111話 自責
俺はあの後、ご飯を食べた。
リビングでご飯を食べたが、リリは食欲がないらしく部屋に篭っていた。
意外にも腹は減った。人を殺したのに。
喋ることもないのでみんな黙々とご飯を食べた。
その後はとりあえず風呂に入って、ずっと眠っていたせいで寝付けなかった。
とりあえずリビングに行くと、そこには雫さんが一人酒を飲んでいた。
「寝られないのかい?だったら少し付き合ってくれ」
「……あぁ」
俺は雫さんの横へ行き、座った。
何か、考えていないと嫌でも思い出す……キリサメの最後の顔を……
俺が自責の念に駆られていることに雫さんは気づいたのか、口を開いた。
「あいつの器……持ってるんだろう?見せてくれるかい」
そして俺はそれに従い、亜空間収納の中から師匠の器を取り出して雫さんに手渡した。
ボール大の器だった。透明のガラスのようなものに包まれ、中に青く輝く水が入っている。雫さんはそれを光にかざした。
「小さくなったもんだね……」
雫さんは静かにそう言いながら酒を飲む。
無くなると俺はおちょこに酒を注いでいく。
少し気になっていた、タシテスの言っていた言葉……俺は"最後の英雄"であると。
雫さんは何か知っているのではないかと思い、聞いてみた。
「師匠の他にも、"最後の英雄"が一人いるんですよね。
その人はどんな人か知ってますか?」
「あぁうちら世代じゃ有名だからね。
そいつの名前は"チハレ"……あんたが手に入れた雨之御嘉神のもと所有者だよ。
そして、キリサメとは親友だった」
「親友……ですか」
前に見た記憶で師匠はその記憶の主を親友と言っていた。
そしてタシテスが言うには俺はそいつと同一人物だと……
師匠は、キリサメは俺が親友だったから助けたのだろうか……?
雫さんは俺が悩んでいることに気がついたのか、それについて問うてきた。
俺は少し迷いながらも、答えた。
「タシテスに言われたんです……
『俺がチハレと同一人物である』と。
だから師匠は俺が親友だったから助けたんじゃないかとか嫌な想像ばかりが生まれて……」
「そりゃとんでもない話だねぇ……」
雫さんのその言葉に俺は首をコクリと縦に振る。
そして雫さんは少し黙り込んだ後、口を開いた。
「その話が本当ならそうだろうね。
あんたを助けた理由はあんたがチハレと同一人物だったからだ」
「ッ……」
その言葉に、思わず拳を握りしめた。
聞いた時から可能性としてはあったことだ、そんなにショックじゃない……
そう思いたい……だが意思とは裏腹にどうやらかなり傷ついたようだった。
思わず涙が込み上げてきた。
「だがね、それは最初だけだったと思うよ」
「え……?」
「最初はあんたをチハレとして見ていただろう。だがそれは最初だけさ。
関わっていくうちに変わっていったと思うよ、チハレから伊藤慎二にさ……
思い返してみな、あんたは自分以外の誰かとしてキリサメに見られてたかい?」
確かにそうだ、師匠は俺としてちゃんと接してくれていた。
そう思っていたじゃないか……
そうこうしていると雫さんは寝てしまっていた。
とりあえず雫さんをおぶり、部屋へと運び布団で寝かせた。
雫さんの言葉で、何か心が軽くなった。
ダメだな、よしっ!こんな時こそ笑わな──
「何死んでんだい……馬鹿野郎………」
雫さんは眠りながら……泣きながら、震える声でそう言った。
何かが込み上げた。トイレに走った。
「ウオェェ……」
吐いた。吐き出した。
気持ち悪かった。勝手に救われた気になった自分が。
罪の意識が薄まっていた自分が、どうしようもなく気持ち悪く感じた。
その喉に伝う気持ち悪さ、気づいたら俺は狂ったように喉を掻きむしっていた。
血が出ても、痛みも何もなかった。
ただこの気持ち悪さが気色悪い。
俺が悪くて全部悪い。
ただ、吐き続けた……
***
気づいたら、師匠の部屋で座っていた。
首が痛い、血だらけのそれを治した。
何でここにきたのだろう……
目の前には将棋の盤が広がっており、正しい位置に駒が置いてあった。
そして俺は駒を進めた。
10秒、1分、10分……
進んでも進んでも、俺の手番になることはなかった。
冷たい何かが手に落ちた。
"泣いていた"
一粒一粒……ゆっくりと落ちていく。
いると思いたかった。
全部嘘で、本当は師匠は死んでなくて、全部全部無かったことになっていた……そんな夢のような世界を。
手には俺が師匠を切ると同時に両断された、誕生日プレゼントで作られた王将が握られていた。
俺は膝を丸めて、それを強く握りしめた。
ただ強く……
「ッ……」
気づいたら俺は立ち上がり歩いていた。
足早でその部屋へ向かう。そこは俺の因縁の相手がいる部屋……
強くその扉を開けて中に入る。
そいつの赤かった髪は真っ白に染まり、やつれており前のような覇気のある顔ではなくなっていた。
ただ怒りのままに、刀を抜き柳に突き立てた。
動悸が早くなる、こいつを殺さないと気が済まない。
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
「──ッ!」
そして勢いよく、それを振り下ろし……
「駄目だ……」
その瞬間、そこから手が伸びる。
そしてその腕を止める。
横には慎がいた。柳の面倒を見ていたのか……
「それだけは……駄目だ……」
俺を止める慎の手は震えていた。
慎も辛いはずだ。
どんな気持ちなのだろう、敬愛していた師を殺した相手の面倒を見るのは。
そんな慎が止めるのだ。俺がそれ以上何かできるわけがなかった。
何もできない無力感に打ちひしがれて、拳を強く握りしめ……
「クッソォォ………」
ただそう言った。
裏話
前の話に『キリサメは人だよ』と慎二が言った回があります。
この話は16話で慎二が思っていた『もし生身の人を殺したらどうなるのか』という疑問へのアンサーとしてこの話を書きました。
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