109話 復讐
「ゥゥ…クッ……ッ」
伊藤慎二があの男を殺し、傷ついている隙に柳は落ちている瓦礫を拾い上げ近づいていく。
酷い頭痛が柳を刺激し続ける。
こいつのせいだこいつのせいだこいつのせいだ。
僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない僕は悪くない。
その頭痛と共に流れ込むその記憶を拒絶する。
俺のせいで……伊藤慎二が事故にあった。そんなことあってはならない。
頭に黒い何かが渦巻き、俺の心をどす黒いものへと昇華させていく。
「死ねよ……慎二!」
そして柳は慎二に向かって、落ちていた瓦礫を頭に振り下ろす。
その瞬間、目の前から慎二が消え失せそれと共に腹部に強い衝撃が迸る。
「ハッ……ガァッ」
柳はその強い痛みに腹を抱えて蹲る。
一体、何が……?
その衝撃により腹部にある何かが刺激され、喉から何かが垂れてくる。
「ウオ゙ェェ……」
口から酸っぱい何かと共に勢いよくその吐瀉物を吐き出した。
痛い苦しい怖い恐ろしい……
自分の息遣いが、鼓動がどんどんと早まっていくのがわかる。
「"俺にも殴らせてくださいよ〜"だったか?」
「ぇ……」
柳が顔を上げようとした瞬間、慎二はそう言い柳の頭を蹴り飛ばした。
慎二の蹴りはとても強く、首が取れるのではないかと思えるほどの衝撃が走り後ろに倒れた。
「あ゙あ゙ぁぁぁ……!」
酷い頭痛と共に頭に食らったその蹴りが痛みを加速させる。
涙と鼻血と鼻水が混ざった何かを垂らしながらみっともなく頭を抱えてのたうち回る。
慎二は無機質な顔で、のたうち回る柳の襟を掴み上げる。
首が圧迫され息ができず、慎二に向かって腕を振り回して離せという意思表示をする。
この世界に来て筋肉もかなりつきかなり重いはずだった。
まるでボールを投げているようだった。
だというのにそいつは、いとも容易く柳の体を投げた──
壁、壁、床、壁の順で体を叩きつけ血液を吐き出す。
「ナおれ……」
何とかその言葉を絞り出すと同時に、負傷した臓器が治されていく。
柳のスキルは"言葉にしたものを対象に強制させる"『遵守』だった。
そのスキルを応用し、自身の体に命令し体を治した。
まだ勝てると思っていた、俺のスキルは強い。
あのキリサメという男にも効いたのだできるに決まってる。
そして柳は体を起こし、慎二を視……
「目だろ」
「あ……」
慎二は柳の顔に手を近づけ、躊躇いもなく柳の目に指を入れた。
目の中に異物が混ざり、無粋にほじくられる気色の悪い感覚。
それと共に来る激痛、現状を言葉に言い表す言葉が見つからず柳はただ……
「アアァァァ……!」
喉が枯れるまで叫び続けた。
喉が切れても、傷んだとしてもそれに勝る激痛が走りそんなもの毛ほども気にならなかった。
そして慎二は柳から眼球をほじくり出し握りつぶす。
だが柳の目からは光が失われ、ただブチュという不快な音を聞くこと以外できなかった。
そして慎二はそう言い柳の上に跨り、足で両腕を固定する。
慎二の顔がわからなかった、今どんな表情をしているのかどんな顔で俺を見つめているのか……
ただ怖かった。
「"渚に話しかけるな"だったか?」
そして慎二は足に力を入れていき、柳の両腕をへし折った。
喉を労わらなかった。また叫んだ。
叫び続けた。
いつどこから何をしてくるかわからない恐怖、目が見えないのはこれほどまでに……
「"呪いを解けよ"とかだったよな?」
慎二はそう言い、柳の顔を思い切り殴りつける。
「"事故はお前が原因だった"か?」
そしてもう一発、柳の顔を殴る。
何回も殴る、柳が慎二に言った暴言を告げながら柳の顔を殴りつけた。
その言葉で柳が慎二にしたことが鮮明に呼び覚まされていく。
何で俺……こんなことしたんだっけ?
そもそも、俺って慎二のこと嫌いだったか?
何がきっかけで、俺は……
***
いつの日か……渚に傷を治してもらってから、同じ夢を見るようになった。
とても日差しの強かった、夏だった。
僕と慎二と渚はキャッチボールをして遊んでいた。
「えい!……あ」
渚は笑顔で僕にボールを投げつけるが、コントロールミスで道路側へ飛んでいってしまった。
「僕、取りに行ってくるからちょっと待ってて!」
僕は走る、そこで左を見ると見たことがある人がいることに気づいた。
えっーと同じクラスの人だったよね……?
その人はじーっと渚だけを見つめていた。
不思議に思い、その人のことを見つめていた。
そのせいで僕は気づかなかった。
正午の鐘が鳴り響く。
僕が道路を飛び出すと同時に、背中に強い衝撃が走った。
その勢いで僕は倒れ、その時……
キッ―――
それと共に、甲高い音とともに何かがぶつかる音が背中から聞こえた。
後ろから地面を沿って生暖かい水が流れてきた。
後ろを向くと、真っ赤な液体でできた水たまりがあった。
先ほどまで履いていた真っ白なシューズは真っ赤に着色されていた。
その液体の出所を探るため、ゆっくりとその液体を目で追う。
「……え?」
そこには慎二がいた。
倒れていた、真っ赤な液体を全身に浴びながら。
いや、慎二からその液体は漏れ出ていた。
そしてやっと気づく、その液体は血液だ……
膝を擦りむいた時によく目が合う、その液体だ。
だがいつもと変わり、それは水たまりほど多く出ていた。
「慎二……?」
僕はゆっくりと、慎二に近づく這いずりながらゆっくりと……
そして寝た子を起こすようにゆすろうと触れる。
ちょっとつめたかった
いきづかいがきこえなかった
僕はその状況を理解して、後ろへ這いずっていく。
そして僕は慎二を見つめながら呟く……
「僕のせいじゃない」
ぼくのせいじゃないぼくのせいじゃないぼくのせいじゃないぼくのせいじゃない……
「大丈夫かい?!」
しらないおじさんがくるまからおりてこちらへかけよる
しかられるとおもったじぶんがわるいから……
おじさんはいそいですまほをとりだしてでんわを──
「ちょっとよろしいですか?」
「え──」
そのときうしろからふたりのおとこのひとがきゅうにあらわれた
そしておにいさんがそのおじさんのあたまにふれるとふくだけのこしてきえた
「消しますか?」
「いや大丈夫、他にやらなくちゃいけないことがあるからね」
そしてしろいかみのおにいちゃんはぼくにてをちかづける
しかられるぶたれる、おじさんみたいにぼくもきえちゃう……
「君はこれから、この記憶を全て忘れる。
そして恨みを持つんだ、伊藤慎二へ持つ憧れから"反転"して……嫉妬、憤怒の感情へと変わっていく」
ぬりかえられていく
しんじにたいしてもっていた、すごいとおもうのがきえていく
しんじがきらいになっていく……
きらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいにきらいに
そしてぼくのいしきはきえていった……
***
「あ゙あ゙あ゙ああぁぁ」
「──ッ!?」
その瞬間、記憶の蓋が開かれて慎二を跳ね除ける。
髪が真っ白に染まり、頭から黒い何かが吹き出していく。
そうだ、"僕は"……あいつらのせいで!
「あいつら……の」
そして、柳の意識は途絶えていった。
──────────────────
「今のは……神気か?」
俺、伊藤慎二はその状況に困惑していた。
そいつの髪はストレスかわからないが真っ白に染まり、意識を失っていた。
何か、してくる前に……
「ッ……」
その瞬間、俺の視界が揺れた。
どうして……?
『ワシの気に器が耐えられなくなったのじゃ』
「"悪食"……!」
そうだ、雫さんが確か言っていた。
『布都御魂』や『雨之御嘉神』は気が多く内包されているから慣れていないと器が耐えられないと……
クソッ、まだ柳を殺せてないのに……!
「慎二……!」
その時、慎たちが街に帰ってきてこちらへ駆け寄ってきた。
それを最後に俺の意識が消えていった。
裏話……
伊藤慎二が記憶を失う前はとても運動神経が良く、みんなの中心的な存在でした。
何でもこなす慎二が昔の柳にはとても輝いて見えてて憧れの存在でした。
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