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59話 制御


 そして俺は自分の部屋で目を覚ました。

 俺、修行してたはずなのに…‥まさかまた暴走を……

 立ち上がり、部屋を出てリビングへ向かう。

 そこではご飯の準備をしている雫さんがいた。


「あら起きたかい、これから夕ご飯だから皆んなのこと呼んできてくれないかい?」


「分かりました……」


 俺はリリとルルの部屋へ行きご飯ができることを伝えた後、慎の部屋へ向かった。

 暴走状態のことをよく覚えてはいない、もしも慎が大怪我を負っていたら……

 そんなことを考えてしまうと思わず襖を開ける手が止まってしまう。

 俺は必死に笑顔を取り繕いその扉を開けた。


「……あれ?」


 そこには誰もいなかった。

 すれ違ったのかと思い俺はキリサメの部屋へ向かっていると、庭に通じる部屋から声が聞こえた。

 そしてその襖を開けるとそこではまだ修行を続けている慎、それに付き合っているキリサメの姿があった。

 いつもならもう切り上げてるのに、どうして……

 そして呼びかけようと声を出そうとするが、あるものを見て言葉が詰まった。


 慎は複数の切り傷を負っていた。

 いくらキリサメでもあそこまでやらない。

 俺が、やったのか……?

 そんなことを考えているとキリサメが俺に気づき修行を中断させた。

 その瞬間、慌てたように慎は後ろを向いた。


「お〜慎二、起きたか!」


「う……うん!

 もう、ご飯できてるって!」


 俺がそう言うとキリサメがこちらへ向かってくる。

 そして慎は汗を流しながらキリサメに続いてこちらへ来る。

 さっきまで負ってた、慎の傷が消えてる……?

 俺に、気を遣わせないために……

 その様子に思わず俺は拳を握りしめる。


「あっ、慎……」


「ん、どうしたよ?」


 そして俺の横を通り過ぎる慎を呼び止めた。

 俺は謝罪をしようと思ったが、慎の目を見たら思わず言葉が発せられなかった。


「やっぱり、何でもねぇわ……」


「……そうか、さっさと行こうぜ」


 そして慎が前を歩き、リビングへと向かっていく。


「俺、情けねぇなぁ……」


 そして俺はボソッと自分自身にそう呟くのだった。


***


 俺はご飯を食べ終わった後、風呂に入っていた。

 いつもは慎も来るが、「やりたいことがある」と言いどこかへ行った。

 恐らく修行の続きをするのだろう。

 なのに、俺は……


「あんな啖呵切っといて、何してんだよ」


 駄目だな、少しのぼせたか……

 俺はさっさと服を着て髪を乾かして浴場を出ていく。


「あっ伊藤慎二」


「あぁ、ルルか……」


 そこで風呂上がりのルルとばったり会った。

 うちの風呂は男湯と女湯、出口が近い理由で出てくる人と会うのは珍しくない。

 ルルは足早にこの場を去ろうとしていたが、俺は思わず呼び止めた。


「何か、用?」


「少しだけ手伝ってくれないか?」


 俺はルルを連れて庭へ繋がる部屋へ向かい、外を眺めながら床に座っていた。


「聞きたいん、だけどよ……」


「あぁ、暴走した時の話?」


 俺の様子から察したのかルルはそれを言い当てた。

 首を俺は縦に振り、ルルに暴走した時のことを教えてもらった。


「すごかったよ。

 髪が全部白く染まって、羽みたいなのが生えて、唸り声上げてたり。

 止めるの手間取ってた」


「慎のこと、怪我……させてたか?」


 ルルは迷う様子を一瞬見せたが、その問いにルルは首を縦に振った。

 やっぱり……慎を、俺は怪我をさせて。

 分かっていたことだ、それを承知で俺はしたはずだ。

 だけど実際見てみるとどこかくるものがあった。


「慎、ずっと修行してるでしょ?」


「あぁしてたな、今も多分……

 それがどうか──」


「止めたいんだって」


 何を、止めたいんだ?

 俺はその言葉の意味が分からずフリーズしているとルルはそれについて話をしていく。


「『今回慎二が暴走した時、全然力になれなかった。

 時間も掛けちまった、慎二が苦しんでるかもしれないのに……

 だから次は慎二を"俺が"止めてやりたい』って慎、言ってたよ。

 "慎二のため"にね」


 "俺のために"、慎が……

 その事実に思わず俺は目頭が熱くなった。

 俺は上を向き、目に涙が溜まっていく。

 俺、助けられてばっかじゃねぇか……

 目に溜まった涙を袖で拭いていく。


「聞きたいんだけど、何で慎二は暴走しちゃうの?」


 ルルの質問に俺はあの時の感覚を思い出しながら、伝わりやすいように説明していく。


「あの状態になると、衝動?物凄い勢いで流れ込んでくるんだよ。

 跳ね上がりそうなパーセンテージを必死に抑えてるんだ。

 ギリギリ抑えられるけど、神気の操作まで意識を回せないんだ」


「……だったらさ、"抑えなければいい"んじゃない?」


「え……?」


 その言葉に俺が困惑していると、ルルの考えを説明していく。


「ちょっと今の発言は言い過ぎたかも。

 正しくは抑えるパーセンテージ的なものを最小限にすれば神気にリソース割けるんじゃないかってこと」


 最小限に……

 言葉で言うのは簡単だけど実践するとすごく難しいだろう、だけど確かにそれだったら……

 今すぐに試してみたいが、今はルルしか──


「いいよ、実践してみて。

 私が"絶対に"止めるから」


「……ありがとな」


 そして俺は立ち上がり、庭へ出る。

 思い出す、あの時の怒りを……

 あの沸き立ち、腸が煮えくりかえるほどの憤怒を……


──────────────────


 俺、大雲慎は剣道場でキリサメと修行をしていた。

 次は、俺が慎二を止めてや──


「──ッ!この気配って!」


「はっ、あいつやりやがったな!」


 慎とキリサメは剣道場を出て、庭へと向かう。

 そして、慎は見た。

 それは、真っ黒なはずの髪の2割程度が白髪になり右肩に小さい黒い翼を生やしていた。

 それは天使と言うにはあまりにも禍々しく、悪魔と言うには余りにも神々しい……



「8%」



 そしてそこに立つ伊藤慎二はそう告げるのだった。


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