誰が外堀を埋めたのか、わかりませんでした
読みに来て下さって、ありがとうございます。
気付いてないって、恐ろしい事です。
とにかく、お店に入る前に清浄魔術を自分にかけた私を褒めてあげたい。
ついでにオルツァーさんにも『清浄消毒』しておいた私にも先見の明があった。いや、あれをかけたから、あの様なとんでもないムシが寄ってきたのかも。
「とにかく、貴方がマトモな感性を持つ様になってくれたのが、一番嬉しいわ。いつも王都に帰って来る時は、ドロドロで埃っぽく髭だらけなんだもの。
ミネルバさん、貴女のお陰ね。きっと。
でも、そのお陰で要らないムシが集ってきたのかも知れないけれど」
あー、初めて会った時の、あの小汚ない髭付きのおじさんバージョンのオルツァーさんですね、マージョリー様。
わかります。わかります。私も、あの時は、悪い人じゃないけれど、ちょっとないなーと思いましたから。
「義姉上は、辛辣だからな。いつも、裏口から入って来いと言われるし」
「あんな格好で表から入って来られたら、いつも綺麗に屋敷を磨き上げてくれているメイド達に申し訳ないわよ。古参の使用人達はともかく、新人の使用人達は、何処の不審者が入って来たのかとビックリするわよ。
その点、裏からなら古参の使用人達が上手い具合にやってくれるから、貴方だって嫌な思いは、しないでしょう?」
裏口には、いつも、古くから庭師をやっていて半分隠居しているハンスさんか、執事を引退して今はのんびりと半端仕事をしているエスレムさんと言う人が、ゆっくりチェスをしているらしい。
何となく辺境砦のじい様達を彷彿とさせる話よね。
他の服を試着している間に、お針子さん達に私のサイズにお直ししてもらったドレスに着替え、マージョリー様の侍女さん達に髪を整えられ、化粧を施され、あれよあれよと言う間に馬車に乗せられた。
気が付けば、私はアーバス伯爵邸で使用人達に並んで出迎えられ、迎えに出てきてくれたオルツァーさんのご家族に囲まれていた。
「やあ、オルザイン叔父上からも貴女の話は聞いています。オルツァーが嫁さんを連れて来る日が来てくれて、嬉しいよ」
王都の伯爵邸に住んでいるのは、オルツァーさんのお兄様のアーバス伯爵、マージョリー伯爵夫人とその3人の息子達。
上の男の子が、オルツァーさんが私と初めて会った時に『私と同じ年頃の甥っ子がいる』と言っていたオーバルト君……うん。もう立派な青年だったわ。
私の中では、小さな男の子のイメージしかなかったもの。
伯爵の次男のオルネード君。3男のオージェスタ君は5歳。私と出会った時は、オージェスタ君が生まれた誕生祝いに実家に帰っていた帰りだったらしい。
気が付けば、あれから5年経っているものね。
晩餐中は、私は必死にテーブルマナーを思い出しつつ、食事を進めていた。マナーに関しては『どう言う生き方をしようと、覚えていて損はない』と言って、マナーの授業が苦手な私に、手解きしてくれたカウマン教授には感謝しかない。
流石、カウマン教授。
「オルツァーは、子供が好きでね。ここに帰って来る度に、うちの子達と遊んでくれたんだよ。オーバルトを肩車して庭を走り回ったり、オルネードに木登りを教えたりね。
オルツァーは、良い父親になるだろうな」
うんうん。そんなオルツァーさんの姿が、ありありと私の心の中に浮かぶ。何だか、微笑ましい。
オルツァーさんは、本当に子供好きよね。その子供好きが高じて、私を宿屋で拾い上げて世話してくれたんだった。
オルツァーさんは、アーバス伯爵やマージョリー様の話を聞きながら、私の方を見て照れ臭そうに笑う。
まったく、そんな可愛い顔して、こっちを見ないで欲しい。この家族団欒の中では、やたらとオルツァーさんが幼く見える。
良いなあ。こういう家族って。私の家族は早々に崩壊していたので、オルツァーさんのお兄様の一家がちょっと羨ましい。そして、そこに加われるオルツァーさんが、少しばかり眩しい。
「オルツァー、結婚式は王都でするのか?それとも、砦の町でするのかい。あそこの町にも、教会はあるのだろうが、こちらの方が立派な結婚式が出来るぞ」
「ウェディングドレスのデザイン、私にも手伝わせてちょうだいな」
ほのぼのとオルツァーさん昔話を聞いて、ほっこりしていたら、いつの間にか、結婚の話になっていた。
あれ?そう言えば、こちらに来た当初に伯爵様が『オルツァーが嫁さんを連れて来る日が来るとは』と、言ってた気がする。
私は、横に座っているオルツァーさんを横目で盗み見た。
照れ照れと顔を赤らめてはにかんでいるオルツァーさんは、私がオルツァーさんを見ているのに気付いて、によっと恥ずかしそうにして、下を見る。
いや、ちょっと待って。ちょっと待って。
そうよね。その、オルツァーさんの家に来たって事は、そう、そう言う事なの!?
いや、王城に泊まるかオルツァーさんの実家に泊まるかの二択で私はパニックになってたけれど、これは、結婚前の家族への御挨拶って奴よね。気付いてなかった。
私ってば、迂闊にも程がある。
「結婚式は、早い方が良いわよね」
マージョリー様が、嬉しそうに私の方を見る。
「叔父上、式には是非、私達も呼んで下さい。学園を休んででも行きますから」
「もちろん、僕も行きますね。楽しみです」
子供達が、ワクワクしながら、オルツァーさんと私を交互に見てニッコリ笑う。
やられた。これは、わざとだ。皆で、畳み込む様に、どんどん結婚式の話を進めている。
「従兄弟が出来るの、楽しみだなー」
更に駄目押しでオルネード君が続ける。
ちょっと、オルツァーさん!?
ニヨニヨ笑っている場合じゃないからね。
そりゃあ、私、オルツァーさんの事は好きですよ?
結婚してもいいかなとかも、ちょっとどころか、結構思ってますけど?
でも、私、まだ、『結婚を前提にお付き合い』の、お返事してなかった気がしますけど!?
「良い感じね。このまま押し切るのよ。オルザイン叔父様のお手紙にあった通り、良い娘よ」
「よしよし、オルツァーもすっかりその気だぞ」
「母上、どんどん押して行きましょう。行けますよ、これは」
「叔父上は、僕達に弱いので。ミネさんがワタワタしている間に話を決めてしまいましょう。母上」
「お母様、叔父上のお嫁さん、可愛いですよね。叔父上に赤ちゃんが生まれたら、きっと、可愛いよね。ぼく、うんと可愛がるね」
何なら、このままの勢いで、王都の教会で結婚式を上げさせてしまおうかと言う魂胆。
オルザインから、ミネルバに関する情報は入手済みです。




