54話 どうしてどうして
「お前ら!荷物はちゃんと積んだか?!」
「はい、持ちました佐々木さん!」
僕、樋口慶とその一行は再びダンジョン攻略へと繰り出そうとしていた。
前の仮面の襲撃を経て、少し期間が空いてしまったが皆んな元の調子を取り戻したようだった。
僕もアリウスさんのおかげで少しは強くなれた。
僕たちが馬車に荷物等を積んでいると僕に近づいてくる人がいた。
その人は糸目で髪はピンク色、三つ編みを右側に垂らしている。
江口真くんだった。
「慶、悪りぃな俺行けなくて。
僕も行きたいけど、この調子でな……」
そして江口くんは震える右手を見せてくる。
江口くんと木村くんに三村くんは前の仮面との戦闘での受けた傷がまだ癒えてはいなかった。
僕は心配させないよう笑顔を作り……
「大丈夫……
江口くんはゆっくり休んでていいから」
「ありがとな慶。
けどまぁ逆に良かったかもな、ほら僕ゆっくりグダグダすんのとか結構好きだし〜」
江口くんも精一杯の笑顔で答えてくれた。
僕たちは馬に乗れないので、荷車に乗り王都を出てダンジョンへ出発した。
今回のメンバーは僕と佐々木さん、藤宮さんに晶、柳くんに大島くんの計6名で攻略を開始する。
前に比べて随分と減ってしまった、前はもっと賑やかだったのにな……
「てか、馬車での移動とか怠くね?
ダンジョンの近くとかに転移魔法陣とか作ればいいのによ……」
柳くんはこの重い空気を切り替えようと話を振った。
その様子はどこか体調の悪そうな様子で彼は脂汗をかいていた。
柳くんは意外と気配りもできてちゃんとしてるのに、伊藤くんのこととなると我を失うのはなぜなのだろうか……
「前も言っててだろう。
神宮教の人たちがそれを許さないのだ。
彼らがダンジョンの利権を持っているから、言う事を聞かねばならないのだ」
大島くんはその気遣いに気づかず、そんな事を言ってしまう。
「まぁそうだけどよ……」
今回もギルドの人たちはいない。
前回と同じ状況が僕たちな緊張を一層高めていた。
無言の時間が続いているとその空気に耐えかねたのか藤宮さんがどこからか本を取り出し読み始めた。
「藤宮さんそれって前読んでた小説?」
「うんそうだよ。
やっと更新されたから読んでるんだよ」
「へぇ渚、最近小説ハマってんだ。
どんなお話なの?」
その話に興味が惹かれたのか晶が割って入ってきた。
藤宮さんは口に手を当てて、少し考え込む。
「主人公がいろんな敵と戦って強くなってく、戦闘モノのお話だよ」
「へぇ私も読んでみようかなぁ……」
「えっと……その」
晶がそう言うと藤宮さんは頬を少し赤くする。
その様子に僕と晶は首を傾げた。
「実は……これ私が書いてるお話なんだよね」
「え!?見せて!」
「いやだよ晶。
私まだ力不足で全然なんだから!」
珍しく感情を思い切り面に出す藤宮さんを見て、皆んなの肩の荷が少しずつ降りていくのを感じた。
藤宮さんは今日の朝、伊藤くんをを助けられるって話を聞いてから少しずつ元気が出てきたような気がする。
「そろそろ着くぞ!」
そうこうしていると佐々木さんがそう僕たちに告げた。
僕たちは荷物を背負い出撃の準備をした。
そして僕たちはそのダンジョンについた。
「久しぶりって感じがするな」
「そうだな樋口」
僕がそう言うと横から急に柳くんが話しかけてきた。
彼は伊藤くんをダンジョンに閉じ込めた張本人、警戒して臨まないと……
「悪いな樋口。
さっき場を盛り上げてくれて、俺じゃ力不足だった」
柳くんはそんな事を言い、僕にお礼を言った。
僕は思いもよらないその行動に焦りを見せる。
「いや大丈夫だよ。
というかあれは藤宮さんのおかげだから、別に僕のおかげってわけじゃないよ」
「けど……ありがとうな」
柳くんはそう言い離れていく。
彼は一体何なんだろうか……
伊藤くんに厳しい態度をとる反面、それ以外には今のような優しい態度で接する。
「本当の君は一体……」
「さぁ!お前ら中に入るぞ!」
今回挑むのは61階層、前の仮面と戦闘があった場所……
僕たちは前に味わった恐怖を噛み殺しながら慎重にダンジョンの中に入っていくのだった。
***
「行くぞ!
魔法班は大型魔法の用意、俺と力と慶、そして蓮はあいつらの足止めだ!」
「「「わかりました!!!」」」
相手はタコ型の亜人、巨大な8本の触手を操るモンスター。
まず大島くんが第一に飛び込み、全ての足を盾で受け止める。
その隙に僕と佐々木さんでそのタコの足を切り刻んでいく。
そして溢れた触手を柳くんの【固有スキル】で止めていく。
「デカいの来るぞ!」
佐々木さんのその声と共にそのタコから黒い水が吐き出される。
それは溶解性を持っておりかかかったら一発で死んでしまう。
すでに僕たちの目の前に迫り来るその水を大島くんは間に割り込み、僕たちを守ってくれた。
「イッテェェェ!!」
盾では防ぎきれなかったのか、腕にかかってしまい肉が溶け骨が露出する。
「大島くん大丈夫?!」
僕は彼に駆け寄り持ってきたポーションをかけてその傷を治した。
「もう大丈夫だ、行ってこい!」
大島くんを安全な位置まで移動させ、佐々木さんの加勢に入る。
「もうすぐ溜まります、みんな少し耐えてください!」
その亜人は奥にいる晶たちの魔法の危険性を察知し触手を飛ばす。
僕と佐々木さん、そして柳くんはその攻撃を何とか凌ぐ。
だがその状況は長くは続かなかった。
「しまった!」
柳くんのその声で僕は何が起こったのかを察知した。
僕たちの数々の包囲網を抜け、一本の足が藤宮さんに迫っていた。
「少しお願いします、佐々木さん!」
「──ッ、わかった!」
僕はそれと同時に持っている剣に風の属性をMPを合わせそして流し込む。
アリウスさんに習ったその技は──
「『風刃』!」
その風の刃が飛んで行き、藤宮さんに迫る足をすんでのところで切り落とした。
『ブレイズアーク』!
その瞬間、タコの足元に魔法陣が現れる。
僕たちは巻き込まれないようギリギリでそれを避ける。
それと同時に紫の炎がタコを包み、そして消し去った。
その攻撃の余波で僕たちは10メートルほど吹っ飛んでしまった。
「よしちゃんと倒せたな……」
佐々木さんはそう言い立ち上がり僕に手を差し伸べる。
僕はお礼を言いその手を取り立ち上がった。
そして目の前に次の階層へ進むための魔法陣が現れる。
「晶と渚は転移魔法陣の仕込みが終わるまでお前らは休んでおけ。
ここからできる限り進んでいく、気を引き締めていけ!」
「「「「はい!!!!」」」」
僕たちはそう言い晶たちが魔法陣を仕込むまで待機していた。
転移魔法を仕込む理由はもし次の階層へ行った時に魔法陣を書き込む時間がなく、上へ戻る際にもう一度この場所に来るのは手間だからだ。
転移魔法を書き込むのが終わり、僕たちは次の階層へ進んで行った。
***
2日ほど経った時、流石に皆限界を迎え王城に帰ることにした。
僕たちは転移魔法陣を起動しそれと同時に視界が真っ白に染まっていった。
「帰って……来たのか?」
視界が晴れていくと、そこは見慣れた王城の中だった。
僕たちは思っていた以上に疲れたようで、ついた途端に地面へへたり込んだ。
疲れた、もう今にも寝てしまいたい……
だがその前に兵士の人たちに装備の返却をしなければいけない。
休むのはそれが終わってからだな……
***
文字通りやっと肩の荷が降り、僕はさっさと風呂を済ませて寝ようとその廊下を歩いていく。
僕が歩いているとある部屋が目に止まった。
特段変ということはない、だが無性に目に止まったのだ。
いやそんな事してるより、早く寝たい。
けど……まぁいっか。
誰かいるかな?とそんな事を考えながら少し開けた。
「えぁ?」
少し開けた瞬間、謎の異臭が僕の鼻を襲い思わず涙を出し鼻をつまむ。
その臭いを僕は知っていた。
なぜこの臭いが……それも王城からするんだ?
一体中に何が……
僕は前、仮面に襲われた出来事を思い出す。
その臭いは、糞と尿が混ざり合った臭い。
だが他にも、その臭いの大元を占めているものがあった。
嗅いだことはなかった、だが僕の直感がそう叫んでいた。
それは──
「"死臭"……?」
それに気づいた瞬間、手が震え始め顎が震える。
僕は覚悟を決めて、その扉を開けていく。
扉を開けて行くたびに中に充満していた異臭が鼻をつんざく。
僕の頭の中に数々の憶測が飛び交う。
そんなこと、あるはずがない……
だって、だってこの部屋は──!
「………あっ」
そこには宙に浮く人がいた。
どうして、どうして空を飛んでいるんだろう。
どうしてずっと空を静止し続けてるんだろう。
どうして足が紫色なんだろう。
どうして足をプランプランさせているのだろう。
どうして漏らしているんだろう。
どうして腕が垂れ下がっているんだろう。
どうして手が血だらけなんだろう。
どうして手が紫色なんだろう。
どうして首に縄があるんだろう。
どうして首が血だらけなんだろう。
どうして唾を垂らしているんだろう。
どうして舌が出しっぱなのだろう。
どうして顔が赤黒いのだろう。
どうして目を開けたままにしてるんだろう。
どうして泣いているんだろう。
どうして頭が曲がっているんだろう。
どうして"動かないんだろう"。
「どうして……?どうして、どうして」
どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして
「ウッ……オエッ、ゴポッ」
見てない、何も見てない、僕は何も何も……
「あ、れ?」
あれ、ここどこだ?何をしてたんだっけ?
誰かの部屋の扉が開いてる。
あっそうだ……僕………
「これを見たんだった。
ね?江口くん……」
僕はその"肉塊"に話しかけ、意識を失った。




