力”を。

 目を閉じ、体の中の流れを感じ取る。

 それは確かに存在していた。


 よし。これを、手足と眼に集中させろ――!


 感覚が一気に研ぎ澄まされた。

 今なら、見える。


「出せ、ノア」


「了解」


 再び現れるゴブリン。

 突進してくるその姿を、俺は鮮明に捉えた。

 拳をかわし、腹に一撃を叩き込む。

 吹き飛ばされたゴブリンは受け身を取り、立ち上がる。


「行くぜ。第2フェイズ、上等だ!」


 ゴブリンが炎の鞭を生み出す。

 ――来い。


 部位集中《眼》


 鞭の軌道を読み切り、最小限の動きで回避する。

 だが、意識が“鞭”に偏りすぎた。

 気づいた時にはもう、背後から蹴りが――!


 背中に激痛、体勢を崩し、地面を転がる。

 ゴブリンが炎のマントを顕現させ振り下ろしてくる。

 ――見たことある。避けられない範囲攻撃!


 部位集中《右脚》


 一気に走り出す。

 ゴブリンを起点に展開される攻撃、背後が唯一あの範囲攻撃を避けれる場所!

 背後へ回り込み、渾身の蹴りを叩き込んだ。


「お見事です。ですが――ここからが本番。

 第3フェイズ、開始」


「ヴガァァァァァ!」


 咆哮。

 次の瞬間、俺の体は宙を舞った。


「はぁ!? なにが起こっーーー」


 衝撃。血が口から溢れる。

 ――まさか、ゴブリンまで身体強化を?


 襲いかかる影。拳、蹴り。

 俺はなんとか反応し続けるが、足に意識を向けていなかった。

 脇腹を蹴り抜かれ、骨が悲鳴を上げる。

 ゴブリンが強化を拳に回していたおかげで死なずに済んだ…だが、、、


「いってぇ……!」


 立ち上がれない。このままじゃ――。

 その時、思い出した。もう一つのスキルを。


 治癒(ヒール)《小》


 体が淡く光り、痛みが少し和らぐ。

 だが足りない。

 なら、やることは一つ。


 部位治癒(ヒール)《脇腹》


 痛みが引く。動ける――!

 だがゴブリンの拳は目前に迫っていた。

 俺はその攻撃を体勢を崩し躱したが、その一瞬ゴブリンは身を翻し、俺に向かってその足を振り下ろそうとしていた。

 だが、そのゴブリンの頭を右手で掴んだ。


「死ぬほど見たからな、もう覚えた─」


 掌が熱を帯びる。炎が凝縮し、爆ぜた。


「グギャァァァァァ!」


 暴れるゴブリンを押さえ込み、右腕に全力を込める。


 部位集中《右腕》


 炎の推進を加え、奴を地に叩きつけた。

 頭蓋にヒビが入り、血が飛び散る。だがまだ足りない。

 身体強化だって使ってんだ、治癒(ヒール)も使ってくるかもしれない。

 短剣を排出。右手に持っているナイフを振り下ろす――が、腕を掴まれ、押し返される。

 

 まずい、このままじゃ、、、

 やっぱり僕は変わることはできないのかなーーー


 その瞬間、慎二は咄嗟に短剣を収納→左手に再排出。

 ナイフを首元に突き刺し、一気に引き裂く。

 鮮血が舞い、ゴブリンは地に崩れた。


 今、何が起きた?勝ったのか?

 呼吸が荒い。

 俺はその場に倒れ込み、視界が白く染まっていく。


「まさか……本当に倒すとは。――あなたはまだ・・・」


 ノアの声が、静かにつぶやいた。


___________________


今日は後一話投稿します。

次の話も楽しんでみてください。

感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!


 【 名 前 】 伊藤慎二

 【 レベル 】 50

 【 H P 】 600/5900

 【 M P 】 100/590

 【 S P 】 20/100

 【 魔 力 】 0/0

 【 筋 力 】 100 

 【 脚 力 】 100 

 【 抵 抗 】 28  

 【 感 覚 】 27  

 【 スキル 】 身体強化《小》治癒(ヒール)《小》火操作

 【固有スキル】 亜空間収納(インベントリ)

 【ステータスポイント】 20

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