84話 神と呼ばれた男
僕、樋口慶はその亜人と戦っていた。
あのフードさんと仮面は今後ろで戦っている、こいつが僕にだけ集中するようにしないと。
そいつは馬に人間のようなものが乗馬していた、だがその人間は首がなく体だけだった。
そしてその人間の足は馬の背中に癒着するようにくっついていた。
そんなことを考えているとそいつの持っている槍が僕に近づく。
顔を逸らしそれを避け、跳躍しその上に乗っている人間に剣を突き刺す。
「なっ──!」
その剣は影に吸い込まれ、攻撃は無力化された。
それに驚いているとその人間の左腕が不可解な挙動をしたのち僕に向かって飛んでいき頰に直撃、飛んでいく。
僕はなんとか体勢を立て直し、剣に力を込めて風を放った。
だがその瞬間、地面から影が這い出て壁を作るとその攻撃はその闇に吸い込まれていった。
恐らくこの亜人は【固有スキル】持ち、それに影を操作するっぽい……?
突き攻撃をすると影に飲み込まれて謎の吸引力で剣を奪われそうになる。
風とかの遠距離攻撃は影で吸い込まれて無力化、相当強い力。
それに吸い込まれたってことは……
その瞬間、その亜人が僕に向かって手をかざすと手から影が溢れそこから僕の放った風が這い出る。
僕はそれを剣で弾くが、その亜人はその隙に僕との距離を詰め槍を刺す。
何とか剣でいなすが、強力な突きを受けてしまい後ろに飛び体勢を崩し倒れる。
そしてそいつは僕の上に立ち槍を刺すが僕は剣を構えてそれをガードする姿勢を作る。
だが……
「グフッ──」
僕の剣と槍がぶつかり合った瞬間、その槍は影に潜り込み地面から這い出て僕の背中に突き刺さっていた。
影を伝って僕の背中に……!
僕は影を消すため火球を多数炸裂させると亜人は巻き込まれないよう距離を取り、僕はその勢いで後ろへ飛ぶ。
僕は背中の傷を抑えて血が流れるのを堰き止める。
貫通はしてない、それなら僕のスキルで次第に治る。
影は光で消せるなら、撃つ技は炎系の方が効くか。
だけど炎を剣に込めて放つと射程極端に短くなって遠くに飛ばない、火球で何とかするしかない。
だがその瞬間、その亜人は槍を地面に突き立てると影に潜り込み僕の背後に出現する。
僕は警戒していたおかげでそれに反応、横に避けそれを掴む。
ここが繋がってるなら……!
僕は瞬時に槍が這い出ている地面に手を突っ込むと火球を放つ。
予想通りその影に入れた手は亜人の地面に移動し、火球は放たれ炸裂する。
煙が上がり視界が塞がれたところで槍をこちら側に引っ張ると同時に影の中に入り込む。
そうすると僕は移動し目の前に亜人が現れる。
僕は剣を構え馬に向かって振るい、足を切る。
痛みで馬は嘶く、その隙に僕は再度首に向かって突きをする。
その瞬間、予想通り影にその剣は飲み込まれる。
「上げますよ、炎」
僕は炎を剣に込め爆発させると亜人の首は抉れ火傷をした。
追撃しようと近づこうとした、だが僕は無警戒だった──
「──ッ!」
その瞬間、視界の端から槍が現れ僕の腹部に炸裂、肋や内臓に衝撃が走り吐血する。
そして僕はその勢いで壁まで飛んでいく。
まだやれる、あいつもかなり傷を……
僕はその亜人の方向を向くとそいつは影を操作、足をつなげ抉れた首を影で蓋をして治癒を使い治す。
「便利……ですねそれ……」
隙を突いて喰らわせたあの攻撃、あいつも学習して僕をもうそう易々と懐に飛び込ませる真似はしないだろう。
肋が折れて内臓に刺さっている、スキルで治るのに数分かかる。
立てない……このまま、死ぬのだろうか……?
そして僕の脳裏に走馬灯のように、昔の記憶が蘇った。
***
僕の先祖は企業を立ち上げ財を築き、それを息子が代々受け継いできた。
僕の家系は昭和のしきたりがまだ残っていた。
お父さんとお母さんは両家の紹介で知り合ったらしい、許嫁というやつだ。
『良い子たれ』
僕は昔から母にそう言われて育ってきた。
ダメなことをしたらしかられ暴力を振るった。
子供の僕には、"良いこと"が何なのかわからなかった。
だから僕は従ってきた、母の言うこと、父の言うこと、約束したこと、全て言われたことをやってきた。
全部全部、"良い子"となるため。
けれど中学に上がり、僕はそれに疑問を持ち始めてしまった。
良いこととは本当は何なのか、これでいいのか、言われた通りのことだけを繰り返すだけで僕はいいのか。
僕の意思は……いらないのだろうか、と。
僕が悩んでいると、従兄弟である晶から親友の藤宮さんの話を聞いた。
それはとても、とても素晴らしく悲しい話だった。
子供の頃に親友が車に轢かれそうなところに命懸けで飛び込み助けた。
だが自分は轢かれてしまい今も意識不明の状態が続いていると……
それを聞いた瞬間、僕の胸は熱くなった。
そして僕は直感した、これが"良いこと"だ。
自分の命を顧みずに友を助ける、自分のことなど勘定に入れない優しさ。
これが良いことだ、僕はそれに憧れた。
それを体現した、わからなかったそれに答えをくれたその人に憧れた。
そして高一の時、その人が目を覚ましたという話を聞いた。
僕はそれに見習う。
今度はもし友が危険な目に遭うなら、僕は命を賭して戦おう。
今度は僕が、今度は僕が……
***
だが僕にはもう立ち上がる力が残っていなかった。
死んでしまうのだろうか、僕はここで死んでしまうのだろうか……
その亜人は僕の目の前に立つ、そして僕の胸に槍を突き立てる。
そしてそいつが僕の胸を貫こうと引いた瞬間、それは起こった──
その瞬間、僕の意識はどこか彼方へ飛んでいった。
内なる場所へ連れてこられたような、そんな初めての感覚。
そこは真っ白の空間だった、そしてそこにその人は立っていた。
その人は僕に向かって歩いてくる、誰だろうか……
外見はかなり顔は整っている方だろう、目に傷がついている。
髪は短髪の白髪だった、とても優しそうな雰囲気を纏った人だった。
《初めまして。名前わからないな……
えっとこの力を持ってくれてる人よ、初めまして》
「あっ、初めまして僕の名前は樋口──」
《あ〜多分今自己紹介とかしてくれてると思うけどごめんね、私にはわからないんだ》
わからない……?
僕がそれに困惑しているとその言葉の真意を教えてくれた。
《今の私は君たちで言う録画……?のようなものなんだよ。
君たちからしたら私は百年ほど前の人間だと思ってくれたらいいかな》
100年前の人間……?
それってモンスターがまだダンジョンに封印されてなかった時代、それを生きた人ということか?
そしてその人は僕に優しく、色々と説明し始めた。
《私が今君の目の前に現れたのは他でもない、君の持っている【固有スキル】が進化したからなんだ》
スキルが進化……!?
やっと剣鬼から進化したのか。
けど進化したからこの人が現れた、というのには関連性があまりない……
一体どういう……
《今、君のスキルは進化して"剣聖"となった。
そしてそれはあと2段階進化する。
これから君は絶大な力を持つことになるだろう、そしてとても凶悪なものたちに狙われることにもなる。
だからこそ謝罪したい、私たちの事情に巻き込んで申し訳ない》
その人はそう言い僕に頭を下げた。
「いや大丈夫ですよ、頭を上げて……
聞こえないんでしたっけ」
凶悪なものたちに狙われる……もしかして"原罪"のことだろうか?
それよりもこの人のことがとても気になる。
《そして勝手ながらお願いしたい。
これから先、君たちの世界は終わりを迎えることになる。
ある男に、破壊されてしまう……
だからこそ、君にはそれを止める手伝いをしてもらいたい。
本当に勝手なことを言っていることはわかっている。
だが頼む、この世界を……彼らを救ってあげてくれ》
これから世界が滅んでしまう、彼が壊す、それを僕に止めて欲しい。
一気に色々な話をされてしまって少し僕は困惑してしまう。
一体誰がこの世界を壊すというのだろうか、まさか"原罪"が……?
だが、僕の答えはとうに決まっていた。
「そういうことなら任せてください。
絶対に僕が止めてみせます」
僕は聞こえないとわかっているが、言わずにはいられなかったその言葉をその人に告げた。
いやまぁ今死にかけてたんですが……
《そろそろ時間だね。
最後に伝えておきたいこと……そうだ、自己紹介がまだだったね申し訳ない》
そして、その人は微笑み自分の名前を告げた。
《私の名前はチハレ、"最後の英雄"の一人。
君たちのところで言う"神様"──と言ったところかな》




