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100話 空想上


「さぁ道は整えたよ!あとは頑張りな慎二!」


 私は観戦室にいる慎二に指を差しながらそう言った。

 そう言った後、私は急いでルルの元へと駆け寄り抱きかかえた。


「手加減できなくて悪いね……急いで医務室に運ぶよ」


「……大丈夫」


 ルルはそう言うと傷口を抑え、足を引き摺りながら通路に消えていった。

 そりゃ無理か……

 そして私は立ち上がり、ルルとは逆側の通路に歩いていくのだった。


──────────────────


「ルル……」


 俺、伊藤慎二が第二試合を見終えた後にリリは深手を負ってしまったルルが心配のようでそんなことを呟いていた。

 俺はリリの頭を撫で、優しく微笑み……


「大丈夫だ、雫さんのことだから急所は避けてるはず。

 ルルならすぐに傷なんか治すはずだからよ」


「……うん、そうだね!

 慎二も頑張りなさいよ?雫さんに整えてもらったんだから!」


 リリは気を取り直して笑顔を作り、俺の背中を思い切り叩いた。

 雫さんのあの一言で俺もかなり勇気をもらうことができた。


「いっちょ勝ってくると──」


『お前はいいよな……』


 頭の中にそんな声が反響し、その瞬間に胸からムカムカするものが込み上げる。

 慎も負けて悔しかったんだ、気にしてんじゃねぇもうすぐ試合だろ……!

 俺はどうにかそのムカムカを抑えようとするが、ずっと頭にその言葉が反響し続ける。

 『お前はいいよな……』と……


「慎二?」


 俺の様子が少しおかしいことに気づき、リリは緑色の瞳を振るわせながら心配に俺のことを見る。

 リリも大変なんだ、気を遣わせるわけにはいかない……

 俺はどうにか作り笑いを浮かべてリリの方を見る。


「大丈夫だ、行ってくるわ」


 そして俺は頑張って何も悟られないように、心配させないようにいつもの調子を演じてその場を去っていった。

 リリは去っていく俺の背中を心配そうに見つめているのだった。


***


「第一試合は亜人側が優勢と見られたこの決闘、何と第二試合はアンデッド側が波乱を起こした!

 第三試合は一体どうなってしまうのか、勝つのは亜人かアンデッドか……!

 今、第三試合が始まります!」


 奥からそんな司会の声を聞き終えたのち、中央に向かって続くその一本の通路を歩き出す。

 『お前はいいよな……』という言葉、試合が始まるまでの間考えないようにしていたが、俺の内からなくなることはなかった。

 そんなムカムカを抱えながら、俺はこの試合へと挑んでいく。


「さぁ最初にこの闘技場へと姿を現したのは伊藤慎二選手です!

 戦争時代に"影縫い"と恐れられた亜人にどう挑むのか……」


 そして目の前の亜人側の通路からそいつは姿を現した。

 そいつは未だ大きなマントを身につけているが、馬の体に上体は人間のような形をしていた。

 影をどう操り攻撃してくるのか、雫さんも戦争時に戦ったことがあるらしくあらかた聞いてある。


『お前はいいよな……』


「……黙ってろ」


「第三試合、開幕です!」


 その瞬間、スピーカーから開始の合図が聞こえ刀を構える。

 まず一発目、最大火力をぶちかます!


「……"剣気解放"『霜月』!」


 慎のその言葉を思い出し少し体が膠着するが俺がそう唱えた瞬間、刀から気が吹き出し俺の体を覆っていく。

 試合が始まるまでの間、刀に触れ続けて状態はもう覚えてある……!


「『天絶』!」


 俺はその刀を抜刀、空間を斬り目の前にある全てを切り伏せる。

 影縫いはそれに何も対応せず、真っ二つに切り裂かれた。

 断面から黒い血液が吹き出しそいつは力無く倒れる。

 観客や司会も一瞬で終わったその試合に呆然としていた、もちろん俺もだった。

 一体こいつは……


「ブフッ……」


 その瞬間、後ろから黒い針が数本生え俺を背中から貫いた。

 そしてやっと、後ろに何かがあることに気づき俺は刀を持ち直し後ろへと突き刺す。

 だがそれは空を斬り、それと同時に針は影となり溶けていき下に滴る。

 臓器はやられてない、奇跡かわざとか……

 そして目の前の床から影が現れ、そこから何かが這い出てくる。


「なっ……?!」


 そいつは人間の形をしているが人間のそれとはまるで違う。

 顔がなかった、目、鼻、口、髪、何もかもが消えていた。

 まるで飾りのように頭部だけがあった。

 そしてそいつは服を着ていなかった、異常に肌が白く生殖器もなかった。

 全身の血管が異常に浮き出ており、両腕は力無くプランと垂れ下がり、その顔は俺をしっかりと見つめていた。


「何だ……こいつ」


 その瞬間、そいつは壊れた人形のようにカクつき始め背中がバキッという音を立てながら隆起した。

 何かやばい……!

 俺は湧き上がる恐怖を抑えつけ、飛び出し刀を振るった。

 『霜月』?!

 その瞬間、腕の上に『霜月』が現れ焦った様子で止まれと手振りで教えた。


「なっ……!?」


 その瞬間、目の前にいるそいつは姿を消しそれと同時に強い衝撃が俺を襲う。

 景色がどんどんと移り変わる様子から、やっと俺の状態を理解する。

 "俺は飛んでいた"。

 正確には俺は飛行する何かに背中を掴まれ、闘技場の上に向かって飛行していた。


 俺は急いで腕を後ろに構え、俺を掴んでいるそいつに火球を打ち出す。

 その後ろの何かにそれは直撃し、俺は離され闘技場に向かって落下していく。

 俺は後ろにいるそれを視認する……


「……ッ!」


 そいつはさっきの白い何かだった、だがさっきとはまるで姿が変わっていた。

 それは"鳥のような羽"が生え、足や爪も鳥のようなものへと変貌していた。

 本能的に恐怖と危険を察知し刀を構え、『天絶』を溜め……

 『お前はいいよな……』


 その瞬間、頭が一瞬で真っ白になる。

 だがそいつはこちらを向き、天井に足をつけ首を直角に傾げる。

 やばい……!

 急いで目に気を回そうとするが、頭が真っ白になった関係で判断が一瞬遅れる。

 鳥の羽を畳み、そして飛び出した。


 ──ガシャンッ


 そんな強烈な音が響き渡り、闘技場には土埃が立っていた。


「グッ……ブッ」


 俺はそいつの加速についていけず攻撃をモロに喰らい地面にものすごい勢いで背中から激突、何とか背中は硬化したが衝撃がすごく吐血していた。

 その白いのは俺の腹の上に立ち、その鋭利な爪を俺に向かって振るう。

 俺は首にかけてあるキリサメからもらった石を掴み、収納したのちその言葉を呟く。





「"反転率"……」





 その瞬間、俺の体から黒い力が竜巻のように吹き出しその白いのは距離を取る。

 吹き出した神気は俺の体を覆っていき、黒い羽のようなものを形状していく。

 内臓のダメージは回復していき、俺は口元にある血液を拭う。


「35%」


 現在の許容限界は40%、1%に大体30秒かかるから長く見積もって5分……

 やるっきゃねぇか……!

 そして俺は神気を刀に込めていき、そいつに向かってそれを放つ。


「『這烏』」


 その黒い斬撃は飛んでいくが、そいつが指を一本立てると同時に影が地面から生えその攻撃を吸い取り、こちらへと軌道を変えて飛んでくる。

 雫さんから聞いていた吸収か……!


「収納!」


 俺は腕を突き出しその攻撃に触れて収納するが手に傷を負い、その衝撃で後ろにのけぞる。

 その瞬間、そいつは飛び出し俺の首を掴もうと手を伸ばすが……


「排出」


 刀を収納したのちに俺は近づいてきたそいつに向かって斬撃を再排出、そいつの首を傷つける。

 俺は刀を排出し喉に向かって突き刺すが、影に飲み込まれて無効化される。

 そしてそいつは俺の首を掴み、へし折ろうと力をこめる。

 そうすると思ったよ……


「"不倶戴天"」


 不倶戴天は内部破壊、体の内に刃を通し爆発させる。

 影に飲み込まれた時点でその条件はすでに満たしていた。

 その瞬間、そいつの首元は爆発して後ろへ吹っ飛んでいく。


「ゲホッ……」


 俺は首を掴まれていた影響で思わず咳が出る。

 けど、これで何とか倒せ──

 その瞬間、煙から巨大な白い腕が飛び出し刀で何とか受けるが止められず壁に激突する。


「何が……」


 揺れる視界を何とか起こし俺は目の前にいるそれを視認した。

 そいつは飛ばされた首を再生しそして巨大化、オークのような巨体を手に入れていた。


「化け物が……」


 俺は何とか立ち上がり、そいつと向かい合う。

 首を飛ばしたのに再生した、タシテスの概念操作か?

 いやもしそんなことしたらライオッドが許さないだろう、だったら何かの動物の力か……?


「だがまだやれ──」


 パキン──


 その瞬間、『霜月』の刃が折れた。

 さっきの衝撃で……!

 『お前はいいよな……』

 絶望的な状況、俺の胸にはその言葉が反響し続けていた。


────────────────────


 ルルと魔法により人型サイズとなったライオッドはその光景に首を傾げていた。


「一体、何をしたんですか?」


 観戦室で見ていたルルはタシテスに向かってそう問うた。

 目の前に広がるその白い何か、首を飛ばされたのに生きているなんてありえない。

 概念操作で何かしたとしか、ルルは考えられなかった。


「私が概念操作でなんかしたとでも?

 何もしてないよ、ただ私はあいつを改造しただけだ」


「改造……?」


 ルルがそう聞くと、タシテスは慎二を倒せそうなことが嬉しいらしく意気揚々と話し始めた。


「アイツは元々亜人の王だった"影縫い"アンブラー……

 アイツはただの馬の亜人だった、ただ普通の馬より足が速くて力が強くて知能が高いだけだった。

 だけどね、あいつは目覚めたんだ【固有スキル】"影縫い"に。

 そしてアイツはそのスキルで無双し続けたんだ、ただね少し窮屈なことがあった」


 タシテスはルルに質問するように見つめる。

 だがルルには何なのかわからず言葉に詰まっているとライオッドが口を開いた。


「馬だろ、あいつにはモノを掴む手がない」


「そうだ。

 だからアイツは取り付けたんだ人間の死体を、強い者の死体を……

 アイツのルーティーンなんだよ、頭を踏み潰して自分の背中に乗せんのが。

 ただ通常そんなことありえないんだよ、私たちみたいに最初から人間の遺伝子を持って"作られてない"からね。

 普通は失敗する、なのにアイツは適応したんだ。

 だからこそ私は気づいた、アイツには他の生物の遺伝子に適応できるのではないかってね。

 そして……」


 タシテスは中央で慎二と戦っている白い何かを指差した。

 ルルは心底吐き気がした、そんなことをするタシテスに対して……


「そしてアイツから馬の遺伝子を奪い、人間の遺伝子もできる限り奪った。

 そのおかげであんなナリになっちまったんだよ。

 その後色々な遺伝子を組み込んだ"グリフォン"や"オーク"そして少しおまけもね」


「おまけ……?」


「それは現実には存在しない想像や神話、フィクションの中で作られた生き物…….

 "空想の生き物" 『キュウケツキ』を組み込ませてもらってる……」


「"きゅうけつき"って何なんだよクソ女。

 不死身になったりするのか?」


 ルルもその単語について聞き覚えがないらしく、首を傾げているとタシテスは口を開いた……


「私も詳しくは知らないよ。

 不死身って話だけど完全に遺伝子を組み込むことはできなかった。

 全身細切れになれば流石に死ぬだろうね」


「だからこそのあの巨体か……」


 ルルはそれを聞いて、気分が悪くなり急いでその部屋を去っていった。

 タシテスは生き物を何とも思っちゃいないんだ、もしこの試合に負けたら伊藤慎二はどうなっちゃう……?

 『だから次は信じて欲しいんだよ』


「クゥッ……」


 ルルは拳を強く握り締め、足早に歩き出していくのだった。



裏話

実はナマケモノが前言っていた「徹夜して寝てないんだよね〜」というのは影縫いの改造に付き合わされたからですね。

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