51話 強者とは
あぁクソ恥ずかしいことしたわ……
俺はキリサメとの対局後すぐに自室へ戻り寝た。
そして朝になったのだが昨日の出来事が情けなさすぎて俺は今、羞恥心に悶え苦しんでいた。
「慎二早くご飯食べんぞ」
俺が布団の中で悶えていると慎が襖を開けて立っていた。
ダンジョンの中だとずっと明るさ一緒だからよくわかんねぇんだよな。
とりあえず布団を出た後、俺は慎と一緒に廊下を歩いて行った。
「慎二、昨日の話だけだよ……
このことは俺たちの中で留めておこうぜ」
「まぁそりゃそうだろうな。
別にキリサメとかに関係する話でもねぇし、する必要がねぇ。
あの話は他の転移者だけにすればいい」
俺たちはそんな会話を交わした後リビングに着いた。
そこにはいつも通りキリサメたちが座っていた。
俺たちは雫さんが作ってくれたご飯を食べていく。
食べすすめているとキリサメが思い出したように俺と慎に向けて話をした。
「この後の修行だが、俺予定あって出来そうにねぇわ」
「はぁ?!そりゃなんでだよ師匠」
「そうだこれから亜人の奴らとの戦いが……」
「その亜人たちと話しにいくんだよ」
その言葉に俺と慎だけでなくリリと珍しくルルも驚いていた。
リリとルルの頬に汗が落ち、キリサメを不安そうな目でリリは見つめた。
「心配すんな、リリたちのことで行くわけじゃねぇ。
前の決闘の時、亜人の奴ら来なかっただろ?
だから新しい日を話し合おうか──」
その瞬間、街中に警報音が響き渡り、俺は初めてのその事態に緊張が走る。
「師匠これって……!」
「あぁ多分タシテスの奴らが仕掛けてきたな。
はぁ……めんどくせぇ、まだ飯食い終わってねぇのによぉ……」
タシテスってあの亜人の……!
キリサメはめんどくさそうに頭をポリポリとかきながら刀を持つ。
「んじゃ行ってくるわ」
「師匠、流石に1人じゃ危険すぎる!」
「そうだぜキリサメ。
あんたが強いのは知ってるが、あいつらも無策で来てるわけがねぇ!」
「そうよ、私たちも連れて行ったほうがいいわよ!」
俺と慎、そしてリリはキリサメをそう説得する。
そうするとキリサメは微笑み俺たちの頭を順番に触っていく。
「わぁったよ。
雫、ちょっくら行ってくるな」
「えぇご飯が冷める前に帰ってきなさいよ」
「キリサメ、気をつけてね……」
ルルがいつも通りの無機質な顔でキリサメにそういう。
キリサメは笑顔を見せた後、刀を構える。
そして……気づいたら俺と慎、リリは街の前まで来ていた。
はっ?いつの間に!
だがそんなに驚いている暇もなく、もう街の目の前にはたくさんの亜人たちが立っていた。
そいつらは槍や剣や防具を着ており完全に戦いに来ている様子だった。
亜人たちも急に来た俺たちに困惑している様子だった。
「おいお前ら!何のようだ?」
キリサメがそいつらに対してそう叫ぶ。
そう言うとその亜人の隊長のようなものが前に出る。
そいつは人型のトカゲの姿をした亜人だった。
「俺たちの狙いは伊藤慎二!
そいつを出せば手荒なことはしない!」
「悪いがそいつは出来ねぇ。
どうにか穏便に済ませないか?!」
キリサメはそのトカゲの亜人に対してそう言う。
俺が狙い?何で亜人たちは俺を狙って……
そいつはその提案を鼻で笑い飛ばす。
「タシテス様はそいつを欲しがっている!
本当に拒否すると言うのなら……」
その瞬間、他の大勢の亜人たちは構えを取る。
俺たちもそれに合わせ亜空間収納の中から『霜月』を取り出し構える。
「結局は脅しかよ……
俺はあまり争いは好まねぇ、本当に無理か?!」
そんな提案をするキリサメを亜人たちは馬鹿にするように高らかに笑う。
「キリサメ、お前はエリアボスだが戦っているところを見たことあるものが誰1人いない。
お前は平和主義を謳うがそれは戦いから逃げているだけなのではないか?!
タシテス様はお前を相当警戒しているが、俺たちがお前を下し化けの皮を剥いでやる!」
「ピィピィウルセェなぁ……
そんなに戦いてぇっていうなら来い。
命の保証はできねぇけどよ」
その言葉が頭に来たのか、そのトカゲの体は小刻みに震え出す。
「キリサメお前バカか!
そんなに挑発するようなこと言って!
お前らからもなんか……」
「師匠、トカゲってうまいか?」
「慎、トカゲより美味しそうな牛いるわよ牛」
あっキレ散らかしてる……
「全軍、突撃ィィ!」
その掛け声の共に周りにいた亜人たちが同時に向かってくる。
「気持ちは嬉しいけどお前らは下がっとけ」
キリサメは俺たちにそう言い1人でそいつらに向かって歩き出す。
その軍勢はキリサメに向かって火球を放つ者もいれば切り掛かる者もいた。
キリサメは腰に差している刀を構え少し刃を見せる。
そして……そして──
「お前らどこ見てんだ?」
「はぇ……?」
正にそこは軍勢のど真ん中。
トカゲの隣にキリサメは立っていた。
そして一閃──
その半径10mにいた亜人たちの頸動脈から血が噴き出す。
その血は地面に滴り、血の海を作った。
「いつの間に、そこに……」
「あぁ?んなもんお前らがちゃんと見とけばわかんだろ。
そんで、もう終わりか?」
キリサメが挑発混じりで怖気付いているそいつらにそう告げると、亜人たちは恐怖を噛み殺し仲間の骸を踏み越えキリサメに向かって走り出した。
「せめて楽に殺してやるよ。
"範囲拡大"」
そして……そいつらの頸動脈は綺麗に切られ全員血を撒き散らかしながら次々と倒れて行った。
「よぅし片付いたな!」
一体……何が起こって。
俺と慎は目を見開いて驚いたが、さっきまで心配していたリリは「別に私は信じてた」と言わんばかりの顔を何とか作っていた。
さっきまで、100以上いた亜人たちが……一瞬で。
キリサメが全てを片付けてこちらに歩いてこようとすると、まだギリギリのところで命を繋いだトカゲの亜人が足を掴んだ。
「お前……何を……」
「ギリギリのところで動いたか……
介錯はいるか?」
そのトカゲはコクリと頷くとその瞬間キリサメはその亜人の首を刎ね飛ばした。
そして刀についた血を払う。
その男は血の海、たくさんの骸が倒れ散る中、返り血一つ浴びずただ静かに佇む。
これがキリサメ、これがアンデッドのエリアボス、これが"最後の英雄"……
白い髪だけが血の色から浮くように揺れていた。




