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101話 俺は本当は……


 俺、大雲慎はその医務室にノヴァさんと共にいた。


「リンゴ食べるか?」


 そんな気分になることができず、俺は首を横に振る。

 俺、剣を辞めるなんて言おうとしちまった……

 そんなの、俺の人生を否定する言葉。

 言っちゃいけねぇに、決まってるだろ……


「まぁあれだ、負けちまったから少しイラつくぐらい仕方がない。

 そんな凹むなよ」


「……慎二に俺、言っちまったんだよ。

 "お前はいいよな"って、あいつは責任感じて苦しんでるはずなのに……」


「……そうだなぁ、流石にそれはちとひどいな。

 まぁでも実際そんなんあんま気にしてないかもだろ、大丈夫だよ」


 俺は顔を俯かせ、何も言わなかった。

 何も気にしてないわけねぇ、もし俺があの立場だったらそんなこと言われてなにも思わないわけがねぇ……

 俺は、あいつに……


「悪かった、言葉間違えた。

 こういうの慣れてなくてよ、悪い……

 そういうのはこれから頑張ってけばいいだろ。

 お前はよくやってる、だから大丈夫さ」


 その瞬間、その言葉が心に引っかかった。

 俺が……よくやってる?


「どこがよくやれてるってんだよ……」


「慎……?」


 俺は立ち上がりそんな言葉を吐いていた。

 ダメだ、抑えろ。

 湧き上がってくるその感情に、一時の感情に身を任せるな。

 だが、俺の気持ちとは裏腹に体は正直……口は動いていった。


「俺なんか、託されたこと一つできてねぇ。

 ライオッドと戦ってたあの時、俺さ……震えてたんだよ。

 慎二の……みんなの命がかかってる、そんな状況で……」


「慎落ち着け……!

 大丈夫だ、さっき部屋出た時にリリから聞いた。

 雫が勝ったらしい!だからまだ……!」


「師匠に言われたんだよ、お前ならできるって……

 師匠の持つ刀も俺に渡してくれて期待してくれた、師匠が俺にくれたチャンスだった!

 なのに俺はその期待に応えられなかった!!

 雫さんが勝ったんだってな、だったら俺が勝ってたらこれで終わりだったじゃねぇか!

 慎二に何も背負わせることなく、全てが丸く収まった!

 俺が弱いせいで、みんなに背負わせちまう。

 何が神童だ、何が兄弟子だ!俺なんか何もできないクズだ……」


 ノヴァさんはその言葉を止めようと落ち着けと俺の肩を掴み揺らす。

 だが、今の俺には邪魔くさいだけだった。

 俺はノヴァさんの手を捻り上げ突き飛ばす。

 その勢いでノヴァさんは後ろに後ずさる。


「俺も頑張ったんだぜ、あいつが新しい力を手に入れてから、ずっと!修行が終わっても一人で剣道場で努力してきたんだ!

 だけど俺は届かなかった。

 そこでやっと気づいたよ本当は嫉妬してたんだよ、あいつに……

 慎二は剣気も簡単にできて、あのオーガと戦うこともできる。

 おまけに神気とかいう特別な力も持ってて、どんどん強くなって離れていく。

 そんなあいつが羨ましくて仕方がなかった!

 俺さ、なぜか今全く悔しくねぇんだよ……

 俺のせいでみんなが死ぬかもしれないのに、全く!

 俺は本当は……」


 これを言っちゃいけないとわかっている。

 言ってしまえば後戻りができない。

 俺は何故だか涙を流し、そして……


「慎二なんか……伊藤慎二なんか大嫌──!」


 俺がそう言いかけた瞬間、ノヴァさんは俺を強く抱きしめた。


「んなわけねぇだろ、お前があいつのことを嫌いなわけねぇだろ。

 もし嫌いだったらわざわざ慎二を勇気づけようと街のみんなに見送り頼んだりしねぇよ。

 今お前はただ心の中にあるムラを嫌いだと勘違いしちまってるだけだよ」


「けど……俺はあいつに嫉妬して……!」


「嫉妬の何が悪いんだよ、そいつは慎二を超えたいってライバル視してる証拠じゃねぇのか?

 けどお前の気持ちもわかるさ。

 嫉妬する自分やダチに怒りを向けちまう自分……嫌だよなぁ。

 それで全部どうでもよくなって、何も思わなくなって……

 最後には、"剣を置いちまう"」


 ──かんだよ……

 俺は拳を握りしめノヴァさんを思い切り殴りつける。 だがノヴァさんは避けず、何もせず俺をしっかりと見つめる。


「あんたに!何がわかんだよ!」


「わかるさ、俺が一番……わかるさ。

 お前はいつも我慢しすぎちまうタチだからな。

 上みすぎんな横を見ろ、俺がず〜っといて話聞いてやるよ。

 だから……んな腐んな。

 話してみろ、ずっと……そばにいてやっから」


 その瞬間、俺の目からひどく涙が流れる。

 俺はノヴァさんを強く抱きしめた。


「いいのかなぁ……

 もう少し自分に期待しちまっても……」


「期待の何が悪いんだよ、んなことならいちいち許可なんていらねぇだろ。

 存分に期待しろ、そんで最後に慎二を超えて見せればいい。

 次はお前が嫉妬させる番だ」


「ありがとう……」


 俺はただ、そうノヴァさんに告げるのだった。


────────────────────


 俺はその白い何かの股下に潜り込んでいた。

 地面から生えてくる影の針を避けながら思考を回す。

 こいつは今ライオッドと同じくらいの身長、だったら雫さんに教わったのが通じる……!

 股下から抜け、そいつは俺を視認すると同時に地面を殴り土埃を上げる。


 まずは土埃を上げて姿を隠し、教わった気を隠す技術を使って気配を完全に絶つ。

 神気を出してると異質な気配でバレるから蛇口は閉じておく。

 図体がでかいせいで死角が多い、股下に潜り込んで俺に来る攻撃を絞る。

 そんでここからが問題……雫さんの話だったら攻撃避けながら相手に悟られないように少しずつ気を溜めて『不倶戴天』を放つ。

 だが今の俺には刀がない、折れたせいか『霜月』も反応しなくなった……

 折れた『霜月』を見つめながら俺はそんなことを考える。


 瞬間、目の前から無数の針が飛んでくる。

 横に飛びその攻撃を避けるが、避けた先にもまた針が現れ地面に手をつき飛びそれを避ける。

 ここは股下のせいで影に満ちている、様々な攻撃が俺を襲う。

 刀がねぇ今、使えるのはこいつしか……

 俺は亜空間収納(インベントリ)の中から短剣を取り出した。

 ノヴァさんを傷つけたり、未来を見せられたりこいつを使うとロクなことがない。

 キリサメにも極力使わないようにと言われていた、できるな使いたく──


「クッ──!」


 その瞬間、先ほどまで影に包まれていたはずの俺は光に包まれる。

 上を向くとそいつは高く跳躍、俺の姿を捉える。

 考えてる暇ねぇか──!

 短剣を持ち、風の気を込め……


「『風刃』!」


 上にいるそいつに斬撃を飛ばす。

 顔に命中し切り裂くが、蒸気を上げてすぐに再生する。

 その瞬間、上にいるそいつは手をかざす。


「はっ……?!」


 そいつは自分が見えなくなるほどの……闘技場を包むほどの火球を生成、俺に向かって放った。

 水刃使っても、このままじゃ全員巻き込まれる!

 タシテスの方向を見るとニヤけながら「どうする?」と言わんばかりの顔で俺を見つめる。

 チッ……!

 足を強化、火球に向かって突撃した。


「収納!」


 火球を収納すると同時に、上にいるそいつを……

 もうすでに拳が眼前に迫っていた。

 消すの予測して……!?


「『鎌鼬』!」


 右に向かって風を生成、放つことで俺を飛ばしその攻撃をすんでで避ける。

 短剣を強化、通り過ぎて行くそいつの腕を手から肩にかけてを切り裂く。

 その拳は地面に激突、その勢いで宙を舞う。

 先に着地したそいつの右肩に俺は飛び降り、肩の傷口に手を突っ込む。


「排出だ……!」


 先ほどの火球を肩の中に排出、右腕が観客席の方へと血を撒き散らかしながら飛ぶ。

 早く飛んで……

 足元から影が生え、体に巻き付く。

 抜け出そうとするが棘が生え、簡単には解けない。

 瞬間、そいつはものすごい勢いで半回転。

 その勢いで俺を壁に殴り飛ばす。


「ガハッ……」


 気も枯渇してきた、治癒(ヒール)も簡単には使えない。

 だったら……

 俺は思い出す、あの時の光景を……キリサメが刺されていた、ルルに裏切られたあの時の憤りを……


「反転率25──」


 神気が吹き出すと同時に、短剣が共鳴し震え始め内部にあった黒い何かが吹き出した。

 これ……俺の神気か……?!

 俺の体を包んでいくその神気と黒い何かが一体化していく様子からその正体が判明する。

 何で俺のナイフに……それもこれ……バカみてぇに多いぃ……!


 反転率70%


 共鳴し一体化した関係で、反転率が一気に跳ね上がる。

 その瞬間、抑えていたものが一気に流れ俺の頭の中にそれが……


《コロシテヤルキリサメ……早く……ネカセテヤラナキャ……》


「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァァァァァァ……!」


やばいやばいやばいやばいのまれていくいしきがとけてひとつになってきえていくだめだだめだだめだだめだ

しゅんかんそいつは"わたし"にこぶしをふるう


「ア゙ア゙バァ……?」


おともゆうにこえるそのそくどで"わたし"はそいつのくびをとばすがすぐにさいせいされる

いたいいたいいたいはやくおさえろおさえな……


「慎二!」


その瞬間、観きゃく席からそんなこえがきこえた。

あれ……は、ルル……?


「受け取って……!」


そして"わたし"にその刀を投げる。

それはきりさめを刺したあのかたなだった。

ソノカタナハわたしのヨコニなげこまレル。

その時にしずくさんノ言葉ヲおもいだす。


『全てを喰らう悪食』


確ショウはナイけどハヤクしないとのまれる……

"わたし"はかラダのジユうがきくうちにそれをとろうとトビダシタ……

そのトキ"わたシ"のほうへとソイツハハシリだしこぶしをフリオロス。

いっぽあとイッポたりなかった……


──────────────────


 俺、大雲慎がノヴァさんに話を聞いてもらっているその瞬間扉が思い切り音を立てて開いた。

 そこには血相を変えたリリが立っていた。


「慎!慎二が……!」


 リリのその様子から慎二に何かがあったことがすぐにわかる。

 その瞬間、俺の背中に強い衝撃が走る。


「全部伝えてこい!慎!」


「……おう!」


 そして俺は医務室を出て走り出す。

 ここからじゃ観客席の方が近い!

 ライオッドにやられた傷が少し痛む、今にも休みたいほど疲労がある。

 だが俺は止まらなかった。

 観客席につき闘技場を視認した。

 髪が真っ白に染まり、黒い神気の羽が両方に生えて、暴走しかけている慎二がいた。

 だがその瞬間、白い何かが慎二に拳を振り下ろそうとしていた。

 込めろ、たった一言でいい!

 あの時……


『お前はいいよな』


 あの時これじゃなく言うべきだった、言葉を!

 俺の全ての心根を──!


──────────────────


「慎二ぃぃ!!!」


 そのしゅんかんカンキャクセキにいるそいつとメがあった。



「勝ってこぉぉい!!!」



『おまえは……』


 その瞬間、心を巣食っていたその言葉は消え失せた。

 そして拳が振り下ろされ土埃が舞う。

 だがすんでのところで俺は足を過剰強化して、壊しながらもその刀を取り宙を舞っていた。

 慎の一声でギリギリ正気が取り戻せた。

 感謝の意を込めて俺は天高らかにその言葉を口にする……



「おぉう!!!」



 そして慎二は地面に着地し刀を構え、気をこめる。

 全部喰らえよ、食いしん坊!




「"剣気解放"『雨──」




『やっと帰ってきたか我が主人』


 その言いかけた瞬間、俺は地面に倒れた。


「慎二!」


 その言葉を最後に俺は意識を失っていった。


裏話

この短剣には神気が込められてましたが、ノヴァさんが血を流したのは神気が影響です。

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