33話 弟弟子
「詰みだな、慎」
俺、大雲慎はキリサメにこのままじゃダメだどういうことを伝えるために、風呂出た後師匠の部屋に行き、将棋を指すという口実で話し合いの場を作っていた。
「そんなこと、どうでもいいだろ。
このままじゃ慎二は……」
「一応、考えはある。
でも、俺はそれをするか迷ってんだ」
師匠は迷った様子で自分の刀を見つめていた。
「秘策があるならやってやればいいじゃねぇか」
「でも危険すぎるんだ、慎二の体が持つかどうかわかんねぇ。
だから、今見定めている最中だ」
「ッ、だから剣じゃなくて最近体を鍛えたり、レベル上げのトレーニングが多かったのか」
「あぁそういうことだ」
師匠はそう言いながら、俺をしっかりと見つめる。
「師匠にも考えがあるんだな、、、」
俺は少し顔を俯かせながらそう言った。
けど、もう時間も少ない。
それが上手くいく保証もねぇし。
俺はどうすれば……
「けど、慎二にはちゃんと現状を伝えてやるべきだ」
俺がそういうと師匠は少し笑いを浮かべながら「あぁ」とそう告げる。
「ありがとうな、話に付き合ってくれて。
今日はもう寝るわ」
俺はそう言い立ち上がり、部屋を出ようと襖を開けて出ていく。
「あっ!
これで俺の25勝0敗だな!」
キリサメはニヤケ面を浮かべながら俺を煽るように、少し元気づけるようにそう軽口を叩く。
「うるっせぇ!
これから頑張って勝つんだよ!」
俺は少し笑顔を浮かべながら、その煽りに乗りそう言い部屋を出て行った。
今日はとりあえず寝るか、修行で俺もクタクタだし。
***
午前5時、俺は起床した。
俺、大雲慎は実は結構早起きである。
昔の習慣かな、それがどうしても抜けなくて起きちまう。
まぁこのダンジョン内には朝とか夜とか言う概念はないけどな。
電気消したら夜みてぇな感じだからな。
だから時計とかで時間決めてんだ。
「さて、ストレッチするかぁ」
俺は毎日朝起きたらストレッチを始める。
体を目覚めさせるためだな。
それが終わったらとりあえず1人で修行をする。
あっ、そうだ!
ついでに慎二も誘ってやろう、あいつも修行やりたいだろうしな。
俺はそう思い、布団を畳んだ後部屋を出て慎二の部屋へと向かう。
あとちゃんと昨日のこと謝らないとな、根詰めてたとはいえ流石に言いすぎた。
そうこうしていると慎二の部屋についた。
俺は昨日の慎二の顔を思い出す。
傷つけちまったかもしれねぇ、けど……!
俺は襖を開け、部屋の中に入った。
正方形の部屋に布団がポツンと置いてある。
罪悪感で布団を上手く見ることができない、慎二の顔がみれねぇ。
「ふぅ、慎二昨日はごめん。
俺も流石に言いすぎた、だからこれから少し修行しねぇか?
朝食ができるまでよ」
俺がそう言っても、慎二は何も答えてくれなかった。
何も答えてくれないか……
「酷いことしたって俺もよく分かってるだから……!」
俺がそう言い顔を上げた。
その瞬間その光景に俺は言葉が詰まってしまった。
「な、なんで……」
慎二は、そこにはいなかった。
人を温め、休息を取らせる役割を持っている布団は冷たく、何も包まずに静かに佇んでいた。
布団をよく見なかったせいで慎二がいると勘違いしたのだ。
いつもなら慎二の気を感知してどこにいるのかとか家出たなとか分かるが、昨日想増気法したせいで気が微弱すぎて気づかなかった!
、、、慎二はどこにいった?!
その光景に呆気を取られたせいで考えるのが遅れた。
急いで慎二を探さないと!
俺は急いで家中を駆け回る。
まさか、他のエリアボスどもが慎二を襲撃して、、、
いや、師匠がそれに気づかないわけがない!
家中探すか?
いや時間がかかりすぎる、だったら玄関で靴確認した方が早い!
俺は頬に流れる汗を拭いながら玄関に向かう。
玄関につき靴を確認するとやはり慎二の靴はなかった。
まさか、逃げたのか……?
いや違う、あいつはそんなことするようなやつじゃねぇだろ!
俺はその最悪な考えを振り払う。
そんなこと考える時点でクソだ!
俺は急いで靴を履き、街へ出ていく。
どこだ、どこだ!
俺は町中を必死に駆け巡った。
品出し中のサオリおばさん、仕込み中のトングおじさん、町中の人たちに慎二のことについて聞いてみたが、みんな口を揃えて見ていないの一点張りだった。
「クソッ!
どこに行ったんだあいつ」
そして俺は頼みの綱で昨日訪れたノヴァさんの店に行っていた。
そして慎二のことを聞くと、知っていると答えたのだ。
「慎二は、慎二はどこに!?」
「悪りぃけどそこまでは知らん。
だがあいつ誰でもいいから刀を借りたいって言ってたな。
できる限り重いやつって。
その後多分家の方に向かっていたぞ」
「本当か!」
俺はなぜ慎二が刀を借りに来たのかよくわからなかったが家の方へ向かったと言う情報は得られた。
俺は急いで家へ向かった。
1時間ほどたっただろうか。
俺は急いで家の前に立つ。
けど家中探したけど、見つからなかった。
一体どこに……?
そして家の戸に手をかけた瞬間、確かに俺の耳はその音を捉えた。
何回も何回も聞いた、耳に染み付いている音。
風を切る音、、、これは?
俺はよく耳を覚ましその音がどこから聞こえているかを確認する。
そして理解した、その音は隣から聞こえている。
この家の隣には剣道場がある、たまにしか使うことがないから俺は気にも止めなかった。
「まさか!?」
俺はその剣道場の扉を強く開ける。
そこには、、、いた。
慎二がそこにはいた。
だが、俺が感じた感情は慎二を見つけた喜びではなかった。
これは、驚愕。
そこには汗があった、いや汗なのか、、?
ところどころ血が滴っているところもある。
どう考えても多すぎる。
慎二は上裸で汗で剣道場の床が濡れるほど刀を振り下ろし続けていた。
そして振り下ろし続けたせいで血まみれになり恐らく刀を痛みで持てなくなったのだろう。
だがそれを服で手を固定し、必死に振り下ろしていた。
真っ白だったはずの服は血に塗れ真っ赤に染まり、吸収しきれなかった血液は振り下ろすたび舞っていた。
その汗の量と手の血の量が慎二がどれほど刀を振りづけていたのかを告げていた。
「慎二!」
俺がそう言うと慎二はとても疲れた様子で、集中の糸がぷつりと切れたように疲労で倒れてしまった。
床が汗まみれとか俺は気にせずに俺は急いで慎二に駆け寄り、抱き抱えた。
「しん、か?」
「お前、、、無茶しやがって!」
俺はその努力に堪えきれずに気づいたら涙をこぼしていた。
「こんなになるまでお前何時間……」
俺がそう言うと慎二は何とか体を起こし俺に向き合った。
「よく、、覚えてねぇ、風呂上がった後すぐに始めて。
てか、もう朝かよ。
明るさが一定だったから気づかなかった……」
慎二は虚な目で何とか言葉を絞り出している様子だった。
風呂出た後からって9時くらいからずっとってことか?!
9時間くらい飲まず食わずだったのだろう、腹はぐるぐるとなり脱水症状で皮膚の弾力が失われてカサつき、口唇が乾燥している。
そして目の下にはくっきりと黒いクマが刻まれていた。
「慎二、これ飲めるか?」
俺は水を生成し慎二に近づける。
そうすると慎二は飛びつき狂ったように水を飲み干した。
「ありがとうな、慎。
水までくれて」
「大丈夫だぜ、とりあえず今日はこれで休めよ疲れてるだろ?」
「いや大丈夫だ」
慎二はそう言うと体をふらつかせながら立ち上がりまた素振りを再開しようとした。
「お前、何やってんだよ!」
「何やってって修行だろ」
慎二は淡々とそう告げる。
修行って見るからにお前はもう限界だろうが……
「落ち着けよ慎二、休むのも大事……」
「大丈夫だ!
俺はこんなん慣れっこだから、苦しい思いは慣れっこだから。
大丈夫だから、慎は……!」
その瞬間、俺は慎二に殴り飛ばした。
慎二は力なく飛ばされて尻もち着き、その反動で手に巻かれてある服は解け刀は飛ばされる。
「お前、急に何だ……!」
「それはこっちのセリフだろうが!
何が大丈夫だ、フラフラじゃねぇか!
今日も修行するんだぞ、バカじゃねぇのか!」
「なんだと!」
慎二は俺に掴み掛かろうと突進するが、疲れているせいで勢いが無く俺は難なく横に飛びそれを回避する。
そして慎二は手をついて倒れるわけにはいかないので肩から倒れ込む。
「お前ボロボロじゃねぇかよ。
今は俺たちがいるんだぞ、だからそんな無理する必要……!」
「あるだろ!
話聞いてたよ、キリサメとお前の。
このままじゃダメなんだろ?
何と無く分かってたんだ、苦しい思いするのは俺だけでいいんだ。
キリサメとお前、リリやルル雫さんや街の人たちには何の心配もなく生活してもらいてぇんだよ!」
慎二は涙をこぼして必死にそう訴える。
「どうして、、どうしてお前はそこまでするんだよ。
俺たちまだあったばかりじゃねぇか……」
俺がそう告げると慎二は苦しそうに顔を俯かせながら言葉を吐き出す。
「俺は、俺は実は記憶喪失で昔の記憶がねぇんだ。
目覚めたのはほんの一年前くらい、そこからずっと俺は勉強だのなんだなしてきた」
俺はその事実に目を見開いて驚いた。
慎二が記憶喪失だと?
そんなこと一度も聞いたこと……
「でもそれが何の関係が、、」
「記憶喪失だとな、みんな俺として接してくれねぇんだよ。
みんな昔の運動ができて明るくて、友達の多くて優しい伊藤慎二として接してくる。
記憶喪失した今の俺はその昔の伊藤慎二とは全くの別物だってのにな。
だってのにみんな俺を昔の伊藤慎二として接してくる、自分の母さんすらこの世界に転移する前日までちゃんと分かってくれなかった。
けどここにいる人たちはちゃんと俺を見てくれるんだ。
初対面ってのもあるだろうけどな。
でもちゃんと俺として接してくれた人が1人いたんだよ。
なのに、、なのに俺はそんないい人を突き放して悲しませて裏切ったんだ。
もう悲しませたくないんだ、裏切りたくないんだ、俺を見てくれる人たちのために俺は頑張りてぇんだ」
「そんなことで、お前は……」
「お前にはチンケなことだろうけどよ、俺にとっては今までの人生で数えるくらいの人しかいなかった。
それをお前たちはこの手じゃ足りないくらい、多くの人たちが俺を見てくれたんだよ」
だから、と慎二はそう言い立ち上がり刀を持とうと歩き出した。
「待てよ」
俺は慎二を呼び止めた。
「何だよ、まだ何か」
俺は慎二の手を無理やり奪う。
慎二の手にもう皮と言えるものは何もなかった、あるのは肉のみ。
俺はそれをゆっくりと、その努力を労るようにそれを治した。
「すげぇよ、お前。
だとしてもそんなに努力できんのは。
だけどよ、1人でやんのも限界はいつかくるんだよ。
だから、だからよ。
俺にも少し頼ってくれよ。
お前は俺の初めての"弟弟子"なんだからよ……!」
【 名 前 】 伊藤慎二
【 レベル 】 432
【 H P 】 3000/44100
【 M P 】 5020/5020
【 S P 】 0/350
【 魔 力 】 0/0
【 筋 力 】 886
【 脚 力 】 885
【 抵 抗 】 227
【 感 覚 】 227
【 スキル 】 身体強化《大》身体強化《中》治癒《中》治癒《小》隠密 火操作 水操作 風操作 土操作
【固有スキル】 亜空間収納
【ステータスポイント】 10




