55話 自殺……?
「ここは……医務室?」
僕はその真っ白の部屋のベッドで目を覚ました。
あれ、僕何でここに……
「──ップ」
僕はそれを思い出し、込み上がるそれを抑え洗面台に駆け込み水を溜める。
そして、抑えていたそれを吐き出した。
「オエッ……プ、ゴホッ」
僕は……江口くんが……
流れ出る涙がポタポタと溜めた水に垂れた。
「どうして、どうして、何でこんなことに……」
僕はその部屋で虚しくそう告げた。
酷い顔してるな、僕……
水面に映る自分の姿に思わず呆れてしまった。
「起きた?慶……」
「あ、きら?」
そこにはパンと水をお盆に乗せて運んできてくれた晶が立っていた。
晶はドアを閉めてベッドの横にある棚にお盆を置く。
こっちにこいと言わんばかりに手招きするので僕はベッドへ戻り布団に入り座る。
そして横にある水を飲んで口に残る不快感を取り除いた後、パンを食べすすめていく。
「死んでたよ、江口くん……」
その言葉に僕は食べ進める手を止める。
僕は顔を俯かせ、晶の話を聞く。
「木村に三村以外は全員……
辛いのはわかるけど自分でなんて……」
「江口くんは……自殺って判断されたの?」
「……え?
うん、医者の人がそう言ってた」
その時、僕は何か引っかかりを覚えた。
喉に魚の骨が引っかかったようなそんな不快感。
僕は手に持っているパンをすぐに食べ、残っている水を一気に飲み干した。
「死体、どこにある?」
「何でそんなことを……」
「確認、したいことがあるんだ」
僕がそういうと晶は暗い顔を見せ、渋々教えてくれた。
お礼を言った後、僕は医務室を出て死体が置いてある安置室へ向かった。
その様子に晶は心配のようで一緒に安置室へ向かう。
「どうして?みんなの亡骸を見ても何も、苦しいだけだよ……」
「それよりも優先するべきことがあるんだ。
僕の予想が正しければ……」
僕はそれを言おうとしたがまだ確証を得ていない事を言うのはどうかと思ったから言い淀んだ。
城内を確認しながら歩くが、その様子はいつも通り変わらずの様子だった。
そして安置室へ着くとその近くに1人の兵士が扉を塞ぐように立っていた。
その男はあくびをしていたが、僕が来たのに気づくとそれを噛み締める。
「通してもらえますか?」
「それはできかねます。
樋口様は先ほどお気を悪くされて倒れてしまったでしょう」
「通してください」
怒気を孕んだ声でその兵士を脅すように僕は言う。
今までで初めて僕は人に怒りをぶつけた。
その兵士はその様子に驚いたのか冷や汗をかきどいた。
「それとあなたの持っている剣、少し貸してくれますか?」
「それは……わかりました」
僕はその剣を受け取り腰へ差しその部屋に晶とともに入るが開けても臭いを外へ逃さないためか、二重扉になっており僕はもう一つの扉を開けるためその長い廊下を再び歩いていく。
「さっきの兵士さんへの態度、流石に良くないと思う。
それに剣まで奪うなんて、いくらクラスメイトが亡くなったからって、前はそんなに──!
いや、何でもない……」
晶は言いかけたその言葉を必死に噛み殺しながら止める。
僕はそのもう一つの扉へ手をかけて開けた。
そこには江口くんは含め六人の亡骸が置いてあり、元の世界と同じように青いシートに身を包んでいる。
晶は合掌しみんなにお祈りをする。
僕は強引にチャックを開けその遺体を確認する。
江口くん、原田くん、溝口くん、和田さん、青木さん、谷本さん。
全員の遺体を確認した、そして江口くんと同じ状態だった。
「クッッソ……」
僕がそういうと、その時晶は無理やり僕を振り向かせそして思い切りビンタした。
頬にジンジンと痛みが走り、ぶたれたところを抑える。
「一旦、頭冷やせ馬鹿野郎。」
「晶……?」
「あんたが今しなくちゃいけないのは、まずみんなに向かって祈る事でしょ?
何1人突っ走ってクソだのなんだのふざけないでよ。
私たちじゃん"従兄弟"じゃん。
あんたが善人振って背負おうとするのは知ってるけど、私にくらいはそんなカッコすんじゃないわよ……
こっちだって、いっぱいいっぱいなの……
もう、心配させないでよ」
「ごめん、晶……」
晶はそんな苦しそうな声で思いの丈を吐き出し泣きながら縋り付く。
僕は、頭に血が上ってたのか……
何度か僕は深呼吸をして心を落ち着かせた。
晶も少しだけ落ち着いたようで、さっき事を思い出し少し顔を赤くしていた。
チャックを閉めて僕はちゃんと合掌し祈りをする。
教えてくれてありがとうね、みんな……
そして僕は部屋を出ていきある場所へ向かっていく。
「結局何がしたかったのか教えてくれるのよね?」
「あぁ、ここから話すのまだ仮説だけどかなり信憑性が高くなった。
ちゃんと聞いてて」
僕は全てを晶に話した。
何について引っかかっていたのか、どうして遺体を確認したのか、なぜ佐々木さんのところに行くのか……
「まさか、そんなことって……!
いや、でも……」
僕の仮説に晶も思い当たる節があるようで完全には否定しきれていなかった。
「だからこれから答え合わせに行くんだ。
晶、少し付き合ってもらってもいい?
佐々木さんに会いにいきたい」
「分かった」
僕は扉を開けて、さっきの兵士さんと目が合う。
さっきの行動でかなり怖がられたようで、畏怖の目を向けられる。
僕は急いで頭を下げた。
「さっきはすみませんでした。
頭に血が上りすぎてました……」
「いえっ……大丈夫です。
仲間が亡くなって、取り乱すのはわかりますので」
「本当に申し訳ないのですが、まだこの剣を借りていてもいいですか?
明日、返しますので……」
僕は再度、深く頭を下げた。
その兵士さんは一瞬苦い顔をしたが承諾してくれた。
そして僕は晶とともに佐々木さんの部屋へ向かった。
***
僕たちは佐々木さんの部屋に着き扉を叩く。
寝巻き姿の佐々木さんが顔を出す。
「あぁお前らか、どうか──」
僕の腰に携えている剣を見た瞬間、顔つきが変わる。
そして僕のことを鋭い目で見つめる。
その様子に僕と晶は冷や汗が流れる。
「立ち話も何だろう、入れ」
その言葉に安堵し僕たちは佐々木さんの部屋へ入る。
部屋の中はベッドや剣、浴場があり、ベランダもあった。
そのベランダは王都を一望できるようにできていた。
そして佐々木さんはベランダに行き、僕たちは後をついていく。
着くと佐々木さんはワインを飲んでいたようで、ベランダの机の上に飲み途中のグラスが置いてあった。
「話があるんだろう、聞こうか」
佐々木さんが王都を眺めながらワインを飲みすすめる。
僕と晶は佐々木さんの隣に行きことを話していく。
「佐々木さんも知っていると思いますが僕のクラスメイトのことについてです」
「あぁ6名が死んだ話か、確かお前が第一発見者だったか……
それがどうかしたか?」
僕はその発言に顔を顰め、仮説の信憑性がさらに上がった。
「えぇ僕は江口くんの遺体を目の前で見ました。
それで少し引っかかるとかがあったんです」
僕がそう言うと、ワインを飲む佐々木さんの手が一瞬止まる。
「江口くんの首にはかきむしったような跡があったんです。
手が血だらけで剥がれた皮が爪に挟まっていたのでおそらく自分でやったものでしょう」
「………」
「なぜ、江口くんは首を掻いたのか……
それは恐らく、首に縄があって"苦しかった"から。 もしそうだったらおかしいんですよ。
自分で死を選んだはずなのに、何でそんな生きながらえようとする行動をしたんでしょうかね」
「首を吊った後、やっぱりまだ生きたいって思ったからじゃないか……?
そしたらその行動にも辻褄が──」
僕はその言葉を遮るようにその事実を告げる。
「他に亡くなった全員にも同じ跡がありました。
6人全員が生きたいって思ったってことですか?」
「そうかお前は友達が誰かに殺されたと言いたいんだな。
だがそれはまだ仮説だ、事実じゃない」
「えぇそうです、これはまだ仮説です。
けどね、まだあるんですよ」
その言葉に興味が出たのか佐々木さんはこちらを向く。
「僕は起きて、この城内の様子を見ていました。
人の様子を中心に。
そしたら、全く"変わっていなかった"んですよ。
おかしいですよね、転移者が自殺したっていうのに。
それに、さっき佐々木さんは言っていた。
6名が死んだ話、と言いましたね。
目の前に6人の友達を失った人がいるのに、よくそんなことをのうのうと言えますね。
まるで"慣れてる"みたいに」
「何が言いたい」
「じゃあ聞きます。
これは"何回目"ですか?」
その瞬間、空気が震えるのが分かった。
佐々木さんは一度大きくため息をつく。
「やはり、勘のいい奴は気づくか。
隙を見せたこちらも悪いか」
「認める、ということですね」
「あぁ認める。
けどお前の言っている自殺に見せかけた殺人のことは俺は関わっていない。
まぁ俺も仮説としては考えていたがな……
そうだな、お前の質問に答えるなら、これは"6回目"と言うべきか」
「そんなに仮説としてあったのならなぜ調査を……!」
佐々木さんは一息つきグラスをテーブルに置き、その理由を話していく。
「じゃあ聞くがなぜ自殺に見せかける?
もし外部の人間が毎回殺しているのなら別に見せかける必要性はあまりないだろう」
「つまり、王城の関係者……」
「そうだ、その中には神宮教、魔法協会、ギルドさまざまな勢力が候補に上がる。
こちらも防ごうとはしているが絶対にうまくいかないのだ」
僕はそれを聞き、妙な納得感を覚えた。
たまに廊下に兵士の人たちが立っていたりすることも多々あった。
全ては守るためだったのか……
「もう一つ、聞きたいんですが……
僕たちが仮面と接触した時佐々木さん、あの仮面を知っているような発言をしていませんでしたか?」
「……そうだな、お前らにも話しておいた方がいいか。
実はあの俺は今まで何回もあの仮面と対峙したことがある。
俺が知っているのは3つだけ。
あいつの狙いは転移者を殺すこと。
どんな階層でも現れ、神出鬼没。
そして、人並外れた力を持っているということ。
それが俺が知っていることだ」
「じゃあ"今回は特別"という発言は?」
僕がそう言うと佐々木さんはワインを注ぎ、それを飲みながら教えてくれた。
「今まで、転移者たちにギルドの人間が警護ならつくということはなかったのだ。
だから俺は今回は特別だと思っていた。
待ちに待った【剣神】が出てきたんだからな」
「ルナさんも言ってましたが、そのケンシンとは何なんですか?」
「あいつ、やっぱり口軽いな……
お前のスキルの最終進化先だ、それが【剣神】。
その力はな神が自分で作ったとされるスキルなんだ。
故に強大な力を秘めている。
だから今回は特別と思っていた。
だが本当は違かった、あいつはお前を全力で殺しに来ていた。
あいつの目的は、何なんだ?」
あの仮面の……目的。
なぜあいつはあの時に来た?
あの強さ……僕らを殺すチャンスなんていくらでも。
ギルドの人がいなかったからか?でも今回も同じ条件……
あいつが来た時と今回は何が……
あの仮面が来た時に、いなかった人物……
柳、蓮……?
いやそんな訳ないか。
だがそう思う反面、どこか僕はその仮説を信じていた。
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「こいつは少し……やべぇかもな」
キリサメは"それ"から隠れながらそう呟くのだった。




