53話 当事者
「当事者に聞いてみようか」
俺はその言葉に首を傾げる。
当事者ってキリサメ以外にライオッドしかいないし……
「まさかライオッドを!?」
「いや違うよ。
いるだろうもう1人、あんたの暴走を見てたのが」
「それって……」
「あんたの持ってる"刀"だよ」
──ッ!
そうか……『霜月』には意志が宿ってるし、俺が暴走した状態の中1番近くにいた。
すぐさま亜空間収納の中から『霜月』を取り出す。
そして俺は気を流し込み、その刀の中に意識が吸い込まれた。
***
俺は真っ白の空間で目を覚ます。
辺りを見渡すと人型の全身が真っ白に包まれ、顔には二つの黒い目だけの『霜月』がいた。
前も修行中、ちょくちょく会いに来てたのだが少しずつ『霜月』も成長し、前はハムスターほどのサイズだったが、今や軽いぬいぐるみほどのサイズへと成長した。
俺は愛らしいフォルムの『霜月』を撫でようと手を伸ばす。
『──ッ!』
その瞬間『霜月』は拒絶し伸ばした手を避けた。
刀と俺の意識が繋がっているからか『霜月』の感情が伝わってくることがある。
伝わってきた感情は"恐怖"だった。
俺は、何か嫌われるような事を……?
あまりにも衝撃的な出来事で俺は膝から崩れ落ち首をガクッと落とし下を向く。
唯一の、俺の癒しが……
『──?』
俺が落ち込んでいると『霜月』が恐る恐る俺の顔を覗き込んでくる。
どうしたんだ……?
『────?!』
『霜月』は何かに気づいたのか俺へ甘えるように抱きついてくれた。
その時また『霜月』の感情が流れ込んできた。
それは"安堵"だった。
俺はいつものように『霜月』を自分の目線ほどに抱き上げる。
「さっきはどうしたんだ?
俺、なんか変なことしたか?」
『霜月』は首を横に振り手を俺に伸ばす。
俺がその手を取ると『霜月』の経験した事を見せられた。
***
この景色は……
そこはダンジョン内で俺がライオッドに大剣を振り下ろされた直後の出来事を、『霜月』が刀の中から見ていると言う状況だった。
なるほど『霜月』が怖がってたのは俺が暴走中何かしたからなのか……
その時、俺が掠れた声で何かを呟いた。
「死にたく……ない……」
『──ッ?』
何だ!?
その瞬間、謎の闇が徐々に俺を包み込むと同時にこの空間をも包み込みこみ始める。
この闇、どこかで見覚えが?
そして『霜月』は意識を失っていき、それと同時に俺は引き戻された。
俺は目の前にいる『霜月』の頭を撫でながら……
「ごめんな怖い思いさせてよ。
俺が死ぬかもって心配もしてくれて……」
『────!』
口がないので何を言っているかわからないが「大丈夫さ」と言っているような気がした。
「俺はこれからあの闇を操るための特訓をする。
だから……また同じ思いさせるかもしれない、本当にごめん」
俺がそう言うと『霜月』は俺の足に手を乗せ、ニコッと微笑んだ。
「お前って奴はぁ……」
俺は思い切りそいつを抱きしめ、そのフワフワな触り心地を存分に堪能した。
***
「戻ってきたようだね。
どうだった、ちゃんと見れたかい?」
「はい、バッチリです!
というか、慎お前なんでぶっ倒れてんの?」
持っていたであろう木刀を地面に落とし、汗だくでぶっ倒れている慎の姿、汗一つかかず余裕綽々な雫さん、それを遠くで眺めているルル。
俺は起きてすぐ目の前に広がるその状況に驚きを隠せなかった。
「誰の……せいだと……」
そんな掠れて今にも死にそうな声を上げる慎を横目に雫さんは成果を聞いてきた。
「俺が見たのは本当に少しだけですけど、暴走する前兆……みたいなのを見ました」
「ありゃ戦ってるとこ見れなかったのかい?」
「はい……
だけど"神気"について少しわかったことがあるんです」
俺がそう言うと雫さんは興味深そうにそれを聞いてきた。
「俺は今までも何回か神気っぽいのを出してきたことがあるんですよ。
それで気づいたのは今回の暴走を含め、全部共通点があったんです」
ノアの傷治す時のやつは例外としてだけど……
「それ……はぁ何なんだよ……?」
横から木刀を杖代わりに何とか立ち上がった慎がそれを聞いてきた。
「実は全部、強く何かを思ってるんだよ。
"絶対に死にたくない"っとかな」
「へぇ神気を出す条件は"感情の昂り"だったわけかい。
中々の収穫じゃないか、これで本格的に修行に入れるね」
雫さんはどこかへと急に歩き始める。
俺はその隙に慎にさっきまで何をしていたのかを聞いてみた。
「いやな……お前が意識ない時……
急に「待ってるのも暇だから少し付き合ってくれないかい?」って言い出して……」
「……何か、ごめん」
「何だ私の話かい?」
「ギャァァ!」
慎にとっての悪魔の声が急に聞こえたせいでそんな素っ頓狂な声を慎はあげる。
雫さんはルルを連れてきたようだった。
「さてと慎二。
これからあんたには"神気"とやらをとりあえず出せるようになってもらう。
さぁやってみな」
そんな事を急に言い出す雫さんに俺は困惑する。
「もしまた暴走したらどうするんですか?
キリサメでも手を焼いたのに……」
「大丈夫だよ。
私みたいな100年前の戦争を経験してきた世代じゃ、自我のない化け物は専売特許さ。
私の心配じゃなく自分の心配してな」
そう言い雫さんは俺に神気の修行を始めるのだった。
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「どうして、どうして、何でこんなことに……」
僕、樋口慶はその部屋で虚しくそう告げた。
申し訳ありません、18時に投稿するのを忘れてしまいました。
これからはこんなことがないように精進して参ります。




