43話 全身全霊
「5分か……できると思ってんのか?」
ライオッドは空中に浮いている足を取り断面とくっつけ治そうとする。
「させねぇよ」
地面に着地すると同時、先ほどとは比にならないスピードでライオッドに突撃する。
「お前ならそうするよな」
だがその瞬間ライオッドはその大剣を俺に向かって投げつける。
ライオッドの凄まじい膂力から放たれる大剣は易々と音を置き去りにし俺の眼前に迫る。
片足ない状態でこのスピードで投げれんのかよ……!
ギリギリのところで身を翻す形で回避する。
「一手遅かったな」
ライオッドは足を治し、俺に突撃。
大剣を捨てたライオッドが取れる選択はただ一つだった。
その拳はもう眼前に迫っていた。
「んじゃあお前は二手おせぇ」
その瞬間『天絶』を放ちライオッドの右腕を切り離した。
その結果、二つに分かれたライオッドの拳は俺の横を通っていく。
「どうだ──」
そう言いかけた瞬間ライオッドは体を回転させ、左拳を放った。
予想外の攻撃、とっさに硬化へ切り替えたおかげで、深手を負わずに済んだ。
衝撃で地面に何回か叩きつけられる。
それでも歯を食いしばり体勢を立て直し、向き直る。
目の前には、いつのまにか大剣を拾い、先ほど負わせた怪我を治し終えていたライオッドが立っていた。
「痛覚ないのかよバケモンが……」
「んなもんガキの頃さんざ浴びてきたんでな」
息を整え『霜月』に手をかける。
もうすぐ、溜まる。
いつ打とうかと思考を巡らせていると、ライオッドはニヤリと笑う。
「打ってこいよ、溜まってんだろ?」
「言ってくれるじゃねぇかよ……」
頬を伝う汗を拭う。
残り3分、出し惜しみしてる暇は……ねぇか──
誘いに乗ることにした。
横薙ぎで『天絶』を放つ。
だが予想通りその攻撃は簡単に避けられ、ライオッドは俺に向かって飛来する。
「そんな簡単に避けんなよ!」
『天絶』を放つと刀にこめてあった剣気を再度込め直さなくちゃいけない。
その状態であいつの攻撃を受けるのは難しい。
時間を稼ぐために後ろへ飛び逃げる。
「随分と、逃げ腰じゃねぇか……よ!」
こいつは俺に『天絶』を打たせたくねぇから全力で接近戦を仕掛けてくる。
だからさっきも戦ってる最中、撃たせたくねぇから誘ってきたんだ。
ライオッドは足に気を集中、強化し俺のスピードを上回り追い越して壁になる形で立つ。
大剣が振るわれる。
なんとか受け止めるが、力の押し合いになってしまう。
やばい、こいつ相手じゃ絶対に勝つことなんかできっこねぇ。
──だったら……
「"左足"」
ゴオンッという床の破壊音と共に土煙が舞う。
ライオッドは手応えのなさにキョロキョロと周りを見渡す。
「まさか!?」
すんでのところでしゃがみ、その『天絶』を避けることに成功する。
どういうことだ?と疑問に思うライオッドだったが、土煙が消え俺の姿を見た瞬間その疑問はすぐに消えた。
「お前……やってくれんじゃねぇか!」
左足は肉がぶちぶちに引き裂かれ、砕けた骨が皮一枚でかろうじて繋ぎ止められていた。
感覚のほとんどが消え、熱と痛みだけが足に残っている。
「回したな、その足に」
そう、ライオッドの言う通りあの状況から脱するために左足の強化倍率を跳ね上げ、その結果手に入れた力で逃げることに成功していた。
だが、その代償で足は悲鳴を上げていた。
「治すより先に俺に『天絶』撃ってくるかよ普通。
イカれてんな、お前」
「ガキの頃に痛覚慣れたとか言ってるようなやつに言われたかねぇよ」
重複治癒を左足だけに回し、なんとか歩ける程度にする。
調子を確かめるように左足をトントンと床に打ちつける。
これ以上倍率を上げたら、もう治癒じゃ治せない。使えるのはあと右足だけか……
「もう負けてくれてもいいんだぜ?
こっちも疲れてきた」
「はっ!お前みたいな面白いやつキリサメとあいつ以来だ。
逃がすわきゃねぇだ…ろ!」
ライオッドが距離を詰め、大剣を振るう。
受けずにいなしながら、反撃の隙を伺う。
残り1分半。さっさと終わらせねぇと、反動で少しの間動けなくなる。
その隙をこいつが見逃すはずがねぇ、早く『不倶戴天』を完成させねぇと!
「戦い中に考え事かよ!」
思考を巡らせている間に、ライオッドの大剣は眼前に迫っていた。
まともに喰らい吐血。
衝撃が左足に響き、動きが鈍る。
だが好都合、これで『天絶』を貯める隙が生まれた。
『不倶戴天』をどうするかも考えながら、どうにかしろ!
刀を構え剣気を込め、体勢を立て直しライオッドに向き直る。
「お前、撃たねぇと思ってんだろ?
『ヴォルカニカ風刃』」
その瞬間、『風刃』が飛来する。
しまっ…た!
前回の立ち合いで亜空間収納を見せたから、撃ってこないと油断してた……!
すんでのところで回避する。だが待ってましたと言わんばかりの様子で走り出し、蹴りが飛んでくる。
衝撃で肋が折れる。
勢いのまま壁まで飛ばされ、足をつく。
だがライオッドはもう眼前に迫っており、大剣が今にも振り下ろされようとしていた。
──右足
ライオッドの顔の横を一瞬にして通り過ぎ、宙を舞う。
「ノッてきたんだ!飽きさせんじゃねぇぞ!」
「お前、私怨とか言ってたけど戦い楽しんでんじゃねぇよ!」
折れた肋を治しながら空中で身を翻し、『天絶』を放つ。
ライオッドは体を捻れさせそれを避ける。
「気ん持ちわりぃ!」
「そう言うなよ!」
ライオッドは『風刃』を放つと同時に飛び出す。
「『風刃』収納する隙に一発ってところか……
よく考えてんじゃねぇか」
こっちも覚悟決めるか……
左足、最後の一回。強化を跳ね上げ眼前に迫り刀を振るう。
「悪りぃな、2回も見たんだ。
もう慣れた」
その瞬間ライオッドは一瞬で体を捻らせその攻撃を避け、捻らせた時に生まれた力を利用し大剣を振るう。
「舐めてんのはお前だろ、まだ"腕"はしてねぇよ」
刀に気を込めた瞬間、収納。
今度は右腕の強化倍率を跳ね上げ、大剣を思い切り殴る。
拳の骨が粉々に砕け、肉が裂ける。
そのあと遅れて衝撃だけが突き抜けていく。
それでも同レベルの力を出せたようで、腕と大剣は互いに弾かれ後ろへ飛ぶ。
「お前が舐めプしてくれんでな。
これくらいはできるんだよ!」
腕を治し左足を庇いながら着地、そして突進。
予想外だったのか、ライオッドは驚いた顔をして大剣を薙ぐ。
難なく避ける。
「こっちだってやられっぱなしはムカつくんだぜ?
左だ!」
左手でライオッドを殴り飛ばす。
反動で腕は壊れるが、アドレナリンのおかげか痛みが鈍い。
ライオッドはその攻撃で歯が飛んでいくが、なんとか体勢を立て直し、血だらけの口をニヤリと開き不気味な笑みを浮かべる。
「オモジレェ、オモジレェヨイドウシンジ!」
「なんで言ってんのかわかんねぇよ!」
ライオッドは大剣を振り回し、俺を捉えようとするが、すんでのところでそれを避けていく。
「どうして刀ださねぇんだよ伊藤慎二!」
歯を治したようで元の滑舌に戻ったライオッドは、嬉々とした様子でそう告げる。
様子を伺う、いついくか。
左足はもう使い物にならない。
右足だけで持ち堪えるのにも限界がくる。
1番怪我を最小限に抑えられ、距離を取れる一撃を──
そして時は来る……
ライオッドの踏み込みが浅かったのか、疲労か、あらゆる要因が重なりその突きの攻撃は"良かった"。
左腕でそれを受け止め、飛ばされることで距離を取る。
その瞬間、ライオッドに見えるようにニヤリと笑う。
「まさか……」
刀を排出する。
ライオッドはそれに気づいた。刀に込められている剣気は、何度も見た『天絶』を放つに十分なほどの量だと。
収納する瞬間、刀に十分な気を込めていた、一瞬のことでライオッドは気づいていなかっただろう。
だが、それでも勝機はまだあるとライオッドは思っていた。
『天絶』を放つ上では絶対に刀の刃を見てればどの向きに来るのかがわかる、それを捉える!
刀を振り下ろし、放つ。
ライオッドはその攻撃を見切り、体を斜めに逸らして躱した。
その『風刃』を──
「なんだと、これは……!」
そう、これは"ブラフ"だった。
ライオッドが撃ってきた『風刃』から思いついた策だった。
「だがまだだ!」
ライオッドは来るであろう振り上げの『天絶』に備える。
「馬鹿か、足元見やがれよ!」
言われるがまま、ライオッドは自身の足元を見た。
そしてその光景に驚きの表情を浮かべた。
足には床から這い出てきた岩たちがまとわりついていた。
岩操作は自身の持っている気を流し込み、己がものとして操ることのできる技。
思えば戦い始めた直後、着地した瞬間から意識の片隅で足元の岩に気を通し続けていた。
通常の岩と違い気を流し込まれた岩は、そう簡単に振り解くことなどできずライオッドは拘束される。
「っぱりお前最高だ!」
その瞬間、ライオッドは壁に手をつき、俺が込めた以上の気を流し込んで支配。壁を形成し自身の姿を暗ませる。
だがライオッドの気を感知し、正確に位置を捉える。
「これで、終わりだ……!」
『天絶』を放ち、正確にライオッドを捉えた。
そして、そして──
キィィッン
そんな音が響く。
なんだ、この音……『天絶』が当たった音じゃねぇ。
……まさか!
その瞬間壁の破壊と共に何かが飛び出す。
反応こそはできたが、咄嗟のことで左足を庇うのを忘れる。
あまりの痛みに思考が鈍り、ライオッドの攻撃を喰らい切り飛ばされる。
骨が折れる音がどこか遠くで鳴り、内臓の奥がずんと重く沈む感覚だけが残る。
飛ばされる中、それでも思考を巡らせる。
どうやってあの攻撃を防いだ、完全に捉えたはずなのに……
あいつが出てきたとき何故か体から白い煙が出ていた、そして右腕が赤く変色していた。
キリサメが言ってた【固有スキル】か?!
いやこんなこと考えてる暇はねぇ!
土煙を上げながら、なんとか体勢を立て直す。
だがライオッドの方が数段、速かった。
風が巻き起こるほどのスピードで突進し、俺がいるであろう場所を蹴り飛ばす。
グチャッ
そんな不快な音が響き渡るだけだった。
────────────────
「はぁ、はぁ」
ライオッドは膝に手をつけ、息を荒げていた。
その瞬間、膨張し赤く変色していた右腕は煙を出しながら元の姿へ戻る。
流石に、疲れたな。
まさかあのカードまで切らされるとは思わなかった、実質俺の負けみたいなもんだな。
「伊藤慎二、まだ生きてんだろ?
お前は強いよ、機転も効くしあの作戦は見事だった。
お前がもし『不倶戴天』を使えてたら俺を倒せていたかもな……」
その言葉に伊藤慎二は返事をしなかった。
死んじまったか……惜しいやつだった。
もしも、この攻撃であいつが生きていればって思ったんだがな……
土埃が晴れていく、そしてその残骸が姿を現す。
「……は?」
それは……確かに死体だった。
だが、だがそれは……
「ゴブリンの、死体だと……?」
そして現れたその気配に、ライオッドの意識は強制的に引っ張られた。
ニヤリと笑顔を浮かべ、その方向へ振り向く。
そこには、高く跳躍し刀に大きな剣気を纏わせていた、伊藤慎二がいた。
一体いつ入れ替わった?
そんな隙は絶対になかったはずだ、動いたとしても少しの土煙の変化で……
あ──
ライオッドは気づいた。
先刻の突進の時、"風が巻き起こるほどのスピード"で突進したのだ。
その風による微細な土煙の変化が、伊藤慎二を隠した。
考えたじゃねぇか!伊藤慎二!
だが『不倶戴天』はさっき失敗したはず、どうして今……
────────────────
ガラ空きのライオッドの背中に忍び寄る。
周りの岩に流し込んでいた気を吸収し、気を回復していく。
もうちょい貯めたいが、限定強化は残り10秒。いくしかねぇ!
最後の一回、右足の強化倍率を跳ね上げ、一瞬にして後ろに回り込む。
ライオッドは考えていた。
どうして『不倶戴天』なのか、いや違う。
伊藤慎二はそんな無策で挑むようなやつじゃねぇ、成功するという確信を得たんだ!
先ほどライオッドが放った『風刃』から得たのはブラフ作戦だけじゃなかった。
キリサメは前に言っていた、『風刃』はのちに必要になる"技術"だと。
技でもなく、技術。それを思い出し引っ掛かりを覚えた。
もしかしたら『不倶戴天』は何かを混ぜるのではないか?
「『霜月焔刃』」
その瞬間、刀にこめた剣気が赤く変色する。
「気づいたか!来い、本気だ!」
その瞬間、ライオッドの大剣に気が込められる。
全てを込めろ、足りないなら絞り出してでも出し尽くせ!
「『不倶戴天』!」
「『ヴォルカニカ水刃』!」
真紅の炎と蒼天の水、それらがぶつかり合い水蒸気爆発が巻き起こされる。
そして──
俺は立っていた。
信じられないほどの疲労感が全身を襲い、地面に倒れる。
──勝った、のか?
「ッ……」
溢れ出そうになる涙を堪え、手で抑える。
最後に己の勝利を宣言するかのように拳を振り上げるのだった。
【 名 前 】 伊藤慎二
【 レベル 】 500
【 H P 】 2000/50900
【 M P 】 0/7590
【 S P 】 25/400
【 魔 力 】 0/0
【 筋 力 】 989
【 脚 力 】 989
【 抵 抗 】 261
【 感 覚 】 261
【 スキル 】 身体強化《大》身体強化《中》治癒《中》治癒《小》隠密 火操作 水操作 風操作 土操作
【固有スキル】 亜空間収納
【ステータスポイント】 75




