113話 トラウマ
あれから二日経った後、今日は予定していた師匠の葬式だ。
最初に家で、特に師匠と仲の良かった人たちでご焼香をあげた後に雫さんが遺影を持って街のある場所に師匠の愛用していたものを埋める。
雫さんの意向で師匠の気の器は埋めないことになった。
そしてみんなで家でご焼香をあげた後、街を歩いて師匠の墓標のあるところへ歩いていく。
リリはずっと泣いており、ルルはそれを慰めていた。
雫さんやノヴァさんは静かに歩いていた。
そして慎は廃人状態となった柳を車椅子に乗せて、連れて歩いていた。
俺は慎に近づき、誰にも聞こえないように静かに話す。
「柳、連れてきて良かったのか?」
「……あぁこいつは見るべきだ、自分のしたことを」
慎がそう言い、街を見渡す。
そこには師匠の遺影に手を合わせ、静かに泣いている街のみんながいた。
ライオッドと戦った時のように、人で道ができていたが今回は悲しみに包まれていた。
俺たちがそこを通るたびに横にいる人たちが頭を下げて、静かに泣いた。
柳はそれを見て、無機質な顔をしたまま俯いていた。
「あっ……」
そして人混みの中にひっそりと、俺を見つめる女性が二人いた。
その人はルナさんと藤宮だった。
どんな顔をすればいいのかわからず、顔をすぐに背けて歩いていく。
そうしていると開けた場所へと出た。
そこにはかなりの人がおりその奥には大木、その下には師匠の墓標があった。
師匠が亡くなってから、みんながすぐに作ってくれた。
そしてそこに着くと、墓標の前に穴が掘られておりそこに師匠の愛用していたものやみんなが入れたいものを入れていく。
街の人たちが入れたものがかなりあった。
「んじゃあ俺が先に入れるぜ」
ノヴァさんが最初に口を開き、このために作った刀を入れた。
次にリリとルルは師匠のマントを、雫さんは好きだったお酒を入れた。
慎は誕生日で作った服を、俺は作った将棋の駒を入れた。
穴を埋めたのち、街の人みんなで手を合わせた。
人がたくさんいるとは思えないほどに静かにそれらは行われた。
そして全ての工程を終わろうとした時、柳が車椅子を動かし墓標の近くに寄り……手を合わせた。
柳が廃人になって、何かをしたことはこれまでなかった。
それに俺たちが呆気に取られていると、その瞬間……
「ッ……ふざけんじゃねぇ!」
その時、ノヴァさんがそう叫び柳のことを殴り飛ばした。
その声でやっと状況を理解してもう一発喰らわそうとするノヴァさんの動きを止めた。
「離せ慎二!こいつが殺したんだ!だってのに手を合わせるなんて虫が良すぎるだろ!」
「やめてくれノヴァさん!」
俺がそう叫ぶと、ノヴァさんの動きが止まる。
そして俺はノヴァさんのことを離す。
「殺したのは、俺だろ……」
拳を握りしめて、顔を俯かせてそう言うとノヴァさんは怒りを抑えた。
殺したのは俺だ、だからそれを背負わなくちゃいけない……
「あ……」
殴り飛ばされた柳は、地面を這いずりながら師匠の墓標に近づき体を起こして手を合わせた。
「クソッ……」
複雑な感情になったのか、ノヴァさんは静かにそう言い残しこの場を去っていった。
そして慎が柳に近づき、車椅子の上に乗せた。
その時、一人の少年が俺に近づいてきた。
確か……カイだっけか?
師匠が街に出るとよく絡みに行ってたので、よく覚えていた。
そいつは俺の腹に拳を当てながら、捻り出したような声で話し出す。
「僕は、お前を許したくない……」
「ッ……」
カイは俺にそう言った後、歩いてどこかへ消えていった。
気づいていた、さっき街を歩いた時に……俺を睨む視線があったことを。
それほど師匠がみんなにとって大事な存在だったと痛感した。
***
葬式を終えた後、俺たちは家に戻っていた。
「で……話ってのはなんなんだい慎二?」
家に戻ると同時に俺は雫さんを庭に呼び出していた。
そして、俺は雫さんに頭を下げてお願いをする。
「俺を鍛えてくれ、雫さん」
「へぇ……そりゃなんでまた」
俺のそのお願いに肯定も否定もせず、雫さんはまず理由を聞いてきた。
そして俺は緊張しながらも自分の考えを口にした。
「今回、街のみんなを見て実感しました。この街にはやっぱり師匠が必要だって……
だから俺は師匠になります。どんなピンチでも駆けつけて、みんなを安心させてあげられるように
それにまだ俺にはしなきゃいけないことがたくさんあります」
俺は仮面のことや、ノアのこと、タシテスに話を聞きにいかなければならないし、藤宮を助けないといけない。
だから俺はもっと強くならないといけない……
そして俺は再度雫さんに頭を下げた。
そうすると雫さんは深くため息をつきながら口を開いた。
「あんたの言いたいことはわかった……だがそれよりももっとあんたがしなけりゃならないことがあるだろう」
「……え?」
「まぁ言葉で説明するよりこっちの方が早い、木刀出しな」
そして俺は木刀を排出する。
一体なにを……?
意図がわからず困惑していると、雫さんは自分の首に指を差しながら……
「振ってみな」
「えっと……わかりました」
そして俺は木刀を雫さんの首目掛けて薙いだ。
雫さんの首に木刀が当たりそうになった瞬間、あの光景がフラッシュバックする。
『ちゃぁんと……飯、食うんだ…ぞ……』
師匠を斬った時のあの光景、最後の笑顔。
それが脳内に溢れ出し手が止まり、全身から汗が吹き出した。
動悸が早くなり過呼吸になる、全身が震え出し持っていた木刀を地面に落とし踞った。
斬れない、振れない、当てられない。
また殺してしまうかもという心配が、俺の手を止めてしまった。
「やっぱりね、昔もあったんだよ。
戦死した友達がアンデッドになって殺したせいで、その光景がトラウマになる。
それで剣を持てなくなるってことがね」
トラウマ……
いじめられていた時、柳を見ただけ動悸が早くなったのと同じだ。
師匠を殺したのが、俺はトラウマになってるのか……?
雫さんは蹲る俺にポンと手を置きながら……
「まぁそういうのはゆっくり治してきな」
そう言い、家の中へと戻っていった。
***
そして師匠の葬式から三日が経過した。
そこから慎や雫さんにトラウマを克服するために付き合ってもらっていた。
今日も慎に庭で克服へ向けて付き合ってもらっていた。
「いいぞ慎二」
慎がそう言うと同時に俺は慎の首に向かって木刀を振る。
だが寸前でまた師匠のことが頭によぎり、一瞬筋肉が強張り威力がなくなる。
その木刀はポンと慎の首に当たった。
そして俺は思わず膝をつき、息が荒くなる。
「まぁ当たるようになっただけ進歩だろ」
「そうか……」
俺は立ち上がり縁側に腰をかけ横に慎が座る。
とりあえず動悸が落ち着くまで、適当に慎と話すことになった。
「柳の調子はどうだ……?」
「相変わらずなにも言わないな、最近ずっと師匠の墓行って手を合わせてる。
意識があるのかないのか、よくわかんねぇな」
慎はそう言いながらため息をついた。
そんなことになったのは俺のせいだ、罪悪感が少し湧いてくるがそれと同時にいい気味だと思う自分もいた。
「雫さんから聞いたぞ、師匠みたくみんなを守りたいんだってな」
「あぁ、カイやリリみたいに師匠を大事に思っていた人がたくさんいる。
その人たちがもう悲しまないようにしたいんだ」
「そりゃあいいが、あんま追い込み過ぎんな、お前はお前だ」
その時、後ろの襖が開く音がした。
そこに立っていたのはリリだった、どうやら俺の話を聞いていたようだった。
「リリ……」
俺が話そうとした瞬間、リリはその場から去っていった。
ルルから聞くにはリリも前を向こうと頑張っているようだ。
だがお互いにどんな顔をして話せばいいかわからなかった。
「無視されてんじゃねぇかよお前!」
「るっせぇ、てかもうすぐ時間だ。行くぞ」
そう、今日は雫さんと慎と共に亜人の街に向かうのだ。
行く理由はただ一つ、タシテスに話を聞きに行くためだ。
それにライオッドもそろそろずっと見張っているのを我慢できないらしく、殴り書きされた手紙が少し前に届いた。
そこには"ハヤクコヤイトブチコロス"とカタカナで書かれていた。
まぁ一週間半ずっと見張ってくれてたんだ、早く行ってやらないとな。
そして俺と慎は街に出て、雫さんとの合流場所に向かった。
「やっと来たかいお前ら」
怒気を孕んだ声色で、雫さんが俺たちにそう言う。
慎は青ざめて俺の方を指差して……
「慎二のせいです」
「はぁ?!雫さん違うぞ慎のせいだ!」
「お前が修行に付き合わせたんだろうが!俺は悪くねぇ!」
慎と俺はそんな不毛な言い合いをしていると、アホらしくなったのか雫さんは深くため息をついた。
「まぁ元気が戻ったようでなによ──」
「陸天流居合──」
殺気だった。
雫さんは俺のことを左手で突き飛ばし、右手で刀を抜くがもう遅かった。
「『無明・五蘊』」
金切り音と共に、雫さんの胴体は切られ血が舞った。
俺の感知に一切反応がなかった。こいつは誰だ。これ雫さんが放ってた技だ。
そいつの身長は200を超えているだろう、大きな剣を持ち深くフードを被っている。
そして……開いた歯のようなマークが書かれた"仮面を被っていた"。
「墓荒らしといこうか」
その仮面の大男は、静かにそう告げるのだった。
裏話……
昔の時代、二つの流派がありました。
慎二の使っている『天絶』や『不倶戴天』は最強の二つの技を磨けば絶対に負けないみたいな感じです。
その対をなすのが陸天流、たくさんの技を覚えればどんな状況でも臨機応変に対応できるぜ!って感じで考え方が対極の位置にあったんですよね。
平均して多かったのはやっぱり陸天流でしたが、極めればやっぱり慎二たちの使ってる剣技の方が強いです。
陸天流は覚えやすいので帝国や剣術学校で採用されてますね。
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