110話 新加入
俺は見覚えのあるその部屋で目を覚ました。
ここは、俺の部屋か……
周りを見渡すと横でルルが寝息を立てていた。
服が変わっていることや、額に濡れたタオルが置いてあることからルルたちがみていてくれていたことを理解する。
そうだ、俺はキリサメを……
不快感が込み上げ、思わずえずき口を手で覆う。
「んっ…ふわぁ……」
「起きたか、ルル」
「慎二、やっと起きたんだ……」
ルルは嬉しそうに顔を綻ばせ、立ち上がり俺を連れてリビングへと向かう。
向かう途中で俺は丸一日気を失っていたことを聞く。
タシテスはあの後慎がちゃんと街まで送り、今は亜人の街で拘束しているらしい。
亜人の街だと誰かが助けるかもしれないということで警備にはライオッドを使っているそうだ。
「ついたよ」
ルルはそう言いリビングの襖を開けると、そこには雫さんと慎やリリ、ノヴァさんが机を囲んで座って待っていた。
俺を見るなりみんなは一瞬、安心した顔をしたがすぐに神妙な面持ちへと変わった。
そして俺とルルも空いている場所に座ると、雫さんが口を開く。
「慎二が気を失っていた間に先に起きた藤宮渚、ルナから話は少し聞いたよ。
とりあえず今はここ以外の泊まれるところでゆっくりしてもらってるけどね……」
ルナさんや藤宮から話を聞いた……
それを聞いた瞬間、キリサメのことを聞いたのかと思い緊張が迸り手汗を握る。
できることなら自分の口でと思っていたから……
そして雫さんは話を続けた。
「あの赤毛の餓鬼が街を燃やしたこと、キリサメを操ったこと。
慎二、あんたを殺しにきたこととかね。
話を聞き出したいとこだったんだがあの餓鬼、精神がイカれて廃人になってる。
話す内容も要領が得られない。
今は逃げ出さないように奥の部屋で寝かせてる」
それだけなのか……
言われてみれば俺が来た時にルナさんや藤宮は気を失っていた、キリサメと俺が戦ったことを知らなくても不思議じゃない。
柳が廃人状態になっている、俺のせいなのだろうか……
そんなことを考えていると雫さんは口を開いた。
「キリサメは今、衣服だけを残して見つかっていない。
だからこそ慎二、嘘偽りなく答えてくれ。
ウチの旦那は……キリサメは、どうなったんだい?」
「ッ……」
みんなの視線が俺へと集中され、鼓動が早まる。
言おうと思っていた、だがいざとなったら言葉が詰まってしまった。
俺は、一度深く深呼吸をしたのちに口を開いた……
「俺が殺した」
「ッ……」
「慎二ィィ!」
その瞬間、ずっと顔を俯かせ肩を震わせていたリリがそう叫び俺のことを思い切り殴り飛ばした。
抵抗する気もない、その勢いのまま俺は倒れリリは馬乗りになり襟を掴む。
「どうして……どうして!あんたがキリサメを!」
「リリ落ち着け!こいつにも何か理由があったはずだろ!」
慎は慌てた様子でリリを静止するように肩を掴む。
だがリリはそれを拒むように振り払い、慎に向かって口を開いた。
「わかってるわよ!慎二はキリサメのことを思ってることくらい!
簡単に手をかけられるほどの関係じゃないことくらい!
けど……けど…………」
リリは悲痛な表情で俺の服に涙をポロポロと溢す。
俺の袖を握る手を震わせながらリリは口を開いた。
「何とか、言いなさいよ……
"仕方なかった"とか"俺は何も悪くない"とか、何か言い訳とかしてよ!
お願いだから、私を納得させてよ……」
「ごめん……全部、俺のせいだ」
「──ッ!」
俺のその言葉に、リリはもう一発殴ろうと拳を振り上げる。
思わず目を瞑る……だがいつまで経ってもそれが放たれることはなかった。
リリはゆっくりと立ち上がり、何も言わずに部屋を出ていった。
「ルル」
雫さんはルルにそう言い、首を振り「ついていきな」と合図をした。
ルルはほんの少しだけ迷いを見せたが首を縦に振り、リリの後を追いかけていった。
嘘でも、言うべきだった。
俺は悪くないと、柳が全部悪いと……だが俺にはそれが言えなかった。
嘘になると思ったから……
「慎二……辛いだろうが詳しい話を聞かせてくれるかい?」
「……あぁ」
そして、俺は話した。
キリサメが柳に操られ、俺を襲ってきたことを。
もうキリサメの気の器は持たず、死にかけていたところをキリサメに殺してくれと頼まれたことを。
そして……怒りのままに柳を殴り続けたことを。
「っはぁ……そうかい。悪いね……あんたにやらせちまって」
「え……?」
「慎二……」
雫さんは全てを聞き終え、涙を流しながらそう言った。
そしてノヴァさんは立ち上がり、俺に向かって手を振り上げた。
殴られると思った、ノヴァさんはキリサメと親友だ。
今度こそ……
だが、ノヴァさんは俺を殴ることなく……逆に抱きしめた。
「ありがとな……あのバカの願い聞いてくれてよ。
お前も辛かったろうに、あいつを眠らせてくれたこと……親友として感謝する」
「──ッ」
暴言を全て受け入れるつもりだった。
リリのように殴りかかられても、殺されても文句はなかった。
なのに、感謝される……意味がわからなかった。
慎は俺の背中にポンと手を置き……
「あんまり気負いすぎんなよ弟弟子」
そう言った。
俺が言って欲しいのは、そんな言葉じゃないのに。
──────────────────────
「よっしゃ〜!やって参りました第一階層!」
そのナマケモノの亜人は、そこで一人そう叫んでいた。
プレゼントはちゃんと置いてきた、伊藤慎二は気づいてくれるかね〜。
外へ繋がる扉を探していると、後ろから風を切る音が聞こえた。
「ッ……消えた?!」
ナマケモノはスキルを使い、消え失せる。
そして後ろを確認すると、そこには見たことのある奴らがいることに気づいた。
一度ナマケモノは距離を取り、姿を現す。
金髪、金の瞳、安心するような眼差しに整っている顔立ち、そこにいたのは……
「おっ最近覚醒した『剣聖』くんじゃないか〜!
それにクラスメイトたちも揃って……何しにきたんだ?」
「喋った!?」
そっか喋るモンスターとか見たことなかったのか……
直近で99階層攻略してたし、最終層攻略に駆り出すのはもうちょい後だと思ってたんだけど……
あぁ柳蓮とかルナさん、藤宮渚が来てたんだっけ?
助けに来たのか……
ナマケモノが考えていると、佐々木さんと樋口が前に出て剣を構える。
「あっそうだ俺敵だった」
「また喋った……こいつ"原罪"の関係者じゃないですか?」
樋口がそう言うと佐々木さんは首を縦に振り、警戒心が増した。
いやまぁ当たってはいるけどさ……酷いな〜急に切り掛かるとか。
それよりみんな最終層に行くのが目的、今行かれちゃうと少しめんどくさそうだな〜。
ナマケモノは少し悩んだ様子を見せた後、ニヤリと微笑み……
「よしっ、お帰り願おう!」
そしてナマケモノと樋口たちの戦いは幕を……
***
「はいっおしまい!」
そしてその戦いはナマケモノの勝利で幕を閉じた。
後ろには樋口、力、佐々木さんが転がっており辛うじて晶が立っている状態だった。
晶は足を震わせ、口を開いた。
「あんた……一体何をしたの?
急に慶と佐々木さんが、戦いを始めて……私まで襲ってくるなんて……」
「さて何だろうね〜。
目が悪かったんだよきっと、それでみんながナマケモノに見えたってだけさ」
「そう!」
ナマケモノがそう言うと、晶は地面に杖を突き立て転移で王都へ戻っていった。
さて、帰るとしますか……
ピロピロ
その時、ポケットの中にあるそれがそんな音と共に震え出した。
ゲッ……
ナマケモノはポケットからその端末を取り出し、それに出た。
「もしもし、こちらナマケモノです」
『仕事ご苦労だったな。どうだった?最下層は』
「先輩〜いやまぁ悪くはなかったっすね。
でも結構パワハラ酷かったかな」
ナマケモノは笑いながら、そのダンジョンを歩いていく。
モンスターが現れたりもするが、何も見えていないように素通りしていく。
『伊藤慎二だがどうだった?』
「あ〜確認しただけっすけど反転率40は超えてそうでしたね。
めっちゃ強かったっす。
それとキリサメ死にました」
『そうか40……は?キリサメが死んだ?"最後の英雄"のあの男がか?』
「はい、多分殺しましたね」
キリサメが死んだという情報を聞き、先輩は驚いた様子を見せた。
そして先輩は他に人を呼び、話し始めた。
『──が死ん──。これは好機だ。暴─を派遣し──あいつの──を──ば……』
遠くで会話しているようでよく聞こえなかったが、先輩が話している相手は老人のような声をしていた。
だが喋っているうちにどんどん若返り、青年のような声へと変貌していく。
そして先輩と電話を代わり、その青年が話し始めた。
『彼が君を連れてきた時は半信半疑だったが、君はとても良い仕事をしてくれた。
本部に戻ってきてくれ、君に素晴らしいプレゼントをあげよう』
「つまり……俺も"原罪"に入れてくれるってことっすか?」
『あぁいいだろう。
君の冠する罪は"虚飾"だ、これからはそう名乗ってくれたまえ』
「了解です。"原罪の虚飾"として精一杯努めていきます」
ナマケモノはスキルを解き、元の姿へと戻っていく。
そしてダンジョンの扉を開け、外へと出ていくのだった。
裏話
柳が街燃やしたせいで、今ノヴァさんの鍛冶屋が寝泊まりできないくらいボロボロになっちゃったんですよね。
ついでに慎二とキリサメの戦いの余波で結構ぶっ壊れてたんで立て直してます。
ノヴァさんは泊まるところないし、キリサメが生きてたら気も補給させないとって家に泊めてました。
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