流石に、部屋は別々でした
読みに来て下さって、ありがとうございます。
時には、周囲が強引な時が良い方もある様です。
案内してもらった部屋は上等な客室で、私はちょっとばかり慌ててしまった。明るい色だけれど落ち着いた色の家具。花模様の壁紙に凝った彫り込み模様のある茶色の腰板。明るい色のカーテンには、凝った結び方をしたタッセルが付いている。
可愛らしい陶器の置物や、花がいっぱい飾られた花瓶、優しい色の風景画が部屋を更に彩る。
私の知る部屋と言えば、小さい頃は、部屋は大きいものの壁紙は染みだらけで、調度なんて何もない部屋だったし、学生時代はベッドと机と椅子にタンスのみの療住まい。
学園を出てからは大叔母と共に暮らしたけれど、作業小屋に各自のベッドやタンスが置かれているだけ。
ここの所は、本当の作業小屋で寝袋と服の入ったカバンを持ち込んで暮らしてる。
ひょっとしなくても、私の住居環境はどんどん悪くなっているのかも。全然気にならなかったけれど。
実の所、あれはあれで気に入っている。思い立ったら、好きな時にすぐに作業が出来るし、作業が落ち着いたら、その場ですぐに眠れる。うん。問題なし。
けれども、今回オルツァーさんが買ってくれた服や小物を何処にしまうのかと言うと、そんなスペースなんて、ありはしない。辺境砦の作業小屋には、タンスでさえ、ないのだから。
タンスを作っても、そのタンスでさえ置く所がない。何しろあの作業小屋は『作業小屋』であって、私は勝手にあそこに寝泊まりしているだけなのだし。
やはり、エルディアナ様があてがってくれると言う本館の部屋に移るべき、なのでしょうね。面倒だけれど。
その場合、勿論、夜を徹しての作業は出来ないし、思い立っていきなり起き上がり、部屋で作業をするのも無理。
いや、そもそも私は、あてがわれた部屋に帰って来るかどうかも怪しいわね。時間も忘れて作業して、そのまま、今と同じく作業小屋で眠り、部屋はただの物置と化す恐れが、いや、そんな未来しか見えて来ない。
それとも、毎回オルツァーさんが私を食事に迎えに来る様に、就寝時間になるとそのまま、オルツァーさんに部屋に連行される気がする。
まずい。それは、非常にまずい。
研究途中でもオルツァーさんに、私の健康の為を理由に、部屋に強制撤去される気しかしない。
私の気ままな研究生活が……危機かも。
「ミネ、ちょっと良いかな」
ノックの音がした。あ、ちょっと進歩。オルツァーさんが、私の返事を待っている。いつもなら、私が返事をする前に勝手に入ってくるのに。
私が「どうぞ」と返事をしてドアを開けると、オルツァーさんが、所在げなく立っていた。
「やっぱり似合うな、その部屋着。思った通りだ。いや、もう1つの方も絶対に似合ってたぞ。今から買い足しに行っても良いな」
私は今日オルツァーさんに選んでもらい、買って貰った部屋着を着ているが、オルツァーさんはシャツとズボンだけの砕けた格好。騎士服を着ているオルツァーさんは2割増しで格好いいけれど、こっちの格好のオルツァーさんの方が、私は好きかも。
「何か、今日は家族皆で調子に乗ってしまったな。すまない。
その、私も、ミネがうちの兄一家と共に過ごしてくれて嬉しくて。つい、はしゃいでしまった」
頭をかきかき、オルツァーさんが照れ臭そうに話す。
晩餐の席でも思ったけれど、この家にいるオルツァーさんは、騎士団長と言う役職から離れているからか、何だか幼く見える。とても30過ぎの男の人には見えない。
女運さえ悪くなければ、とっくに結婚して家庭を持って、オルツァーさんのお兄さんの様に、子供の2、3人はいたんだろうなぁ。
尤も、あの赤いドレスの女の人や、今日ブティックに乗り込んできた女の人は、別。あれは、悪い女運の典型的な例だもの。
「まあ、強引な所はある人達だけど、ちょっとばかり私に過保護な家族でね。私の最初の婚約破棄の件もあって、私の結婚について心配性なんだ」
「結婚について心配性……な甥っ子達?」
「そう、5歳の甥っ子までもが、心配してくれてる。お節介と言えばお節介なんだが、可愛すぎる」
ガハガハと笑いながら、オルツァーさんは頭をかいた。
確かに、甥っ子さん達が可愛すぎる。特に、下の2人のチビッ子達が、必死になってオルツァーさんを売り込むのが、可愛すぎた。
小さい頃のオルツァーさんは、あんな感じだったんだろうか。それはそれは、実に可愛らしかったでしょうね。
オルツァーさんの子供が産まれたら、あんな風に可愛いんだろうか。2人の男の子がはしゃいでオルツァーさんを嬉しそうに囲んで、ああ、女の子も良いな。オルツァーさんとお揃いの髪の色と瞳の色の女の子が、2人の男の子達と一緒に、幸せそうなオルツァーさんに抱きついて、遊んで欲しいとせがむ図が、見える気がする。
「ミネ、何だか楽しそうだな」
「オルツァーさんに子供が出来たら、可愛いだろうなと思って。男の子はきっと甥っ子さん達にそっくりで、女の子は髪の色と瞳の色がオルツァーさんに似てて可愛らしくて」
「私は、ミネにそっくりな可愛い子が欲しい。男の子は、初めて出会った頃のミネにそっくりで賢くて女の子の様に可愛い。女の子は、今のミネにそっくりな、皆に可愛がられる美しい娘が欲しい。
ミネ、どうだろう。そんな家族を作らないか」
オルツァーさんが、私に一歩近付いて、私の両手を取り、私の顔を覗き込む。
「ああ、またもや、ちっともロマンチックじゃないな。こんなんだから、エルディアナ様や義姉上、果ては甥っ子達にも責められるんだ」
「オルツァーさん、責められたの?」
「ああ。前回の薔薇の話をしたら、皆に怒られた。義姉上や甥っ子達には、もうちょっと場所と場面を考えて、やり直して来い。一面の花畑とか、星降る夜空とか、美しい湖畔とかにミネを誘って行って来いと言われたな。
砦の何処にそんな場所があるって言うんだか」
まあ、おしゃべりな烏や魔樹、暴れる巨大雑草が跋扈している様な場所だしね。砦の花畑は……畑兼薬草園で、おまけに蜜蜂が麗らかにブンブン飛んでるし。
「私は、どんな場所でも、どんな時でも、良いと思うよ。相手さえ良ければ」
私がそう言うと、オルツァーさんは私の両手を自分の口許へ持って行き、そっと口付けをした。
「相手は、私だ。他の奴は、受け付けないでくれ」
「私も、相手は、オルツァーさんが良い」
他の誰に言ってもらっても、嬉しくない。言ってくれる相手が、オルツァーさんだから嬉しい。
私は、心の中のオルツァーさんの子供達の1人を、かつての私にそっくりな少年に置き換え、女の子の髪と瞳の色を変えた。オルツァーさんと子供達皆が、私の方を振り向いて手を差し伸べる。
心の中が、幸せに満たされた。
「アレグザー教授の所に挨拶に行かないとな」
「カウマン教授にも、会って下さい。私がお世話になった方です。紹介しますね。あ、でも、カウマン教授には、オルツァーさんのワイバーンの話は、しちゃ駄目ですからね」
「ん?どうしてだ」
「言ったら最後、ワイバーンが研究に巻き込まれます」
「そ、それは、困るな」
ああ、本当はもうちょっと話が続く筈でしたが、最後の方はぶった切ってしまいました。ああ、早く続きが書きたい。




