71話 概念
俺はタシテスの横にいるそのフードに目を向けた。
あれがキリサメから聞いた、合成獣ってやつか……
「さて……始めようかね」
「戦うのはその横にあるやつってことでいいんだよな?」
「あぁ、そうだよ」
タシテスがそういうと合成獣がフードを脱いだ。
緑色の肌、昆虫みたいな瞳、膝に生える鋭利な鎌、カマキリみたいって聞いてた通りだな……
そんでキリサメが言ってた通りならこいつにはもう一つ……
その時、そいつは動き出し俺との距離を一瞬で詰める。
俺は部位硬化を腕に回して受け止め、反動で後ろに飛ぶ。
すげぇ威力、腕痺れちまった。
俺は腕をプラプラとさせながら相手を観察する。
あいつの素のパワーは相当なもんだ、硬化で受けても完全に防御できねぇ……こいつ、オークじゃなくてハイオークの間違いじゃねぇか?
そんなことを考えていると俺との距離を詰め、殴りかかってくる。
その瞬間、俺はしゃがみ込むことでその攻撃を避け、刀を抜き腕を切る。
だが切ろうとした瞬間、体を前に倒し鎌に刃を当てそれを防御、浮いた足で俺を蹴り飛ばす。
部位硬化で守りながらその攻撃を受け止め、刀に気を込める。
『天絶』を撃とうと身を翻し相手を視認するがもうすでに目の前に拳が迫っていた。
何とかその攻撃を避けるが鎌が俺の頬を掠め血が流れる。
「──ッチ!」
刀を鞘から抜きそいつの胴を両断しようと振り上げる。
体をのけ反らし両断とまではいかないが深い傷を与え、カマキリは一度距離を取ろうと後ろに飛ぶ。
「いいのかよ、逃げちまって?
もう溜まってんぞ」
その言葉にカマキリは焦った様子を見せ避けようと身を翻す。
遅せぇ!
そして俺は刀を振り下ろし『天絶』を──
その瞬間、タシテスが指を鳴らす。
「……は?」
『天絶』は放たれなかった。
違うな、あの一瞬気が使えなくなった。
俺はあの時タシテスが指を鳴らしたことを思い出し睨みつける。
これが、キリサメの言ってたスキルの力か……!
***
時は1日前まで遡る。
俺は修行を終えた後の食事中、ライオッドが【固有スキル】を持っていたことを思い出しタシテスも持っているのではないかと思いキリサメに聞いてみた。
「あぁあいつのスキルか……」
キリサメはそれを聞くと箸を置き、タシテスのことを話し出した。
俺は勿論、慎やリリやルルも一応話を聞いていた。
「あいつのスキル、名は"概念操作"だ。
慎二、概念って言葉の意味知ってるか?」
「確か、ある物事に対する一般的なイメージとか考え……だっけか?」
「そうだ、あいつはそれを操っちまう」
概念を操る……
あんまイメージ湧かねぇな。
聞いていたみんなが困惑しているとキリサメは例え話を交えながら解説してくれた。
「例えばお前ら、箸とかにどういうイメージ持ってる?」
「食事に使うもん」
「食べ物とかを挟むためのもの」
「えっと……棒?」
俺と慎が早く言ってしまったので、他のものを言おうとリリは頭を悩ませながら答えた。
「まぁそんなもんだな。
だったら聞くが、箸で人は切れるか?」
「切れるだろキリサメなら」
「そうだな」
「確かにそうね」
「言い方悪かった、"一般的なイメージ"でだ」
俺たちはその質問に当然のように首を横に振る。
箸は切れない……それを一体どうやって操るんだ?
「そうだ、一般的なイメージでは箸では人は切れないって考え。
あいつはそれを変えちまう。
箸で人は"切れない"から箸で人は"切れる"にな。
あいつが本気になればこんな箸でも世界最強の何でも切れる剣に変わる」
「師匠、だったらよ……
"刀"だったらどうなんだ?」
「──ッ、それってまさか?!」
慎のその言動で俺の頭には一つの最悪の考えが浮かぶ。
そうであって欲しくない、その気持ちは簡単に砕かれた。
「あぁ、あいつの力なら刀は"何にも切れないナマクラ"に変わっちまう。
だが慎二、お前の場合方法はある」
「"神気"か……!」
「あぁそうだ、あいつが操れるのは一般的に知れ渡ってるものだけ。
つまり皆んなが知らない力を使えばいいってわけだ。
けどこれは一つの手段に過ぎないってことを忘れんなよ」
***
そして時は現在に戻る。
今どうやって変えたのかは知らないが刀に込めてた気が消えてった。
気を使えなくするってチートすぎるだろそのスキル、やっぱ神気使うしかねぇか……?
けど使う隙をこいつが与えてくれるとは思えねぇ、固執しすぎんな俺。
俺が頬に流れる血を拭っているとタシテスが口を開いた。
「聞いてるだろ、私の力。
これが私のスキル"概念操作"だ。
いくら『天絶』撃とうとしたって私が止めたら意味ないよ。
あんたにこいつは殺せない、さっさと降参しな」
2対1とか卑怯だろ、って言ってやりたいが元々タイマンの約束でもなかったらしいしな、ライオッドが物好きってだけか……
「けどよお前が気を使えなくした瞬間、その昆虫野郎の身体強化解けたろ。
つまり俺だけ消せるってわけじゃねぇんだろ?
それに自力は俺が負けてんだからずっと気を使えなくしときゃいいのにお前一瞬で解いたじゃねぇか。
お前、ずっと消せるわけじゃねぇんだろ?
んじゃ殺せる」
そしてもう一度刀に気を込め『天絶』を放つ準備をする。
またタシテスは気を消そうと指を鳴らそうとした。
その瞬間、一瞬で足に気を回しそのカマキリとの距離をゼロにする。
そして俺はそいつの首に刃を振るう。
パチンッ──
「っぱ切れねぇか!」
鳴らすと同時にカマキリの首に刃が当たるが切ることは叶わなかった。
それに気も使えない、同時に2つ操作できんのか?!
その瞬間カマキリは鎌を俺の目に向かって振るう。
避けるのギリ間に合わなそうか、だったらやってみっか?!
俺はカマキリの首に刃を密着させたまま、逆に鎌に顔を近づける。
受けると同時に俺は後ろにのけ反り倒れる。
俺は右手に持っている刀を左手に持ち変えそいつの腹に向かって刀を振るう。
その衝撃でカマキリは壁に吹っ飛び背中を壁に叩きつける。
「やっぱり、切れてねぇな!」
そう、鎌を受けたはずの目は全く切れていなかった。
操作する時刀ではなく鋭利なものとかで変えたんだろう。
この世界に来てから刀なんてここ以外で全く見たことなかったからな、概念ならもしかしたらってドンピシャだ。
「────ッ!!!」
カマキリが壁から這い出て俺に突撃、拳を振るう。
だが……
「遅せぇよ、もう戻った」
そして俺は刀を振り下ろし、『天絶』を放つ。
そのカマキリは真っ二つに両断され、断面から血を吹き出し倒れていった。
そして俺はタシテスと向かい合う。
こいつ相手は骨が折れる、できるなら神気使いたいな。
「よくやったね伊藤慎二。
この短期間でそいつを倒せるほど成長するとは思わなかったよ。
けどまだあれを見せてもらってないんでね、第2ラウンドと行こうじゃないか?」
その瞬間タシテスは手元に杖を出現させる。
今の魔法、どこかで見覚えがある。
こいつ……俺とルナさんで作ったあの魔法、今使わなかったか?
そしてその杖を地面に叩きつけた瞬間、地面に数々の魔法陣が出現する。
「まさか?!」
そこから出現したのはさっきのカマキリだった。
だが一匹じゃない、それは何十匹も魔法陣から出現したのだ。
「さぁ行こうじゃないか」
俺はそこでただ、立ち尽くしていた。
──────────────────
タシテスは思っていた。
さっきの戦闘、カマキリ相手に優勢ではあったが勝負にはなっていた。
この数なら絶対にこいつをやれる。
タシテスはカマキリたちに指示を飛ばし、一斉に慎二に向かって突撃する。
確信していた、自身の勝ちを……
確信していた、これで終わると……
だがそれは突然、現れた。
「反転率」
慎二がそう言うと共に風が吹き荒れ、そいつの様相は変化していく。
これは、やはり……!
慎二の髪は一部白く染まり、黒い翼が片翼生え、その体は闇に染まっていた。
「8%」
その男は小さくそう呟くのだった。
お盆期間は18時に投稿します




