106話 ゼロ
「ぶっ殺してやる"柳蓮"!」
「やってみろよ伊藤慎二!」
そして俺は柳に向かって飛び出していく。
だが刃が届こうとした瞬間、キリサメが割って入り俺の攻撃を受け止めた。
キリサメは俺の腹を蹴り飛ばし、勢いのまま俺は後ろへ飛ぶ。
「どうして……?!」
俺は周りを見渡すと、柳のすぐ横にルナさんと富士見屋が倒れていることに気がついた。
一体、何が起こって……
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時は1時間ほど前に遡る。
キリサメはリビングで神経を研ぎ澄ませていた。
いつくるか……どこからくるか……
体調も優れない中、キリサメはいつ誰が来てもいいように集中していた。
その瞬間、慎二の部屋に何者かの気と気配が現れた。
現れたそいつは慎二の部屋から出て、こちらへ近づいてきている。
来たか……
キリサメはゆっくりと目を開き、ノヴァが護身用として持たせた刀を手に取る。
そして廊下を通りリビングへと顔を出したのは赤い髪に短髪、金色の瞳にキツネのような目をしていた。
「よぉ初めまして俺はキリサメだ。
お前の名前は何だ?」
キリサメはその男に対してそう聞く。
その男も体調が優れていないようで冷や汗をかいていた。
「俺は、柳蓮……
ここはダンジョンの中なんだよな?」
「あぁそうだ、ここはダンジョンの最下層に位置してる。
突然現れたようだが、何が目的でここに来た?」
その柳という男はキリサメがいること、ダンジョンに来たと思ったら家にいることに驚いているようだった。
柳はキリサメのその問いに少し考えた様子を見せた後、口を開いた。
「伊藤慎二って男のことを知ってるか?」
「ッ……」
キリサメはそいつの口から出るとは思わなかったその名前に驚きを隠せなかった。
こいつはさっき慎二の部屋から現れた、あいつを助けに来た仲間って可能性もあるか……?
柳もキリサメに対して警戒しているようで、手に持っている刀を凝視していた。
「あぁ知ってる。だが今はいなくてな、帰ってくるまで待ってるか?」
「あぁそうし──」
そう言いかけたが柳は急に頭を抑えてうずくまり苦しみ出した。
うずくまったことで後頭部に白髪が生えていることが確認できた。
恐らくストレスによるものだろう。
だがそれより柳が苦しみ出した瞬間、キリサメはある力を感知した。
それは前まで感じていた、弟子が持っていた力。
"神気"に近い気配を感じた。
「悪い、事情が変わった。
早くあの野郎の居場所を教えてくれ」
「あの野郎……か」
言い方的に仲間ではなさそうだな。
それにこいつから神気も少し感じる、こいつは……
キリサメは頬に汗をかきながら、柳に対して質問をする。
「教えてもいい、だが慎二に会って何したいかを教えろ」
「何がしたいかだ……?決まってるだろ」
柳はゆっくりと立ち上がり、拳を強く握りしめる。
その様子からそいつは何か慎二に恨みがあることを理解した。
柳の瞳は闇に染まったと感じさせるほど強く暗く輝きを発しながら……
「殺すんだよ」
「そうか……なら死んどけ」
そう言った瞬間、柳は距離を詰め手を構え風を発生させる。
キリサメが思い切り机を叩くとその風からキリサメを守るように浮き上がる。
風を放出すると机は縦に切れると同時に、その間から腕が飛び出し首を掴む。
「放せ……!」
「わぁったよ」
そう言うと思い切り柳を投げ飛ばし壁へと叩きつける。
柳はその衝撃で一瞬息の仕方を忘れ、膝をつく。
そして柳の首に刃を当てがった。
「言い忘れてたがここは土足厳禁だ。
ルールはちゃんと守ろうぜ」
キリサメは冷たく柳にそう告げた。
どうして、こいつじゃ弱すぎる……
キリサメはその時、咳が込み上げすると同時に血が吐き出される。
「ちぃっと無理しすぎたか」
手に吐き出された血液は空気中の気となり消えていった。
キリサメは現在、気の器が壊れており体を維持させるだけで精一杯。
常に目眩や頭痛に吐き気、無理に動くと吐血もする。
歩くと右も左も上も下もわからなくなり、体が思うように動かない。
正に満身創痍、だからこそそいつらの接近に気づかなかった。
その瞬間、廊下に二人の女が現れた。
片方は黒い髪でロング、真っ黒の瞳が輝いて杖を持っていた。
もう一人は銀髪、顔立ちや背丈は幼く藍色の瞳を震わせそいつも杖を持っていた。
なるほど、複数人ってことか……
キリサメは精一杯の作り笑いを浮かべそいつらに告げる。
「俺の名前は"キリサメ"……
はぁはぁ、さぁ俺と戦ってくれんのは、どっちだ……?」
そう告げている隙に柳はキリサメの腕を引っ張り、顔を近づけた。
そして、柳蓮と目が合った。
「"仲間になれ"」
「──ッ!」
その瞬間、柳の思念がキリサメに流れる。
だがキリサメの抵抗は高く、一瞬錯乱する程度の効果しかなかった。
「こんなもんかぁ……!?」
柳はそれが効かないことを理解し顔を顰めた。
キリサメは刀を柳の肩目掛けて振り下ろす。
だが次に柳は刀に視線を移し……
「"止まれ"!」
そう言うと一瞬刀の動きが止まり、キリサメは柳に蹴飛ばされ後ろによろめく。
その隙に柳はリビングの窓を開け街へと飛び出そうとする。
休めと命令を出す体を何とか叩き起こし、立ちあがろうとする。
だが柳蓮と目が合う。
「"倒れろ"」
「チッ……!」
キリサメはその瞬間力が一気に抜けていき、床へと倒れ込む。
そして柳は窓から飛び出し街へと走っていった。
早く追わねぇと……
その瞬間、さっきまで立っていた黒髪の女がキリサメに駆け寄り手を握る、強く握られた。
遅れて銀髪の女も駆け寄ってくる。
「キリサメさんですよね……?
私は藤宮渚と申します、とりあえず傷を治しますね」
「私はルナ・ファベットと申します」
「藤宮にルナって、確か慎二が言ってた……」
その名前は慎二から聞いたことがある。
ルナってのはこの世界にきて世話になった奴……
藤宮ってのはナイフの中で死ぬ未来を見たんだっけか……
キリサメが慎二という名前を出した瞬間、二人の顔が変わる。
「キリサメさん、慎二くんのこと知ってるですか?!
だったら尚更傷を治さないと」
「待って渚……
この人、外傷が全くない。それにさっきまで垂れてた口元の血もいつのまにか綺麗さっぱり……
まさか……?!」
「あぁ……俺はただの死に損ないのモンスターだ。
だから大丈夫だ、俺はあの柳ってやつを追う」
キリサメはそう言い刀を抜き差しし、領域で家の外へと飛ぶ。
もうちょい飛びたかったが、今はこれが限界か……
そしてキリサメは街へ走る。
現在、キリサメは広範囲の感知がうまくできない。
だからこそただ走って探すしかなかった。
だがキリサメは街を見渡し、それを見つけそれに沿って走っていく。
「道案内ありがとな」
そしてその角を曲がると同時にそいつを見つける。
柳は追いつくと思っていなかったようで焦った様子を見せながらキリサメから逃げるように走り出す。
随分と嫌われたもんだ……
「領域範囲拡大」
キリサメは一瞬でそいつの目の前へと飛び、そいつの肩に刀を刺した。
刺されると同時にそいつは顔を顰め、後ろへ倒れる。
こいつの目は見ちゃいけねぇ……
そう思いキリサメは目を瞑り、感知のみで戦うことにした。
「……殺すんだろ?だったらやれよさっさと」
「随分と、諦めがいいんだな」
柳はキリサメのその言葉に顔を俯かせる。
こいつから感じ取った神気……今はまだ覚醒してないだけなのか?
いやそれなら感じること自体がおかしい、一体なぜ……
「時々、自分でも何がしたいのかよくわからなくなるんだよ。
俺の中にあるドス黒い何かが慎二のせいだって言い続ける」
ドス黒い何か……神気のことか?
だがやっとわかってきた、こいつから感じる神気がある場所。
そこは慎二みたいに腹からじゃない、脳みその中から出てきてる。
そうして柳は話を続けていく。
「最初はそれに身を任せてた、それが心地よかった。
だけどいつの日か昔の記憶が蘇ってきたんだ。
俺が、俺が……」
「……?」
「俺?俺だっけ?何で俺なんだっけ?何で?何でだ?どうして?!」
その瞬間、頭の中にある神気が脈打ちだした。
そしてそれに呼応したように柳は頭を抱えてうずくまり苦しみ始める。
これはやべぇ……!
キリサメは急いでそいつの背中を摩り宥める。
「僕が僕がボールをとりに行ってチャイムが鳴って!それで慎二が慎二が!?
僕のせいじゃない僕のせいじゃない何でもない!!
嘘だうそだウソダァァ!」
「落ち着け柳蓮!」
そいつは血涙を流し始め、自分の頬や髪を狂ったように掻きむしり始めた。
慎二みてぇな神気の暴走?
いやそんなレベルじゃねぇ、これはまるで……洗脳されてるみてぇな、それに抗ってるみてぇな……!
その瞬間、プツンと糸が切れたように柳の動きが止まり体からどんどん力が抜けていく。
「……きゃ、なきゃ……」
柳はぶつぶつと何かを喋り出し、顔を近づけてその言葉を聞く。
「……ろさなきゃ、伊藤慎二を……殺さなきゃ」
その瞬間、柳蓮は急に起き上がる。
そして柳蓮と目が合った。
「しまっ──」
「"仲間になれ"」
その瞬間、柳の思念が流れる。
先ほどは大丈夫だった、だがなぜだかわからない。
だが今回は何かが違かった、意識が混濁していき沈んでいく。
どうしてだ、何をしくった?
そして目の前にステータスが現れ、その数字が目に入る。
【 名 前 】 キリサメ
【 レベル 】 999
【 生 命 】 5000/100800
【 気 】 500/40000
【 体 力 】 50/500
【 筋 力 】 2000
【 脚 力 】 2000
【 抵 抗 】 "0"
【 感 覚 】 850
【固有スキル】 領域
【ステータスポイント】 0
抵抗が0に……?
そしてキリサメの意識は消えていくのだった。
裏話
街に火がついていたのは人を炙り出すために柳が放ちました。
ですが決闘で住民全員いなかったのでなにも被害が生まれませんでした。
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