108話 最期の英雄
「"剣気解放"『"雨之御嘉神』」
「行くぞ慎二……最期の立ち合いだ!」
足を強化、一瞬でキリサメとの距離を詰め刀を振る──
ドスンッ──
そんな音と、背中と腹に痛みが走り顔に土埃が落ちる。
そこでやっと俺は吹っ飛ばされたことに気がついた。
何とか起き上がり、キリサメと向かい合う。
本調子じゃないってのにこの威力、別に技術がなくなったわけじゃねぇ……
建物に迸っていた炎は俺の服へと移る。
「少し、炎が邪魔だな……領域範囲拡大」
その瞬間、周りにあった炎が……いや俺の視界に映る全ての場所から炎が消え失せた。
だがその時、俺はあることに気がつき首に手を置く。
領域を使った時、もし俺の首に『風刃』が置かれていたら……俺は今"死んでいた"。
「悪いがそろそろ抑えられなくなってきた……行くぞ」
その言葉を告げた瞬間、周りの空気が一気に冷たくなるのを理解した。
抑えきれない命令が……俺を無理にでも殺そうとしているのだろう。
そして俺は蛇口を開ける。
「"反転率45%"」
前より許容限界が上がってる……
いやそれより前まで流れ込んできた神気が今はほぼなくなっている。
これも"記憶"が……
『来るぞ!』
"悪食"のその言葉で現実へと戻される。
すでに目の前にキリサメは立っており俺の首を捉える。
ギリギリで反応、のけ反り刀を避ける。
右足に気を回した……まさか……!?
キリサメは左足を軸に回転、その勢いと共に俺を蹴り飛ばす。
左腕を硬化し受けるが勢いは殺せず、後ろの建物を壊して他の路地へと飛ばされた。
「痛っ……」
考えなしじゃダメだな斬られる。
領域の『風刃』も警戒しながら、キリサメの相手もこなさなきゃいけない。
やることが多すぎる。
俺は深く深呼吸をし、刀に手をかけた。
攻めていくしかねぇな……
「さぁ勝負だ」
俺のしたいことをキリサメは理解したようで、キリサメも刀に手をかけた。
前に聞いたことがある、もしあの技がぶつかり合ったらどうなるのか。
そして俺たちは刀を抜き、空を斬る。
「「『天絶』」」
キリサメはこう言った……
ぶつかり合った『天絶』は互いにぶつかり合い、押しのけ合い、全てを斬る矛と矛は……
カンッ──
"対消滅する"
その瞬間身をかがめ、キリサメとの距離を詰める。
キリサメは迎え撃とうと居合の構えをとる。
そして俺は馬鹿正直に突っ込んでいき、キリサメは刀を振り下ろした。
そのまま行けば絶対に俺の首が斬れる、だが俺は知っていたのだ。
飛べることを……
羽を回転させ前に行くエネルギーを殺しその振り下ろされた刃を避けた
だがその影響で体が後ろに回転、その勢いに従い一回転し地面に足をつく。
そして一歩、踏み出そうとした時……
「"毀せ御魂"」
地面にキリサメの刀が触れた瞬間、地面がビスケットのように脆く沼のように沈んだ。
どうして……?!
そのせいで地面に上手く力が伝わらず、少し出遅れた。
その隙に振り下ろされた刀が反転し、顎目掛けて振り上げられた。
硬化で防……
『"布都御魂は魂への干渉"』
その瞬間、雫さんのその言葉を思い出し当たること自体危険なことだと感じた。
俺は羽を回転させ足に力を入れて、少し浮き上がりギリギリそれを避けた。
空中は格好の的、だったら……
地面に目を向けると、真下にキリサメの姿を確認。
刀に気を込めていく。
「『天絶』」
キリサメは一瞬で刀を磨き上げ振り下ろし『天絶』放つことで対消滅させた。
防がれたか……だが『天絶』は使わせた少しは溜める時間が……
「まだだぞ!」
「──ッ!」
キリサメは再度刀を振り下ろそうとした。
まだ1秒くらいしか経ってないはず!いくら何でも早すぎる。
絶対に避けられねぇ、だったら!
『天絶』がキリサメの刀から放たれ、俺の右脚を切り飛ばした。
「命は残す……!」
もう一発来る前に俺は空中に飛ぶ右脚を掴み、キリサメに向かって投げつけた。
キリサメは簡単に跳ね除けるがその隙に俺は距離を詰め、キリサメの首を捉えた。
『慎二……ありがとな』
その瞬間キリサメの言葉が、思い出が蘇り一瞬だけ力が弱まった。
その緩みを見逃さずキリサメはわざとその攻撃を受けて脱力……
その勢いのまま半回転し足と頭の位置が逆転、地面に左手をつきそして俺の首に蹴りを喰らわせ吹っ飛ばされた。
視界が揺れ、体勢を立て直せていない隙にキリサメは接近する。
「──ッ!」
寸前で左手で火球を生成。
その勢いで後ろに飛ぶが、左手を飛ばされ……
なっ……?!
その瞬間、頭痛と共に手足が上手く動かせなくなり体勢を立て直せず倒れた。
体が動か…ねぇ……魂への攻撃か……!
キリサメは一瞬で距離を詰め、床に刃を走らせ俺の首を斬ろうとする。
どんどんと死が近づき、俺の頭はものすごいスピードで回転していく。
全身麻痺して動けない、かろうじて腕だけは動く。
次の攻撃が当たっても硬化で防げるか……?
いや硬化したとしても魂が傷ついて死ぬ可能性がある。
だったら……!
「右腕」
過剰強化し右腕を壊して体を浮き上がらせその攻撃を避ける。
これはただの時間稼ぎ、キリサメは『天絶』が溜まるまで1秒もいらない。
だがまだ魂が傷つけられて回復しきってない。
しかもこの腕じゃ刀が振れない、治るまでには時間がかかる。
飛ぶか?いや勢いがつかない絶対喰らう。
キリサメは上にいる俺を視認し、居合の構えをとる。
どうするどうするどうする!?
「──ッ!?」
その時、右手に握られていた『雨之御嘉神』から神気が漏れ出ていることに気づいた。
そうだ!俺が"記憶"を流された時、こいつに神気を喰われた。
それがまだ残って、だったら……!
俺は右手に持つ刀からキリサメへと視線を移し、刀を収納し再排出。
『雨之御嘉神』を再排出したところ、それは……
「ほへへいへんあろ!」
口で刀を持っていた。
そして俺は刀を薙ぐように体を回転させ、それを放つ。
「『へんふぇふ』!」
キリサメと同時に放ったことで対消滅する。
だがキリサメだったらまだ放ってくる、だけどまだ出し切っていなかった。
もう一回俺は体を捻らせ回転、それを放つ。
「『はいはらふ』!」
キリサメに向かって『這烏』が飛んでいき着弾。
煙が舞い何とか地面に着地、凌ぎ切ることができた。
俺は走り先ほど切り落とされた腕を拾い上げ断面とくっつけて治す。
ギリッギリ……これじゃジリ貧だ。
キリサメもいつまで持つかわからない。
身体能力では俺が確実に上を行っているが、気で先読みして攻撃が防がれる。
それに攻撃する時に部位に気を回して強化してくるからかなり効く。
普通なら部位強化してないとこ狙えば致命傷を与えられる。
だが攻撃するギリギリで回すからそのせいで攻撃も読みづらい。
攻撃を食らう前提で動けなくしてもいい、だが魂を砕かれない保証がない。
「言っちゃ悪いが……全快じゃなくて良かったよ」
まぁ全快だったらこんなことにはなっていないだろうがな……
その瞬間、煙からキリサメは飛び出し俺へと突撃する。
何とかキリサメの猛攻を防ぎながら打開策を考える。
隙を作りながら戦ってはいるがキリサメは簡単には乗ってこない。
いつものキリサメならわざと罠にかかってその上で俺をねじ伏せる。
つまりキリサメもあまり余裕がないんだ。
考えてるのはキリサメと恐らく一緒『不倶戴天』をぶち当てるしかない。
戴天は全ての気を込めて撃つ。
つまり撃つ前後は身体強化や刀に込められている気がほぼゼロになる。
要するに『不倶戴天』を当てるか、相手が撃ったのを避けるか防ぎ切った方が勝つってことだ。
だが身体能力は圧倒的に差があるわけじゃない、もっと強化倍率を上げる手は一つしかないか……
「反転率解除」
その瞬間、纏っていた神気が消えていき元の姿になった。
キリサメはそれを見て焦っているのがわかる。
また出せるまでには3分……
「何やってんだ馬鹿!死んじまうぞ!」
「考えたんだよこっちにも!それによ……」
俺は一瞬でキリサメとの距離を詰め、首に刃を振るう。
キリサメは反応が遅れ後ろに飛ぶが擦り、血が流れる。
「こっちの方が……反応しずらいだろ?」
神気の気配は異質だ、だから読まれやすい。
神気を隠して戦うのはまだできない、だが気を隠すのなら雫さんにさんざ教えてもらったからな。
だが……
「──ッ!」
『布都御魂』が眼前に迫り、何とか刀で受けるが勢いが強く飛んでいき建物にめり込んだ。
キツいのは身体能力の差か……
俺は立ち上がり、衝撃で口から出た血を拭う。
だが神気を解き放ってた時、神気の中にあった"経験"が無尽蔵に流れ込んできた。
ずっと流れてきたんで無視してたが、今は何もない。
"最後の英雄"ってタシテスが言うには俺なんだよな……
縋りたかねぇが、状況的に仕方ない。
「元々は俺のもんだったんだ、消化して自分のもんにしてやる」
流れ込んできた経験に身を任せ、キリサメとの戦いに挑んでいく。
地面に転がっていた礫を思い切り蹴ると、キリサメはそれを刀で軽く防いだ。
だがすでに俺はキリサメの目の前におり、刀を横腹に向かって薙いだ。
キリサメはそれを縦に構えてガードするが、当たる寸前で収納し勢いで回転して蹴りを喰らわせる。
体勢を崩した隙に刀を排出しそれを放つ。
「『天絶』」
溜めるのが間に合わずキリサメは回避を選択。
その隙に近づき顔に向かって蹴る。
のけ反り避けられるが反転し、刀を振る。
刀がぶつかり合い反発、甲高い音と共に風が巻き起こる。
キリサメの目はどこか嬉しそうに輝いていた。
「収納」
地面に足をつき左手に排出し、ガラ空きの胴に向かって突くがキリサメが防御姿勢に入る。
それを見た瞬間、また収納し事前に構えておいた右腕に排出し全体重を乗せて振り下ろした。
キリサメは左に避け回避し、体重を乗せた影響で前屈みになった俺の背中に向かって刀を振り下ろすが左手を構え収納、排出しその攻撃を防いだ。
衝撃が体、地面に伝わりヒビが入る。
「二刀流みてぇな戦い方すんじゃねぇか」
「「焔刃」」
俺とキリサメは同じタイミングで炎に剣気を変え、爆発させる。
そして俺たちは一度距離を取った。
俺は自分の体を確かめるように手をグーパーさせる。
体が勝手に動く、自分の体を自分で動かしてる感じがしないの気味が悪いな。
だがキリサメのいう通りまるで二刀流のような戦い方、"経験"もらった時に見たが確かに二刀流で戦ってたな……
「そろそろ、か……」
キリサメの体が徐々に崩れてきていた。
やっぱり……もう助からないんだな。
どんどんとキリサメの体が崩れているのを見て、戦いの終わりを予感する。
どちらかが死ぬ……いや、キリサメは確実に……
思わず涙ぐみ、悟られないように下を向くが勘のいいキリサメは一瞬で気づいた。
「悪いな、こんなことに付き合わせて……
けどよ最期にお前と戦えて俺は楽しかったぜ」
「……キリサメ、俺は──」
いや、言うのはこれじゃない。
最期なんだから、言うべきはこれだ。
俺の頰に涙が伝うが、そんなもの気にせず俺は精一杯の笑顔を浮かべて告げた。
「"師匠"、俺を救ってくれてありがとう。
本当に感謝してるよ」
「フッ……そうかよ」
キリサメは優しく笑い、刀に手をかけた。
そして呼応するように俺も刀に手をかけた。
3分……経った。
「"反転率25%"」
右肩に神気の羽が出現し、髪の色が変化していく。
俺は別に反転率の状態で気が操れないわけじゃなかった。
だけど制御にリソース割いてるから使えないってだけだったんだ。
なぜかわからないが俺を乗っ取ろうとする何かは消えた。
だから暴走の危険があまりなくなった今だからこそできる。
反転率による"膂力増強"に加え、気による"身体強化"と神気による"神体強化"……
久しく使う、その技は……
「"重複強化"」
体から蒸気が吹き出て、肉体が変わり視界が明瞭になっていくのを実感する。
「行くぞ慎二」
「……あぁ!」
そして俺たちは同時に走り出した。
刀がぶつかり合い、鍔迫り合いに持ち込む。
重複強化の影響で俺が優勢になるが受け流され、前に倒れる。
その隙に俺の背中に向かって刀を振る。
左手で鞘を抜き左回転し、振り向き様にその攻撃を弾き師匠はのけぞる。
その勢いで右手に持っている刀を振るう。
後ろに下がりその攻撃は避けられる。
だが体勢を立て直し一歩踏み出し、右手に持っている刀を振ろうとする。
その時、師匠は刀を下に向けて突き……
「"毀せ御魂"」
地面の魂を壊し足場が泥のように沈み、それはもう地面という役割を終えたように崩れていく。
そして地を走り刀が振り上げられ俺の右腕に近づく。
俺は一瞬で右手に持っていた刀を収納。鞘も収納して左手に刀を排出し、先に自分の右腕を切り飛ばした。
「マジか……!」
その攻撃は空を切り、刀を口で持ち空いた左腕で宙に浮かぶ右腕を断面をつなげ再生。
口の力を抜き右手に刀を落とし掴み、振るう。
完全に隙をついた、だが……
「領域範囲拡大」
その瞬間、師匠は目の前から消えその攻撃は空振る。
後ろに師匠がいることを察知、振り向くがもう遅い……
「『不倶戴天』」
もうすでに赤く輝くその刀身は俺の眼前に迫っていた。
俺は死ぬ、この攻撃を受けたら死ぬことを直感する。
刀を振っても間に合わない。
だが……
「俺の勝ちだ師匠……収納──」
その瞬間、近づいていた『布都御魂』は弾かれる。
スキルの進化により視認したものを収納できるようになった。
ずっとここぞという時を伺っていた。
そして完全に胴体が空く、振れば勝てる。
俺は唇を噛み締めながら刀を振った。
師匠は優しく微笑みながら……
「ありがとう──」
その言葉に、俺は涙し顔を俯かせ『雨之御嘉神』に命令する。
「"喰らえ悪食"」
それと共に師匠の腹は切り裂かれ、血が舞う。
肉と骨を断つ感覚が、手にこびりつくように残る。
そしてキリサメは吐血し、倒れる。
俺は急いで師匠を支える。
師匠は出血多量で唇が変色、距離なら気づかなかったがかなり顔色が悪かった。
気が枯渇し、どんどんと体が塵となって消えていく。
「スキル……進化したんだな…驚いちまったよ……」
「喋らないでくれ……」
師匠はこの状況でもいつものように軽口を叩く。
死なないでほしい、どうして……
そんな感情がないわけじゃない、だが斬ったのは俺だ。
そんなこと言えるような立場じゃない……
「よく顔……見せてくれよ……」
師匠は血だらけの右手を俺に近づけ、頬を触る。
どんどんと体温が失われていくのがよくわかった……
今にでも溢れ出そうになる涙を必死に堪えながら俺は師匠に顔を見せた。
「随分と、ボロボロだなぁ……ちゃんと終わったら風呂ぉ入れよ……?」
「余計な、お世話だよ……」
聞きたいことは山ほどある。
俺は何なのか、師匠は俺が神だったから助けたのか、色々ある。
だが言葉にはできなかった。
この時間を、そんなことに費やせるわけがなかった。
「悪いなぁ慎二……お前に、辛ぇ立ち回り……させちまって」
「俺、慎と約束しちまったんだよ……
終わったら師匠に叱ってもらうって、そしたら許してやるって……
これじゃあ、あいつ謝らせられないじゃねぇかよ」
「そいつは……悪いことしたなぁ」
そう言うと師匠はゲホッと血を吐き出す。
体は消えていき、すでに下半身は無くなっていた。
どんどんと、キリサメという存在が消えていく。
今にも目を背けたい気分だった。
恩人が消えていく姿なんて見たくなかった。
だけど……無理だ。
「というか……渋ってたのに、やっと読んでくれたな……師匠って」
「悪いかよ」
「悪かねぇよ……リリや慎たちに聞かせてやりたかったなぁ……」
そして俺の頰を振れていた右手までもが消失した。
もう体温もほとんどなくなっている、肉体の活動もすでに停止し残りの気がなくなるのを待つだけなのだろう。
「最期だ慎二……よく聞け。
お前にはいろんな、疑問があると思う……
だから、ノアに会いに行け」
「ノア……?」
何で……師匠があいつのこと。
師匠は俺が言葉を飲み込むのを待つことなく、どんどん話していく。
「あいつに言えば、全部教えてくれる……
そして頼む……俺の領域をもらってくれ慎二……
あいつに言えば、できるはずだ……」
「もらうって……どういうことだよ……!
教えてくれよ!」
「ちゃぁんと……飯、食うんだ…ぞ……」
どんどんと声が弱まっていく。
これが最後だ、何を言えばいい?何をしてやればいい?
そして俺は、いつもの師匠の姿を思い出す。
いつもの、俺たちに見せてくれる顔を……
精一杯、口角を釣り上げ涙を堪えて笑顔を作り上げる。
俺のできる精一杯で師匠を送り出す……
「"またな、師匠"!」
師匠は最後に笑い、服だけを残して体が眼前に崩れて消えていった。
服を抱き上げると、何か中にあることが気づく。
一つは丸い綺麗なボール、恐らく気の器だろう。
そして……もう一つは……
「"将棋の駒"……?」
『大事なとこに、大切にしまってある』
それと同時に抑えていた何かが決壊しうずくまる。
「ゥゥ…クッ……ッ」
泣き叫びたい欲を抑え俺はその街で一人、声を殺しながら泣き続けるのだった。
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