75話 最後の英雄
「ふぅ……さっぱりした」
俺は風呂を上がり廊下を歩いていた。
あの泣いてたところ誰にも見られなくてよかったな。
多分慎あいつ、気を使って俺を一人にしてくれたんだろう、気の利くやつだ……
「この匂い……もうご飯できてんのか」
俺はそのことに気づきリビングへと向かうと、リリとルル以外揃っていた。
キリサメ、ちゃんと帰ってきたんだな。
そんなことを思いながら座布団に座るとリリとルルが来て、ルルは俺の目の前に座る。
そして手を合わせて「いただきます」と言いご飯を食べて行く。
「おかえり慎二、帰ってこれたんだ……」
「あぁもちろん。
あの石、大事なもんなのに預けてくれてありがとうな」
俺がそう言うとルルは動揺する様子を見せた。
感情をあまり面に出さないルルの動揺に俺は少し驚いた。
「あの石のこと、知ってるの?」
「魔鉱石……だろ?
ルルとリリの魔力が入ってるっていう」
「それだけ?
本当に、それだけしか知らない?」
ルルは俺にそう少し強く言う。
見たことのないその様子に俺は少し動揺しながらも頷く。
そうしていると横にいたリリがルルを宥めて落ち着かせる。
あのルルが、どうして……?
そんなことを聞けるはずもなく、俺はただ静かにご飯を食べすすめて行った。
***
「食った食った……」
俺は自分の部屋に行き、自分の腹を叩きながらそう言う。
皿洗い手伝ったからな〜、ご褒美で甘いもんご馳走してくれるとは思わなかったぜ。
自室へ向かっているとどこからか何か物音がした。
俺は気になり、その音のする方向へ歩いて行く。
そこはベランダにつながっている部屋だった。
そして襖を開けて中を確認した。
「キリサメじゃねぇか、飲んでんのか?」
「おぉ慎二、お前も飲むか?」
「俺は未成年だ、飲めるわけねぇだろ」
そこでは外を眺め、酒を飲みながら座っているキリサメがいた。
キリサメは酒を飲んでいるせいか少し顔を赤くしている。
そんなこと言いながら俺はキリサメの横に座る。
キリサメは手に持っているおちょこに入っている酒を飲む。
「キリサメ、どこ見てんだ?
上なんか見てただの天井じゃねぇか」
俺はキリサメの視線が上を向いていることに気づき聞いてみた。
別に空が見えているわけでもないのになぜ……
「見てたんだよ、この壁の奥にある……夜空をよ」
「はぁ?何も見えねぇだろ、酔ったんじゃねぇか?」
キリサメは酒を飲みながら笑う。
困惑する俺にキリサメは話して行く。
「確かにな。
確かに、何も見えねぇ……ただ、想像してたんだ。
満点の星が広がって、すげぇ綺麗な夜空を……
結構いいんだぜこれも。
期待を、裏切られなくて済むからよ……」
キリサメは笑いながら、だがどこか悲しそうにそう言う。
「あのよ、タシテスの言ってた団体戦の話あいつらに言ったのか?」
「あぁもちろんだ。
お前が風呂に入ってる間に言っておいた。
リリと慎とか雫とか出たがってたが危険な目に遭わすわけにはいかねぇ。
出るのは俺とお前と慎だな、あいつにもいい経験になるだろ」
キリサメはそう言いながら酒を飲んでいく。
ずっと上を眺めているキリサメと同じように俺は空を眺める。
そして一つ疑問を投げかけた。
「キリサメは……何年くらい空を見てないんだ?」
「さて、どれくらいだろうな。
百年近く前の戦争で戦ってた時、ロクに夜空なんて見れてなかったしな……
そんな暇も、なかった……」
キリサメはそう悲しそうに呟く。
百年近く前の戦争、やはり王城で見たモンスターとの戦争でキリサメは……
どれほど、その戦争は過酷だったのだろう。
俺はそのことがどれだけ無粋か、キリサメを傷つけるかわからない。
だが……
「"最後の英雄"……って何なんだ?」
俺がそう問うとキリサメの手はピタリと止まった。
その様子に俺は思わず息を呑んだ。
緊張が張り詰める中、キリサメはゆっくりとおちょこを置き話し始めた。
「ただ殺しただけだ、モンスターを。
何体も、何十体も、何百体も、何千体も、何万体も……ただ殺しただけだ。
どれだけ戦おうが俺は死ななかった、殺されなかった……
だからいつしか仲間は俺を、俺たちを"英雄"と呼んだ」
俺たち……
『布都御魂』の中であった二刀流のやつか……
俺がそう思っていると、キリサメは暗い顔になり話を続けた。
「けど、俺にはそいつは重すぎる……
俺じゃ……逃げた俺なんかじゃ、絶対に務まる代物じゃない。
仲間がつけてくれたそれを、名乗りたくねぇんだ。
死して尚、モンスターになり人間をやめちまった俺なんかに……」
キリサメは顔を俯かせ、そう言った。
俺はキリサメへ言葉を送る。
「"人だ"、人だよキリサメは。
キリサメだけじゃない、この街の人みんな……俺は人だと思ってる。
だから、キリサメ……そんなに自分を卑下するなよ。
あんたは俺を救ってくれたんだから……」
俺はキリサメに、そう告げた。
俺の思ったことを、ただ告げた。
それを聞いたキリサメは一瞬固まった後、優しく微笑み俺の頭を撫でる。
「ありがとな、慎二……
その言葉、嬉しいよ。
ただやっぱり、俺は英雄にはなれねぇよ」
キリサメは酒を持ち、立ち上がる。
「英雄なんかただの人殺し。
背負う命が……増えただけだ」
キリサメは静かにそう告げ、部屋を出て行った。
俺はただその部屋で、座っているだけだった。
次回の投稿は明後日になります。
これからも私の作品をよろしくお願いします。




