114話 魂
「墓荒らしといこうか」
仮面の大男はそう静かに告げる。
雫さんが斬られたところを見て、街のみんなが混乱に陥りこの場所を走り去っていく。
雫さんは力無く倒れ、切り裂かれたところから血が舞い顔にかかる。
生暖かいその血は、空気中の気となり蒸発していく。
そして……
「あ゙……」
その時、蛇口から神気が吹き出して俺の体をどんどんと覆い精神を蝕んでいく。
ダメだここで暴れたらみんなを巻き込む。こいつの相手をするより雫さんを逃す方が先だ。
俺は湧き上がる神気を必死に抑えながら状況を整理していく。
こいつの気……人間!?どうして今?ダンジョンを攻略しにきた?街のど真ん中、入り口からここまで何も事を起こさずに歩いてきたとは考えづらい。だったらこいつの目的は……
「神気……お前が伊藤慎二か。悪いがお前の相手はオレじゃないぞ」
「ッ──!」
その時、背後に何か異質なものを感知した。
急いで振り向き確認すると、そこに立っていたのは深くフードを被り込んだ何かだった。
「見覚えあんぞなんか……!」
"影縫い"を少し彷彿とさせるそいつは右腕を上げた。
それと同時にありえないほど肥大化し、
肌が真っ白、ますます"影縫い"と……
あれが振り下ろされたらみんなが巻き込まれる。そう思い刀に手をかけたが師匠のことが頭によぎり抜くのを躊躇してしまった。
その瞬間、思い切り腕が振り下ろされた。
「しまっ──!」
腕が振り下ろされたが、その時目の前からそれは消失した。
周りを見渡すと先ほどの何かは宙を舞っていた。
一体何が……?
先ほどその何かが立っていたところを見ると、真紅の髪を揺らす誰かが立っていた。
「慎……!」
「ありゃ、飛んでいっちまったな」
腕が俺たちに当たる寸前、慎が後ろに回り込み何かを投げ飛ばしてくれたのだ。
よかった、急いで雫さんを……!
「陸天流居合──」
「ッ──!」
さっきの技?!受けたらダメだ、だったら!
腕に神気を回し地面を殴り、土煙を上げ姿をくらませる。
それと同時に走り出し雫さんを抱き抱え、脚を強化してその場を去っていく。
慎なら感知で俺が雫さんと逃げたことはわかるはず。街のみんなも守んなきゃいけない、まずは雫さんを……
「ノヴァさん?!」
「慎二……それに雫も!」
破壊音を聞きつけ避難を開始していたノヴァさんとちょうど出会う。
ちょうどよかった。
「何者かの襲撃に遭いました。俺を庇って雫さんは負傷をして……俺は街のみんなの避難や襲撃者の相手をします。
だから雫さんをお願いします」
「わかった任せろ!あんま無理すんじゃねぇぞ」
そして俺は雫さんをノヴァさんに渡した後、神気の羽を利用して上に飛び上がり状況を確認する。
あの仮面……俺が1階層と短剣の中で出会ったやつとは違う。
だけど何か知ってるかもしれない、だが今は街のみんなの避難が先だ。
そして俺は飛び、街のみんなの安全を守るのに専念するのだった。
──────────────────────
一方、慎は慎二の上げた土煙に紛れて逃げ高台に登り街の状況を観察していた。
慎二が向かったのは真っ白野郎の方だ、そこが一番被害がひどい。
そこは炎に包まれ、街もかなり破壊されていた。
俺も行きたいとこだがどこか腑に落ちない。
周りを見渡したが真っ白野郎の被害だけであの仮面野郎の被害が全く見当たらない。
真っ白の被害が顕著なだけか……?いやそれにしても……
俺が慎二の加勢に行かないのには理由がある。
あの仮面の大男を見た時、"何か"を感じた。
慎二と似た、何か異質な力を持っている……本能でわかった。あいつは絶対に野放しにしちゃいけないと。
考え込んだのち立ち上がり慎は先ほど雫さんが斬られた、あの仮面と最初に出会った場所へと向かった。
どうにも、嫌な予感がする……
その予感は的中することとなる。
先ほどの場所に着く。そこには先ほどまでなかった多数の破壊跡、複数の衣服が転がっていた。
慎はその落ちている衣服を拾い上げる。
どうして衣服だけ?それに全く衣服は傷ついてねぇ、死んだなら気の器を落とすはずだがそれすらない。
回収していった……?
「あ゙ぁ!よくわかんねぇ!」
「……慎!」
その時、路地裏に隠れていた一人の少女が慎に寄ってきた。
その少女はボブでピンク髪、歳は5歳でクマの人形を持っていた。
その子は慎がたまに遊んでいたサクラという子だった。
サクラは慎に縋りつき、泣いている。
慎はその子の背中を撫で、落ち着かせた。
「サクラ……一人か?一体何があった?」
「食べ、られちゃった……」
「は……?」
ゆっくりサクラから話を聞くとパパとサクラ、親友のカイと共に買い物に出ていたらしい。
そして雫さんの一件が起き逃げようとしたが時、大男が現れパパのことを掴み上げた。
その瞬間、体がどんどん崩れていき光る何かになり大男の口の中に吸い込まれていったらしい。
「カイは?あいつはどうしたんだ?」
「カイ……様子を見に行くから、ここで待っててって行っちゃった」
「どこに?!」
そしてサクラはある方向を指差す。そこは現在今一番被害が出ている場所。
クソッ……あいつは慎二のことをかなり恨んでる。一番会わせたくねぇってのに。
いや、それよりも一番行かなきゃいけねぇとこがある。
慎はサクラを抱き抱え、人通りの多いところに運ぶ。
「サクラ、人混みに従って歩いていけ。そこは安全だできるか?」
「私たちが、モンスターだからなのかな……?お父さんが死んじゃって、こんな目に遭うのは……」
「ッ……」
サクラは涙を流し薄紅色の瞳を震わせ悲痛な表情でそう告げる。
こんな小さな子にこんなことを言わせるなんて……
慎は自分の弱さに拳を握りしめた後、優しくサクラの頭を撫でた。
「モンスターだとしても俺はお前たちを守る、絶対にだ。
パパの仇は絶対に取ってきてやる、だから今は避難していてくれ」
「……うん!」
サクラは人形を強く抱きながらそう言い歩いていく。
去っていくのを見守った後、反転し走っていく。
あいつは恐らくアンデッドモンスターを食う力を持っている。
そしてあの時……あの仮面野郎は"墓荒らしをする"と言っていた。
つまりあいつは……
「師匠……!」
あいつの目的は師匠を食らうことだ。どうやるのかはよくわからないが……
それに師匠の墓標にはあいつが手を合わせてる。
慎は強く地面を踏みしめながら、墓標へ向かうのだった。
***
「ほう先約がいたのか」
その仮面の男は、虚な顔をしたまま墓標に手を合わせ続けるその男……柳蓮にそう言うのだった。
裏話……
サクラとカイが一緒にいた理由ですが、二人は家が近くて年も近いので仲良くしてました。
丁度カイはお使いで、サクラはクマのぬいぐるみを買いに一緒に出かけてたんですよね。
ブックマークや評価、リアクションぜひお願いします。




