103話 裏切り者を辞めた日
『何故、お前は伊藤慎二を保っていられるんじゃ?』
その声で俺の目は覚める。
どれくらい寝てしまった?俺は一体何をされた?決闘はどうなった?
俺は立ち上がり、そこに座っている"悪食"に近づき胸ぐらを掴む。
「話は後だ、さっさと俺を外に……」
『馬畜生ならもう死んだ。あいつはちゃんと決闘に勝ったぞ。
じゃからお前が急ぐ理由はどこにもない。
その上でもう一度聞こう、何故伊藤慎二を保っていられる?』
俺が決闘に勝った……?
そんなわけない、この女が頭を触った時から今まで意識を失っていたはず……
それに"何故伊藤慎二を保っていられる"だと?
「その質問に答えたら、俺を外の世界に戻すことを約束しろ。
そうでなきゃ俺は何も教えねぇ」
まぁ俺自身も何起こってるかわからないが、その質問を利用して外に出るしかない。
"悪食"は少し考え込んだ様子を見せた後……
『いいじゃろう、お前をここに留めておく必要もあるまい。
それよりも服を離せ』
そして俺は"悪食"の服を離し、数歩下がる。
適当こいたが、俺も何が起こってるかわかんねぇんだよな……
けど眠ってる間誰かの記憶を見た気がする。
それに飲み込まれる?上書きされる?ような感覚に陥った時、引き剥がされてどこかに行った感じだ。
これ前にも一回感じたことある『布都御魂』から"経験"を渡してもらった時だ。
確かキリサメが言うには……
「多分お前が渡してきた"記憶"については俺の中にある神気の中に吸い込まれていった。
それ以外には何も知らねぇ」
『ふむ……
実際お前は何が起こったかわかっていないのじゃな……』
"悪食"は少し考え込んだ様子を見せる。
その後、そいつはニヤけ……
『カハッ!お前は面白い、いいだろうお前を我が主人として認めよう』
その言葉を最後に、俺の意識はその世界から薄れて消えていった。
***
「……ハッ!」
そして俺はその通路で目を覚ました。
その通路、いやこの闘技場全体にけたたましいサイレンが響いていた。
周りを見渡すと慎が俺を抱えて走っており、リリとルルが並走して俺の傷を治しながら走っていた。
そして目の前にステータスウィンドウが浮かんでおり、そこには……
「慎二、やっと起きたか!」
「一体何が起こってる?」
「タシテスが逃げた!俺たちがすぐに追えないようにモンスターたちをここに放って!」
タシテスが逃げた……?
クソッ、わからないことだらけだ。
雫さんは今街のみんなを避難させるので手一杯らしく、俺たちでタシテスを捕まえにいくために走っているようだった。
「だからさっさと……」
「慎前!」
その瞬間、通路の奥から大量の合成獣たちが飛び出してくる。
慎は俺を下ろし、戦闘体制に入る。
近づいて来たモンスターは俺を避けて慎たちを襲った。
「何で俺を無視して……!」
俺は加勢に入ろうとするが、その刀にされたことを思い出す。
こいつを本当に信用していいものか?
また使ったら意識を失うかもしれない……
その瞬間、俺の目の前に『布都御魂』が投げられる。
「慎……?!」
「俺たちはいい!タシテスを追え!
"悪食"は危険すぎる!"概念操作"とそれは相性がいいんだろ?持ってけ!」
慎は向かってくるモンスターを殴り殺しながら俺にそう叫ぶ。
「……死ぬなよアホ!」
「誰に言ってんだ!」
俺は"悪食"を収納したのち、出口に向かって走り出す。
通路を通ってるうちに大量の合成獣と会うが俺を無視して慎たちの方を狙っていく。
誘ってるのか……
そして俺はその闘技場を出る。
クソッ、かなり混雑してる!
合成獣たちの出現で亜人たちはパニックになり、街にはかなり渋滞ができていた。
その時に目の前に見覚えのある亜人が現れた。
「バク!」
「お前は伊藤慎二!」
バクは外に出てくる合成獣を殺し、地面に転がしていた。
こいつはリリと仲が良かった。だったら助けてくれるかもしれねぇ……
「バク、今リリとルルたちが闘技場の中でモンスターに襲われてる!
俺はタシテスを追わなきゃいけねぇ、だか──」
「ウォォォォ!」
その瞬間、バクは俺の服を掴み上げて街の外に向かってぶん投げた。
「リリとルルは任せとけ!」
「乱暴すぎんだろ!」
その勢いのまま、俺は街を抜けていく。
何とか着地し、俺は感知を使ってタシテスを追っていく。
この曲がり角!曲がった先に──
バンッ──
そんな破裂音と共に曲がり角から顔を出した俺に向かって何かが飛んでくる。
俺は身を屈めて、転がりその攻撃を何とか避ける。
一体何を……?!
そして俺はそれを視認した。
「……テメェ、それ!」
タシテスが持っていたそれは、この世界では見たことのない異質なものだった。
だが俺はそれを知っている、いや転移者なら誰でも知ってるものだ。
『元いた世界にある兵器とか諸々も前にも転移者がいたらしく参考にして作ってる』
その瞬間、ルナさんから聞いたそれを思い出した。
それは、俺に今向けられてるその武器は……
「"拳銃"……!」
それはタシテスが外の人間と繋がっている何よりの証拠だった。
俺は刀を構え、攻撃に備える。
「アンタだけは捕まえてやるよ、伊藤慎二!」
「やってみろよクソ野郎!」
そして俺とタシテスの最後の戦いが幕を開けた。
──────────────────
そしてリリとルル、慎たちは通路から無限のように押し寄せてくる合成獣たちに苦戦を強いられていた。
「殺しても殺してもキリがねぇ!」
「あんたがカッコつけて刀渡したせいでしょ!」
「俺が悪いって言ってんのかよ!」
リリとルルは"急性促進"を使い大人の姿になり、身体強化をしながら魔法も駆使しその猛攻を食い止めていた。
慎とルルは決闘で疲弊してる、私が何とかしないと……
リリがそう考えている隙に目の前にカメレオンの合成獣がおり透明化で近づき、リリの首に刃を振るった。
「しまっ──」
「リリ……!」
そしてリリの首に刃が当たり、頸動脈が切れそうになったその瞬間……
「させてたまるかぁぁぁ!!」
その瞬間、奥の方から聞き覚えのある声と共に合成獣の死骸が飛んできてカメレオンを吹っ飛ばす。
その声を聞き、リリとルルの目に光が宿る。
奥の方から合成獣の死骸が何十体も飛び、こちらへ近づいてくる。
「一体何が……」
慎は面識がなく何が起こってるかわからなかったが、リリとルルには確かにわかった。
この声は……
「お前らぁ!助けにきたぞぉ!」
「「バク!!」」
バクは戦争を生き抜いた数少ない亜人、経験もレベルも段違いに高い。
経験を一ミリも積んでいない合成獣は全く相手にならず、数分経ちこの通路にいる合成獣を倒し切ることに成功した。
そしてリリとルルは急性促進を解く。
「リリ!ルル!大丈夫だったか!」
「うん!」
リリはそう言いながらバクに抱きつく。
慎は困惑した様子でその言葉をつぶやく……
「何だこのバカ強いパンダ……」
「パンダじゃない!俺はマレーバク……」
そう言いかけるがバカの声は止まった。
ルルは一人、返り血に染まり足を引き摺りながらここを去ろうとしていたからだ。
リリは急いでルルに駆け寄り腕を掴む。
「離して……私はここにいる資格なんかない」
「ルル……」
ルルは裏切りタシテスに加担した、その罪は消えることなんてない。
だからこそルルはこの空間にいることを自分で許せなかった。
もう合成獣たちは消えた、リリと慎に危険が及ぶことはない。
次は街の人を助けに……傷つくのはもう私で十分だ。
ルルはそう思い、歩き出す。
そして掴んでいた手を抜けていきそうになった瞬間、リリはルルを抱き寄せる。
「ルルが、責任を感じてることはわかってる……
だから自分が傷つくべきだって思ってることも」
「ダメ……私は許されちゃいけない。
罪を、一生背負って生きていかなきゃ……」
「違うでしょ!」
リリは思い切りルルに向かって頭突きし、ルルはその勢いで尻餅をつく。
ルルはおでこを抑え、リリを見上げる。
「大方雫さんに罪を背負っていくしかないとか言われたんでしょ、極端すぎるのよ!
ルルは許されないことをしたかもしれない、けどね幸せになっちゃいけないなんてことないでしょ!」
「けど、私は……」
「私が聞いてるのは!ルルの本音!
ルルの本当にしたいことを聞いてるの!」
「私は、わたしは……」
ルルはボロボロと涙を流す。
そして、ルルは立ち上がり涙を拭う。
「"帰りたい"……あのあったかい家に……」
「ほらそれが本音でしょ?」
リリはそう言いながらルルの涙を拭い、ポケットから小さな箱を取り出し、中からそれを取り出す。
そこに入っていたのは首飾りだった、その中には青く発光する石が埋め込まれていた。
それはリリの新しい気や魔力が込められた、首飾りだった。
リリはその首飾りをルルにかけてあげながら……
「14歳の誕生日おめでとう、ルル」
そう言うとルルは、リリに泣きついた。
二人の首にかけられている首飾りは青くキラキラと輝いていた──
裏話
今回のタイトル『裏切り者を辞めた日』には、少しだけ仕掛けを込めています。
最後の晩餐から由来する「13」は不吉や裏切りを意味する数字とされています。
13歳、裏切り者として活動してきたルルが、14歳を迎えて13歳を辞めてリリの元へ帰る——そんな節目の話でした。
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