83話 過去
「悪いが引率が残ってる、押し通らせてもらうぞ」
俺、佐々木はそのハイオークに向かってそう言った。
だがどうしたものか、今の俺でこいつを倒せるのかどうか……
それとも、ここが俺の死に場所……なのだろうか。
「ブフゥ」
その瞬間、ハイオークは動き出しすでに目の前に来ていた。
速い──!
ハイオークは拳を繰り出してくるが俺はそれを跳躍することで避け、落下の勢いと共に手に持っていた剣をハイオークの体に刺す。
カキン──
切れないかっ!
そしてハイオークは背中に乗っている俺を振り解くため暴れ始め、俺は後ろに飛び距離を取る。
これじゃ攻撃が通らないな。
身体強化《大》
俺が体を強化するとそれに呼応しそいつも身体強化を使う。
「出来る限り足掻くとしよう」
俺はその剣を構え、バットのように地面を巻き込みながら振るいその勢いで礫を飛ばし土埃を上げる。
そいつは礫を防ぎ土埃が舞い俺の姿が見えなくなり、土埃に紛れて俺はそいつに接近していく。
いやっ来る──!
俺はその攻撃が来ると直感し剣を構える。
「グフッ!」
それは当たり、ハイオークは俺の位置を正確に捉えそいつは俺を蹴り飛ばす。
なぜ俺の位置が……感知される何かがあるのか──?!
その勢いで臓腑に衝撃が走り吐血しながら、飛んでいくがなんとか体勢を立て直す。
そして追い討ちでそいつの猛攻が仕掛けられ、俺は内臓の痛みに耐えながらなんとか防ぐ。
俺は傷を治すことはできない倒れるのも時間の問題、一体どうすれば──
考えているとその隙を突かれ、部位強化されたハイオークの拳が俺に飛んでくる。
なんとか勘でそれを感知し、守るがあまりの衝撃で易々と吹っ飛び壁に勢いよく激突する。
その衝撃で背中は負傷し吐血する。
こんなにも、血を吐いたのはいつぶりだろうか……
俺はここで死ぬのだろうか、やっとみんなの所へ行くことが──
***
10年前──
俺、佐々木はその世界に召喚された。
そしてダンジョンを攻略せよという使命を与えられた。
最初は、大変だった。
ロクに戦ったこともなかったからレベル上げにも一苦労、だがみんなで何かに向かって頑張るのは楽しかった。
その日、俺は食堂で朝食を取っていた。
その時こちらへ近づく人が見えた。
「佐々木、調子どうだ?」
「あぁ遠藤か、まぁぼちぼちだな。
そっちは?」
「聞いて驚けよ、実はレベル60超えたんだぜ?
すげぇたろ!」
俺はそれを聞き、微笑みながらそれを褒め称える。
だが不満そうにもっと褒めろとそいつはごねる。
遠藤蓮介、人当たりのいい好青年。
みんなの中心人物でなんでもそつなくこなす、みんなの憧れと言ってもいい存在。
この世界に来て混乱していた俺たちを勇気づけてくれたのはこいつのおかげだ、みんな遠藤に感謝していた。
「佐々木くん……おはよう」
「あぁおはよう菊池、橘」
「あんたやっぱ朝早いね〜。
アタシは朝弱くてさ〜」
菊池莉緒と橘美波。
菊池は引っ込み思案で読書が好きだった。
読書のしすぎで目を悪くしてメガネを買いたいとか言ってたか……?
人の顔がまともに見れないほど視力が落ちていた。
橘は勝気な性格で体格も男並みで、菊池に迷惑かける男子をよく懲らしめてたっけな。
俺たちは幼馴染だった、同じ病院で同じ日に生まれた。
親同士も仲が良く、必然的に俺たちはとても仲が良くなった。
四人で会社を立ち上げようとか約束もしていたな……
「あっアリウスさん〜!」
その時、食堂を通りかかったアリウスさんを橘は呼び止めこちらへ呼んだ。
アリウスさんには俺たちはよくお世話になっていた。
とても優しく、この世界についてよく教えてくれた、恩人だった。
俺もよく剣について教えてもらったっけ……
俺たちはその世界での生活を、はっきり言って楽しんでいた。
みんながいれば、どんな敵でも……そう思っていた。
そしてその日は、訪れた──
いつも通り俺たちはダンジョン攻略を進めていた。
遠藤が先陣を切って、他のクラスメイトのみんなが援護する。
戦闘を教える人たちがあまりいなかったのが原因で俺たちの戦い方はほぼ独学だった。
「佐々木、おかしくないか?
もうダンジョンに潜って1時間が経過してるってのに、1匹も遭遇してない」
確かにおかしい……
俺もそう思っていた、だが運がただ良いだけだと思っていた。
そう、思っていた。
そして俺たちはその領域に足を踏み入れた、踏み入れてしまった。
「ウップ……」
その瞬間、俺はその何かを察知し思わずえずいた。
勘だった、だがそれは今すぐ逃げろと死ぬとそう言っていた。
「大丈夫?佐々木くん、顔色すごく悪いけど」
菊池は俺を心配して背中をさすってくれた。
俺は急いで何かが来ると口を開こうとした瞬間、"それ"は現れた。
ピチャピチャと水を踏んだような音がダンジョン内に響く。
それに警戒してみんなは臨戦体勢を取る。
だが俺は知っていた、意味がないこいつには、何をしても死ぬ。
こいつは死そのもの、触れてはいけないナニカだ。
ひゅん──
その瞬間、俺の勘はそれを捉えた。
俺は近くにいた遠藤、菊池、橘を急いで引きずり下ろし屈ませた。
そして……
ビチャッと不快な音が耳を撫でる。
俺たちは振り向けなかった、何が起こっているのかをその一瞬で理解したからだ。
後ろにいたクラスメイト20名は言葉もなく……息を絶った。
「ヒッ……!」
菊池は、後ろを見た。
俺は知らない、その地獄が広がってあるであろうそれを見たのだろう。
その瞬間体が壊れた人形のように震え始めた。
菊池以外の奴らは目の前にいる、それを放ってきたそいつを視認するため一心に目の前だけを見続けていた。
ピチャピチャとゆっくりと近づいてくる。
そしてそれは現れた。
「"仮面"……」
それを視認した瞬間、理解した。
背筋が凍る、息が詰まる、血の気が引く、その言葉の意味を生まれて初めて理解し、体感した。
身の毛のよだつような死、それが俺たちの目の前には立っていた。
俺たちは恐怖を踏み越え、両の足でなんとか立ち上がる。
だが菊池だけは腰が抜け立ち上がれないようだった。
みんな震えている、一言も喋らなかった。
分かっていたここで俺たちは死ぬ。
だが誰かだけは、生き残らせたかった。
「行くぞぉぉぉ!!!」
恐怖を拭うように鼓舞するように遠藤はそう叫ぶ。
その瞬間俺たちは同時に動き出した。
そして……
まず遠藤が死んだ。
振り上げた両の腕を飛ばされ、痛みを理解する間もなく首を飛ばされた。
血は吹き荒れ体は力無く倒れた。
飛ばされた生首が、無機質な瞳が俺たちを静かに見つめていた。
次に橘が死んだ。
拳の攻撃を左手でいなし、心臓をひとつき。
だがただでは死ななかった、しっかりと仮面にしがみつき動きを止めた。
その隙に俺は仮面の頭を思い切り切り飛ばす。
それでは死なない、俺は全力で後方に下がり菊池を抱えて全力で逃げた。
その時初めて見た、後ろにいたクラスメイトだったものたちを。
そこは地獄というにはあまりにも生ぬるい、そんな光景が広がっていた。
唇を噛み締めながら、俺は仲間たちの屍を足蹴にしただ走った。
10分ほどだろうか、全力で走り続けていると目の前に仮面が現れた。
もういやだった。
俺は後方へ菊池を全力で投げ飛ばす。
「逃げろ!お前だけは生きろ!」
そして戦いは始まった。
いや戦いというには余りにも力に差がありすぎる、蹂躙と言った方が正しいだろうか。
あらゆる攻撃は先を読まれ、カウンターを入れられる。
そして俺は力つき膝をついた。
菊池は、ちゃんと逃れただろうか……
迷っていないだろうか、ちゃんと生きているだろうか。
それしか頭にはなかった。
俺は死を受け入れて目を瞑る。
そしてその仮面は俺に向かって、その剣を振り下ろした。
そして……鮮血がまう。
大量の血液が、大量の血液が俺の顔に注がれた。
だが不思議と痛みを感じなかった。
おかしい、なぜ俺の顔に血液がかかっているのだろうか……
そして俺は目を開けた。
「ぁ……」
そこには、菊池がいた。
そして菊池は力無く倒れ、俺はそれを受け止める。
理解ができなかった、なぜいるのか、なぜ体が切られているのか、理解したくなかった。
だが現実は無情にそれをつきつける、顔にかかる血液が、失われていく体温がそれを告げていた。
「どうして!どうして逃なかった!お前だけは……お前だけは!」
俺は菊池に泣きついた。
体を抱き寄せ、しっかりと抱きしめた。
失われている体温を、少しでも延命させるために強く抱きしめた。
菊池は俺の顔に手を伸ばす。
そして菊池は俺に……キスをした。
「やっと……久しぶり、に顔、見れたなぁ……」
そう言うと同時に腕は下へとずり落ちた。
死んだ、俺の持つ勘がそう告げた。
叫んでいた、誰かが。
汚い声がダンジョンに響いていた。
少しして、喉が痛くなった。
俺だった。
「殺してくれ……もう、いやだ。
みんなのところに行かせてくれ」
俺は菊池を抱きしめながら、その死にそういう。
そしてそいつが剣を振り上げたその瞬間──
俺は光に包まれた、目が覚めると王城だった。
ただ、菊池は魔法が使えた。
そこからはよく覚えていない。
打ちひしがれた、己の無能に。
打ちひしがれた、その現実に。
死のうとした、だが最後に菊池は俺を助けた。
それが俺を縛りつけた。
毎日夢に見る、毎日聴こえる、みんなの声。
俺を恨んでいるのか、羨んでいるのか、俺は願ったできる限り憎まれていることを……
抜け殻になってから数ヶ月が経ったころ、ルナさんが部屋に訪ねてきた。
その手には一冊の本が握られていた。
それは、菊池のだった。
ルナさんは俺にそれを手渡し、静かに去っていった。
それは日記だった。
他愛のないいつもの日常、だがそれは不思議と俺の中にある痛みを取ってくれた。
菊池は俺を好きだった、そう書いてあった。
そこにはクラスメイトが俺をどう見ているのかとかも記してあった。
おかげで気がついた、誰も俺を憎んでいないことを。
そして俺は覚悟を決めた。
俺では仮面を、あの死を殺せない。
だから育てる、勝てる者を、死に打ち勝つ力を持つ仲間を……
***
「ダメだな」
俺は力を込めて、立ち上がる。
まだ育てきれていない、みんなを。
今回がチャンスなんだ、2回も仮面を乗り越えた。
あいつらに俺は教えなくちゃならない。
「だから、どいてくれ」
そしてハイオークは攻撃を繰り出してくる。
右腕。
俺はそれを先読みし、事前に避けて懐に入り込む。
そして剣を強化して体を引き裂く。
左腕。
俺はまたそれを避け、そいつの眼前に迫る。
そして目に刃を突き立て抉り取る。
だが振り解かれ距離を取られる。
そいつは少しばかり震えていた、自分の攻撃が読まれることに。
「【固有スキル】だよ。
俺は人より勘が良くなるんだ、それだけだよ」
そいつは錯乱し、無造作に突っ込んでくる。
そして俺はそれを易々と避け、そいつの喉元を引き裂いた。
「疲れた」
ハイオークは首から血を流し、そして倒れた。
早く、みんなを探さなければ……
そう思い歩き出そうとするが思いの外傷があり、地面に倒れる。
無理か……
俺は目を瞑り、死を受け入れようとした時──
「佐々木さん!」
そしてそこには渚、力、晶が急いでこちらへ近づいてきた。
あぁ……運が良かったな。
その瞬間、俺は意識が落ちていった。




