102話 記憶
何だこれ……
その瞬間、その世界で目を覚ました。
これって水……!?
体の周りに何かが染み込み、冷たさを感じることからそれが水であることに気づいた。
まずい、酸素を確保しない……あれ?息ができる。
水の中にいるのに息ができることに疑問を感じたが、とりあえず周りの様子を確認する。
俺は闘技場で戦ってたはず、ルルから投げられた刀を使った瞬間この世界に引き摺り込まれた。
まさか罠を仕掛けられた……?
だが何故だろうか、この水何というか……知っている感じがする。
『あぁ悪い、口に含んだままなものでな』
「誰だ……!?」
周りを囲っていた水がその瞬間なくなり、俺は地面に向かって落下して行く。
空中で体勢を立て直し何とか着地する。
地面には綺麗に輝く水が満ちており、目の前には神社が広がっていた。
神社か……どこか既視感がある……
ナイフの中で見た神社を思い出し後ずさるが、その瞬間神社の扉が開いた。
チャリン──
そして神社の中から女の子が出て、身につけられた鈴を奏でるようにこちらへ近づいて来た。
その子は黒髪で地面に着きそうなほど長かった。
あまり手入れをしていないようで少しボサボサ、白い服に身を包んでいた。
『久しぶりじゃな、我が主人』
「初めましての間違いじゃないか?
早く元の世界に戻せ、戦ってる最中だったろ」
『あぁそうじゃったそうじゃった、あの馬畜生と戦ってる最中じゃった。
時間も限られている、ならば……』
その時、そいつは姿を消して俺の懐に入り込み体を触る。
──ッ!
体を触るその手を跳ね除けて後ろへ飛ぶ。
見えなかった……『布都御魂』と同じレベルの刀、やはり強い……
その子は俺に触れた手をグーパーと閉じたり開いたりする。
『先を越されたらしい……
どうやら"経験"はもう手に入れてるのじゃな』
「先を越された……?経験……?」
その時思い出す『布都御魂』からキリサメの親友の"経験"を受け継いだことに。
こいつが俺を主人と呼ぶのも、よくわからない。
だが早く起きないとあいつに負ける……!
『まぁあのアマが"経験"を渡したのじゃ……試験は無しでいい。
だが何故お前を侵食していない……?』
「何言って……」
『まぁいい、悪いが伊藤慎二お前はここで消えてもらう』
その瞬間、そいつは飛び出し俺の頭に触れようとする。
だがそのスピードはさっき見た。
何とか右に動きその手を避け、頭を掴み地面に叩きつけた。
『ほう……』
「悪いが予定が立て込んでる、消えるわけにはいかない。
さっさと俺を外に出せ!」
俺はそいつに馬乗りになり頭を強く掴みながらそう言う。
だがそいつは余裕の笑みを浮かべながら……
『やるではないか舐めてたぞ』
「早く出さないとお前の頭蓋を握り潰す。
さっさと──」
その瞬間、上から大量の闇が落ちてくる。
あれは……俺の神気か?!
その異質な気配からあれは自分のものであると瞬時に察知する。
さっき溢れ出してたやつを吸って……
『油断大敵じゃ』
その時、いつのまにか拘束を抜け出したそいつが俺の頭に触れそう告げる。
しまっ──!
俺の中に何かが入り込んでいき、溶け合っていく。
侵食していく、俺の中の何かを……
そして何かが見えてくる、それは誰かの"記憶"だった──
***
その男はその部屋で泣き崩れていた。
どうしてこんなことに……どうしてこいつが死ななければならないのか……
彼が書いた遺書を大事そうに抱え、そこにはこう書いてあった。
『悪い"チハレ"、俺はお前にみたいに強くはなれねぇみたいだ』
剣馬鹿が……
お前が仲間思いなことも知っている、だが私が"神"になりさえすれば終わったことのはず……
その男は目の前で縄で首を括り、生き絶えている"親友"を見つめながら……
《お前は馬鹿だよ、"キリ──》
『"僕たち"を乗っ取ろうとしちゃダメ、君はあちらへ行け』
その時俺を侵食していた何かがどこかへ飛んでいき、俺の中にある闇と溶け合っていった。
───────────────────
「"剣気解放"『雨──』」
そう言いかけた慎二は意識を失い地面へ倒れた。
それを見ていた慎、ルル、ライオッド、タシテスまでもが目を見開いて驚く。
「ルル……よくもあいつ裏切ってくれたね。
それよりもあの餓鬼だ、どうして意識を……?」
これはタシテスの戦略でも何でもなかった。
故に何が起こっているのかわからず、困惑を隠せていなかった。
それを見ていたルルは足をガクガクと震わせていた。
まさかタシテスがこれを見越して刀に細工をしてた……?
これじゃあ慎二が負ける、私のせいで……!
ルルはあの時、慎二を完全には信用していなかった。
ただルルは慎二を信じたいと思った自分を信じて、決行に至った。
「やっぱり、私なんか……生まれてくるべきじゃなかったんだ」
だったら今のルルにできることは?
自分のせいでこうなった、落とし前をつけるべき、時間を稼ぐべき。
ならば……
「"急性促進"」
そしてルルは気で羽のようなものを造形、大人の姿に変貌していく。
その時、闘技場にいたそいつはカクついた動きを見せる。
そしてそいつはルルの方をまじまじと見つめる。
その白い"影縫いだった"ものは慎二との戦闘で消耗している、気も体力も血も足りていなかった。
吸血鬼の遺伝子を受け継いでいる彼が、血と高濃度の気を同時に摂取することのできるルルを見逃すはずがなかった。
そいつはルルに向かって歩を進めて行く。
観客達は一目散に逃げていくが、ルルの体は動かなかった。
彼女の生きる気力はとうに失われた、わざわざ慎二を見逃し殺しに来てくれる。
もしかしたらその間に慎二は起きてくれるかもしれない、彼女にとっては都合が良かった。
「さぁ……おいで」
ルルはそう言い身を委ねるように両手をそいつに向かって掲げる。
その瞬間、そいつは腕を振りかぶりそして振り下ろした。
「"急性促進"」
その時、一人の少女の声がルルの背後から聞こえる。
その子は大人の姿へ姿を変えながら、ルルの前に立つ。
そう、彼女の名前は……
「"リリ"どうして!」
近づいてくる拳の間に割って入り、リリはにこやかに微笑む。
「私はあなたの……"お姉ちゃん"だから──」
ルルは走り出すがもう遅い。
鈍い激突音が鳴り、煙と共にルルの頰に血液が飛ぶ。
これ以上、何も失いたくなかった。
これ以上、罪を重ねたくなかった。
彼女の心を絶望が蝕んでいく、そして……
"その男はいた"
"影縫い"の腕は血液を流しながら空中を舞い、地面に鈍い音を立てて着地した。
リリは腰が抜け、ルルの懐にポスッと倒れ込む。
ルルの心に、希望が宿っていく。
嘘だ、そんなことありえない……
その男の名は……
「伊藤慎二……!」
反転率100%
その瞬間、慎二は髪を白く染めそして神気で翼のようなものを両側に作っていた。
ルルはこれに見覚えがある、前に制御できなかった時に見た"暴走"……
だが何故だろうか、いつもの慎二とどこか違う気配をルルは感じていた。
とにかくルルはリリを守るように強く抱きしめた。
そして、慎二は刀を振り上げ……
コツン──
「え──?」
慎二は刀の柄の部分をリリとルルの頭にコツンと当てる。
暴走……してない?
その瞬間"影縫い"は慎二に再生した拳を近づける。
そして慎二はゆっくりと向かってくる拳の方向を見て……
一歩、踏み出した──
それと同時にルルの視界から慎二は消え、"影縫い"の動きが止まる。
その瞬間、"影縫い"の体中に無数の切り込みが入っていき、そして……
ブシャッ──
全身が細切れになる。
もしかしたら治るかもしれないと身構えたが、タシテスの話もあって警戒は解かれた。
"影縫い"は死んだ……
"影縫い"の巨体が消え、ようやく闘技場に立つ慎二の姿が目に映る。
真っ黒のはずの彼の姿は、今の彼女にとっては何故かとても色鮮やかに見えた……
だが一人、気が気でない女がいた。
タシテスは思い切り拳を振り下ろし、その机をぶち壊した。
「一体何が……
あいつ、刀に触れて何に成った!」
タシテスはその刀を渡したルルを見つめる。
そしてタシテスはルルとリリに向かって杖を構え、気の器に仕込んである爆弾を起動するが……
「不発……?何で!?」
魔法を起動し、リリとルルを消そうとするが何度やっても爆発は起こらなかった。
まさかあの時……!
タシテスは慎二が先ほどリリとルルの頭に刀を当てたことを思い出す。
喰ったのか私の魔法を……!
だがおかしい"急性促進"は解けちゃいない、つまり気を喰わせることなく私の魔法だけを……
何故急にあの刀を使いこなせるようになったのか、タシテスはわからなかった。
「やっと帰って来やがった、あの野郎!」
タシテスの様子とは裏腹に、横からライオッドの陽気な声が聞こえる。
その体は武者震いを起こし、その目はギラギラと輝いていた。
その様子から慎二の身に何が起こったのか、タシテスには予想するには十分だった。
「まさかあいつ……!あの男の……!」
「動き出すぞ、歯車が。
"最後の英雄"であり、神様のご帰還だ……!」
ライオッドは高揚した様子でそう告げるのだった……
裏話
慎二が受け取った悪食の刀は使ってた人の中に神様を信仰している人がいました。
その関係で悪食の中は神社があります。
いつでも『布都御魂』のように変えられますがやる必要もないか…とずっと変えずにしてます。
"前に使ってた人"は別に本編に関係ないので安心してください。
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