80話 99階層到達
僕樋口慶はダンジョン攻略を終えた後、転移魔法の試作について気になりルナさんのところへ尋ねていた。
「随分と早く戻ったんですね〜、おかえりです」
「はい、キリも良かったので早めにと……
それでブローチに転移する魔法について聞きにきたんですが……」
僕がそう聞くとルナさんは自信満々な顔で胸を張り答えた。
「実は魔法構築の骨組み、やっと完成したんだよ。
後は実際に構築を進めて魔力さえ足りれば完成ってところまで来たんだよ〜!」
「おぉ!これでやっと……」
伊藤くんをもうじき助けに行けるとなりルナさんはかなり上機嫌になっていた。
実際僕も嬉しく思っており、口角が釣り上がっていた。
「そうだ、そっちは今日何階層まで行ったの?」
「実はですね、今回98階層……攻略できました」
「お〜、そちらももうじき最下層ですか。
早く助けたくて開発を始めたのに、同じタイミングになってしまいましたね〜。
ここまできて見つからないのをみるにやはりあの子は最下層にいるのでしょうね……」
僕と藤宮さんでこれまで行ってきた階層はくまなく探した。
だが伊藤くんの姿はなかった、やはりあの目印通り最下層にいることは間違いない。
だが……最下層は沢山の強敵がひしめく魔境、伊藤くんは本当に無事なのだろうか……
僕はその最悪な考えを振り払っていると、ルナさんが口を開いた。
「突然なんですけど、樋口くんは何故彼を助けるのにそんなにも協力的なのですか?」
「いきなりですね。
伊藤くんを、助けたい理由……」
僕はしばし考え込んだ。
伊藤くんと僕は特別仲が良かった訳じゃない、付き合いの長さで比べたら本当に短いものだろう。
ただ……
「彼は……善人だと、思うんですよ。
僕は出来る限り人の助けになりたい、そういう家訓のもと生まれてきました。
そこで僕、聞いたんです。
伊藤くんは昔、命をかけて友達を助けて記憶を失った……と。
僕は彼に……とても憧れてるんだと思います。
友達のために命をかけられる、そんな人間に。
強いて言えばそれが理由……ですかね」
困り顔で僕がそう言うとルナさんは優しく微笑んだ。
そしてルナさんは口を開く。
「明日も攻略に行くんでしょう?
だったら早く寝て疲れを癒した方がいいですよ」
「はい、失礼しました」
僕は頭を下げたのちその部屋を出て行った。
今回の攻略……柳くんはずっと体調が悪そうだった。
恐らく明日の攻略には来れないだろう、つまり……
僕は原罪のことを思い出す。
いつでもかかってこい、返り討ちにしてやる。
そんなことを考えながら廊下を歩いていると中庭が見え、そこに強い日差しの中で庭を整えているアリウスさんがいるのに気づいた。
「樋口さん……お早いお帰りで」
「まぁ色々ありまして……」
「それでですが、ちゃんと私が課したことをすることが出来ていますか?」
僕はアリウスさんの質問に首を縦に振る。
あの仮面に襲われた時から僕はアリウスさんに修行をつけてもらうことになった。
"課したこと"というのは相手の気配の察知や先読み、部位硬化や気配を隠す技術のことである。
修行を始めてからアリウスさんはそれを僕にダンジョン攻略中、心掛けるよう命じられたのだ。
「よろしい、それを続けていけば必ず強くなることができます。
頑張っていきましょう」
「けど少し気になることが……
僕のスキルは進化します、今の名前は『剣鬼』これから一切伸びないのです。
佐々木さんやルナさんは僕のスキルを『剣神』と言っていました。
恐らくまだ伸びるはず、なのにどうして……」
僕は自分の拳を眺めながらそう言うと、アリウスさんは微笑み頭を撫でた。
「あなたはもちろんとても、とても強い力を持っています。
皆の言う特別な人間というものに当てはまるとそう思います。
けど……それ以前にあなたは一人の人間なんです、それほど思い詰める必要はありません。
あなただけじゃない、周りの人たちもあなたと同じように力をつけているんです。
思い詰めすぎると、背負いすぎるといつか人間ガタがきます。
人に頼るのも大事なんです、本当に……」
その言葉を、アリウスさんはとても噛み締めながら一文字一文字言っていった。
思い詰める必要はない……か。
僕は拳を握りしめて頭を下げた。
「有難うございます。
ですが……こうでもしないとみんなを、助けられないんです」
僕はそう言うとその場を去っていった。
そしてその日はすぐに過ぎ去っていった。
***
そして僕たちはそのダンジョン内にきていた。
メンバーは柳くんと木村くんに三村くんを抜いた5人……
やはり柳くんは来なかった、原罪と関わりがないのはわかっている。
だが……
目の前には魔法陣が輝き続けていた。
そしてそれを踏み、僕たちは光に包まれた。
いつも通りの転移、いつも通りの階層移動、そう思っていた。
だが光が収まり目の前に広がる世界は、そのいつも通りとはかけ離れたものだった。
これは、どうして……!
「皆んなが……いない?」
周りにクラスメイトはいなかった。
佐々木さんも藤宮さんも晶も大島くんも誰もいなかった。
どうして?トラップか?なんではぐれた?
99階層、何が起こっても不思議じゃないということか?
いや違う。
そうだ、そうなんだ今回は──!
『今回は柳くんがいない』
あの仮面たちの仕業っていうのが一番可能性としては高い。
僕が一人なのを見るに他のみんなも同じだろう、どうするどうすれば──!
──ひゅん
そんな軽い……音だった
「──ッ!」
僕は神がかり的な反応速度で剣を抜きそれを後ろへいなす。
それは僕を通り抜け後ろで炸裂、壁が深く抉れていた。
そして先の攻撃が方向からカタコトと足を鳴らしながらこちらに近づくナニカがいる。
剣を納め次の攻撃に全神経を注ぐ。
目の前には、その存在を世界が拒絶するようにひた隠すように深い闇が広がっていた。
久しくぶりに感じる、強い死の気配……
まるで目の前に数々の屍が転がっていると錯覚させるほどの……
「ふぅぅ………」
深く息を吐き、それと共に緊張を洗い流していく。
腰にさしている剣を構える手が震えカタカタと音を立てている。
怖いのだろうか……
みんなと離れ離れになり、スキルも伸び悩みわけもわからないこの状況でこいつとやり合うことが……怖いのだろうか。
いや……違う。
これは武者震い、というやつだろう。
長年待ち焦がれた想い人に会ったようなそんな感覚に近い。
だが例えに出したそれとは抱いてる感情は真逆のものだった。
江口くん、原田くん、溝口くん、和田さん、青木さん、谷本さん。
全員に謝らせてやる。
そしてその数々の幻の屍共を踏み越え、それは闇から吐き出されるように顔を出した。
「お久しぶりです、仮面さん。
再開ついでになんですが……ぶっ殺させてもらいます」
僕は久しく会うそいつに対してそう告げるのだった。




