72話 烏
「8%」
俺はそう静かに呟いた。
あのカマキリたち召喚するまで少し時間あったからな、ちゃんと出せてよかった。
残り7%しかない、さっさと終わらせる……!
「神体強化」
俺はまず刀に神気を込め刃を強化、目の前にいる二匹に向かって振り首を飛ばす。
横や後ろにいた何匹かが俺に向かって拳や鎌を振るが跳躍し上に逃げる。
25匹ってとこか……
俺は天井に足をつけ部位強化、そいつらの中心部分に飛び降り一匹を踏みつける。
踏みつけた一匹は頭蓋が割れ生き絶える。
そして俺を殺そうと周りにいるカマキリたちが構える。
俺は敵の気を読み鎌に気を込めたことを理解、強化倍率を上げ一瞬で近づいてくる腕を切り落とす。
後ろを一匹に取られ鎌が近づいてくるが宙に舞う腕を掴み、ついている鎌でそいつの首を切り裂く。
残り24、キリねぇな……
そして首を裂き倒れるカマキリの腕を掴み、後ろに近づく2匹に向かって投げる。
そいつらは死体になり向かってくるカマキリをちゃんと受け取っていた。
「仲間意識あんのか、悪いな……」
足を強化し受け止めた2匹、死体ごと胴を両断する。
残り22匹
断面から吹き出す血を全身に浴びながらも俺は止まらずにそいつらの猛攻をいなしていく。
10%……
「しまっ──!」
神気の操作に意識が向き反転率の抑制を怠り、一気に2%上がった影響で一瞬体が硬直、その隙に鎌が刀を持っていた腕を切り落とす。
そして他のカマキリが俺の首を切り落とそうと鎌を振るう。
「少し遅せぇよ」
俺は体を反転宙に舞う左手を掴み、切り落とされてなお右手に掴まれてる刀を振りいるカマキリ全員の首を飛ばす。
残り18匹、早く腕繋げないと……
俺はそう思い断面と切り落とされた腕を繋げようと近づけるがすでに腕は生え掛けていた。
そうか、再生すんのか……!
俺は右手だけを収納し、再生が終わった新しい右手で宙に浮く刀を掴む。
そしてさっき切った、俺の周りで倒れ掛けている死体を足蹴にし1匹が跳躍、鎌に気が込められる。
『風刃』……!?こいつらもできんのか。
俺は飛んでくる前に再度切り落とされた右腕を排出、そいつの顔面に向かって投げつける。
飛来するそれに当たったカマキリは体勢を崩し、溜めていた『風刃』は明後日の方向に飛んでいく。
そして俺は飛んでそいつとの距離を詰め、そいつの首を切り落とした。
重力に従って落ちていく死体を足蹴に天井へ跳躍、天井に手をつき岩を操作して手すりを作り空中で待機する。
落ち着け、神気の抑制を怠んな……
現在の反転率は11%だから残り猶予4%、もしかしたらタシテスとも戦うかもしれねぇ。
残り17匹、"あれ"で一気に潰す!
***
「神気の……刃?」
「あぁ、気と同じように飛ばさんじゃねぇかってよ」
俺とキリサメはいつもよように将棋を指しながら話していた。
確かに操作感は気より難しくなるが出来そうではあるか……
「そんで俺、それの名前考えたんだ」
「名前……?
いいだろ『黒刃』とかで」
「いやダメだ、俺が頑張って考えたんだ。
素直に受け取りやがれ」
そんな大事なことか?とか思ったが、キリサメが考えてくれたことから聞いてみることにした。
「で……名前なんて言うんだよ」
「神気、黒系だろ?
だからそれに沿り、空を悠々と過ぎ去る烏をイメージし尚且つ黒のイメージも崩さないように考えた。
その名は……」
***
俺は手を離し飛び降りながら刀に神気を込めていく。
そして地に落ち、しゃがみ込みながら刀を抜く。
「『這烏』」
刃に込められた漆黒の神気が空を這い、そいつら全員の胴を両断した。
やっぱ、ダサくね……?
そんなことを考えていると急にタシテスが拍手をした。
「よくやった、流石だね。
随分と強くなったもんだ」
「随分と強くなった?
上から目線かよ」
「いいだろう?
だってアンタが強くなったのは私のおかげでもあるんだから」
……は?
俺はその話に目を見開いて驚いた。
俺が強くなったのが、こいつのおかげだと?
「ほら、あんたが最初に最下層に来た時……
ゴブリンとか亜人とか、いっぱいいただろう?」
それって……!
その時、キリサメの言っていたことを思い出す。
キリサメも同じような予想してたな、予想が当たってたってことか……
「お前が……モンスターをたくさん放ったってのはわかった。
けど何が目的なんだよ?」
「"アンタを強くするため"って聞いてるがね」
俺を、強くする?
それに聞いてるって……キリサメの言っていた外にいる協力者って見たほうがいいか。
「俺の持ってるこの力と何か関係あんのか?」
「そこまでは知らないよ。
ただアンタを強くしろとだけしか言われてなかったんだ。
だから気になってアンタを捕まえようとしてんだよコッチは」
なるほど……執拗に俺を捕まえよう画策してたのはそれのせいか。
「一つ聞く……
お前、"仮面の男"について何か知ってるか!?」
「"知ってる"」
「反転率15%『這烏』!」
俺はそれを打ち着弾と同時に爆ぜさせ目くらまし、一瞬でタシテスとの距離をゼロにする。
そして神気を刀に込めていく。
神気も気と同様、爆発させることができるなら……!
「『不倶戴天』!」
「知ってるよ、その技は。
水球」
そして大きな水の玉を生成、俺の刀にぶつけようと近づける。
「俺も知ってるよ、それは……『収納』」
俺は刀を収納し、その水を避け腕を上に掲げる。
慎の案が役に立ったな!
「『排出』!」
そしてタシテスにそれを振り下ろす。
その刃はタシテスを引き裂き、そして爆発した。
俺とタシテスの体はその衝撃で後方吹っ飛び、尻餅をついた。
「……はっ!俺、殺しちまったのか!?」
思わず、怒りのあまり加減を忘れた。
あの仮面にたどり着ける糸口だってのに。
「やっぱり【固有スキル】かい。
カマキリと戦ってる時に見たはずなんだけどね」
「は?」
そう煙の奥からそんな声が聞こえた。
ありえない、俺は確かに胴を切って……
「ありえない……って顔してんじゃないか」
すでに目の前にタシテスが立っていた。
俺は一瞬で距離を取り、刀を構える。
どうして生きてんだ?!それにいつ近づいて……
「死んだら死ぬだろう?」
「……え?」
「だから死んだら死ぬだろう?
そりゃそうだ、死んでるんだから……
それがみんなの持っている"一般的な"イメージ、"概念"だ」
何を、言って……
いやわかっている、こいつの言いたいことが。
こいつのスキルは"概念操作"、一般的なイメージを自由に操る。
つまり……
「私は、死んでも死なないんだよ。
これが私のスキルの真髄さ、驚いてくれたかい?」
「死すら否定するスキル……
そんなのチートすぎだあ゙」
しまっ──!
その瞬間、神気が暴れ出す。
それを抑えようと必死にうずくまり、耐える。
ダメだ、暴走しちゃ……ダメなんだ!
「あら、もう時間かい。
まだ完璧に操れてないらしいね、暴れられたら面倒だし……
眠ってもらうよ」
瞬時に俺との距離をタシテスはゼロにし、俺の腹部に強烈な一撃を叩き込み、そのあまりの衝撃で壁まで吹っ飛び壁に数十センチめり込んだ。
「ガハッ……!」
その衝撃で俺の神気は消えていく。
何とか……抑えられた。
俺が意識を保っているのにタシテスは驚いた表情を浮かべる。
「へぇやるじゃないか……
とりあえず、私についてきてもらうよ」
「そりゃダメだ」
「──ッ!」
その時、聞き覚えのある声が鳴り響いた。
俺の目の前に誰かが立っている。
掠れる視界を何とか起こし、その人物を視認する。
「キリサメ──!」
「よぉ、今回は暴走しなかったな。
よくやったぞ、慎二」
その刀を携えた男は俺にそう告げるのだった。




