105話 因縁の再会
「何でここにきた……?」
俺は目の前にいるナマケモノの亜人にそう問いかける。
こいつは俺や慎のことをかなり知ってる、できればこいつからも情報を聞き出したい……
そう言い刀に手を添え、ナマケモノを威圧するとそいつは口を開いた。
「あ〜違う違う、君を何かしようって来たんじゃないよ。
ただ暴走されるとめんどくさそうだし、仕事増やさず早く帰りたいからね〜」
「じゃあ、何が目的で……」
「あぁ、それはね……」
ナマケモノはそう言い手を動かし、そして……
タシテスの首を締め上げた。
「俺……あれ、一人称これであってたっけ?
まぁどっちでもいいけど、俺はこいつを処理しなきゃだ──」
その瞬間、飛び出しそいつとの距離をゼロにして峰打ちの状態で首に刀を振る。
だが当たると同時に霧のようにどこかへ消え失せる。
首を締め上げられ意識を失い、支えを失ったタシテスは倒れるが俺は抱き抱えゆっくりと地面に寝かせる。
そして目の前にナマケモノは現れた。
「びっくりした〜血気盛んになったもんだ。
けど殺す気じゃないんだ、峰打ちだったし……
で……何でそいつを助けるの?酷いことされたじゃん」
「黙れ……俺もこいつを恨んでる。
だがそれ以上に大事なことが俺にはある、だからお前が殺そうってんなら……」
こいつは現れたら消えたりができるスキルを持ってる、いつどこに現れてもいいように警戒する。
感知をタシテスのいる3m圏内に絞り、絶対に守れるようにする。
「それ……本気で言ってる?
本気で、タシテスを守るために戦うの?」
それを聞いたナマケモノはいつもの飄々とした様子から一変、冷たい目へと変わる。
その様子に俺は臆することなく首を縦に振る。
「そっか〜……それならしょうがないかな」
その瞬間、凄まじいプレッシャーが俺を包む。
緊張を途切れさせるな、絶対にタシテスを殺させない。
仮面について聞き出すまで……
「んじゃ帰るね〜」
「……は!?」
さっきまでのプレッシャーが嘘のように消え、そんな素っ頓狂な声を上げる。
そいつは軽い足取りで機嫌がいいのかスキップ、鼻歌混じりで去って行こうとする。
「ちょっ待て!どうして殺そうとしない?やる流れだっただろ!」
「え〜いいよ面倒臭い。
だって君言ったじゃん『絶対に殺させない、本気で守る』って。
だったらいいよ、怪我したくないし〜」
俺は一瞬でそいつとの距離を詰め、首を狙って突きを入れる。
だがまた霧のように消え、俺の視界からいなくなる。
「殺す気で刺したな!親父にも刺されたことないのに!」
その声から後ろにいることを即座に察知。
刀を後ろに構え刺すが手応えがない。
そりゃ消えるか……!
俺は地面を思い切り殴り抜き、土埃を上げる。
あいつの出たり消えたりするやつはスキルによるものだろう、透明化のようなスキルだろう。
ならば土埃をあげれば微細な変化で場所を割り出すのは……
「即座に対応、花丸いる?」
目の前にそいつは現れた。
刀を振る前にそいつは思い切り俺のデコに向かって指を弾く。
その衝撃でのけ反るが足に力を入れてバク宙し、刀に気を込め……
「『天絶』」
そいつはしゃがみ込み軽々と避ける。
放つと同時に空間と土埃が切れ、視界が晴れる。
「花丸嫌いだった?
嬉しくない?頑張った〜って感じしてさ」
「クッ……」
完全に遊んでやがる。
まるで友人と戯れ合うように、こっちは本気でやってんのに一ミリも届かない。
あいつが目の前に現れた時、不自然に砂埃が動いた様子はなかった。
こいつのスキルは透明化じゃない、透過だったら納得がいくが霧のように消える説明がつかない。
「まぁいいか、こっちも本気でやってあげたほうが嬉しいよね〜。
君の今の実力も知りたいし、ちょっと戦おうか!」
「舐めてんじゃ……」
「真似っこしてみようか、領域範囲拡大……」
その瞬間、真後ろにそいつは立っていた。
胴体を回し攻撃を視界の端で確認、火球を生成し爆発させる。
「こっちだよ」
だが後ろに強い衝撃が走り、俺は前に飛ばされる。
受け身を取り立ち上がるが目の前にそいつはいなかった。
あいつどこに……
周りを見渡し確認していると、一つ不可解なものを見つけた。
あれってもしかして……
「よそ見厳禁だよ」
よそ見している間にそいつは後ろに回り込み、俺の頭に向かって拳を……
「お前ワンパターンなんだよ」
だが俺はわざとその隙を作った。
後ろに回り込むのは読んでいた、すでに刀を後ろに突きナマケモノの首を捉える。
だがすんでのところで避けられるが首を掠め、その瞬間霧となって消えていく。
だがすぐに攻撃が飛んでくることはなかった。
読まれたことに動揺しているのか何なのか……まぁいい。
土埃が舞い俺がさっき立っていた場所にはくっきりと俺の足跡があった。
だがそのすぐ後ろにナマケモノの足跡があったが、それがどうもおかしかった。
その足跡はまるで歩いてきたかのような足跡が刻まれていたのだ。
つまり、こいつのスキルは……
「"錯覚"だろ」
つまりこいつは実態がなくなるわけじゃない。
霧のように消えるのもそう錯覚させてるだけ、ならば認識できないだけでそこにいる攻撃は当たるのだ。
だったら俺がするべきことはただ一つ。
全部解放はまだだ、だったら部分だけ……
石の影響で神気の蛇口を開けて小出しにし、刀にどんどん込めていく。
「『這烏』!」
一閃、全方向に神気の黒い斬撃を飛ばす。
死んでねぇよな……
周りを見渡すと床に軽く血溜まりができていた。
やっべ……
俺は刀を鞘に納め、血溜まりに近づきしゃがみ込む。
この出血量、殺しちまったか?
スキル解除する前に死んじまって死体が出てこないのか……?
俺はそう思いながらその血に触れると……
"何もつかなかった"
「錯覚だよ」
「しまっ……!」
急いで振り向くがもう遅い。
そいつの蹴りが腹に突き刺さり飛び、倒れ込む。
硬化がギリ間に合わなかった……!
その威力に思わず咳き込んでいるとそいつは俺と目線を合わせる。
「よくスキル見抜いたね。
あんなヒヤヒヤしたのタイラントに追いかけられた時振りだったよ。
だからご褒美だ」
ナマケモノはそう言い、どこかへ右の方向へ指を差した。
そうすると同時に炎で道のようなものができる。
何でもありかよこのスキル……
「この道を辿ってアンデッドの街に行ってみな、きっっと良いものが見れるよ〜」
「待て!」
そいつはそう言い立ち上がりどこかへ霧となって消えていく。
アンデッドの街に行け……?まさかキリサメに何かあったのか?
だがタシテスを放っとくわけにもいかない、一体どうすれば……
「慎二!」
それと同時に左から慎が現れ、慌てた様子でこちらへ駆け寄ってくる。
亜人の街からここまでかなり離れてるはず、こんな良いタイミングで……
「慎二!大丈夫か?」
「あぁ問題ねぇ。
けどお前、何でここに来れた?かなり街から離れてたろ」
「俺もよくわからないんだけどよ、どこからか光が差し込んでついていったらここにきたんだよ。
それよりもタシテスは……?!」
どこからか光が……ナマケモノのやつ慎をこっちに誘導しながら俺と戦ってたのか。
とりあえず俺はタシテスのいる方向に指を差す。
「とりあえず今は寝かせてる、お前はあいつ運んで雫さんのとこ連れてってくれ」
「わかった、お前は?」
「俺は……」
ナマケモノの誘いに乗ることになる。
これが街に繋がっている確証もねぇ、だけどキリサメが危ないかもしれない……
迷いながら俺は口を開いた。
「もしかしたらキリサメが危ないかもしれねぇ、俺は先に街に戻っとく。
お前はタシテスを街に送り次第みんなを呼んで街にきてくれ!」
「キリサメが……だったら俺も!」
「お前にしか頼めないんだ!
タシテスを逃すわけにもいかない、頼む!」
少し迷った様子を見せた後、首を縦に振った。
俺はアンデッドの街の方向、慎はタシテスを抱え逆の方向を向き歩いていく。
俺も一歩踏み出そうとした時、慎がさっきの会話で俺の目を見ていなかったことを思い出す。
『お前は……』
はぁ……仕方ねぇな。
「"お前はいいよな"って言葉……すげぇ傷ついたんだからな」
「ッ……本当にごめん」
「だからよ、帰ったら一発殴らせろ。
それでキリサメに叱ってもらえ、それでチャラにしてやるからよ」
「──ッ」
顔を見ることはできなかったが、後ろから何回か鼻を啜る音が聞こえた。
こうでも言ってやらねぇと、ずっと気にしてそうだしな……
「慎二」
俺は振り向くと慎と目が合った。
ちゃんと、目を合わせて慎は口を開いた。
「"死ぬんじゃねぇぞ"」
その時、そう言われた時にやっと全ての言葉が消えていった気がした。
俺は笑みを浮かべながら……
「ハッ!何が待ってるかわかんねぇがな。
お前も気をつけろよ!」
俺は炎の道の方向を向き、走っていく。
熱さは感じねぇ、やっぱり錯覚みてぇなもんなんだな。
キリサメの身を案じ、俺は強く地面を踏み締め走っていく。
大丈夫だろう、どこかでそう思っていた。
だがその曲がり角を曲がった瞬間、思考は塗り替えられた。
「ハ……?」
"街が燃えていた"
俺たちの街が、過ごしてきた街が燃えていた。
思わぬ光景に足の力が抜けて膝から崩れ落ちる。
ナマケモノが錯覚させているのではないかと思ったが、風でこちらへ流れる熱風と木の焦げた匂いが無慈悲にそれが本物だと告げる。
「あ゙……」
その瞬間、色々な思い出がフラッシュバックし神気の蓋が開きそうになる。
自分を鼓舞しろ、大丈夫だと言い聞かせろ!
俺は思い切り頭を振り上げ、地面に向かって……振り下ろした。
「いってぇ……」
けど、治った。
まだ決まったわけじゃない、こんなことしてる場合じゃねぇ。
俺は走り出し炎の中に飛び込んでいく。
熱いが……まだ何とかなる、キリサメの家に行くまでは持たせる!
そして走っていると、炎の奥に人影が見える。
そこは不自然に炎が回っていなかった。
その人影がキリサメであることを祈り、一歩踏み出しその人影を確認した。
「よぉ久しぶりだな、慎二」
「お、前は……」
そこには二人いた。
一人はキリサメだった。
だが俺にそう言ったのはキリサメではない、驚愕したのはもう一人の方だった。
そいつは赤い髪に短髪、金色の瞳にキツネのような目をしていた。
『おい、慎二ちょっと来い』
『なんで渚と話してた?
そもそもあの事故は、自分がミスって事故ったんだろ?
渚が心配するようなことじゃねぇだろ』
『記憶を勝手に書き換えるなよ!』
『てめぇにかけられた呪いを解いてもらおうかと思ってな』
『早く解かねぇとマジでぶっ殺すぞ』
『くそが!早く……早く僕にかけた呪いを解けよ!』
『てめぇ、そこに逃げるつもりかぁ!』
その男に言われた言葉がどんどんと蘇る。
押し込められていた感情が引き出され、感情が昂っていく。
その男の名前は、目の前にいる男の名前は……!
「ぶっ殺してやる"柳蓮"!」
「やってみろよ伊藤慎二!」
そして俺は柳に向かって飛び出していった。
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「やぁっと仕事終わったぜ〜い」
その亜人はそう言いながらダンジョンの中を歩いていた。
「いや〜ダンジョンに来て早……1ヶ月くらいですかな〜早く陽の光を浴びた──」
その瞬間足に何か違和感を覚え視線を落とした。
そこを見ると太ももに切り傷ができていたのだ。
あれ……いつ切っ──
あの時、伊藤慎二の腹を蹴った時……あいつは振り向きざまに腕を軽く振っていた。
あいつのスキルは亜空間収納、何か武器を隠し持っていたのか。
もしや硬化が間に合わなかったのは、攻撃に意識を割いたから……?
あの一瞬で即座に判断を……
それに気づいたと同時にナマケモノは笑みを浮かべた。
「こりゃ柳蓮死んだかな〜」
ナマケモノはそう言いながら亜人の街に向かっていった。
裏話
96話の打ち上げ花火、ナマケモノの錯覚のスキルで出したものです。
それと『あんなヒヤヒヤしたのタイラントに追いかけられた時振りだったよ』このセリフですが、タイラントはバイオハザードに出てくるバケモンです。




