49話 転移
「ふぅ、あったまるわぁ」
俺と慎は風呂に入り、戦いでついた汗や泥を落としていた。
さっき聞いたことだが今はもう18時ごろらしい。
だから修行は明日にするらしく風呂に来ていた。
「なぁ慎二、お前ゴブリンのエリアボスと戦ったんだろ?
どうだった?」
俺が湯船に入っていると、慎がそう顔を俯かせながら聞いてくる。
あいつと、戦って……
その時謎の感情がうちから湧き上がるのがわかった。
俺はとにかく表情を取り繕いそれを悟られぬよう答えた。
「強、かったよ。
『天絶』以外攻撃通らないし、当たったら当たったですぐ回復されて大変だったよ。
てかなんでんなこと聞くんだよ?」
「実は、俺あいつとさっき戦ったんだよ」
「はぁ?!
なんでお前らが戦って……」
だがそれを聞いて俺が起きた時慎がボロボロだったのも腑に落ちる。
慎はなぜライオッドと戦ったのか、その理由を説明していく。
「いや考えてみろよお前の帰り待ってたらお前とやり合ってるはずのあいつが来たんだぜ?
そりゃ殺されたって思うだろ、だから……言わせんな!」
そう告げた慎の頬は少し赤くなっていた。
こいつ、俺のために戦ってくれたのか。
俺はその優しさに思わず顔をニヤつかせる。
「てかお前、神気とやら持ってるけどよ。
どこで手に入れたか心当たりねぇのかよ?
師匠はなんか知ってそうだけど言いたくなさそうだしよ」
俺はその質問を受けて考え込む。
どこで手に入れたか……
神気の力は身体強化と俺の壊れた足を治すほどの驚異的な再生──
なんだ今、何で再生って言葉に引っかかった?
俺はどこかでそれを聞いた……いや見たことがある。
そして俺は思い出す、どんな切り傷も内臓が傷ついても焼かれてもどんな傷でも治すところを……
まさか、ノアが?!
確かなんかあいつ神気についてっぽいこと言ってたな、「その力は俺の敵じゃない」とかなんとか。
他にも兆候あったんだ、あの亜人のやつらに足折られた時気づいたら再生したり、オークに掴まれた時無理やり脱出したのも、あれも全部神気のおかげ……
ノアにも聞きたいことが山ほどできちまったな。
けどそれよりも強くなるのが先だ。
まだ亜人の奴らとの戦いは終わってない。
全部終わった後、あいつを問い詰めることにしよう。
「どうした?心当たりあったか?」
「あぁ1人……っていうとちょっと変だが思い当たる奴がいた。
けどそいつを問いただすのは全てが終わった後にするつもりだ。
それよりも早く強くならないといけないからな」
「確か、亜人の奴らとの決闘はやってないんだろ?」
何で、慎そのことを知ってるんだ?
それを知ってんのはライオッドとかだけじゃ……
俺が驚いているのを察したようで、慎はその理由を説明する。
「あのゴブリンのエリアボスに聞いたんだよ。
今疲れたみたいで庭で寝っ転がってるぞ」
「どういう状況だよそれ」
だが今ライオッドがいることを知り、キリサメが言っていたあいつというのがライオッドだとわかった。
「てか和解したんだな、あいつと」
「戦ってる途中でキリサメが帰ってきて事情を説明してくれたからな。
けどあいつもなんか嬉しそうに戦ってたからな!」
あぁそうだ、あいつ戦うの好きだったな。
仲間の復讐は果たすけど楽しむとこはとことん楽しむってあいつイカれてるだろ。
俺はあいつとの戦闘時、嬉々とした表情で戦っていたことを思い出す。
「いやぁこの世界、変な奴ら多いよな。
思えば俺ら以外のモンスター初めて見たかもな」
「そうなのか?
こっちにきてからモンスターとかと戦ってこなかったのかよ?」
「あぁ、こっちきてから"ずっと"この街にいたからな」
ずっと……?
俺はその言葉に疑問を持ち、思わず立ち上がる。
「どうしたんだよ、そんな驚いて」
「お前、この世界に来てずっとこの街にいたのか?
こっちに転移した時、城の中にいなかったのか?」
「王城ってなんだよ。
そんなもんもあるのかよこの世界。
てか転移じゃ無くて"転生"だろ?
死んでこの世界きてんだから」
死んで……この世界に?
俺は手っ取り早く答えを出すため、慎に一つ質問をする。
「一つ聞きたいんだが……
アーシャ・ローズって名前に聞き覚えはあるか?」
「ねぇ、けど」
困惑している様子の慎に俺はこの世界に死んできたのでは無く、王国の人たちに召喚されてこの世界に来たことを話した。
「なるほど、だからお前はそんなに驚いて……」
「あぁ、それで何だがお前がこの世界に来るまでのことを教えてもらえるか?」
俺がそういうと少し慎が気まずそうな顔をした後、渋々答えていった。
「……俺は、さっき言った通り元の世界で死んでからこの世界に来た。
アニメでよくある異世界転生みたいな感じだとすんなり受け入れてた。
だからお前が俺と同じ世界出身って知った時も、まぁ俺の他にも当然いるよなって受け入れてた」
「この世界に来た時のこと覚えてるか?」
「いや、何にも。
元の世界で死んでから……
そうだ、何かに吸い込まれる感覚があった。
それで死にたくないって思ってた気がする。
そんで気づいたらこの街にいた」
気づいたら来てたって部分は俺たちと同じ……
だが何かに吸い込まれる感覚、もしかして。
「俺が転移する時よ、地面に魔法陣が急に現れてそれでこの世界に召喚されたんだ。
仮説だが、お前がこの世界に来る時近くで俺と同じように誰かが召喚されたんじゃないか?
それで近くでお前が死んで、魂だけの存在になってこの世界に来た。
だったら吸い込まれる感覚とやらに納得がいく」
「そうか……」
だが、何か引っ掛かる。
何か大事なことを見落としているような……
その時慎は一度深く考え込む。
「慎二お前、記憶喪失って話だったよな?
だったらお前はいつ何で俺を知った?」
「俺が、お前を知ったのはニュースで……」
「だったら、そのニュースに"失踪事件"とかやってたか?」
「───ッ!」
俺はその事実にその瞬間気づいた。
それを聞いた慎は妙に納得した様子を見せた。
「おかしいんだ、お前の仮説が正しければ俺の他にもこの世界に来た人がいるはずだ。
そして俺と違っておそらくお前と同じよう魔法陣で"生きている状態"での転移。
だったらよ……なんでニュースになってねぇんだ?
お前の話的に結構な人数で転移してきたはずだろ?
だったら集団失踪が出たっていうニュースくらい絶対やってるはずだ」
2人の間にしばし沈黙が流れる。
だが俺はそんなことを気にも止めずある人の発言を思い出していた。
確か、あの人は──
「そうだ、確かルナ……この世界の人が教えてくれたんだ。
1ヶ月前にも、同じく転移してきた奴らがいるって……
でも集団失踪事件なんていうニュースはやってなかった」
俺たちの頬に同時に汗が伝い、そして湯船に落ち波紋を作る。
いや、そんなことあり得るのか?
動悸が早くなり、呼吸も浅くなる。
慎の双眸が動揺で揺れる。
「もしかして……転移してきた人たちは──」
「おーい!いつまで風呂入ってんだお前ら。
飯食うぞ飯」
その時、キリサメが浴場に乗り込んでくる。
俺たちはなんとか表情を取り繕い俺たちは拭いきれない動揺を抱えたまま、浴場を出て行った。




