107話 斬
「グッ……!」
俺はキリサメのその猛攻を何とか凌いでいた。
確か柳のやつは行動を支配できるスキルを持ってたはず、それでキリサメを支配してるのか?
いやキリサメのステータスは前見せてもらったが抵抗がかなり高かった、弱ってるとはいえんな簡単に操られるか?
「"動くな"」
「──ッ」
その瞬間、後ろの柳と目が合いその隙にキリサメに蹴飛ばされた。
だが体が動かなくなったのはほんの少し、すぐに体の自由が効くようになり体勢を立て直し着地する。
っぱりあいつの強制力はそんな高くない、だったら何でキリサメは操られてる……
「グハッ……」
その時キリサメは吐血し止まる。
そして気が底をつきそうになり、体の崩壊が少しずつ始まった。
だがキリサメは倒れることなく俺にゆっくりと近づいてくる。
時間かけてる暇ねぇ、このままじゃキリサメが……!
使うしかねぇか……
そして俺は蛇口を捻り、それを出そうとした瞬間……キリサメの体が壊れた人形のように奇怪な動きをし始めた。
そして……
「慎、二か……?」
「キリサメ……?
あぁそうだ、俺だよ!起きてくれよ!」
「クッソ……!起きてんじゃねぇよ!」
柳は血相を変えてキリサメに近づき、目を合わせようとする。
ダメだ……!
俺は走り出そうとしたが、キリサメは拳を強く握り一発柳の腹に殴りを入れた。
深く刺さったその拳は柳を気絶させるに十分だった、柳は意識を失い地面に倒れた。
「慎二……随分と、ボロボロじゃねぇ……かよ?」
「っせぇ!それよりも早く横になってくれ!気がなくなっちまう!」
「あぁ……そのことだがな……」
キリサメの全身は震えていた。
恐らく完全に柳の支配が解けたわけじゃない、俺を殺そうと動く体を必死に止めているのだろう。
そしてキリサメはいつも通り笑顔を浮かべて……
「"俺を殺せ"慎二」
「……ぇあ?」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
キリサメを殺す?何で?
体が、脳が拒み震え始め汗が頬を伝う……
「無理だ……無理だそんなこと!俺がキリサメを殺す?バカ言ってんじゃねぇ!
なんか策あるんだろ?なぁ……!」
「………」
キリサメはただ黙って顔を俯かせる。
その様子で、キリサメにもどうにもならないことを理解する。
どこかで、理解していた。
さっき対峙していて、キリサメの内にある気がほぼ感じられなくなっていたことを。
ダメだ、それだけは……
「ダメだ!絶っっ対に……俺はあんたに、救われたんだ……
だから──!」
「だったらぁ!!俺を斬ってくれ慎二。
俺は誰も……お前を…殺したくねぇ……」
キリサメは涙を流し、必死に俺に縋るように頭を下げた。
いやだ、いやだいやだいやだいやだ……!
絶対に俺は殺さない、そんなことできるわけがない。
それをキリサメが望んでいても、俺にはそんなことはできない……
だれか……助けてくれ、キリサメを助けてくれ。
それが無理ならいっそ俺じゃなく誰かが……
ドクンッ──
久しく感じるその感覚、昔感じた俺を生かそうとする感覚。
だが今回は誰かが……俺の行動を操ろうとしていた。
お前が、殺してくれるのか……?
『貴方が殺して欲しいのなら。"貴方のために"それを叶える』
……だったらもういいか。
俺じゃなくても、操られてもいい……
そんな罪を俺は背負うことはできない。
頼む……俺を動かして、殺して──
「伊藤慎二!」
「ハッ……!」
その時、キリサメが大声で叫ぶ。
それで俺の意識は強制的に現実へ引き戻され、キリサメを見た。
キリサメは、いつものように、包み込むように、許すように、優しく微笑み……
「頼む」
その時に初めて理解した。
キリサメは俺に殺して欲しいんだ。
俺を操る誰かにじゃない、元神であり元最後の英雄の俺にでもなく、この俺に……"伊藤慎二"に。
『……ってくれ』
その時、何者かの声が頭の中に響く。
『布都御魂』でも"悪食"でもない、これは……神気?
キリサメは今気がダダ漏れの状態、それに反応して出てきたのか……
『キリサメを……私の親友を……殺してやってくれ』
これは……俺の中にある"最後の英雄"の神の声なのか……?
あぁやっと紐が解けた、何で前まで暴走した時にキリサメに固執してたのか……
"殺してあげたかったのか"……
その時、ライオッドから聞いたセリフを思い出す。
『それじゃキリサメが惨めになるだけだ。
それ以上、キリサメを貶めてやんな』
キリサメにここまで言わせて、戦わないのは……キリサメを貶めることになる。
キリサメは恐らくこのままだったら何もしないで、体が崩れて死んでいく。
だったら、そんな死に方より……
「排出」
俺は"悪食"を取り出す。
その刀を見た瞬間、キリサメは目を見開いた後に微笑んだ。
「そうか……戻ってきやがったか」
そして俺はキリサメに『布都御魂』を投げ渡す。
キリサメはそれを笑顔で受け取り、腰に差す。
その瞬間、急に俺の横に"悪食"の中で出会った女の子が現れた。
『見てたぞ伊藤慎二……
随分と面白い状況じゃな、先程まで迷っていたようだが……』
"悪食"は俺の顔を覗き込み、微笑んだ。
『覚悟は決まったようだ』
キリサメは『布都御魂』を物悲しげな顔で撫で、その言葉を告げる。
「"剣気解放"『布都御魂』」
それを言うと同時に、刀からものすごい気が吹き出しキリサメの体を覆っていく。
そのおかげで一時的だが体の崩壊が治まる。
だが気の器はそれには耐えきれない、ただの時間稼ぎだ。
俺は一度、深く深呼吸をした。
キリサメの気の器は限界、もう助からない。
このまま、消えて死ぬより最後は俺の手で……眠らせる。
そして走馬灯のように数々の記憶が呼び覚まされる。
『こうして、会うのは初めましてだな伊藤慎二』
『俺がお前を強くしてやる。
だから、一緒に来ないか、伊藤慎二』
『どんなに言い訳並べたってよ………
もし逃げちまったらもっとずっと……辛れぇんだよ』
『だから、伊藤慎二。
そのクソガキと一緒に、前に進んでいかねぇか』
『こりゃ傑作じゃねぇか!そんなタンコブ初めて見たぜ!』
『けどダメなんだ、今は何とかなってもこの先絶対行き詰まる』
『頑張ってこいよ……慎二』
『お前の成したいこと、それに繋がる方を選べ』
『取り繕うな、全部吐いちまえ。
聞かなかったことに、してやるからよ』
『確かに、何も見えねぇ……ただ、想像してたんだ。
満点の星が広がって、すげぇ綺麗な夜空を……』
『英雄なんかただの人殺し。
背負う命が……増えただけだ』
『ありがとうな、お前ら!』
『大丈夫だ、すごく嬉しいぞ。
ありがとうな慎二、大事に取っとく』
『さぁ今日は朝までやるぞ!』
『恐れていい、震えていい、だが逃げるな、戦え。
そうしてりゃ勝手に勝てる気なんて湧いてくるわ』
溢れ出る涙を、思い出を乗り越えていく。
そして"悪食"が口を開く。
『舞台は整ったな!さぁ……』
そして"悪食"は俺の背中に乗り、後ろから手を回し抱く。
『"最後の英雄"を越えにいくぞ』
「"剣気解放"『"雨之御嘉神"』」
「行くぞ慎二……最期の立ち合いだ!」
そしてその2対の刀は火花を散らすのだった。
裏話
雨之御嘉神についてですが、これはこの世界では妖刀の立ち位置です。
布都御魂は霊刀といった感じですね。
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